06
この暖かさは
そう
君のために
lucid love 06
あれから一週間後anfangのツアーが行われた。
もちろん美羽もその日は部活をそこそこに切り上げ皆でライブ会場へ行った。
「いつき、みーくんとるーくんのあいだにすわる!」
「あっらーいいね一樹!うらやまし~な~」
もちろん琴乃も一緒にやってきた。
琴乃は最近結婚した。
社内恋愛だったらしい。
琴乃の事だからイケメンで意志の強い男と結婚するかと思っていたが、結婚したのは弱弱しい眼鏡男。
世の中どう何か転ぶかわからないなと七海は思った。
「玲人さんもいらっしゃれば良かったのに。」
玲人とは琴乃の旦那さんである。
一応チケットは玲人の分と二枚渡してあったのだ。
「んーなんか見たくないんだって。」
「え?」
琴乃の方を向くとペンライトをばっちり準備しにこっと笑っていた。
「こうやってカナンとかを応援するでしょ?妬いちゃうから行きません!とか言われた。」
「そ、そっか」
ごちそうさまと心の中で呟く。
以前琴乃が玲人を連れて家に来たことがあった。
そして七海の旦那が琴乃の大好きなバンドのメンバーだと言うと突然「あなたには負けません!!」と宣戦布告された。
香南としては久々に男友達ができるとしかも全く仕事と関係ない人と友達になれるのを緊張していたのに突然なんだと玲人を睨む。
すると玲人は怯えたように琴乃の方を向く。
香南は仲良くなりたいのに玲人がこうであったは全く意味がなかった。
それからというものの二人が会うたびに玲人は香南を威嚇するが全く香南には無効化であった。
香南が一生懸命話しかけても玲人はキリッと香南の方を向く。
「ぼ、僕はあなたと対等になるまで、はなしましぇん!!」
これは駄目だとしばらく距離を置くことになった。
香南はとても残念がっていた。
ふと意識を戻し子供たちの方を向く。
双子の真ん中をご満悦に楽しんでいる一樹とその両隣りで久々のツアーを楽しんでいる双子たち。
高校に入りようやく二人とも好きなことをしているのを七海は内心ホッとしていた。
好きなことをしてたくさんの事を学んで欲しい。
勉強ができなくてもその中で自分の生きる道を決めると言うことを考えて欲しい。
七海は笑顔で双子を見つめていた。
SEが始まり突然花火が上がり照明も消える。
するとドラムが鳴り始めた。
そしてギターの音が入りベースもはいる。
「いくぜえええおめらあああ!!」
叫ぶように香南が言うと曲が始まった。
『じゃあ今回はちょっとだけいつもより演奏に注目して聞いてみて』
先輩の言葉を思い出し改めて演奏を聞いてみる。
やはり軽音部とは全く違う。
まず迫力が違うのだ。
そしてコピーはコピーで実際演奏されると音が足りない。
やっぱりもっと聴き込んで演奏しなければならない。
瑠唯は改めて思った。
「どうも、anfangです。」
2,3曲終えると香南が話し始めた。
ファンたちはわーと盛り上がると照れたように香南は頭を掻く。
最近のライブでは香南もMCをするようになりおどおどしながら近況報告をする香南にファンが癒やされると言う感じになっていた。
「えっと、春になったな。」
そーですね!とまるで某番組のようにファンが言葉を返す。
「新学期って俺もあまり覚えてないけど、凄く、特別な感じになって新しいことを始めるのに、良い季節だなって思った時期があった。今年は特にそうで」
しばらく黙るとメンバーが笑い始めた。
「香南君は何を始めようかと思ったのかな?」
「いっちゃいなよ☆」
顔を真っ赤に染めながら香南が前を向く。
「がーで、にんぐ…」
一瞬ドームが静まったかと思うとええええとファンの驚く声。
「か、カナンガーデニングなんかしてるの?」
琴乃が七海に聞くと苦笑しながら答える。
「えっと、私が種をもらってはまっちゃって、一樹と一緒に一生懸命育ててると香南さんも参加し始めて」
「あ、なるほどね」
琴乃は納得した。
「花って面白くて、良いなと思ってプランターに植えてる。今はえっと、チューリップとか。」
「こいつ、花に話しかけてるんだぜ。すっげー気合の入れよう」
笑いながら燎が答える。
香南はメンバーを睨みながら続ける。
「他にも、運動しようかとテニスしてみてえとも思ってる。」
そう言った途端に美羽の顔が真っ赤になる。
「にーちゃん、だからうちのラケット増えてたんだ。」
「みたいだね…」
美羽と瑠唯が苦笑いをする。
「俺も運動してー!テニス面白そうだもんな」
「テニスは案外体力いるんだよ?香南君にできるかなあ」
「え、何アマネテニスしたことあるの?」
「中学の時にやっていたんだよ。」
まさかのやってました発言に一同驚く。
「えっホントに…!?」
ナツルが尋ねる。
「まあ、音楽楽しくてやめたけどね」
そうなんだと驚きを隠せないようだった。
少し落ち着くお再び香南が話しだす。
「あとは、絵とかもちょっと興味がある。」
びくっと瑠唯の方が上がる。
美羽がすかさず瑠唯の方を向いた。
そう、ずっと黙ったままではいられない。
にーちゃんにも、ななちゃんにも。
瑠唯は唇をかみしめる。
それからのライブもとてもよかったがこの一言で瑠唯はとても集中できるものではなくなった。
ライブが終わり楽屋へ皆で挨拶をしに行く。
「るいるいとみうみう~!そしていっちゃーん!」
「なっちゃん!苦しいよ!!」
夏流が一樹を抱きしめる。
「皆さんお疲れ様です!」
「ななちゃんも、ありがとう」
笑顔で周がエスコートする。
「おい周、いい加減七海を離せよ」
「でたー。香南の嫉妬。」
無理矢理引きはがそうとする香南と後ろから突っ込む燎。
そんなメンバーを双子は笑いながら見ていた。
「どうだった?」
香南が双子の方へ来て話し始める。
「よかったー!新曲のcrazy rabbitだっけ?あれもすげーよかった!」
「そうか。それはよかった。」
美羽と香南が話しているのを瑠唯はニコニコと眺めているだけだった。
そんな瑠唯に香南は眉をひそめる。
「瑠唯、大丈夫か?」
「へ?!」
「ぼーっとしている。熱でもあるのか?」
おでこを合わせ熱を確かめる。
「熱は…ないようだな」
「だっ大丈夫!多分ライブ凄すぎて興奮疲れだと思う!」
「そうか。」
ならいいがと引いた香南に瑠唯はほっとする。
「皆打ち上げー。」
「はーい☆」
雅が呼びに来ると夏流が勢いよく返事をした。
「あっでは私たちはこれで。」
七海が挨拶をする。
「気をつけて帰れよ。」
「はい!」
帰り道皆の一番後ろに双子はいた。
すると美羽がぼそっと瑠唯に声をかける。
「瑠唯、考えねえとな。」
「うん…」
わかってるけど
どうしたらいいのか分からず空を見上げる。
星たちは全く輝いているように見えなかった。
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