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俺は妹が憎いと思っている。

俺は今日も犯罪者狩りをしていた。


「……で?なんの用だ?」


が、俺の前には昨日の女がいる。

昨日、あれだけボロクソに言ってやったのにまだ俺の前に立つ事ができたな。


「あなたを憎しみから救うために来ました」


憎しみから救う?俺をか?


「ありえねぇー。マジでありえねぇよ。なんだ?私はいい子ですアピールかよ。それともこの世に善意があるって俺に分からせるために来たのか?」


「はい。なによりも私の役目はあなたのような顔をしている人を救う事です」


ヤバイ。マジでイライラしてきた。

なんでだ?この女を見ると無性にぶっ殺したくなる。ぶっ潰したくなる。ぶっ壊したくなる。

破壊衝動が抑えられない。

この女は俺に何もしていないのに……憎しみを感じる。


「そーかい。ならよ……。


ぶっ潰してやるよ!!」


俺は叫んだ。昨日と同じ様に……否、昨日よりもさらに鋭い空気が張り詰める。


「俺の道に立ちふさがる!目の前の女が憎い!」


『憎しみの矛盾』。

俺の力が発動する。

俺の体を漆黒の闇、憎しみの感情が覆う。


「闘うしかないんですね。

目の前の少年を救う力を!『善意と世界の矛盾』!!」


女も自分の力を発動する。

白い力が女の全体を覆う。

その姿は……。


「アァ?俺と同じ姿?」


そう。

俺の力と色が違うだけ。

俺が影の漆黒。女は輝きの閃光。

対になる力。


「いかせてもらいます!」


女は地面を蹴った。そして一瞬で俺との距離をゼロにする。

俺は女の攻撃を手に持つ影の刀で防いだ。

だが女の光の刀の力は俺の影の刀とは比べ物にならないくらい強かった。

こんだけの憎しみではこの女には勝てない。

だから……。


「俺を見捨てた家族が憎い!」


俺は深い記憶から憎しみを蘇らせる。

影の力が強くなる。


「俺を置いて行った友達が憎い!」


さらに影の力は強くなる。


「俺の存在を認めない世界が憎い!」


さらに影の力は強くなる。

女の刀の眩い輝きと同じくらいの深い漆黒を宿す。

斬る。突く。払う。防ぐ。斬る。

二人の刀は人間の速度を超え振るわれ続ける。

力は互角だった。

いや、俺の方が押している。


「善意と世界の矛盾?力の名前にセンスがあるねぇ!その通りだよ!この世界は矛盾だらけなんだよ!この世界に正しいモノなんてないんだよ!

本当は分かってんじゃねぇのか!見てみろよ!俺の刀の方がツエェじゃねぇかよ!」


俺は刀を振り下ろす。


「テメェみたいな甘ちゃんの覚悟なんてしょせんそんなモノなんだよ!」


俺が叫んだ。

その時。


「また……また、あの時と一緒なの」


女の口が動いた。


「また、誰かを救う事はできないの」


まるで過去に誰かを救えなかったような言いかた。


「救うために力を手に入れたのに……何もできないのはイヤだ!!」


女の目にさらに強い輝きが宿る。

俺には分かる。覚悟を決めた人間の目だ。

女の刀はさらに早くなる。速くなる。

俺の動きが追いつかなくなる。

傷が付き始める。

頬から血が出る。

腕から血が出る。

脇腹から血が出る。

あか、アカ、赤、紅。

俺の目の前が紅く染められていく。

もう俺としての意識はそこでなくなっていたかもしれない。

だが、俺の体は動き続ける。


「兄としてのプライド?」


俺の口が無意識に動く。


「後戻りできなくなる?」


また動く。


「そんなモノァ!どうでもいい!」


俺は狂ったように叫び、笑う。


「俺は……俺は……俺は……妹が憎い!!」


本当の意味で俺の意識はなくなった。

いや、俺の意識は『憎しみ』に取り込まれた。





少年が狂ったように叫んだ瞬間、私は吹き飛ばされた。

衝撃波。少年の黒いオーラが一気に膨れ上がる。


「な、何が起きたの……」


私は少年の様子を見た。

それは狂ったように笑う姿。

狂気に満ちた表情。

先ほどまでの自分の信念など感じないモノになっていた。


「ククク……クハハハハハハハ!!」


少年は狂ったように声を上げる。


「俺の存在を殺した妹が憎い!」


また、少年から衝撃波が放たれる。

それは周りの木を吹き飛ばし、建物を破壊する。


「いつも俺の何歩も何十歩も前を歩いている妹が憎い!」


また、衝撃波が放たれる。

私はさらに吹き飛ばされる。

地面に刀を突き立てて、これ以上吹き飛ばされないようにする。


「彼に何が起きてるの?」


私の疑問に答えるモノはなかった。

ただ、もう一度起きた衝撃波によって私の意識は刈り取られた。





私は真っ白な部屋にいた。

私はここに来た事がある。たしか……。


「ここは感情の館。人間の心を映し出す誰の心の奥にでもある部屋」


奥の扉から老人が入ってきた。

悪魔メフィスト

それと同時に沢山の椅子が現れる。

その上には十字架がのっている。


「あなたは救うための力を手に入れた。

……なのに、あなたは救うべき対象をまたも絶望と憎しみの最奥に突き落とした」


またも?

私はその言いかたが気になった。


「おや?まだ気がついていなかったのですか?」


次の言葉が予想できた。

聞きたくない。


「あの少年はあなたの兄ですよ」


兄。

老人はたしかにそう言った。

過去に私が絶望に叩き落とした存在。

そして私が救おうとした存在。

それをまた私は……。

壊してしまった!


「あなたは彼を本当に救いたいですか?」


老人が尋ねてきた。


「もしそうならば、あなたにもう一つの力を差し上げましょう。深い『愛』の感情の力を」


老人の手には何時の間にか紙が現れている。契約書だ。


「彼は契約をした時に無意識のうちに自分の中に制約を作ったのです。それは妹を憎く思わない事。それが彼の兄としての最後のプライドとして彼の力のストッパーになっていたのです。

ですが彼はそのストッパーを外してしまった。だから憎しみの暴風に取り込まれて暴走してしまったのです。このままではあなたは死にますし、彼も力に押し潰されて死んでしまうでしょう」


二人ともが死ぬ。それはこのままでは変える事のできない運命。


「私としてもここで二人も契約者を失うのは惜しい。だからあなたに力を差し上げます。あなたの兄を救ってみませんか?」


それは悪魔のささやきだった。

でも私は……。


「今度こそ……あの人を助けたい」


そう決意して契約書に名前を書いた。

これで私は二つ目の感情の契約者になったのだ。

後ろの椅子の一つに白い十字架が立った。


「この十字架はあなたの契約した証。あなたの心の一部です。

どうか後悔の無い旅を……」


白い部屋が崩れていく。

私の意識は浮上していった。





私は意識を取り戻した。

体は動く。

まだ、闘える。


「私に力を貸してください。

『愛と善意の神弓しんきゅう』」


私の手に黄金に光かがやく弓が現れる。


「憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!!」


そしてその弓を少年に向ける。


「俺は……俺は!俺の事を必要と言ったあいつの哀れむような言葉が憎い!!」


私はそれを聞いて言葉を失った。

あれは別れの時、心のそこからそう思ったからこそ出た言葉だった。

なのに兄さんにはそうは受け取って貰えなかったらしい。


「兄さん……あなたの悪意を……あなたの憎しみを……私の愛と善意で否定します!」


私は弓を引き絞る。

そして光の矢を放った。

それは真っ直ぐに兄の方に飛んでいく。

そして黒い力の塊を貫いた。


「お帰りなさい……兄さん……」


私は泣きながらそうつぶやいた。





「兄さん!兄さん!」


俺を呼ぶ声がする。


「兄……さん……?」


俺はその言葉に違和感を覚える。

絶対に聞きたくなかった……そのくせ本当は、心の中では、妹にそう呼ばれる事を願っていた言葉だ。

俺の意識は完全に目覚めた。

目の前にはあの女がいる。


「……まさか……俺の……妹なのか?」


俺がそうつぶやくと女が驚いたような、でも喜んでるような顔をした。


「そうだよ兄さん……」


そうか、妹は俺を憎しみから助けるために契約者になったのか……。

あの時言っていた助けられなかった人って……俺の事だったのか。


「助けられたみたいだな……俺は……憎しみから……」


そう言って俺は笑った。さっきまでの憎しみに歪んだ狂った笑ではなく。純粋な笑顔。


「ありがとう。やっぱりこの世界にも純粋な善意ってのはあったんだな……」


俺は妹にお礼を言った。

この時、俺の中から黒い感情が抜け落ちていった。

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