03
彷徨い歩いていた
僕の心は
ようやく
辿り着いた
lucid love 03
「おう、まあ入りなって!」
ニコニコしながら翔はびっくりして立ち止まる瑠唯を部屋の中へ入れる。
すると馴染み深い音が瑠唯の耳に聞こえてきた。
古い教室に響くその音は、部屋をみしみし言わせるけど、とても大好きで、
「ドラム…ベース…?」
なぜ?
瑠唯は頭をかしげるばかりだった。
翔はそんな瑠唯をお構いなしに話し始める。
「おう!正解!!ここ軽音部の部室!俺バンド組んでんだ!吹奏楽部とかと違ってやっぱこういうところしか貸してもらえてねえけど音響くし、最高の場所なんだぜ!」
軽音部
バンド
それがあることに瑠唯は驚いた。
「おい、翔うっせえぞ」
「翔、お客さん?」
部屋の中から出てきたのはとても笑顔が柔らかい男の人ととても人相の悪い男の人だった。
「あ、せんぱーい!早速連れてきました!!」
ニコニコしながら翔が瑠唯を前に出す。
「は?なんだよこいつ」
人相の悪い男が瑠唯を睨みつけてくる。
瑠唯は思わず肩を震わせる。
「えっと、その、」
「こら。睨むな。ごめんね、もしかして翔が何も言わずに勝手に連れてきたのかな?」
はいそうです、とも言えず下にうつむく。
「とつぜんごめんね。そしてようこそ軽音部へ。俺は部長の佐野明です。隣の人相の悪いやつは高橋龍之介。君のお名前伺ってもいいかな?」
「えっと、あの、ひ、日向、瑠唯と言います。」
「日向…?」
龍之介が眉をひそめる。
「先輩こいつ日向美羽の兄弟らしいっすよ。」
「ああ、噂の…」
明は少し考える様子だったがすぐに笑顔に戻った。
「んーじゃあ瑠唯って呼んでもいいかな」
「えっあ、はい…」
よかった美羽について何も聞かないんだとほっとする。
「瑠唯はバンドとかに興味がある?」
「バンド、」
頭の中に音が響く。
そこにはとても大好きな人たちがいて、演奏している。とても、楽しそうに。
「僕は、その、anfangと言う、バンドがすっ好きで…す」
この言葉に3人は驚いたように目を見開きとても嬉しそうな顔をする。
「まじで!?」
「え?」
なぜ嬉しそうな顔をするのかわけがわからないと瑠唯は首をかしげる。
「ちょうど良いじゃん!やっぱ瑠唯誘って正解!」
「はあ…」
「瑠唯、俺たちのバンドに入ってくれよ!」
「へ?」
頭が一瞬動かなくなった。
俺たちのバンドに入ってくれよ…?
「ど、どういう・・・」
「いや、俺らのバンドこの通り3人しかいなくて、数が少ないんだよね。」
明が苦笑いをする。
「全員anfang好きなやつらばっかだし、きっとやりやすいと思う。」
「俺ら教えるし!お願いっ!!」
音楽は僕の手に届かない遠いものだと思っていた。
兄ちゃんの作るものは神の領域で
僕には到底近づけないもので
「いいの、かな」
「え?」
「ぼ、僕がやっても、良いの、かな」
いいのかな?
あの言葉に僕はずっととらわれていて、
けど僕は、僕は、
「良いに決まってんだろ」
ハッと前を向く。みると龍之介が瑠唯の方を向いていた。
「お前がやらなくて誰がお前の音を作るんだよ。」
「僕の、音?」
瑠唯は首をかしげる。
その言葉にクスリと明が笑う。
「うん。君の音は君しか作れないよ。それに君はとても音楽をやりたそうだ。」
翔に隣から肩をたたかれる。
「バンド、一緒にやろうぜ?」
ぎゅっと唇をかむ。
僕は、この気持ちに応えたい。
僕自身に正直になりたい。
「やっやらせて、ください!」
ガバッと頭を下げる。
しばらくするとクスリと笑う声が聞こえる。
「こちらこそ、よろしくおねがいします。」
「よろ、しく」
「一緒に頑張ろうな!!!」
その声に前を向くと3人とも笑顔で迎えてくれた。
思わず涙が溢れそうになる。
僕はここで、やりたい。
瑠唯は切実にそう思った。
「と、ところ、でどんなバンドなの?」
「ん?anfangのコピーバンド!」
「へ!?」
”anfangのコピーバンド”
まさかこのような形で瑠唯の音楽生活が始まるとは思いもよらなかった。
と言うわけで瑠唯のやりたいことと言うのはバンドでした。