18
動き出した僕等の鼓動
止まらない衝動
全部集めて
空に飛ばして
lucid love 18
瑠唯のバンドのライブ前日、香南は瑠唯に電話をかけた。
『もしもしっ』
「ああ、香南だ。」
伝えたいことがあり電話をしたが瑠唯の元気な声を聞くとほっとしたのかどう話したらいいのか迷ってしまい沈黙になる。
『えっと、どうしたの…?』
「ああ。明日、だな。」
『うん』
やはり緊張しているのか瑠唯の声が少し張りつめた。
「明日、七海たちにも来てもらうことにした。」
『…』
「聞いてもらった方が良い。そして、伝えたほうが良いと思ったんだ。」
瑠唯も忘れていたわけではない。
七海にはまだ自分のしたいことを伝えていないのだ。
自分では恥ずかしく勇気がなかったため誘えなかったが、まさか香南が呼んでいたとは思わなかったため驚いた。
「それだけだ。悪いな。突然電話をして。」
『ううん。ありがとう』
「ああ。じゃあ」
『あ、ちょっと待って』
伝えたいこと、この時しかないと瑠唯は思った。
『お願いがあるんだ。』
翌日夕方、anfangメンバーと七海たちはライブ会場に着いた。
早速中へ入るかと思いきや香南が七海を誘ってきたのは裏側、控室だった。
「えっと、お知り合いの方のライブなんですか?」
七海にはライブとしか伝えておらずそれ以外何も話していなかった。
突然控室へ連れてこられた七海もさすがに質問をした。
「ああ。とても大切な人だ。」
「大切な…人?」
七海が不思議がっているととある部屋の前についた。
「お前を、待ってる。」
「私、を…?」
香南がドアを開ける。
するとその向こうには瑠唯がにこやかに笑いながら立っていた。
「え?瑠唯?」
驚いた七海は瑠唯に近付く。
すると瑠唯はがばっと腰を折って謝罪する。
「ななちゃん、今まで迷惑をかけてごめんなさい。」
「瑠唯…」
顔をあげ再び話し始める。
「僕のやりたいことはね、バンドをすることだったんだ。」
「…」
「にーちゃんに近付きたくて。けど、にーちゃんは駄目っていうから我慢してた。でも今のバンド仲間と出会って歯止めが利かなくなった。やりたいことに嘘をつきたくなくなった。今まではにーちゃんのコピーバンドしていたけど…僕、これからもやりたいんだ。僕の音を見つけていきたい。」
瑠唯のまっすぐな目。いつも揺らいでいた目とは全く違っていた。
心から、瑠唯が決意をした言葉。
ここまで香南のバンドを見て感じ取るものがあったのかと思うと何故今まで自分は気づいてやれなかったのかと後悔する。
そしてふと、香南が知っていることを思い出す。
「香南さんはどうして…」
「僕たちのライブをたまたま見に来たんだ。驚いたけれど、ちゃんと話した。僕、音楽をやりたいって。そしたら条件つけられて、今日のライブで僕たちの曲を発表しろって。」
瑠唯の言葉一つ一つに驚く七海。
そしてそれ以上に寂しくなるのだ。
ああ、瑠唯あなたは本当に
七海は瑠唯に近付くとぽんぽんと頭を撫でた。
幼稚園のころよりもはるかに高くなった身長。
今では七海も追い抜いてしまった。
「大きく、なったなあ。」
「ななちゃ…ん?」
「私はね、音楽のことわからないから何も言えない。それは香南さんの世界だから。もちろん、話してくれなかったこと、家出したことに関しては本当は何か言わなければならないのかもしれないけれど…今は瑠唯のこの姿がとても誇らしいわ。」
七海が瑠唯に微笑む。
その目からは涙があふれていた。
本当は、瑠唯に会ったらビンタの一つや二つかますつもりだった。
けれど言えなくなった。
こんなに真剣な瑠唯を初めて見たから。
そしてこんなに大きくなったと感じさせたのも初めてだった。
七海は瑠唯を抱きしめた。
「香南さんの世界、とても苦しいと思うけど、やってみなさい。それが、あなたにつながるなら。私はずっと応援してるから。」
瑠唯の背中をさする。
寂しいけれど今は祝福をしたい。
あんなに小さかった天使が今羽ばたこうとしているのだから。
ライブは順調に進行していった。
香南の暗い曲から燎の激しい曲まで。
今まで以上に気合の入ったlugnerメンバーに客も一層テンションが高くなる。
観客席にいた一樹も瑠唯だと言うことに気付いたのか嬉しそうにステージに手を振る。
そのあたたかさを感じたのか瑠唯も楽しそうに歌う。
気づけば最後の曲になった。
「今日は少し趣向を変えようと思います。」
瑠唯がたどたどしいMCの仲はなった言葉に客がざわめく。
「僕たちは今までanfangのコピーバンドとしてやってきたけれど…今回は自分たちの曲を歌いたいと思います。lugner初のオリジナル曲です。『星空、ふわり』是非聞いてください。」
その言葉は少し上の方にある関係者席に向けられる。
瑠唯は一呼吸入れるとアカペラで歌い始める。
いつも見てた瞳
あなたを感じたぬくもり
今はもう永久の向こうへ
さようなら
想いは星の彼方に
ドラムが入りベースギターが入ってくる。
客は何も言えない。
涙があふれてきそうだった。
いつの間にか消えていた淡い心をこのバンドは思い出させてくれた。
歌い終わると客からは盛大な拍手が送られた。
瑠唯もメンバーも満足したのか満面の笑みで客に礼をした。
anfangのメンバーは口端をあげた。
客の状態が全てを物語っている。答えは端から決まっていたのだ。
更新お待たせしました。
ようやく解禁です!
そして最近コラボを始めました。
clarityシリーズに入れているので是非読んでいただければと思います!