7:移動ですわ!
「ということで皆殺しですわ~~~!!!!!」
「うわぁ……。」
ごきげんよう庶民の皆様! クーされて国から追い出されたアデライード・マティルド・ランカステルこと、ただの“アデ”ですわ! 現在冒険者として絶賛依頼中なのですのよ! 国を治める器たる者、お庶民のお仕事も万全に熟せなくては無作法というもの! 最速で完璧に熟している途中なのですわ~!
というわけで金吐き出せオラァ!!!
「あ、あのぅ。アデ様? さっきから使ってるそれは……」
「良いでしょう? お手製ですのよ!」
そう言いながら寄って来たオークを吹き飛ばすのは、ワタクシ手ずからDIYしたお手製のハンマーです! ほらこの前ゴブリンの巣でいい感じの長剣を手に入れたでしょ? それをそのまま使っても問題はなさそうだったのですが……。言ってしまえば『ゴブリンに負ける程度』の奴が持っていた持ち物です。質は最悪、手入れの跡はあっても店売りの最低品質と言ったレベルでございました。
ワタクシが実家で愛用していた剣ならまだしも、こんなものそのまま使い続けていれば血や脂でどんどんと切れ味が悪化してしまいます。鉄自体の品質も悪いので、刃こぼれも大量にすることでしょう。そうなればもう長剣ではなく、ただの鈍器です。
だったらもう使い方を変えた方が早いと思いまして……。
「鈍器に致しましたわ!」
「それで先端に岩ぶっさすのはアデ様だけでは?」
「効率上がったので文句は言わせませんわ~!!!」
そこらへんに落ちていた岩にぶっさし、縄で固定! 剣自体も拾ったものですので完全なる0円武器! もし岩部分がぶっ壊れても差し替えればヨシ! これこそ真のエコロジーですわ! 視界に入る敵全員ぶち殺しますわよ~!!!
「これでほんとに血の海作るからこの人怖いんだよな……。あ、アデ様~。魔物ぶっ壊すのは良いですけど、右耳だけは残しておいてくださいね。提出するんで。」
「心得てますわ!」
そう答え“作業”しながら、脳内で幾つかの物事を考え始めます。
先程言った通り、ワタクシたちは現在冒険者ギルドで受注した依頼を熟しています。ですがまぁ一つ一つ小分けに処理していくよりも、一気に幾つかを纏めてやった方が効率的だという話になりまして、今回は3つの依頼を同時に受け持った感じです。
『ギネリア⇔カレリア間の街道パトロール』
『カレリアへの配達』
『ギネリア北部での魔物生息域調査』
つまり
『町から町への道に危ない所ないか調べて!』
『手紙届けてね!』
『北の方ちょっと見てきて』
という奴です。ま、どれも失敗前提で沢山依頼が出てる奴なのでさらっと受注することが出来ました。パトロールは送った奴が帰って来なかったら危険、手紙は沢山用意してるから配達員が死んでもOK、北の調査もパトロール同様死んだら危険。うんうん、命が軽すぎて笑えますわね!
まぁワタクシの前では魔物の命が塵芥になるんですけども!!!
「街道進んだと思ったら急に北に逸れて魔物の巣を殲滅し始めるのは……、うん……。」
「何か文句でも?」
「ア、イヤ! ナンデモ! お、お金が沢山稼げていいですね! ハイ!!!」
でしょう?
あ、ちなみにカレリアって場所は史実における“カレー”ですわ。港町で、前世ではイギリスの所領になっていた所ですわね。ちなみに“ブリテン諸島”から海峡越しで一番近い大都市ですから、クーデターされる前は大陸侵攻時の初戦で落とす予定でした。
そんな場所に陸路で、しかもクーデターされた後に向かうというのはちょっと思うことがございますが、儘ならないのが人生というもの。どんな逆境であろうと活用して敵をブチ転がすのがワタクシです。ま! この辺りでは最大級の都市らしいですし? 港町ですので大量の物が集まる場所でもあるのです! 存分に活用させて頂きますわ!
(それに……、大陸から見た島。我らが母国の情報も流れているかもしれません。まだ本気であちらを探るつもりはありませんが、耳を傾ける価値はあるでしょう。)
マジでどうなってるんでしょうね~、実家。
一応我が家は歴史だけございますので、幾らクーデターされたとはいえ一気に全員斬首というルートは取れないはずです。それをなす権威も正統性もクーデター側にはございませんからね。
それにワタクシは普通に反抗する貴族をぶちのめす気でしたけど、現女王である母上は少なくとも『外には穏健派』として見せていたので槍玉に挙げられる可能性は少ないはず。弟妹もそんな感じでしたので、ワタクシを追い出してお終い! って感じなのかもしれません。
となると継承権第2位の弟を次期国王としながら、クーデターに参加した諸侯+サキュバスの寄り合いルートでしょうか? 君臨すれども統治せず、みたいな。……同じ話前もしましたっけ?
(まぁ何しようが全員ワタクシがぶっ殺すんですけど!)
そのためにはやはり、金。
兵を雇い維持し、食わせるだけのお金が要ります。今は冒険者に身を寄せていますが、これからどんどんと出世。影響力の拡大に勤めていくつもりです。それを考えれば、今向かっている“カレー”程よい都市はございません。
先程も言いましたが、この地域で一番発展している都市です。しかも港町ですから、船での大量輸送でコストを抑えた安めの品が大量に流れ込んできます。それを周辺にばら撒けばそれだけで金が転がり込んでくるでしょう。
(お商売するには最適の場所なのですわ!)
暴力という最高のストレス発散が出来る冒険者という職もいいですが、より効率的にお金を稼ぐにはやはり商売しかありません。
しかもこの世界は前世の史実よりも危険な世界です。なにせ魔物がそこら中に跋扈しておりますから、『輸送コスト』は各段に跳ね上がっております。通常の場合、商人の方々が護衛を雇って各地に運ぶわけですからその分の人件費がかさむわけですわね。
そんなところに? この高貴にて至上なワタクシが? 自分で物資を運んでしまえば?
輸送にかかるコストを実質0にすることが出来るのですわ!
「まぁ完全に0にはできませんが、かなりのコストダウンです! 人件費が必要なくなるのですから! その分他の商人様よりもお安く販売し、価格競争に勝利! 護衛に払う賃金が必要ないので、利益全部懐に入るってワケ! ぼろ儲けですわ~!!!」
「あ、あの。昨日もそれ聞きましたけど……、私の御賃金は?」
「うん? お荷物に払う金はないでしょう?」
「マジで見捨てて逃げていいですか?????」
おほほほ! ジョークですよジョーク。
ちゃんと衣食住面倒見てあげるので安心しやがれですわ~!
◇◆◇◆◇
(……結局賃金の話しなかったなコイツ。)
そんなことを考えながら、自身の主人の後ろを歩く。
口ではあんな風に言ったが、既に見捨てるなどというタイミングはとうの昔に過ぎてしまっている。今後どうなろうと自身はこの人の傍から離れることはないだろうし、幾重にも広がる選択肢の中に挙がることもないだろう。
顔すら知らない同期や先輩後輩たちはどうか知らないが、既に自身は仕える人を見つけている。数えきれないほどの恩があるというのも事実だが……、この人は未だ“勝ち馬”だからだ。
(普通、国から追い出されたら萎えるでしょ。それが何でよりやる気なってるんだこの人。)
自身が使える国。エンラード王国のランカステル王家しか自身は知らないが、王家の人間という者は生まれながらに恵まれている。
それ相応の責任を果たす必要はあるが、飢えに苦しむことも衣に困ることもない。更に多くの人間から“頂点”として崇め奉られるのだ。それゆえにと言うべきか、彼らの生き方は『王族』に適応していく。言い方を変えれば『王族』としか生きられない、となるだろうか。
(つまり急に城の外に放り出されれば何もできない愚物に早変わり。……この人みたいな例外を除いて。)
王女殿下とご学友たちの卒業記念パーティ。そこで行われた『追放宣言』と、会場に流れ込んでくる軍の人間。少し俯いていたがゆえに傍にいた私ぐらいしか見ていなかったと思うが……。
あの人はこれ以上面白いものがないかのように、“笑っていた”。
即座に周囲の兵たちを脱いだヒールで吹き飛ばし、他の護衛達と合流。すぐに脱出ルートを定め、全員で港まで移動。当初の予定では私以外の何人かが国外逃亡にご一緒する予定だったが、相手が騎馬兵まで持ち込んだため予定変更。他の護衛たちはその足止めに向かい、私達2人がこの地まで逃げ延びた。
……まぁ、ここまでは解る。死の危険を感じたが故の、火事場の馬鹿力。
凡庸な王族であればここで燃え尽きてもおかしくなかったが……。我が主であるアデライード第一王女殿下は、その笑みを一切緩めなかった。というか強めた。
(大陸の国のどこか乗っ取って逆に攻め入るとか頭おかしいんかこの人? なんか国にいたころよりウキウキしてるしさぁ! ……まぁそれだから付いて行ってる所あるけどさぁ。)
昔から色々とおかしな人だった。
急に王家の直轄領に赴いたと思えば、農民たちと一緒に農地を耕したり。錬金術なるただの詐欺師たちを城に招いてみれば、『空気からパンを作りますわ!』などと言い始め実験させ始めたり。大陸から火薬が流れてきた際は真っ先に飛びつき独占し、専用の生産工場を作ったり。
失敗したことも多かったが、それ以上の成果を上げ続けるのを隣で見てきた。どれだけ周囲に反対されようとも、好奇の目で見られようとも。『吠え面かかせて差し上げますわ~!』なんて言いながら私達の度肝を抜いてくる。
これほど面白い職場はない。
(だからこそ私を含めた多くがあの人が王となることを望んだし、一部の貴族が中央集権化なんていうものにも賛同した。主人が言うにはある程度の反乱は予見していたようだけれど……。せめて“あちら”に逃げられれば。)
自身は未だ“メイド”の身でしかないが、主人にはその他多くの直臣と呼ばれるような人間がいた。
その中で一番“逃亡先”として考えられたのが、殿下直属部隊の指揮を任されている男である。平時は国内有数の鉄鉱山とその周辺地域を統括する役人の一人だが、有事となればその町にいる全員が兵士と変わる殿下肝入りの拠点。
いまだ『小銃』なるものは開発されていないらしいが、幾門の大砲と大量の弩弓、そして鍛え上げられた騎馬戦力を保有する部隊。殿下が女王になった際に予見されていた大規模クーデターの鎮圧、その要として育成されていた彼ら。
(けれど“道”が無かった。)
鉄鉱山を拠点としているため、その地と王都は距離が離れている。
これまでは直轄領のいくつかと、とある王派公爵の領地を通ればそれで済んだのだが……。その“道”となる公爵の息子が反乱に組していたので、通行が不可。迂回しようにも確実に確保されるルートになってしまっていた。
(……あまり“彼”には聞かせたくないけど、殿下が“サキュバス”というあの娼婦のこともある。どこまでその手が伸びているか解らない以上、無理を押してそちらに逃げることも出来なくなった。)
まだ“彼”の忠義が殿下にあるならば、一時的に殿下直轄から王直轄に移行し、ことが起きた際はこちらに寝返る様に動いてくるだろう。もしくは島から大陸に向かって何かしらのコンタクトを起こしてくるだろうが……、後者でも一月ほどの期間を要すると考えられる。コトが起きるのはもっと後の話になるだろう。
……まぁ漂着からまだ3日と経っていないのに冒険者に成ってる我が主が色々と早すぎるというのもあるが。
(それよりも、“こっち”のことを何とかしないと不味い。)
殿下もなんとなく気が付いていらっしゃるだろうが……、この身は王家の闇に属する存在だ。
私は王家の最後の盾となる様に教育された身だが、人によっては暗殺潜入篭絡なんでもござれ。表向きには出来ない仕事も行う『王にしかその存在が明かされない』者たちが“闇”だ。現女王陛下がその予算を大幅に増やしてくださったこともあり、その影響下はあの島内部にとどまらず、大陸までその根を広げている。
王の傍に付きその身を最後まで守り、有事の際には目や耳となる。それゆえに王家への忠誠を常に問われ続け、少しでも異変があればたとえ子だろうとその首を刎ねねばならない。
ならなかったのだが……
(なんで長の息子で次期長な奴がクーデターに参加してるんですか???)
主人の言う、あの『追放』の場。
殿下やその他ご令嬢の皆様が男性方に裏切られておののいているのと同時に、自身も死ぬほど慌てていた。
離反を防ぎまたその働きに報いるため。また闇へと消える金の流れを隠すために私達闇の人間たちの長は、王から爵位を頂いていた。それゆえにと言うべきか、次期長であるあの人も表向きには貴族嫡子。その立場を利用してなのか、新しく出来た学園内部の調整などを目的に生徒として潜入していたはずなのだが……。
なんか普通にサキュバスに喰われてた。
もう終わりである。
しかもその場にいたはずの現長、彼の父が即座に処断してない時点で大問題である。我が子可愛さに躊躇ったのかもしれないが、現場で働いてる人間からすればもうマジヤベー状態である。
(あ、あの場で無理矢理サキュバスごと切り殺した方が……? いや兵士ども流れ込んできてたし、ヤれたとしてもその場で処断されるか。殿下じゃないんだし、私にそんなこと出来るわけない。)
まぁ早い話、今いるこの大陸に潜んでいる他の闇の者たちがどう出るかマジで解らないのだ。
上がやらかした以上、下が率先してその首を取りに行かなければならないのだが、もしかすると『計画的犯行』な可能性もある。トップが我が子ゆえに処断できなかったのではなく、王家の闇の一部が離反して起きた事件。もしそうだった場合、大陸にいる闇の人間たち。彼ら諜報員たちが襲い掛かってくるかもしれない。
昔の仲間が全員敵かもしれない、もう本当に最悪な状況なのだ。
(だから事前に確認して、離反者だったら殺して、ついでに他国の諜報員も殺して……。や、やることが多いッ!)
そんな中で殿下の傍付き、メイドとしての仕事もあるのである。もうマジで辛い。
しかも私って護衛専門の人間だから本職の奴らに勝てる気がしない。最悪情報を持ってかれた時点で終わるのになんでこっち私一人しかいないの? いや頑張ってやるけどさぁ……!
え? ならさっさと自分の所属明かして正式に時間もらった方がいいって?
いやこの人絶対首突っ込んでくるでしょ! アデライード様だぞ!? 『ジェーンだけに任せられませんわ! ノブレスオブリージュ! 王は最前線で蹂躙する者ですわよ~!』とか言い始めてもっとややこしいことになるわ! 他にも色々無理な理由あるし……!
(今向かってるカレリアは、この辺り最大の港町。その重要性からして絶対同業者はいる。母国の人間だけじゃなく、この国の防諜担当者も絶対いる。)
最悪、物言わぬ死体にして闇に葬るのは後でいい。私達に求められているのは、主人の安全とその目標達成のお手伝い。つまりやるのはただ一つ。
なんとしてでも、アデ様の身柄を隠さないといけない。
「……でもこの人大人しくしてくれないからなぁ。」
「ん? なんか言いましたかジェーン!」
「あ、いえ。何でもないです。あと目を離した隙に魔物の巣殲滅するの辞めてください。マジで血の海じゃねぇですか、純粋に怖い。」
「依頼ですし不可抗力ですわ~!!!」
〇ジェーンの言う“彼”
王女が誇る直臣集団の一人、将軍的立ち位置。
普段は国内有数の鉄鉱山。そこで働く役人の一人だが、有事になるとその町で一般人として生活していたほか兵士たちを集め即応する部隊の長。機動力と破壊力を重視しており、『竜騎兵ってどこが竜なんでしょうね?』とアデ様に突っ込まれた“騎乗しながら弩弓を振り回す”部隊も在籍している。鉄と火薬がいっぱいで強いぞ!!!
なおアデ様が『こいつワタクシ最強の懐刀ですけど、同時に弱点なんですわよね。ワタクシがサキュバスだったら真っ先に篭絡しますわ。忠義の人間であることは知ってるんですけどちょっと女性関連がだらしないですし、すぐ落ちそう。……あれ、不味いんじゃ?』と考えてしまったがゆえに、国内への逃亡を辞めて国外脱出になった要因の一人。
誤字報告大変ありがとうございます。
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