05
ずっとずっと
君と僕が君と僕であり続けられると
そう思っていた
lucid love 05
「いただきます」
「「いただきます」」
「きまーす!」
今日の夜は香南がいないため4人だけの食事となった。
ひたすら部活で運動をしてくる美羽はよく食べるが、瑠唯はあまり食べない子だった。
しかし最近部活を始めてからお腹がすくようになったのか以前より食べるようになる。
七海は少し安心していた。
今日のメインディッシュであるとんかつを食べながら美羽が唐突に瑠唯に尋ねた。
「瑠唯、部活どう?」
「・・・え?」
美羽はニコニコしながら聞くがその笑顔が怖いことを瑠唯は知っていた。
「部活だよ。」
「いや、その、」
ますい、心の奥で冷や汗が流れる。
もともと嘘をつくのが下手な瑠唯は頭の中がパニックになった。
ご飯を食べ、味噌汁をかきこむとガバッと席を立った。
「ご、ごちそうさま」
後片付けをすると瑠唯は急いで部屋へ戻った。
がんと部屋の戸を閉めるとうずくまる。
そうだよ。美羽がいるんじゃないか。
ばれるのは当たり前じゃないか。
どうしようと思っているとノック音が聞こえてきた。
「るーいーおれー。あけろー」
やはり美羽だった。空けようかどうか迷っているとため息が聞こえてきた。
「ななちゃんにはばれてないから大丈夫。」
ぼそっと伝えてくれた言葉に少しだけ安堵する。
「美羽、ごめん。ごめん、なさい」
家族にあまり嘘をついたことなんてなかったが特に美羽には一度もなかったのだ。
それをこんな形でついてしまうことになり瑠唯自身とてもつらかったのだ。
「駄目、許さない。」
「へ?」
美羽の言葉に目を見開く。
「俺、怒ってるんだから。明日、部活見に行くからね!教室で待っててね」
「ええっ?!ちょっみ、美羽!?」
「じゃあおやすみ~☆」
ドアの向こうの気配がもうなくなっていた。
う、うそでしょ。
瑠唯はさらにうずくまった。
翌日、どうしようどうしようと思っているうちに放課後になってしまった。
「るいー行こうぜ―!」
「あ…翔、」
今日も一緒に行くつもりで翔が話しかけてくれたが、昨日言われたこともあり苦笑いをする。
「ごめん、その、用事があって、先に行ってもらってもいいかな?」
「ん?おっけー」
早めにこいよーと言っているうちに教室の前がざわざわし始めた。
これは、もしかして、
ドアを見ると美羽がいた。
「るーい☆連れていって☆」
それを見ていた翔がきょとんとしていた。
「今日どこか行くのか?」
「いや、えっと」
どう説明しようか迷っていると美羽がずいっと前へ出てきた。
「瑠唯の友達?はじめまして、俺2組の日向美羽!」
「知ってる知ってる!!!お前ちょう有名人だもんな!俺瑠唯と同じクラスの立花翔!部活も一緒なんだ」
部活という言葉に美羽が即座に反応する。
「ふうん」
「ちょっと、美羽」
瑠唯の言葉を無視し美羽は翔に話しかける。
「俺もさ、部活見に行っていい?」
「お、いいぜ!見学大歓迎!」
案内すると言って翔が先を歩き始めた。
「美羽、その」
「話は見てから聞くから。」
美羽もすたすたと歩きはじめ、瑠唯もそれについていくしかなかった。
ついた先に美羽が眉をひそめる。
「音楽室?」
しかも、古い方。
不思議に思いながら部屋に入っていくとドラムやベースの音が聞こえてきた。
「おめえらおせえぞ」
「すんませーん!」
「ご、ごめんなさい…」
ドラムをたたいていた龍之介がこっちを向きながら話していた。
「って、お前誰だ?」
美羽が睨まれ美羽は苦笑せざるを得なかった。
「えっと、双子の兄の美羽です。見学をしにきました。」
「はじめまして。」
へへへと笑顔で挨拶をする。
する遠くからベースを持った明がやってきた。
「有名なテニス部ホープじゃないか」
「どうも、」
「もしかして君もバンドに興味があるのかい?」
「バンド…?」
少しずつ確信に近付く頭に翔が答えを出す。
「そう俺ら軽音部!バンド組んでんの!」
「・・・なるほどねえ」
「・・・」
美羽は瑠唯を見るが瑠唯は下を向いたままだった。
「まあ、コピーバンドだから曲を楽譜に起こすところからやってるんだ。最近一つやっと完成したんだよ」
「へえ、見せて」
楽譜を見せてもらうとそこには『black kiss』の文字が。
「まさか、anfang…?」
美羽が瑠唯の方を向くと瑠唯は今にも泣きそうな顔をしていた。
「ああ。俺ら大ファンでね。瑠唯くんもファンというから・・」
「部長、練習しましょう!!」
もういたたまれないと瑠唯が練習を促す。
そうだな、とそれぞれ練習に入った。
練習が始まると美羽が今まで見たことないぐらい瑠唯は生き生きしていた。
困った顔も楽しそうな顔もあまり見せたことのなかった瑠唯がここでは自分でいられる場所になっているんだと美羽は思った。
日も暮れかけた頃翔が突然提案してきた。
「なあ!最後に美羽に聞いてもらおうぜ!」
「へ!?」
瑠唯は思わず口に出してしまった。
「そうだな、最近ようやく一曲音としてもできあがってきたしな。」
龍之介もやりたそうにうなずく。
それに美羽は思わずにやりと口端をあげる。
「ぜひお願いします」
「み、美羽」
美羽の言葉に瑠唯は泣きそうになる。
「どうして」
「ななちゃんに言うよ?」
面白そうに笑いながら脅す美羽にこれはもうやるしかないと抵抗をやめた。
「ちゃんと、”本気”でやってよ?」
「「「本気?」」」
メンバーの3人は頭にはてなを浮かべた。
演奏が始まると今まで眉をはの字にしていた瑠唯の顔つきが変わる。
そしておたけびのような冒頭が始まった。
その歌声にメンバーは圧倒されていた。
今まで練習した瑠唯じゃないのだ。
表現力も音程も動きもそう、完璧なのだ。
先より高く
僕のうつわは
君を責める
僕の誘惑で
君を撫でる
新しいキスを君に送ろう
愛しい君への忠誠を誓って
メンバーたちの興奮は終わっても止まらなかった。
「皆、驚いてたね」
笑いながら美羽が言う。
「だって、練習って止まるし」
「あーおもしろかった。サプライズ大成功って感じだね。」
笑い終えると近くの公園に寄った。
「それで?なぜ俺にまで秘密にしたわけ?」
突然真剣な目つきになる美羽にびくっと震える。
「そ、れは」
「それは?」
ぎゅっと唇をかむと泣きそうな顔で前を向く。
「美羽は、初めてにーちゃんたちとカラオケ行った日を覚えてる?」
「カラオケ?」
美羽が眉をひそめながら考えるとそう言えばそんなことあったなと思いだす。
「その時に僕凄いほめられたんだ。それでななちゃんが瑠唯も歌手になったらどうしようって言ってたんだけど、にーちゃんが」
『俺としては賛成できないけどな。』
『あの職業になることが反対なんだ。もっと、瑠唯ならいいものになれるよ。』
「僕、ずっと近づきたくて、けどこの言葉がずっと引っかかってて」
「・・・」
「だから、とくにななちゃんやにーちゃんには言えなくて、美羽とも食事の時間ぐらいしか会えないから」
この言葉がずっと苦しめていた。
きっとたくさんの辛いことを経験してきたからこそ言ったんだと思う。
けど、瑠唯がしたいことはそれだったのだ。
どうしたらいい?言えなかった。
「そっか。」
「美羽、ごめん」
瑠唯は頭を下げた。
すると美羽は無理矢理顔をあげさせた。
「あやまるなよ、瑠唯。俺も気づいてやれなくて悪かった。」
「美羽…」
「ななちゃんやにーちゃんには、まだ言わないんだな?」
コクンと頷く。
「じゃあ、まあ、手伝ってやるかあ。」
「美羽」
「あ、ライブするんだったら絶対呼べよ!俺は瑠唯のファン一号だからな。」
「あり、がと」
久々に安心したのか瑠唯が大粒の涙を浮かべ声を出して泣き始めた。
美羽が頭を撫でてやる。
ごめんね、ありがとう。
双子に生まれてよかったと瑠唯は改めて思った。
瑠唯達が香南と一緒にカラオケ行く話はclarity love 番外編の方に載せております。実はこれを書く序章として書きました。