5:絡まれましたわ!
と、まぁそんなわけで町の中に入ったわけですが……。
(入場料を取られなかったということは……、これ服変えて正解でしたわね。)
先程ワタクシたちが通過したのが、関所。防壁に囲まれたこの都市に設置された出入り口の一つです。ジェーンが白服で入った場所とはまた違う所から侵入いたしましたので、特に止められることなくスルッと入らせて頂いたのですが……。
金をとらなかったという1点だけでも、見えるものがございます。
「教育が行き届いているようで何より、ってやつですわね!」
「そうなの?」
「そうなの!」
“友人”であるせいかため口で話しかけてくるジェーンにそう返しながら、軽く説明してあげます。
前世読んだ小説でもよくありましたが、こういう大きな町の出入りにはお金が必要なことがございます。町の領主がそれを資金源にしていたり、税金代わりにしていたりと色々あるわけですね。ただこういうのって『門番が独自に徴収している』っていうのもありまして……。
「金を取らないということは、上がそこまで金に飢えていないということ。そして門番が要求してこないということは、教育。もっと言えば“監視”の目が行き届いているということ。つまり何かやらかせば普通に上へと報告が行く、ってやつですわね。」
「はえー。……じゃああの白服も報告とか上がってるのかな。」
「不審者情報として共有はされてるかもですわね。」
「めっちゃ嫌。」
解る。
まぁ単に門番さんが善人な可能性とか、人の行き来ではなく馬車の積み荷とかに入場料を払わせてるとか。考えられるのはいくらでもあります。そのため別に着替えなくてよかった、という可能性もあるのですが……。それでやらかしてしまえば大問題です。
なのでまぁその場で出来る限りのことをして、それが終わった後は過去のことなんか忘れて今を見ましょう、ってことで! 気にした方が負けですわ~! ……え、お前が着せたんだろって? わ、ワタクシってクーデター起こされる程度の王女ですから昔のことなんか覚えてないですわ!!!
(……あ、想像以上に自虐が辛い。ほ、他の事考えましょ。)
そんなワタクシたちの現在の服装ですが、パンツスタイルのよくある村人風衣装に、革の胸防具を付けた感じのなんちゃって冒険者風なものになっております。
武器はワタクシが長剣で、ジェーンが短剣複数。荷物は大きな袋に全部突っ込んでワタクシが担いでる、って感じですわね。最初はジェーンに持たせようとしたのですが、すぐに『重くて運べません~!』みたいなふざけた泣き声言い出したので代わりに、ってわけです。……主人に荷物持ちさせるメイドって何なんですの?
(にしても、視線が1つ2つ。すぐに消えますが気にはなりますわね。)
これまでなら『暗殺か!?』となるのですが、今日は別。普通にワタクシが変な格好してるからです。ほら、髪を隠すために布で纏めるって言ってたでしょう? 結構伸ばしてたせいで頭部だけ異様に膨らんでるんですよね。ターバンみたいな感じに。
そのせいか感じる視線はねちっこいものでなく、少々の驚きを宿したもの。けれどそんな視線もすぐに他へと向けられていたので……、特に大きな問題ではないみたいですね。
ま! 町の中でも武器と防具持ってるのって冒険者か兵士ぐらいですからね! 統一性が無くて、ちょっと変な格好をしている大きな荷物持ち。そんなの確実に冒険者です。そして荒くれもの集団である冒険者ならば、ファッションセンスはぶっ飛んでてもおかしくない。おそらくこの膨らんだ頭もその一つだと見られたのでしょうね~。
「多分そんな感じ。“ウチ”でも変な髪色に染めてる人いたし、こっちもそうなんでしょ。……私としては、隣を歩く人の気持ちも考えてほしいんだけど。やっぱ切ろ? マジで。」
「やだ! でも“あっち”がそんな感じだったとは知りませんでしたわね。もうちょっと地元の視察増やした方が良かったかしら。」
そうなんですよね。ワタクシ実は、王都のことあんまりよく知らないというか……。
一応王女ですので数字上の事柄は諳んじれる程には把握しています。しかしながらあまり王都に降り立ったり、お忍びで遊びに行ったりと言うのはしませんでしたので、よく解らないことが多いんですの。というか今いる『ある程度発展した町』というのにもあまり経験が無かったり……。
ほらワタクシの目標って『周辺国ぶっ潰して大陸も征服しちゃお♡』じゃないですか。その為にずっと富国強兵のこと考えてたんですよ。家族間の仲がいいことに、ワタクシ以外でも出来る政務は弟とか妹に任せて直轄領の農村で民と一緒に土を弄ったり、職人たちと一緒に武器を作ったり、兵士たちと一緒に野を走り回ったりしてたんですよ。
「それが駄目だったとは言いませんが、もうちょっと内側に目を向けても良かったかもですね。なにせ基本的な物価すら把握出来ておりませんもの。小麦の相場は解るのに、町売りのパン相場が解りませんわ!」
「歪ぅ。まぁその辺りは仕方ないんじゃないの? 時間には限りあるわけだし。……私としては“トップ”が土いじりとか頭大丈夫? って感じだけど!」
「あら、そちらの頭を“大丈夫”にしてやりましょうか?」
「ボウリョクハンタイ!」
いつも思いますけどその奇声なんですの?
まぁそんな話をしながら歩いていると、見えてくる特異なマーク。大きな盾を背に2本の剣が掲げられた、冒険者組合の印です。今回の目的地ですわね。
何をするにもお金が必要。世の中色々な稼ぎ方がありますが、やっぱり無資格から始められる冒険者が一番やりやすいんですの。強ささえあれば何とかなりますし、魔物討伐から護衛まで選り取り見取り。ジェーンはまだしもワタクシはどっちも出来ますし、手っ取り早く稼ぐのには最適。半ば犯罪者の荒くれものだらけと聞きますし、身元の確認も要りませんからね。
相場がどれほどなのかは解りませんが、冒険者だけで生計を立てている方も結構いるそうですし、食うに困ることはないでしょう。
(……そう言えば冒険者ギルドって、色々“お約束”がありますよね。)
ギルドに登録しに行ったとき、ガラの悪い方々に絡まれてしまう。
正直今のワタクシは金以外興味ありませんが……。ちょっと楽しみですわね! ほらいまのワタクシたちって女2人組でしょう? 確かに魔法の存在によって男女の差があまりないこの世界ではありますが、それは『貴族内』での話です!
無論、魔法は貴族の特権みたいなものですが一般人も使える方は使えます。ですがそういう方は冒険者などには成らず、兵士だったりどこかのお抱えになるというもの。すなわち『冒険者ギルド』にたむろしているような崩れ者たちには『女の魔法使い』など想像の範疇にある存在です!
つまり確実に……、嘗めてかかってきます!!!
ほほ~! どんな感じでちょっかいかけてくるんでしょ! ワタクシ、気に成りますわ~!!!
◇◆◇◆◇
(う~ん、期待し過ぎましたかね?)
そんなわけで冒険者ギルドに来たのですが……。
ワタクシの目の前にあるのは、一本の足。
こちらを娼婦か何かと勘違い為されている殿方が伸ばしたものとなっております。あれですわね、好きな子に意地悪として進路妨害する小学生のノリですわ。
ありきたりと言えばそうなのですが、つまらなくて仕方がありません。もっとこう、嫌がらせにも雅さを取り入れていきませんと。急に和歌バトルを仕掛けてみたり、音速を超えた蹴鞠シュートを決めてみたり、琵琶掻き鳴らしながらパンクしてこないとコッチの調子が出ませんわ!
(周囲も止める気が無いようですし……。)
どうやらこのギルドは酒場を併設しているようで、真昼間からお酒を浴びている方々がいらっしゃります。ですが机の上を見る限り、質の悪い安酒ばかり。あまり稼いでる方はいらっしゃらないご様子。そしてワタクシの眼前で足を延ばす彼に対し、声をかける方も0。完全に見世物としているみたいですわね。
一応奥の方に受付、ギルドでの手続きをするカウンターの方があるみたいですが……。おじさまが一人突っ立っているだけで、介入する様子も無し。
……これ自分で何とかしろ、ってやつですの?
「どうする、アデ。」
「皆様ニヤついてますし、避けても無駄でしょうね。……ねぇそこの方? ワタクシここ通りたいの。どいてくださる?」
そう聞いてみますが……、反応は無し。というかその嫌ったらしい笑みを深めてます。彼と同じテーブルに座る他の方々もそんな感じですし、こりゃどうにもなりませんわね。
別に、コレぐらい1人でどうにかするのは可能なのですが……。
「ワタクシは、警告しましたよ?」
問いかけに帰って来たのは、ワタクシを馬鹿にするような口笛。
ほーん。
ならもう。
実力行使ですわ~~~!!!!!
「せいっ!」
「ぉ、がッ!?」
狙うのは伸びた膝部分。
即座に足で踏み抜き、響き渡るのは破裂音。断裂までは行かないが、確実にその足を破壊する。無論相手から苦悶の声が響こうとするが、堕ちた足と共に下がった顎には自身の拳が。
振り上げるのではなく押し上げる様にソレを叩き込み、宙に浮く彼。
それを見、ようやく仲間がやられたのを理解したのだろう。
彼と同じ机に座っていた者たちが急いで立ち上がろうとするが……、遅い。
自身に足を延ばしていた彼。ソレが先ほどまで掴んでいた酒の杯を掴み、投擲。一番近くにいた男の顔にアルコールごと叩き込む。そして驚いた隙に、一歩踏み込み拳を一閃。接触した瞬間にインパクトを合わせることで、その内部を確実に“揺らす”。
その動きの遅さ。そして“何が起きたのか理解できない表情”から、誰かに武を学んだ経験など彼らにはないのだろう。まぁ『寸勁』などという東の言葉は教えを受けた者でも早々知らないだろうが。
幾らお遊びだとはいえ、戦闘中に思考が逸れるのは好ましくない。
再度意識を整えながら、一呼吸。即座に周囲を再認識し終える。位置関係を確認した後は、完全に虚を突かれた眼前の男の腕を掴みそのまま投擲。こちらに向かって武器を抜こうとしていた男ごと隣のテーブルにまで吹き飛ばす。
次は……。
「ぁぐぉぉお! 指! 指が!!!」
「あら。やればできるじゃない、ジェーン。」
「付き合い長いし、コレぐらいはね。後1人ぐらいどうにかしないとお師さんに殺される。あの人マジでヤりにくるし……。」
振り返ってみれば、武器を奪われ指を折られた男が一人。その武器を彼女が持っていることから、一人でなんとかしたのだろう。
“動いている”ことは理解できたため心配はしていなかったが、十二分の出来だ。……確かに彼女の師に当たる城のメイド長でも、コレぐらいは簡単にするだろう。『お仕えする方の肉盾となるのが基本ですが、それでは1度しか守れません。ならば不届き者を制圧する術を身に着けるべし!』とよく口にしていたのがかの存在だ。その教えを受けていただろう彼女が出来ても、おかしくはない。
……疑問はまぁ、あるが。
「あ、それで後ろ……。」
そんなことを考えながら、裏拳。ジェーンが何か言うよりも先に、剣を抜いていた男の顔を拳で叩き壊す。
「なにか?」
「あ、うん。なんでもないです。はい。」
なら良かった。
……全員倒しましたかね? うん! 状況終了ですわ!
いやはや! それにしてもすっきり爽快! やっぱり暴力は素晴らしいですわね! やはり最強の共通言語なだけありますわ! これ以上ないほどに“ご理解”いただけたでしょう! これでこの愚か者の殿方たちも懲りることですわね!
え? やり過ぎ? んなもん警告したので自己責任ですわ~!!!
あ、でも。最初の方の膝は完全に砕いちゃいましたし、ちょっと今の医療技術じゃ真面に歩けませんわね。……可哀想だしこっそり膝だけ魔法で直してあげるとしましょうか。それ以外は自然治癒で頑張ってくださいまし~!
とまぁそんな感じでちょっとだけ魔力を流してあげていると、違う机の方から声が。どうやら先ほど吹き飛ばした殿方がいるところのようですね。
「お、おい! 嬢ちゃん! お前のせいで机どころか酒まで吹き飛んじまったじゃねぇか! どうしてくれる!」
「ごめん遊ばせ! でもその机の残骸に“落とし物”が転がってませんこと? お支払いはそこから願いますわ~! あ、でもこの方の“落とし物”は拾っておきましょうか、迷惑料ですわ。」
ワタクシのパワーに恐れをなしたのでしょう。若干怯えながらそう声を上げる彼に、実演を持って答えを示してあげます。
あ、膝の彼のお財布は治療費ですから、正当なお支払いなので悪しからず。決してカツアゲではございませんわ~!!!
「さてジェーン! 道も空いたことですし、用事済ませに行きましょうか!」
「あ、うん。だね。……ねぇアデ。さっきのさ、魔力使った?」
「制圧ですか? 使ってませんよ?」
んなヒト数人無力化する程度で魔力なんて使うわけないじゃないですか~! 確かに身体強化すれば倍ぐらいに能力は向上しますけど、魔力消費結構するんですのよ? そりゃ王族たるワタクシほどになれば丸一日強化掛けてもバテませんけど、無限じゃないですもの! 使い分けぐらいいたしますわ~!
……というかジェーン。貴女も一応伯爵家の娘でしょう? いくら魔力無くても相手が『使ってるか否か』を判別できないのは不味いですわよ? え、そういう意味で聞いたんじゃない? あとそれぐらいなら私でも出来る? ……ならなんで聞いたんですの???
〇“落とし物”
誰が落としたのか解らない不思議なもの。布の袋となっており、振ると何故か金属がすり合うような音がする。とても不思議。なんか倒れてる人っぽい何かの懐を漁るとよく出てくる様子。拾えば拾うほどに自身のお財布の厚みが増えていくことが発見されているが、その原理はよく解っていない。
なおジェーンは素知らぬ顔で奪ったナイフを自分のものにした。それもどうやら“落とし物”だったらしい。何故そんなものが落ちていたのでしょう、魔訶不思議ですわ……!
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