14
思いだせあの闇を
二度と間違わないために
lucid love 14
周の家で暮らすようになってから瑠唯の生活は一変した。
朝早くに起き朝ご飯を作るそしてその傍にメッセージを添えておくのである。
朝が苦手な瑠唯にはとてつもなく大変なことだった。
二人との生活は思っていた以上にすれ違いの生活でほとんど会うことはなかった。
学校へ行きその日の予習をする。
授業もまじめにうけるようになった。
昼ごはんには美羽が七海から受け取った弁当を食べる。
少ししょっぱい卵焼きが七海らしくないと思いながらもそこに暖かさを感じていた。
放課後には練習をし学校にい残れる限界まで残る。
ライブの前にはチラシなども皆で試行錯誤しながら作っていた。
学校以外では個人で練習することになっており、瑠唯は家に帰り二人がほとんどいないので好きなだけ練習をしていた。
そして夏流が作ってくれてるご飯を添えてあるメッセージを見ながら食べ掃除、洗濯をするのである。
今までのただ流されている時とは打って変わってとても忙しくなによりとても寂しかった。
順調のライブの客も増え、瑠唯も少しずつ慣れてきた頃控室に岩崎さんがひとりの客を連れてやってきた。
「皆ちょっと良いか?」
「なんですか?」
明が答えると後ろからスーツを着た若い男性が立っていた。
「こんばんは」
「「「「こん、ばんは…」」」
メンバーはわけがわからないと頭にはてなを浮かべながら挨拶をした。
「私はこういうものなんだけれども…」
若い男性は話しながら名刺を差し出す。
メンバーは一同に驚く。
その名詞に書かれていた会社がレコード会社で有名なジュエリストだったからだ。
「あ、あの、」
翔が慌てて尋ねようとするが口が全く回らなかった。
「突然すまないね。今日のライブ聴かせてもらったよ。とてもよかった。」
若い男性は4人を特に瑠唯の方を見渡し話す。
「ぜひ、ジュエリストと契約を結ばないか?」
再びメンバーは驚く。
「俺らで…いいんすか…?」
龍之介が声を震わせ話す。それもそうだ。
自分の尊敬しているanfangが昔所属していたレコード会社だ。しかもそれなりに知名度が高い。そんな会社が自分のバンドを認めてくれたのだ。
「昔、anfangを育てたのは弊社だ。きっと、君たちを成長させて見せるよ。それだけの力がうちの会社にはある。」
にこにこしながら誘う若い男性に瑠唯は眉をひそめる。
anfangが以前ジュエリストに所属していたことはもちろん知っていた。
しかしなぜやめたのかその理由を聞くことはなかった。
覚えていることと言えばその頃に香南が怪我をしたこと、そして七海と結婚したことであった。
初めて一緒に風呂に入った時に見た腕の傷跡それは幼い瑠唯にとても強烈な印象を与えた。
『にーちゃ、うで…』
『ああ。これは…』
瑠唯が今にも泣きそうな顔をすると香南は瑠唯の頭を撫でてくれた。
そして愛おしそうに、辛そうにその腕の傷を見た。
『ななを守った勲章だ。』
『くん…しょう?』
『俺の、俺の誓いなんだ。もう二度とななをあんな目にあわせない。』
「瑠唯…?」
ふと意識を向けると翔が瑠唯の顔の前で手を振っていた。
「ふえっ?ご、ごめんなさい!!」
「突然で驚かせてしまったかな?」
若い男性は苦笑するとそれぞれメンバーに渡していた名刺を瑠唯に手渡す。
「悪い話ではないと思うよ?また来週聴きにくるよ。良い返事を期待している。」
そして岩崎さんと一緒に出ていってしまった。
「どっどうします!?」
「どうするもこうするもこんなチャンス二度とめぐってこねえぜ!?この話乗るしかねえだろ!」
「そうだね。まさかあんな所からオファーをもらえる日が来るとは思っていなかったよ。」
3人はかなり乗り気であった。
しかし瑠唯は嫌な予感しかしない。
「ぼ、僕は反対です。」
瑠唯の声にメンバーがいっせいに瑠唯の方を向く。
瑠唯はかなり真剣な顔をしていた。
それに龍之介が瑠唯の胸ぐらをつかむ。
「お前それ本気で言ってんのか!?お前が言っていた本気ここで認めてもらえたんだぞ!?」
「わ…わかってます。けどはっ反対なんです…!!」
「先輩落ち着いてください!!!!」
翔がなんとか二人をはがす。
しかし龍之介は瑠唯を睨むことをやめなかった。
明はため息をつくと瑠唯の方を向いた。
いつも瑠唯に味方してくれる明も今回ばかりは味方ではいてくれないらしい。
「瑠唯くん、反対する理由聞かせてもらっても良いかな?」
瑠唯はびくびくしながらも反論する。
「あっanfangが、そこのレコード会社を辞めたと言うことは、そこには何かがあるからだと、思うんです。僕は、そこに賭けるのはとても怖いんです。」
「瑠唯…」
「もう傍で傷つく人たちを見たくないんです。」
「傍で…?どういうことだい?」
明が尋ねるとしまったという顔をした瑠唯は帰る準備をそそくさに始める。
「僕頑張ります。だから、もう少しだけこれは考えさせて下さい。お願いします。」
瑠唯が深く礼をしその場を離れる。
それからというもの少しずつレコード会社からのオファーが増えるようになった。
しかしそれほど大きくない事務所だからかメンバーはそんなに乗り気ではない。
さらにジュエリストの人物は毎回ライブに来て差し入れを持ってきてはジュエリストの利点を述べにこやかに帰っていく。
メンバーの意思が徐々に固まっていくところを瑠唯はただ黙っているしかなかった。
だんだん孤立しているのを感じ瑠唯はどうしようもない焦燥感にかられていた。
その日の帰り道瑠唯は翔と一緒だった。
最初は学校のくだらない話をしていたが一瞬沈黙が訪れるとぽつりと翔が話し始めた。
「なあ瑠唯、まだ反対か?」
「翔…」
「ジュエリストの人すげー売りに来てるじゃん。これだけ言ってくれるってそうそうないと思うんだ。anfangが移籍した理由も知らねえけど、俺は信じても良いんじゃねえかって思うんだ。」
瑠唯は下を向いた。
そう、瑠唯も恐ろしいぐらい自分が正しいのか間違っているのわからなくなってきていたのだ。
けど香南のあの辛い笑顔。
それを思い出すと首を横に振っていた。
すると翔はため息をつき瑠唯の方を向いた。
「それは、前言った傷つくとかに関係するのか?」
瑠唯が顔をあげると翔が傷ついた顔をしていた。
「俺はそんなに信用できねえか?」
「翔」
「そりゃ言えないことだってあると思う。けど、その核心付くことを言われないと、俺らはお前の気持ちを分かってやれねえ。全部本音を吐きださねえと俺らの心に響かねえよ。」
瑠唯は口をぎゅっととじる。
「瑠唯、俺はお前を信じたい。」
翔は瑠唯の肩をたたくとじゃあなといって帰って行った。
瑠唯はただ呆然と立ち尽くしていた。
次のライブにももちろんジュエリストの男性は来ていた。
ライブ後に差し入れを持ってきてくれたのだ。
瑠唯以外の三人は快くそれを受け取る。
しかし瑠唯は受け取る気持ちになれなかった。
「瑠唯くんはうちのどこに不満があるのかな?」
流石に痺れを切らしているのかジュエリストの男性も瑠唯に尋ね始めていた。
何も言わない瑠唯にため息をつくと次回返事を聞きに来ると控室を去って行った。
「瑠唯、てめえいい加減にしろよ。」
そう言い始めたのは龍之介だった。
「これ以上延ばしてたらもう機会はねえ。」
「・・・」
「瑠唯、」
「けど…」
「そんな勘なんかで前へ進めないじゃこの先進めねえんだよ!!」
「勘なんかじゃない!!!」
気づいたら瑠唯は叫んでいた。
なかなか叫ぶことのない瑠唯に一同驚いていた。
「じゃあ瑠唯、言ってくれるんだな?」
「瑠唯くん」
今まで張りつめていた糸が切れそうだった。
その時どたどたと外から音がすると岩崎さんがドアを開けた。
「たっ大変だ!!anfangが来てるぞ!!!」
メンバーが驚いてドアの方を向く。
瑠唯の真後ろがドアだったため瑠唯はゆっくりと後ろを向く。
岩崎さんの後ろから雅がまず入ってきた。
途端に目から涙があふれ出す。
そして次に入ってきた人を見て、緊張の糸がプツンと切れるように瑠唯はヘタリと座りこむ。
「瑠唯、」
「にーちゃん…ごめん、ごめんなさい!!!!」
泣き崩れる瑠唯を香南は優しく抱きしめた。