12
愛の欠片が
堕ちてゆく
僕はどこで
間違った?
lucid love 12
jiririririri
朝の6時。
朝起きると隣に七海はいない。
もうとっくに朝食を作っているのだろう。
そして隣の部屋からは目覚まし時計の音が鳴りやまない。
これでは一樹が起きてしまうと隣の部屋まで行く。
ガチャッと開けても隣の部屋の住人は起きる気配がなかった。
「おい、美羽、遅刻するぞ。」
「う~ん…にーちゃん今何時い~」
「もう6時過ぎてる。今日も早いんだろ?」
6時の言葉に反応したのかすぐさま覚醒しガバッと起きあがる。
「やばいっ!!今日のコート掃除俺だった!!!」
その言葉に起きたのを確認するとクスリと笑い下に降りる。
下に降りると七海が一生懸命朝ご飯をセットしていた。
「香南さんおはようございます!」
「あぁ、なな、おはよう。」
朝の挨拶は忘れないと言うかのようにごく自然に香南は七海の頬にキスを送る。
いつまでたっても初心な七海はあっという間に顔を赤くする。
「えっと、今日も卵焼き作りますか…?」
その言葉にコクリと頷く。
瑠唯が突然家出をして早数カ月。
美羽と瑠唯のお弁当の卵焼きを作るのが俺の日課になっていた。
少しでも、できることがあれば。ただその一心で。
卵焼きを作っていると美羽が下に降りてくる。
そして急いでご飯をかきこむと少し冷めた卵焼きの入ったお弁当箱二つを持って行く。
「瑠唯にもちゃんと、頼む。」
「足りなそうだったらまた教えてね。」
「わかってる!行ってきまーす!!!」
美羽を見送った後、七海はほっとした様子でコーヒーの準備をし始めた。
言いようのない違和感をまといながら二人でリビングに行く。
何ヶ月経とうが慣れないものは慣れないのだ。
瑠唯が家を出て行った後、俺はすぐさま追いかけた。
しかし暗闇の雨の中瑠唯を探すのはとても大変だった。
すぐ帰るかもしれないと七海には残ってもらっていた。
しかし、全く見つからない。どこにいるんだ?
もしかして変な人に誘拐でもされているのではないのだろうか。
様々な不安が頭の中をよぎって仕方がない。
走ってる最中にバンドのメンバーにも電話をかける。
折角の休みに悪いと今だったら考えるがそれも頭に回らないぐらい焦っていた。
メンバーは驚いた様子で最初聞いていたが、わかったとそれぞれ探しに出てくれた。
必死に走りながら目を血眼にしてまわりを見ていると目の前に見知った人物が現れた。
「にーちゃん?」
「み、うか」
ぜーはーぜーはーと息をする。
「どうしたの?傘もささないで…大丈夫?」
「ああ、あの、瑠唯、見なかったか?」
「瑠唯?」
どうして?という様に首をかしげていた。
「瑠唯が家を出て行って…」
「え!?」
「見つからないんだ。今、メンバーにも声かけたからもう少し、探す。お前は、家に戻れ。七海と一樹二人に、してるから…」
「わかった…」
少し放心状態の美羽だったが、頷くと走って家の方へ向かっていた。
再び俺は足を速める。
俺はあいつに何をした?
なぜ、全くわからない?
早く、早く
しかし暗闇の中で人の顔などほとんど見えず徐々に体力も限界に近付く。
気持ちだけが焦る中、一本の電話がかかってくる。
それは周からだった。
急いで出ると周の安心した声が聞こえてきた。
「もしもし!?」
『もしもし?周です。瑠唯くん見つかったよ。』
その一言に目を大きく見開き腰を抜かしたようにその場に座り込む。
「ほんとう、か?」
『うん。どうやらうちの方面に来てたみたい。近くに公園にいたよ』
「そうか、よかった…」
涙が出そうだった。しかしこうしてはいられないと立ち上がる。
「悪かったな。今から迎えに…」
『あ、それはちょっと待って?』
「・・・は?」
何を言ってるんだこいつは。思わず眉をひそめる。
『うーんとね、瑠唯くんも今結構放心状態でね。なんって言うか、今はそっとしてあげた方が良いかも』
「・・・」
『突然家を出るほど瑠唯くんにとって何かがあったわけだし、少しお互いに考える時間を持つのって大切だと思うんだよね。』
「けど、」
『しばらく瑠唯くんうちで預かるよ。ななちゃんにも今から電話するし。とりあえず瑠唯今風呂に入ってるから今のうちにななちゃんにかけたいしいったん切るね。香南くんも早くお風呂に入りなさい。』
「・・・」
ぷつっと切れる携帯からはもう何も言葉は発せられなかった。
家に急いで帰りドアを開けると玄関で七海が美羽とタオルを持って一緒に待ってくれていた。
「香南さん、瑠唯見つかったって。」
その言葉を話す七海の目からは涙があふれていた。
思わず七海を抱きしめる。
「瑠唯、しばらくあまにーちゃんとこで預かってもらうって。」
美羽も疲れた様子でタオルを渡しながら教えてくれた。
「ああ。電話で聞いた。美羽もありがとな。風呂先に入ってくれ。」
その言葉に七海が顔をあげる。
「いいえっ。香南さんが入ってください!!!こんなに濡れて…すいません!!!」
もう風呂の湯は温まっていますからと香南をタオルで拭きながら言う。
「じゃあ悪いけど先に入らせてもらうな。」
俺が入った後美羽が風呂に入り3人でリビングに座る。
七海が入れたお茶を3人ですすっていた。
「えっと、なんでこんなことが起こったの…?」
美羽にとっては予想もつかないことなのだろう。少し不機嫌そうな顔でそう言った。
「実は、今回のテストで瑠唯の成績が100番も落ちて」
「ひゃっ100番!?」
流石に驚いたのだろう。今にもお茶を吹き出しそうだった。
「私、学校に呼ばれて、進学を部活考え直した方が良いと言われて…瑠唯に部活の事を聞こうと思ったら突然飛び出しちゃって…」
「あー…」
美羽は天井を仰ぎ見る。
「…もしかして美羽は瑠唯の部活について何か知っているのか?」
俺が美羽に聴くと美羽は肩をびくっとはね上げる。
「あーうーん…まあ、ね。」
美羽が目線をそらしながら答える。
「どうして私たちに話してくれなかったの!?」
「瑠唯が自分から話すって言ったんだよ。それを俺からななちゃんたちに言えないじゃん。」
この件については美羽からも話してもらえそうになかった。
「…分かった。一つだけ。その部活は瑠唯にとって悪いものじゃないんだな?」
美羽の目を見つめると美羽は真剣な顔でうなずいた。
「うん。それは保障する。瑠唯は、今やりたいことをしている。それだけは言える。だから、今はそっとしておいてやって欲しい。」
「美羽・・・」
「あいつ、ずっと我慢してたんだ。それを今できて、とても嬉しそうで。我儘だと思うけど、あまにーちゃんやなつにーちゃんに迷惑かけるけど、それでも今のあいつを止めないで欲しい。」
真剣な眼差しにしばらく考える。
七海を見ると少しだけ安心したような顔をしていた。
「…わかった。私、美羽と、瑠唯の言葉、信じる。」
「なな、」
「この二人の言葉、私が信じてあげなきゃいけない。香南さん、駄目、でしょうか…?」
無理矢理作ったような笑みに自分の中の決意は固まった。
「…わかった。周と夏流には俺からちゃんとお願いしておく。」
その言葉に二人はほっとした様子だった。
その夜再び周から電話がかかってきた。
『事情は大体聞いたよ。』
「そうか…その、瑠唯の件なんだけど…やっぱりしばらく預かって欲しい。今俺たちができる最大限の事だと思ったから」
『そっか。香南くん、成長したねえ』
くすくすと笑う周にムッとする。
『瑠唯くんも了承したし、心配しなくても瑠唯くんはちゃんと進んでいるよ。大丈夫。ただ時間はかかっちゃうかもしれないけど。』
その時間がどの時間を指しているのか言わずもがなだった。
「わかった。よろしく、頼む。」
次の朝、少しだけ早く起きるとすでに七海は起きて料理をしていた。
「おはよう」
「うわっ香南さん!?」
早い時間に起きたのにびっくりした様子でそれでも昨日より顔色は随分良くなっていた。
キッチンを見るとお弁当が二つ分作られていた。
その目線に気付いたのか七海が苦笑していた。
「わかってはいるんですけど、それでも、美羽からなら受け取ってもらえるかなと思いまして」
「そうか…」
弁当を見ると卵料理がまだのようだった。
それをみて思わず俺もエプロンを取ってしまった。
「俺も、卵焼き、作ってもいいか?」
それから美羽は毎日弁当を二つ持って行き、二つ弁当箱を持ち帰ってくれるようになった。
その弁当に関して瑠唯の感想を聞くことはできないけれど、全て食べてくれているのを見るとそれで充分だった。
メンバーには翌朝お礼を言う。七海からはお礼の手造りゼリーを渡されていた。
それを食べながら夏流と周が瑠唯の事を少しだけ話してくれる。
燎も驚いた様子だったが、今のうちに反抗期が来てよかったなと安心させるような言葉をかけてくれた。
瑠唯に関してはそれから毎日少しだけれど夏流と周が話してくれるようになった。
部活についてはとても頑張っているらしく夜遅くまで帰ってこない日もあるようだった。
安堵するけれども寂しい気持ち。
どうして自分たちには言えないのか悔しい気持ち。
心のもやもやが消えないまま瑠唯のいない生活は一日一日と過ぎていた。
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