16
前に進むしかない
掴んだチャンスを
手に入れなければならないから
lucid love 16
「ああ、そうだ。」
帰り際に夏流が瑠唯の方を向く。
「僕のうち使っていいよん☆防音ばっちりだし何よりギターとか楽器が揃ってるし。」
「なつにーちゃん…」
「どど、どういうことっすか…?」
龍之介が思わず尋ねる。
「良い音を作るにはまず環境が必要かなって。レコーディングはできないけどね。瑠唯が使うならしばらく帰らないし」
「瑠唯くんも俺たちとは少し会いづらいだろう?」
「っ…」
そうだ。この一カ月で曲を作る。更にはそれを夏流たちに見せなければならない。
途中で会ってしまえば何か変わるかもしれないという懸念もある。
その言葉に香南も気づいたのか少し残念そうな顔をする。
「完成するまで香南のうちお邪魔しようかな~」
「一樹がうるせえけどいいのか。」
「一樹が?」
瑠唯の前では明るいながらもうるさくはない。
どうしたのか心配になって瑠唯は思わず香南に尋ねた。
「毎日毎日飽きずにるーは?るーは?って叫んでは泣いて。美羽が久々に怒ってたぞ。」
幼いころから七海と共に瑠唯に育ててもらったこともあり一樹は瑠唯に凄くなついていた。
「…帰れねえか?」
「え?」
「ななも、美羽も、俺も。そろそろ瑠唯のいない生活は限界だ。」
その言葉にメンバーが苦笑する。
それに睨み返しながら再び瑠唯の方を向く。
「一カ月、終わったら帰ってこい。待ってるから。」
「にーちゃん…」
「ホントは今すぐにでも帰ってきて欲しいけど、一カ月皆で我慢するから…」
香南が瑠唯の頭を撫でる。
瑠唯は香南に抱きつき頷く。
「頑張る。僕、頑張るから…
ありがとう。にーちゃん」
岩崎さんがanfangを送りに行き部屋にはlugnerのメンバーだけとなった。
「あ、あの、その、今まで本当に、ごめな」
「もう言うな!」
龍之介が瑠唯の肩を掴む。
「その、悪かったな。俺らも。何も信じてやれなくて。」
「龍先輩…」
反対から明が肩をたたく。
「まさか、本当のanfangたちと知り合いだったっていうのは驚いたけれど、君が言いたいことようやくわかった気がするよ。」
「明先輩…」
「瑠唯!」
目の前には翔が立っていた。
「俺もまだまだ未熟だけど、瑠唯とやりたい。この4人でやりたい。だから曲、頑張って作ろうな。」
「翔…」
またもや瑠唯の目からは涙があふれてきた。
「おっ男なら泣くんじゃねえ!!」
龍之介が急いでハンカチを差し出す。
「龍、ハンカチなんか持ってるんだ。」
「っうっせえ!!ほらふけっ!!」
「はいっあっありがとうございますっ!!!」
ようやくお互いの気持ちを知れたlugnerメンバー。
一カ月で曲を作るのは大変だけれど、それでもこのチャンスをモノにしたかった。
あの大好きなanfangに挑戦できるから。
4人はそれぞれこれからの一カ月を不安に思いながらもとても楽しみに思っていた。
帰りの車の中anfangメンバーはそれぞれ思い思いのことを話していた。
「いやー瑠唯がまさかなあ…」
「上手だったね。」
「流石香南の声を一番近くで聞いていただけあるかな。」
「今まで聞いたことがなかったもんね。瑠唯くんはあんなに上手なんだね。香南は知っていたのか?」
「…まあ、」
香南が渋るように眉をひそめている。
「んもー香南怖い☆自分で言ったんでしょう?るいるいはやってくれるって。」
「しかしながら一ヶ月…よくいったねえ。」
「俺じゃあ言えねえな。」
一ヶ月。初めて曲を作るには短い期間である。
「うるせえ。一ヶ月で作れなければそれまでのバンドだろ。」
「まあねえ…」
燎がため息を吐きながらコーヒーを飲む。
「俺たちも、それまでにいろいろ頑張らねえとな。」
燎の言葉に雅が苦笑いをする。
「君たちは本当に、苦労かけるよ。」
「えっへへ~苦労かけまーす!雅さん頼りになります!」
「これからもよろしくお願いしたいね。」
「ハイハイ」
運転している雅に向かってそれぞれ投げキッスをする。
それを嫌そうな顔をしながらも内心安心した様子で流す。
今まで悩んでいたメンバーも何か吹っ切れたように明るく話している。
おそらく数日後には5人が集まりミーティングが行われるだろう。
ここからまたanfangの歴史が刻み込まれることを雅は予測していた。
香南は家に帰り一カ月後のライブに七海や一樹、美羽を誘った。
「ライブ、ですか?」
「ああ。空けといて欲しい。」
「いつきもー?」
「ああ。お前も。」
「に、にーちゃん…」
美羽はその意図に気付いたのか驚いた目をしていた。
「美羽も、お願いできるか?」
香南は目で黙っているよう促す。
「わかった。あけておくよ。」
「私も大丈夫ですよ。一樹もその日はお昼寝いっぱいしないとね。」
「うん!らいぶ!」
一樹の嬉しそうな顔に皆頬を緩める。
七海はまだ少し不思議な顔をしていたがご飯の準備をしに一樹とキッチンへ向かった。
すると香南の横に美羽がやってくる。
「にーちゃん、」
「今日雅さんの知り合いを通じて行ってきた。初めは誰も知らなくて流石に驚いたけどな。」
「…」
「曲作らせて今度また聴くことになった。」
「そっか…」
「…」
「にーちゃん、俺はanfangのファンでもあるけど瑠唯の最初のファンだから。売れるよ。あれは。」
「…そうか。」
キッチンから七海が顔を出してきた。
「美羽ー!ごめんちょっと大きいものを運んでもらっても良い?」
「おっけー!」
ぱたぱたと美羽はキッチンへ入っていく。
『僕はもっとにーちゃんに近付きたい。』
香南はため息をつくと美羽の後ろからキッチンへ入って行った。
今年も自分のペースで更新できればと思っています。
よろしくお願いします!