6:アレですわ!
「見た所初めてのようだが……、かなり暴れたな。」
「あら、悪くって?」
そんなわけで不届き者を処したワタクシたちが向かったのは、冒険者ギルドのカウンター。
時刻が昼過ぎと言うこともあってか、複数並んでいるカウンターの中でも開いているのは一つだけ。しかも受付嬢ならぬ受付おじさんが立っているのですが……。ま、仕事してくれれば文句は言いませんわ! こちらとしてはあのおバカさんたちが何かする前にそのご立派な筋肉を生かしてほしかったというところですけど! 給料泥棒ならおととい来やがれですわ~!!!
「よく言う。それで、お前さんが壊したテーブルの弁償だが……。」
「あら、聞いておりませんでした? 先ほどの方々がその行いを大いに悔いて、全額支払ってくださるそうですよ? とっても良き行いじゃないですこと?」
「……言葉を発せられる状況じゃないようだが?」
「顔が物語っていません? というか先に警告した以上、自己責任ですわ。」
そういうと、少し顎を引きながらも了承の意を示してくれるおじ様。
ま、ワタクシが警告していたのは事実ですからね。彼にも聞こえるよう宣言いたしましたので、こうなった以上敗者が全責任を負うものです。冒険者ギルドに来るのは初めてではありますが、荒くれ者の流儀と言うものは理解しておりますもの。弱者に発言権など欠片も存在しないのですわ~!
……まぁワタクシと破壊されたテーブルに座っていた他冒険者様。こちらの方々にお財布を“落とし物”として回収されてしまった以上、真面な弁償は出来そうにないですけどね。今後タダ働きさせられるか、色々はぎとられてバイバイされるか。おじ様としてもしっかり回収できるか解らない以上、カマかけて可能なら回収してしまえ、ってところなのでしょう。
「それで、そんな喋り方する“お方”がこんな錆びれた場所になんの御用で?」
「あ、すいません。その子ちょっと頭がおかしいというか、自分の世界で生きてる子でして。」
「……ジェーン?」
あの。ちょっと。
今ワタクシがこのおじ様と会話してるんですけど……。
え、面倒だから黙ってろ? あ、はい。
「その、まぁ。親がね、アレでして。そのせいで本人もちょっとアレに成っちゃって。アレがアレだったのがアレというか……。」
「アレか……。」
「アレって何なんですの!?」
いやワタクシの口調が変更不能なせいで『高貴な話し方する頭のおかしい子』って設定で行くのは理解してますけど! ワタクシから言い始めたことですけど! アレって何なんですかアレって! んでおじ様に伝わってるのは何なんですか!
あと二人して『どう足掻いても救えない可哀想な人』を見る様な眼でこっちを見るのはおよしになって!!!
「というわけでまぁコイツ能力だけはあるんで、連れ出して飯の種にでもしようかと。本人も乗り気みたいですし。ね、アデ?」
「だから何の話ですの!?」
「把握した。まぁどこでも同じようなものだが、働く気のある奴は大歓迎だ。名前は……、アデとジェーンだな。後はこっちで発行して来るからあそこの依頼票でも見てくるといい。さっきのを見て実力は解ったが、小刻みしていけよ。」
「はいはーい、んじゃアデ。見にいこっか。」
そう言い、私の首根っこを掴んで移動しようとするジェーン。
力量差的に、私が踏ん張ったら欠片も動かせない感じなのですが……。カウンターの向かいにいらっしゃるおじ様が『しっしっ』と手を払っておられます。え、何? 邪魔だからあっち行ってろ? し、失礼ですね貴方たち……!
わ、ワタクシが本気になればこのギルド全員叩き潰すことぐらい簡単に出来るんですのよ! 物理で! 物理で消し飛ばしますわよ!
「はいはい、出来ないこと言わない。……というか自分で動いて? 腕痛い。」
「鍛えてないからそうなるのですわッ!」
もうちょっと駄々をこねれば待遇が改善するかな、と思ったのですが……。ジェーンの腕が震え始め、同時に目がちょっとヤバくなってきたので仕方なく依頼票なるものが並ぶ場所へと移動を開始します。……吹き飛ばすぐらいならマジで出来るんですけどね?
そんなことを考えていると、視界に入るのは大きな看板のようなもの。よくよく眺めてみると、区分けされた場所にいくつもの紙が貼りつけられているのが解ります。
(え~と、はいはい。あ、成程。この紙持って行って受注するのですわね。)
どうやらかなりアナログな手法をお使いの様で、依頼主が作った紙きれをここに貼り付け、冒険者たちが毟り取りカウンターに持って行くのが“作法”のようです。
あと気に成るのは区分け、おそらくランク的な奴ですわね。鉄、銅、銀、金、白金と5段階で分けられている様です。これを見る限り鉄から始まって貢献度を上げていくと、どんどんランクが上がり難しい依頼を受けれるようになるのでしょう。
……相場は解りませんが、銅の依頼が一番いい感じですかね?
「だねー。数も多いし、実入りもよさそう。とりあえず直近の目標は昇格狙いで行く? お金貯めるなら上目指した方が良さそうだし。」
「でしょうね。あ、それと……。」
ほんの少し声を潜めながら、ちょっとだけ“お願い”をしておきます。
ワタクシが過去のトラウマから話し方を変えることが出来ない以上、『冒険者』としての活動において、対外的な交渉は全てジェーンの担当になるでしょう。先程ワタクシとおじ様の会話に入り込んだのを見る限り、彼女もそれを受け入れているように見受けられます。ならば現在ワタクシたちが抱えている懸念を、共有するのが最適というもの。
実はなのですが……。
(ワタクシたち、ここがどこなのかはっきり解ってないんですのよね。)
いやだって、ね? ワタクシたち国外逃亡からの漂流でしょう? 前世知識含めてこの辺りの地図は頭に入ってはいるんですけどね? 細かい所が全くわからないんですのよ。だって3回ぐらい転覆しましたし。
何れ攻め入る土地ではあるので、大陸側の海岸線近くにある大きめの都市と言われれば幾つか候補が上がるのですが、それをピンポイントで当てることは難しいのです。実はここに来るまで道行く人の会話へ耳を傾けていたのですが……。
(現実で『ここは○○の町だよ!』ってゲームみたいに言ってくれる人なんかいませんわよね。)
まぁというわけで、ジェーンにはこの町の名前と、追加で周辺地理の把握をお願いしておきます。今後の交渉事でぽろっとそういう情報を引き出せるかもしれませんからね。
というわけでお願いしますわ~!!!
「あ、うん。それは別にいいけど……。地図とかその辺に売ってない?」
「売ってるわけねぇですわ。アレ最重要戦略物資ですわよ?」
そりゃワタクシの城の部屋に色々散らばってたから貴女にとっては珍しくないでしょうが、マジで貴重品ですからね地図って。それ一枚で戦場を大きく左右するわけですから、そこら辺で売ってたらそこの領主の頭パンパカパーンですわよ?
「まぁ後、可能であれば簡単な商売にも手を出したいですからね。元手がないので今は無理ですが、近くの村の情報でもあればずっとやりやすくなります。そういう意味でも情報は欲しい所ですわ。」
「……ふ~ん、んじゃちょっと頑張ってみますか。……あ、あれ見てよアデ! ほらゴブリンの討伐依頼。鉄ランクで出てるじゃん。やっぱ回収しておけばよかったね~~!」
み、見ないようにしてたのに! わ、わざわざ指差して言わなくても解りますわッ! 昨日のやらかし弄らないでくださいましッ!!!
◇◆◇◆◇
「おいお前ら。出来た……、何してんだ?」
「いじってる。」
「いじられてますわ……。」
ねちねちと昨日のことを弄られていれば、カウンターから出てこちらに向かって来るおじ様が一人。どうやら先ほど言っていた“発行”。ギルド証のようなものを作って来てくださったのでしょう。
……というかジェーン! あなた弄り過ぎですわ! 縛り首にしますわよ!!!
「あはー! どうやっ……。あ、すいませんほんとごめんなさいユルシテ、クビシメナイデ! ソレタダノコウサツ!!!」
「……衛兵呼ぶか?」
「いらないですわ!!!」
「ならいい。ほれ、ギルド証だ。穴開けてあるから首にでも掛けとけ。」
そう言いながら投げ渡されるのは、2つの金属片。
先程までジェーンの首に当てて持ち上げていたお手手でそれを受け取ってみると、ギルドのマークが書かれた鉄片のご様子。裏に私達の名前と、発行したギルドの名前が書いてあるみたいですね。……あ、ここ『ギネリア冒険者ギルド』でしたか。
となると史実ではイギリス領だった“カレー”に近い町のようですね。漂流する時にちょっと逸れた感じか……。うんうん! 幸先いいですわね! ジェーンの仕事が減って、コイツが変に増長する可能性が減りました!
「か、仮にも“親友”の私にそんなこと言う? あとナチュラルに殺そうとしないで?」
「お荷物の間違いでは?」
「喧嘩なら余所でやれ。……話を戻すが、依頼表の方は見たな?」
国にいたころのようにじゃれ合っていると、本気で迷惑そうなおじ様が口を挟んできます。
まぁ城でも煩くて有名でしたからね、ワタクシたち。ジェーンが真面目にすれば問題ないんですけど、コイツすぐふざけるし主人けなしてくるから……。ま、締める時は締めてくれますし、ワタクシとしても四六時中メイドとして従われるのはしんどいものがあります。そう思うとコイツって結構得難い存在ですわね……。
っと失礼おじ様! それで依頼表で何か?
「あぁ入った奴全員に説明してるんだが……。ここに張り出されてる依頼をカウンターに持って行って、初めて受注になる。依頼によってはその時に渡す受注票が証明に成ったりするから、忘れないように。それと『恒常』ってやつは……。あぁそうだお前ら、読み書きできるか?」
「勿論ですわ!」
「一通りは。」
そういうと、ちょっとおじ様の顔に変化が。うんうん、これそろばん弾いてる奴ですわね。
この世界というか、前世もそうだったのですが……。中世における識字率と言うのはかなり低いものとなっております。教育を受ける場所が圧倒的に少なく、場所があったとしても授業料が払えない。そんな状況だからですわね。早い話、高等技術の一つなのです。
まぁワタクシは王女ですから自国の国以外にも幾つか習得してますし、ジェーンも“英語”と“フランス語”に当たるものは覚えてるはずです。というかワタクシたちが話してるのって母国の言葉じゃなくて、この国の言葉ですし。
「ならいい。んで恒常って書かれてる奴だが、コイツはカウンターで受注しなくても問題ない奴だ。基本的に魔物討伐の依頼で、領主が金出してる奴だからな。月ごとに払える額が決まってるんで早い者勝ちにはなるが……。力に自信があるなら受けるといい。」
「なるほどなるほど。」
「ま、どれ受けるかはお前さんたちの自由だ。こっちとしては書類仕事でも手伝ってもらいたいところだが……、好きにやれ。説明は以上だ。じゃあな。」
言うべきことは言い切った、という雰囲気を出しながらおじ様が帰っていきます。
……前世ならここから質問タイムとか入りそうなのですけれど、無い感じみたいですわね。やっぱ荒くれ者が集まる場所なだけあって、有無を言わさぬ迫力みたいなのが大事なんですかね? ワタクシみたいに駄々こねる奴を黙らすための覇気みたいな。まぁおじ様程度の膂力じゃ黙りませんけれども。
「いや黙ろ、そこは。ギルドに入った以上、上司みたいなもんだろうし。……んで、どうするのアデ。あの人が勧めてた書類仕事でもやってみる? 見た感じ結構実入り良さそうだけど。」
「ん~、少なくともワタクシはちょっと向いてないですわね。」
ジェーンが指差す方、ギルドが出しているのだろう依頼票の方を眺めながらそう口にします。
未だにちょっと金銭感覚がつかめていないので相場が解らないのは確かですが……。最下位の鉄ランクの仕事ながら、ひときわとびぬけた報酬をしているお仕事のようです。ですがまぁ、また問題がございまして……。
ほらワタクシ、王女でしょう? クーされて前に“元”が付きそうな超危険な状態ではありますが、高貴の生まれでしょう? つまり……。
「字がちょっと綺麗すぎるんですわよね。」
「……自慢してるの?」
「事実ですが?」
色々と好き勝手やらせて頂いていた王女時代でしたが、それでも手紙というのは沢山書いておりました。何せ真面な情報伝達手段がお手紙以外ないのがこの時代ですからね。配達人が道中魔物に喰われる可能性も考えて、大量にカキカキしなければならないのが基本ですから、それ相応に上達しています。
一応庶民の皆様の字も隣にお手本を置きながらであれば書けなくはないと思うのですが……。確実にどっかでポカすると思うんですのよね。
「量書かないといけませんから、他の作業しながら手紙書くってのに慣れちゃってるんですよね。確実にどっかで高貴な文字を書いちゃってバレますわ。」
「あ~。ギルドの書類だし、誰見てるか解らんからあんまり証拠残したくない感じか。」
「ですです。」
それに、こういう実入りがいいのって技能を必要とするだけじゃなく、情報保持の意味合いを兼ねてたりしますからね。ここで見た内容を外に漏らさないようにしてくださいとか正直面倒ですし、関わり過ぎると最悪この町から出られなくなるようなことも考えられます。
ワタクシの現目標は金ですが、最終目標は国を奪って母国に帰る事。その過程で邪魔になりそうなものには近づかない方がいいでしょう。
「ま、大体解りましたし。最初はぼちぼちやっていくとしましょうか。とりあえず……、コレとコレとコレ! さ、ジェーン! 早速仕事に向かいますわよ~~!!!!!」
〇アレ
『ほらお貴族様の一部ってそこら辺の村とかで“一服”することあるじゃないですか。一夜の過ちと言うか、そんな感じの奴。んでそこで生まれた子ってまぁ基本放置みたいなもんでしょ? でもこの子のお母さんその、行為後のトークを真面目に受け取っちゃったみたいでしてね? 迎えに来るみたいなの未だに信じちゃってるみたいなんですよ。そのせいでまぁこの子もマジで受け取っちゃって、話し方とか親に強制されて、自分もそう思いこんじゃって……。まぁ“種”が“種”なんで魔法とかもね、使えるのが後押ししちゃって……。話せる奴ではあるんですけど、まぁ死ぬほど村で浮いてたんで。私外に出たかったのもあって連れて来た感じなんすよ。一緒に冒険者やろー、的な。だからまぁあんまりコイツのこと刺激しない感じで頼みます。基本私が応対するんで必要以上に触れない感じで。申し訳ないけど色々お願いしますね。』
誤字報告大変ありがとうございます。
感想、評価、お気に入り登録。どうかよろしくお願いいたします。




