09
どうしてわからないの?
どうして伝わらないの?
lucid love 09
ライブの翌日、家へ帰ると二人揃っていた。
香南は友達の家に泊まりに行っていたことを七海から聞いたのか瑠唯と美羽にたくさん話しかけてきた。
香南も二人にそのような友達ができたことをとても喜んでいた。
ご飯を食べ終わり、一樹も眠りにつき久々に4人でいる時間ができた。
「にーちゃん、ななちゃん、ちょっと良いかな…?」
今がチャンスと二人に話しかけた。
「ん?なんだ?」
「どうしたの?改まって…」
二人とも笑顔で聞いてくる。
流れを読んだ美羽は自室へ帰っていく。
今だ。今しかないと何度も二人を見つめる。
「どうしたの?気分でも悪いの?」
「いや、あの、その、」
つい下を向いてしまう。
言いたいのに二人に笑顔を見ると言えなくなる。
この笑顔を消したくない。
「な、なんでもない」
ガバッと立ち上がると急いで部屋へ戻る。
そして涙が止まらなくなる。
男なのに泣くな泣くなと必死に涙をぬぐう。
どうして僕はこんなに弱虫なのだろう?
どれだけ涙を流しても答えは出てくれなかった。
「はあ。」
anfangはスタジオでレコーディング中だったがどうも香南が乗ってくれない様子だった。
「どうしたのさー。昨日リフレッシュしてきたんでしょ?」
夏流が不思議がる。久々に夜ゆっくりできたのだ。
今日はのりのりでレコーディングに挑んでもいいはずだ。
それなのに気づけばため息、どこかうわの外だった。
「いや、その…なんか瑠唯が…」
「瑠唯?瑠唯がどうしたんだよ」
最近あいつ楽しそうなんだろ?と燎が尋ねる。
「昨日凄く真剣な顔で俺とななと呼んだんだけど、突然何でもないって部屋へ戻っていったんだ。少し泣きそうな顔で…」
その話をしながら香南も辛そうだった。
「俺たちじゃあ、相談に乗ってやれねえのかと思って…」
「なるほどねえ…」
周もコーヒーをすすりながら聞いていた。
「瑠唯も今ちょうど思春期だしなあ…悩んでるんだとは思うけど…」
「そうだねえ。見守ってあげるのがちょうどいいんじゃない?瑠唯くんもバカじゃないんだから変な方向には走らないと思うし」
「…そうかな。」
香南もとても心配そうだった。
香南にとって七海とは違う意味で瑠唯と美羽が大切なのだ。
それなのにできないもどかしさが香南を襲っていた。
次の月曜日、放課後突然先生に呼び出しをされた。
「日向、ちょっといいか?」
「はい…」
なんだろうと不思議に思いながらも瑠唯は先生についていった。
職員室へ行き見せられたのは成績表だった。
先日の中間の結果が出たのだ。
「日向、お前順位が100番以上落ちている。どうしたんだ?」
点数は赤点ぎりぎり順位は後ろの方だった。
ただ黙ってることしかできず、瑠唯は下を向いた。
「部活が問題なのか?」
その言葉にハッと前を向く。
「ちっ違います!!部活は関係ありません。」
「だったらどうしたんだ?俺はそれを聞いている。」
「それは…」
唇をかみしめる。両立していなかった自分が悪いのだから。
「どちらにせよ親御さんには言う必要があるから。今から来てもらうことは可能なのか?」
「え?!」
瑠唯は驚く。まさかそこまでことが大きくなるとは思っていなかったのだ。
「当たり前だろう。一応進学コースで入っているんだ。これだけ落ちたら、懇談会の前に伝えなければならないだろう。」
瑠唯の顔が真っ青になる。
そして先生が家に電話するのをただただ眺めているしかできなかった。
七海は電話をもらいすぐ学校へ向かった。
先生から話を聞き、一緒にいた瑠唯と一緒に帰る。
『進学を希望されているなら部活を考え直した方が良いかと。』
先生にそこまで言われた。
部活がそれほどまでにきびしいのか?
部活が厳しいことは良い。しかし普通だったら勉強も大事だと顧問が言ってくれるのではないのか?
七海は瑠唯が入っている部活に対し不審に思い始めていた。
そして夜、家に帰った香南に少しだけ時間をもらい瑠唯と話し合うことにした。
成績に関しては香南は何とも思っていない様子だったが昨日の事が頭に残っているのか頷いてくれた。
瑠唯はご飯を食べる時も、こうして3人でいる間も終始顔を真っ青にしていた。
「瑠唯、えっと、今回はどうしたの?」
七海が話し始めたが瑠唯は下を向いたままだった。
「ごめんなさい。」
「謝らなくて良いのよ。部活、そんなに厳しいの?」
瑠唯は首を振る。ちゃんと話は聞いているようだった。
「瑠唯、ちゃんと話してくれないか?俺たちは何も聞いてない。どんな絵を描くとか、どんな先生に教わっているのかとか。」
瑠唯は真っ青な顔を前に向けると唇を震えさせる。
「ぼく、」
ようやく話してくれた言葉に二人は耳を傾ける。
「僕、嘘、ついてた。」
その言葉に二人は驚く。
「うそって、なに?」
七海が尋ねる。
「美術部に入ってるって、うそ、ついた。」
「・・・」
「・・・」
二人は何も言えなくなった。まさかそんな嘘を瑠唯がつくとは思っていなかったからだ。
「ほんとは、違う部活に入ってる。」
「・・・」
「・・・それはどんな部活なんだ?」
香南はまっすぐ瑠唯を見つめる。その顔に思わず瑠唯はびくっと肩を震えさせる。
そして下を向くと首を振る。
「・・・言えない。」
「どうして?」
それでもなお瑠唯は首を振る。
思わず七海と香南は顔を合わせてしまう。
「あのね、瑠唯、言ってくれないと…私たちとても心配してて…」
「どうして言ってくれねえんだ?俺たちじゃ駄目なのか?」
「違う。」
「じゃあ…」
「・・・ないで。」
瑠唯が何かを呟いた。その顔からは一粒の涙が落ちていた。
「…瑠唯?」
七海が心配そうに声をかけるとガバッと瑠唯が立ちあがった。
「もう僕の事心配しないで!!!ほっといて!!!!」
そしてリビングのドアの方へ向かう。
「おい瑠唯!!!」
香南も急いで追いかけるがすでに瑠唯は玄関から外へ出てしまった後だった。
外は雨。
真っ暗な世界だった。
07話に中間テストを行った話を追加しています。少しですが気になる方はもう一度読んでいただけると幸いです。