8:商機ですわ!
「と言うわけでカレリアに到着&仕事完了ですわ~~~!!!」
「テンション高いねぇ。」
「そりゃそうですわ! なんてったって金が手に入りましたもの!」
最近編み出したらしい“友人”モードのジェーンにそう返します。
というわけでやって来たのが異世界版カレーこと『カレリア』。ワタクシたちの目的地であり、この辺りで一番栄えている港町になっております。いや~、いいですわね! この人が行き交う発展度合い! それ以外の理由もありますが、眺めてるだけで楽しく成って来ちゃいます!
まぁ前世での名前を思い浮かべると、どうしても食べ物の方のカレーが過るので滅茶苦茶お腹空くんですけどね? ……どこかでスパイスとか売ってないかしら。
(ま、この子は違うみたいですけど。)
そんなことを考えながら、私の後ろを歩いている彼女に少しだけ視線を送ります。
傍から見れば、“設定通り”の始めてくる大都市に大はしゃぎな単なるお上り冒険者なのですが……。
なんかコイツ、めっちゃ警戒してるんですのよね。
町に入る前から四方八方を気にしてるというか、普段通りの演技をしながら意識だけ他のことに集中させているというか、それこそ襲撃者への警戒を強め腰に差している短剣をいつでも抜けるようにしているというか……。何かあったのでしょうか?
(もう完全にただのメイドではありませんわねぇ。)
一応ワタクシも周囲を探ってみましたが、特に気に成る気配も魔力も無し。特に問題ない様に思えるので彼女の杞憂だとは思うんですが、どうなんでしょうね? ……え、なんで気配が解るのかって? そりゃお国で暗殺されまくったからですわ! 超慣れてますのよ!
いやぁ、懐かしいですわねぇ。ベットで寝てたら天井裏から奇襲してきた時はマジでビビりましたわ! 思わず両手でペっちゃんこにしてしまいましたもの!
「慌てて駆け込んできた母上がマジで引いてたのを思い出すと笑えますわねぇ。『私の胎から本当にお前が出て来たのか不安になって来た』って戸惑ってましたし。」
「あぁ、あれ。陛下が何日か思い悩んでたっていう……。って何の話!?」
「こっちの話ですわ!」
そんな感じで話をぶった切りながら、手元にある袋の中を覗き込みます。
そう、こちらは即席のお財布。
中に入っているのは……、とっても素敵な銀と銅のコインたち!
そう、ワタクシのテンションがアゲアゲな最大の理由! 昨日から今日に掛けて行った依頼の報酬金です! 大半が魔物の巣をぶっ壊した時に手に入れた討伐証明部位からの換金にはなりますが、ようやく纏まったお金が手に入りましたわ~!!!
(ふふ! いいですわねこの“重さ”!)
これでもワタクシは王女にて次期女王。直轄領の運営を手伝ったことも勿論ございますし、今後のため母国の硬貨。それも金貨レベルを大量に転がしてきたことはございます。
けれど自分で労働して手に入れたお金というのはこれが初めて! 無論前世を考えれば十数年ぶりのサラリーではあるのですが、こんな“重い”コインを手渡しされたのはこれが初! 紙幣というちゃちなものとは全く違う金属の重み!
そりゃ思い入れもテンションも跳ね上がるってもんですわ!
……あ、ちなみに明細ですが。
街道の定期パトロールで銅貨が30枚、手紙の配達で銅貨20枚。ゴブリンとかオークとかちょっと数が多すぎてちゃんと覚えてない魔物沢山で銀貨3枚と銅貨82枚。どうやら百進法を採用してようでしたので、合わせて銀貨4枚と銅貨32枚の収益となっております!
(ちょっと銀より銅の割合が多いのが気に成りますが、十分ですわ~!)
んで、ジェーンから聞き出した大体の相場を聞く限り、大き目のパン1個で銅貨1枚。ちょっと発展具合などに差があり過ぎるので正確な換算には成らないのですが、パン1個100円換算で考えると……。
締めて43,200円の収益って感じになります。……日給で危険手当ついてたらまぁこんな感じでしょうか? 途中から数えるの辞めたので覚えてないんですけど、百体ぐらい魔物吹き飛ばしてましたよね? ワタクシからすれば日々の気軽な運動程度でしたけれど、庶民の方々が同じように出来るとはそう思いません。オークとか常人の倍以上の膂力をお持ちのようですし。……もしかして冒険者ってお職業。割に合わない?
「そーだよ。そりゃアデみたいな化け物にとっては良いだろうけどね? お前は色々頭おかしいのよ。……にしても、その思考が出来るってことはようやく“常識”を解ってくれたか! ジェーンちゃんも“親友”として鼻が高いよ!」
「誰が化け物ですか!」
「魔力強化無しでオークに打ち勝つのはただの化け物では?」
ふ、ふんだ! お庶民の方々の鍛え方が足りないだけですわ!
ま、まぁ? ワタクシは貴族より上位の王族。ノブレスオブリージュの体現者にしてお庶民の皆様の守護者たる次期女王なのです。力が無ければ誰も守れない以上、逆に誉め言葉ですわ~~~!!!!!
……あ、でも。一応ワタクシもレディですので。化け物呼ばわりはちょっと。
「ご、ごめん。」
「い、いいんですのよ……。」
「……そ、それでさ! せっかくお金入ったんだし、お祝いにぱーっと行っちゃう? これから常設市場の方見に行こうって話だったけどさ! なんか美味しそうなもんでも買ってさ! 贅沢なお昼にしようよ!」
「う、うん。そうしましょうか。」
そんな言葉を交わしながら、二人で市場へと足を進めます。
冒険者登録し少しだけ働いてみましたが、想像以上に割のいい仕事ではなかったのは確かです。これがもっと上のランクの仕事だったり、より難しいお仕事であれば報酬金も上がってくるのでしょうが……。ワタクシの目標は冒険者として大成することではなく、金を稼ぐこと。
手っ取り早く“種銭”を作るのには向いているとは思いますが。これをメインに据えるわけにはいきません。
というわけで以前から考えていた“商人”としてのルートに舵を切っていくことになります。ま、冒険者としてのお仕事はついでで熟していく感じですわね!
(準備は十全、なにせ事前に調べて来ましたからね~。)
懐から取り出すのは、ジェーンがそこら辺で拾って来たらしい布の塊。そこには薄くですが、ナイフで文字が刻まれております。えぇそうです、昨日までいた都市である『ギネリア』の市場相場になっております。本人が希望したため一旦別行動とし、調べてきてもらった奴ですわね。
これとこの町の相場を比べ、ある程度の予想を付ける。そしてその後は最低限の金を残して品を買いあさり、ギネリアかそれ以外の都市で売りさばく。道中の間で魔物を見つければ殲滅し、より金を稼いでいく。
(ま、これの繰り返しですわね。)
ちょーっと地味な作業になるでしょうが、大きく動き出せるだけのお金が溜まるまで仕方のないことでしょう。それに、回数を増やせば増やすほどに生み出せるお金の数が増えていきます。どのスピードをどれだけ早く出来るのは、ワタクシの腕の見せ所。
「さ、気合入れて取引ですわ~!!!」
◇◆◇◆◇
と、気合を入れたのは良かったのですが……。
「ん~、こんなものなのかしら。」
「あれ? どったのアデ。」
まぁそんな感じで市場探索中。
現状流れの冒険者でしかないワタクシの対外的な信用度は0に等しいレベル。故にどんな相手でも必要な生活必需品や食料品あたりに目星をつけて回っていたのですが……、幾つか気に成ることが。
そう思い孤児らしき少年が売っていた木の板と黒鉛の棒を購入し、色々書き込んでいたのですが……。背後からジェーンの声。どうやら『ちょっとあっちの方見てくる』と言った彼女が帰ってきたようです。
「なんか小麦の値段が高いな、と思いまして。」
「そうなの? あんまり変わらない様な気がするんだけど……。」
そう言いながら、何処か汗の匂いがする彼女に板を手渡します。
……血の匂いとかしないので何も言いませんけど、隠すならもうちょっと上手くやりなさいな。なんか指摘して欲しくなさそうというか、関わってくれるな的なオーラが出てるので見逃してますが、そろそろ本気で突っ込みますわよ?
(はぁ、まぁいいですわ。)
思考を一旦止め、元の話題へ。
彼女が言う通り、確かにここで見られる小麦の値段は母国における一般的な値段と同じ価格です。というかむしろ少しだけ安いくらい。もしワタクシが軍の補給担当者などであれば、大量購入を検討するレベルです。
しかしながらソレは、『土壌があまり豊かではない島国』での話。
土地が広く豊かなため、島国よりも多くの生産量を誇るこの“大陸”という場所を考えれば、もう少し安くてもおかしくはありません。
「はえ~、そうなんだ。」
「となると、周囲も粗方物資不足でしょうねぇ? ふふ、お金の音がいたしますわ!」
「そうなの?」
「そうなの!」
小麦の値段が上がるということは、それすなわち“戦”があるということです。
今この大陸で何が起きているのかは解りませんが、大量の食料が必要となれば戦争以外そうないでしょう。飢饉などが起きていれば話は別ですが、島にいたころ大陸でそのようなことが起きていたとは耳に入ってきておりません。
となると今いる国で戦が起きているか、もしくは準備しているということ。長期保存できる食料系は大方値上がりしてるでしょうし、武器防具も同様。
「つまり!」
「……つまり?」
「商機到来、大チャンスですわ!」
戦争は、非常に大規模な消費を生み出す存在です。
何人もの人間が移動するため食料は必須ですし、勝利のためには装備を集めなければなりません。常日頃から国が準備していれば話は別でしょうが、この世界の発展レベルを考えればそのすべてを自前で用意しきれる国家はそういないでしょう。国が乱立してますし、その国も貴族の集合体みたいなものですからね。個々のパワーが弱いのです。
つまり……、外部の出番。商人の時間ってわけですわ!
彼らが持つ“伝手”と“信用”を全力で使用し、オーダーに応え金を巻き上げていく。彼らにとって戦は大稼ぎのチャンスであり、今現在西へ東へ走り回っていることでしょう! そして消費が跳ね上がった以上、各地で物資不足が引き起り相場が跳ね上がる。マジで金稼ぎのタイミングですわ~!!!
「はぇ~、あんま戦争とか好きじゃないんだけど、そういう考え方も出来るんだね。」
「ですわ!」
その考えは正しいでしょうが、今は別です。
ここは剣と魔法と血と策略の異世界! 言うこと聞かない奴全員叩きのめすまで真の安寧なんか訪れませんわ! 降参する奴は許してやってもいいですが、反乱したら即座に地獄送りにしてやるのがセオリー! 施政者たるものその辺りを上手く区切ってないとやっていけませんわ~!
ということでジェーン! 色々買い込んで売りに行きますわよ!
この商機は戦争が終わればすぐに消えます! 時間との勝負ですわ!
この港町で色々買い込んで離れた村か他の町で売る! そしてそこで買ったものを更に他の場所で売る! これを繰り返しながら、急いで次の目的地へと急ぎますわよ!
「あ、はい。……え、どこ行くんですか!?」
「決まっているでしょう! 戦場ですわ!!!!!」
戦場あるところにワタクシあり!
大商いの時間ですわよ~~~!!!!!
〇アデ様の母上
エンラード王国(アデ様の母国)の現女王。4女2男の母であり、国母でもある。対外的には穏健派寄りであり貴族との協調を主に考えながら政務を行っているが、アデ様同様「このクソ貴族たち邪魔だな」と常々思っている。本来なら自身の代で貴族の権利を制限しに行くつもりだったが、アデ様が幼少期から暴れ始めた結果方針転換。表向きにはアデ様の行動を諫めながら、裏から支援する形をとっていた。クーデターされなければ生前退位し、アデ様の即位に反対する貴族たちを一か所に集め一網打尽にするつもりだった模様。
また最初に生まれた子がアデ様だったため、『自分のせいであの子が色々変になってしまったのでは……?』とかなり思い悩んだ時期がある。寝室に忍び込んだ刺客を素手でミンチにする愛娘を自分が生んだことはしっかりと記憶に刻み込まれているため否定できず、なら親の私の方がおかしいのでは……? と思った故にである。なお他の子供たちはアデ様と比べるとかなり真面なため、ちょっと安心した。
誤字報告大変ありがとうございます。
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