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さかしま

作者: トネリコ
掲載日:2026/04/11

『お悩み相談、承ります』


シンプル過ぎる一文とともにコミッションサイトでサービスを出品すると、申し込みが来るわ来るわ。アカウント名【HAL】、安藤晴人という名の青年は、どんどん数が増える通知に若干引いた。


音声ではなく、テキスト限定のサービスが逆に良かったのだろうか。


こちらも文字でのやりとりのほうが落ち着いて対応できるので、願ったりかなったりだ。仕事のこと、現実の人間関係のこと。悩みは人それぞれ十人十色だが、一番多かったのが【匿名での誹謗中傷被害】だった。


誹謗中傷が辛い。辛いけれど、止める手段がない。


どうにかしようと思ったら、裁判や警察沙汰にするしかない。どうにもならなくなって、せめてもの毒抜きにサービスを頼ってくる人が多かった。


(誹謗中傷はゼロ円で、裁判沙汰は数百万円か。世の中クソだな)


誹謗中傷で何人もの死者を出しても、世の中は変わらない。死者の存在が世の中に知られた時だけ大騒ぎするが、時が経てばすぐに忘れる。


動いているのかいないのか分からない通報機能と、誹謗中傷は許さないと掲げながら、何度訴えても本質的に加害者の利になるような反応しかしないコンテンツの運営。


本気で誹謗中傷を無くす気があるのかと、当事者ではない晴人ですら思ってしまう。


どっちつかずの対応で誹謗中傷が無くなると思っているのなら、おめでたいもんだ。


『無断で個人情報を晒されています。通報してもダメで、どうしたらいいのか分からず困っています』


飛び抜けて悪質な行為に、晴人は反射で、『URL付の証拠を確保して、保存しておいたほうがいいです。サイトはココ→(URL)』と書き込んだ。


そして……ちょっとした悪戯を思いついた。


相談者にではなく、匿名に隠れて好き放題している卑怯者に対して。


『相手のアカウントとか、教えて貰えます?』


相当追い詰められているのだろう、相談者はすぐに問題のアカウントを教えてくれた。


問題のアカウントの持ち主は、匿名から相手を叩いてさぞお楽しみだろう。どうせバレない、大したことにはならないと高を括って、いざとなればアカウントを消せば逃げ切れると思っているのだろうが、甘い。


インターネットとは、例えるなら世界中に張り巡らされた巨大な網のようなもの。相手の名前も、顔も分からなくとも、繋がってさえいればいい。晴人にとっては。


「呪いよ、さかしまに還れ」


問題のアカウントを見ながら、晴人は呟いた。

呟いた途端、どっと疲労する。あとは、風呂に入って寝るのみ。呪い還しなんて、おいそれとやるものじゃない。


相手は、想像もしないだろう。

陰陽師の家系、その末裔から呪いを還されているなどと。


陰陽師など、今はもう物語でしか知られていない。家系の者も、名前に名残を残すのみで何の力も無い……はずだったが、何故か家族の中で晴人にだけ【呪い還しの才】があった。


呪い還しができるのは、一日に一度。

それ以上やると、晴人の体がどうなるか分からない。


珍しくはあるがそれ以上でもそれ以外でもない才をどう活かし、どう説明したらよいか分からないから、家族にすら明かしていない。


家族にはアパートに引き篭もって仕事をしている、変わり者の息子としか思われていないが、晴人はそれでも構わなかった。


何も知らない画面の向こうの相談者には、もしも相手の素性が判明した場合の対処方法を伝え、その日はそれでお開きになった。


数日後。


サービスを利用した相談者から、丁重な御礼の連絡があった。


どういう理由かは分からないが、逆に今まで嫌がらせをしていたアカウントの個人情報がネット上に流出し、それを元に警察に被害届を出したとのことで、おひねりまでいただいてしまった。


誹謗中傷が原因でうつ病を患い、診断書も出たものの、相手の素性が分からないためにどうしようも無かったところに今回の件が起こったため、被害届を出すことができたのだと、たいそう感謝された。


コミッションサイトの最低価格である千円ぽっきりのサービスで、ここまで喜んで貰えたら悪くない。


それからというもの、【HALの悩み相談】は幸運を呼ぶとの口コミが広がって大人気になった。聞き役に徹しながら、あまりにも悪質な相談については、相談者には内緒で元凶に呪いを還している。


本当は、呪い還しなど無用なほうがいい。それでも、今の世の中の現状が変わらない限り、泣く人は減らないし、呪い還しでしか状況が変わらない事も多いだろう。


匿名でも、実名でも、振る舞いにはご用心。

匿名だからと好き放題していると、呪いを還されるかもしれませんよ。

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