10 ※BL有
ゴールの見えないこの世界は
暗闇へと
浸食されていく
lucid love 10
気づいていたら走っていた。
何も考えていなかったんだ。
ただ、なぜ、どうして?悔しい気持ちだけが自分の中にあった。
それは伝わらない思い、自分自身のできなかったことへのものであった。
気づけば雨の中知らない場所にいた。
「ここ、どこ…」
いつもだったら七海や香南が方向を示してくれそこをただ歩くだけだった。
しかし今日は、まるで知らないところにひとりでいる。
瑠唯は自分で歩くことの寂しさ、恐怖心を初めて知った。
とにかく近くに知っている場所はないかと歩く。
しかしそれからどうする?
どうしたらいいのだ?
あれだけ大きなことを言ったのにどのような顔をして帰れと言うのだろう?
目の前が全く見えない。
瑠唯は思わずしゃがみこんでしまった。
「子猫ちゃん、みーつけた」
ふと声をかけられる。そして雨が当たっていないことを実感する。
上を向くと周が傘をさして立っていた。
「あ、」
思わず後ずさってしまう。
「全くそんなことしてたら更に濡れちゃうよ。」
「けどぼく、」
首を横に振る。それを悟ったように瑠唯の頭を撫でる。
「わかってる。帰りたくないんでしょ?うちにどうぞ」
差し出された手に思わず疑問を抱く。
どうして?
しかし周はただ笑っているだけだった。
「瑠唯ー!」
周と一緒に周のマンションの下へ行くと夏流が待っていてくれた。
周が見つかった時に夏流に電話をかけていたようだ。
夏流は濡れた瑠唯を「よかった」と抱きしめるとマンションの中へ案内した。
そして周の部屋まで行き風呂に入る。
お風呂のお湯は瑠唯の雨で打たれた体をほんのり温めてくれた。
「あ、ありがとう…」
「いーえ。バスソルトいいでしょ?僕のオススメ」
ニコニコ言いながら話してくれる。周と夏流は一緒に住んでいるので勝手知ったる状態なのだ。
「あの、」
「ん?」
ココアを出してくれた夏流に瑠唯は質問する。
「ななちゃんたちに…」
するとにっこりと夏流は笑った。
「電話はしたよ。やっぱり無事ってこと言っておかないとね」
「ごめんなさい…」
思わずうつむく。ココアを持つ手が震えていた。
「瑠唯さ、手をだしてみて?」
夏流が突然笑顔で手を差し出してくる。
思わずその手に自分の手を乗せると夏流はまじまじと瑠唯の手を観察した。
「瑠唯さ、最近ギター触ったでしょ?」
「え?!」
確かに翔に触らせてもらったが、どうしてと思わず顔に出してしまう。
その顔を見て夏流が微笑む。
「僕はギターリストだよ。それぐらい見たらわかるよ」
「あ…」
「瑠唯さ、今バンドやってるでしょ?」
とうとう瑠唯は目を見開く。
「やっぱりー!僕の目は正しかったね。」
「さすが、なつ。大正解だったね。」
「あの!!!」
思わず大声を出してしまう。
周と夏流がこちらを向く。
「なんでそれ、を…にーちゃんたちに…」
「もちろん言ってないよ。隠したいみたいだったし。」
ほっと一息つく。どうやらばれていないみたいだった。
「なんでかって言うとね~最近瑠唯の目がそーっくりだったの。」
「…誰に?」
思わず不思議そうに尋ねてしまう。
「昔、バンドをやりたそうにしていた香南に」
にっこりと笑う夏流に瑠唯は驚く。
「香南は最後に入ったんだけどね、その前からやりたそうな目をしてたの。けど香南ってあんまり自分から言わないでしょ?けどずーっと物欲しそうにギターとかベースとかみてるからあーやりたいんだろうなって。それが今の瑠唯の顔とそっくり。」
「全く本当に家族だねえ。そっくりだよ。」
その言葉に顔を真っ赤にする。
「けどさ、どうして隠したりしてたの?香南だったらほんとギターでもベースでも何でも買い与えそうなのに」
不思議そうに話す夏流に俯きながら瑠唯が話す。
「ずっと昔に歌手になるのは反対だって。だから僕…」
「うそ!?香南そんなこと言ったの?」
「直接ではないんだけれど…」
「ふーん。あの香南くんも…言うねえ。」
うんうんと首を縦に頷きながら周が言う。
「うーんまあ気持ちわからなくもないけどねえ。」
夏流がマグカップを持ちながら穏やかに笑う。
「僕たちがいる世界ってさ、奇跡でできてるようなもんなんだよね。その奇跡の中に入れるかどうかも運次第。辛いことも喜び以上にいっぱいある。そんな世界に可愛い可愛い瑠唯を入れたくないんだよ。」
「そうだね。なんて言ったってanfangの宝だもの。瑠唯くんと美羽くんは。」
一樹はまた少し別だけどね。と周が付け加えながら言う。
「だからこれは親心。瑠唯も良く考えな。それ以上に行きたいのか、単なる趣味で良いのか。」
笑顔で言う夏流の言葉は何よりも重たく感じた。
「まああっちも今は興奮してるし瑠唯もななちゃんとかに会いづらいだろうししばらくはこっちにいていいよ。瑠唯もきっとやらなきゃいけないこと、整理しなきゃいけないことわかってると思うから」
夏流が微笑んで頭を撫でてくれる。
「まあ、俺たちと3人生活だけどね。泊まる分、ちゃんと家政婦やってね?」
にやりと笑う周に思わずクスッと笑ってしまう。
「ありがとう…」
ようやく穏やかな気持ちでココアを一口飲んだ。