2:殴殺ですわ!
「それで、これからどうするのですか?」
「……どうしましょう?」
「何も考えてなかったんですか!?!?!?」
焚き木を作り服と体を乾かしていると、ジェーンからそんな問いが。失礼ですわね、ちゃんと計画はありますわよ? まだ立ててないだけで。
ワタクシの最終目標は、この国。現在いるこの大陸にて勢力圏を確保し、我が祖国に凱旋することです。その凱旋時にクーデター起こしたおばかさんたちを血祭に上げるのは確定してますが、そのためには兵力が要ります。
この世界は異世界らしく魔法がありますが、たった一人で一軍を吹き飛ばせるような便利魔法はありません。そういうのはおとぎ話に出てくる魔王ぐらい、人間であるワタクシたちはせせこましく数を集めて攻め入る必要があるのです。
ま! 史実に比べてこの大陸かなり分裂してますし? 一国ぐらい乗っ取るぐらいなら多分いけますわ~!
「と、とりあえず国レベルの兵力を好きに動かせる力が欲しい、ってことですか?」
「ザッツライト! その通りですわ! 手っ取り早いのが国の乗っ取りってわけです!」
「…………どうやって?」
「さぁ?」
「は??????」
ま! その辺りは追々決めていきますわ!
何せワタクシの身分、そうそう明かすわけにはいきませんもの! ……え、何でかって?
そりゃ確実にお国に迷惑が掛かるんですよ。
現在我が国はクーデター起こされた直後。私が国外脱出した後にどうなったのかは未だ不明ですが、王派諸侯と軍が動いた以上、王都とその場にいた王族たちは全員確保されていることでしょう。それに対して諸侯たちがどう動いたのかもわかりませんが……、『周辺国からすれば』絶好の機会です。
中枢に問題が起きているのならば、攻め込む好機。
領地奪ってやろうってやつが大量に出てくるはずです。
(イギリスっぽい立地で、まだ島内統一が出来ていない我ら。“ウェールズ”の統合は御先祖がやってくれましたが、“スコットランド”とは敵対してますし、“アイルランド”は手付かず。そして大陸から攻め込んでくる他国もいるでしょう。)
島内部のことには現状どうにもなりませんが、国にいたころは統一できるように動いてはいました。防衛ラインの構築もしてましたし、クーされたという情報をあちらが手に入れたとしてもそうそう動けないはずではあるのですが……。海を挟んだ他国は別です。
いや何もしてないわけではないんですが、海挟んでるせいでちょっと手薄というか、クーで混乱してる時に攻められたらちょっとヤバいというか……。
ま、そんな時にワタクシが身分を明かしてしまい、我が国の現状が大陸国家にバレてしまうのは良くないってことですわね。いずれバレはするでしょうが、その時間を稼ぎ『大陸から海を越えて敵が攻めて来る』のを出来る限り送らせなければなりません。
「早い話、成り上がりってやつですわね。1から始めてやりますわ!」
「そ、そうですか。……これ見捨てて逃げた方がいい奴では?」
「殺しますわよ?」
「ヘゥッ!? イ、イッショウツイテイキマス……。」
よろしい! んじゃ身分隠していい感じに再出発するには……。
やっぱ冒険者ですかね?
アレ傭兵みたいなものですから身分なんて誰も気にしませんし、危険はあれど手っ取り早く“金”が手に入ります。何をするにもお金は大事ですからね。適当にギルドがある町にでも行って、さっさと登録しちまいましょう。
さ、善は急げですわ! 早速町に行きますわよ~!
「あ、あの。アデ様? そ、その服装で行動なさるので?」
「ん? 何かおかしいかしら?」
「色々と高貴すぎます、何処からどう見ても『いと尊き方が難破なされた』って感じです。あとドレスの意匠が我が国といいますか、ランカステル王家のものです。バレます。」
「……流れの旅人には?」
「見えません。」
そう言われ、自身の姿を見直してみると……。
海水にドボンした後に乾かしたとはいえ、その輝きを失っていないドレス。無駄に綺麗な装飾品。王家の紋章が入った首飾り。卒業式後の舞踏会用として着替えてたのでかなりガチの御姫様フォルム。
……確かにッ!
こ、困りましたわね……。そ、そうだジェーン! 貴女下着に金貨縫い付けてましたわよね! それでいい感じの服買って来なさい!
「アデ様が何かあった時にしておけって言ったんじゃないですか……。あと流れの旅人が金貨を持ってるなど考えられません。私の服装もメイド服ですし、『立場のある者が動いてる』のは確実にバレるかと。アデ様としては、そういう要素は出来る限り減らしたいんですよね?」
「えぇ! ……となると詰みましたわね。」
その町の門番や警邏が腐敗していれば話は別ですが……。
彼らが見つけた異変は、必ず上に上がってきます。他国の王家に連なる者がやって来たとなれば確実に大騒ぎですし、もし門番が紋章を理解せずとも見た目だけで『なんか偉そう』というのはバレてしまいます。メイドも同様でしょうし、“ワタクシ”ということは解らなくても“何かある”ことはバレます。
となればその地の領主に情報が行き、何かしらの調査を持ってさらに上へと通達。最悪ウチのクーデターがバレちゃって、国が動いちゃうって寸法です。これが嫌なので“何の背後もないまっさらな旅人”として再出発したかったのですが、そう上手くいかないようです。
……というかジェーンの金が使えないってことは、ワタクシたちって実質無一文ってこと?
「そうなりますね。体でも売ります?」
「……いつも思いますけど、貴女ワタクシに対して色々ヤバいですわよね。一回死にます?」
「アッ! モウシワケアリマセン……!」
この子一応、伯爵家の四女だったはずなのですけど。殺意向けた瞬間にビビる癖に、王族に売春の手段提示してくるってどういう神経してるんでしょ……。
まぁいいです。そういう堅苦しくないのが気に入って傍に置いてるわけですし。彼女なりのジョークとして処理しておくとしましょうか。……にしても、どうしましょう。このままじゃ冒険者になるどころか、野垂れ死に一直線ですわよ。手元にあるのは使えないものばかり。
何処かの町に旅人として入ってもおかしくない普通の服と、ある程度まとまった金貨以外のお金。
どこかにいい感じで落ちていれば……。
あ、そうだ。
「ジェーン! ほらワタクシの書類鞄取って! それに砂と岩! 詰めてくださいまし!」
◇◆◇◆◇
ワタクシの書類鞄は、ちょっとした特別製です。
この世界にはまだ『小銃』という存在は開発されていませんが、『魔法』という見方を変えれば火器よりも厄介な存在があります。つまり暗殺し放題な訳です。我が身は王女ですし、継承権も1位。王族内の仲は結構よかったので身内から殺される可能性は低かったのですが、それと関係なく“狙って来る”奴は何処にでもいました。
というわけでワタクシの身の回りには騎士や兵士が常にいましたし、国外脱出の際は命がけで殿を務めてくださいました。無論、ただのメイドであるジェーンもその限りではなく……。
(口と態度はアレですが、何かあった時に肉盾に成れる訓練は受けているそうです。そして持たせている書類鞄には鉄板入り。つまり盾として使うことが出来ます。)
入れてある書類が重要なものが多いため、丈夫に作ったと言えばそうなのですが……。早い話、現代でいうシークレットサービス。メイド兼SSの専用装備ってやつです。
そしてそんな便利な書類鞄に、砂と岩を詰め込んでみれば……。
「立派な鈍器ですわ~~~!!!!!」
「アギャ!?!?」
「……うわぁ、頭吹き飛ばしてる。」
ゴブリンの頭部ミンチ! いっちょアガリですわ~!!!
いやぁ、いいですわね! 今あるものを再活用し! “落ちてるもの”を拾う! これ以上ないエコロジーですわ! しかも近隣の魔物! ゴブリンの巣の殲滅までやってしまう! ノブレスオブリージュここに極まりですわ! 今年のノーベル平和賞はワタクシのものですわね~~~!!!
……そういえばノーベル様まだ生まれてませんわね。じゃあワタクシが作りますわ~!!!
「ほれ、もういっちょ!」
物資がないのなら、奪えばいいじゃない。
ということでワタクシたちは海岸から移動し、近くの森にやって来ました。いまだ人類が自然を開発しきっておらず、林や茂みはどこにでもあるというもの。そしてそんな場所には魔物が多く潜んでいるってわけです。
そして今回のターゲットであるゴブリンは、前世よく見た緑色の小鬼たち。一定の文化を持ち、人を攫って洞穴などに住処を作る魔物たちです。人が作った武器などを再利用したり、腰布程度ですが服を着る知性も持ち合わせています。
つまり、略奪相手としてはちょうどいいのですわ~!!!
「お、いい剣持ってますわね!」
「ギャ!?」
向かって来るのはまだ錆びていない長剣を持ったゴブリン。
彼らにとって繁殖相手である“人間の女”が無防備で住処にやってきたため捕まえようと思ったのでしょうが……、そうはいきません。
振るわれたソレを書類鞄で受け止め、弾く。そして浮き上がった敵の両腕に向けて振り回すのは単なる鈍器。衝撃と共に骨が砕ける快音が響き、彼の体勢が大きく崩れます。あとはその顎に向かって足を蹴り上げ頭と体をバイバイしてあげるだけですわ~!
ということで武器ゲット! でも取り回し悪いのでジェーンに渡しますわ! お荷物は荷物持ちが適当ですのよ~!!!
「お、お荷物って……。」
「戦えないでしょう? あ、あと足元に罠仕掛けられてますから、その剣で解除しておいてくださいまし。」
「うわほんとだ。」
洞穴の中からわらわらと出てくるゴブリンを叩きつけながら、お荷物にそう指示を出します。
ワタクシに殺される以外の役割が無い可哀想な小鬼たちですが、全く知能が無いわけではありません。毒や罠を使用することは留意する必要があるでしょう。実際ジェーンの足元にピンと張った縄がありましたし、気をつけることに越したことはないですわ!
(嗜みとして魔力による身体強化と、回復。そのほか色々修めてますけど、ジェーンは違いますからねぇ。)
彼女とワタクシ、今の手勢は2人しかいないのです。折角のマンパワーを半減させるほどワタクシはバカではありませんわ~! ってことです!
それでお荷物! 罠の解除は出来ましたか!? 出来てなかったらお荷物から役立たずにしますわよ!
「コレぐらいできますって……。うわ矢が出てきた。こわ。しかもなんか塗ってるし。」
「糞尿と毒草の合わせでしょうね! お手軽な奴ですわ!」
「なんでそんなこと知ってるんですか……」
コレぐらい“なろう”では基本ですわよ!
あと普通にこの世界って魔法使いが貴族なことが多いので、王や貴族が前線に立つのを求められるんですの! ノーモーションで数人吹き飛ばせるのは確実な強みですからね! 我が“貴族学園”でもそういうお勉強は必修授業にしてましたわ! でもまぁワタクシ女ですし? 次期女王ですし? そういうお勉強はしても触りだけで大丈夫なのはそうですが……。
(クーされる前の最終目標、大陸統一でしたからねぇ。)
折角女王になるのならそれぐらいしないとでしょう? この世界の人たちって領土欲ヤバいので、それなら先に滅ぼして全部貰っちゃおうってつもりだったんですの。まぁワタクシもかなり欲はあるのですが! だから大砲とか火薬とかいち早く持って来て生産させてましたし、弩弓の量産とか、小銃の開発とか。そういうのさせながら“卑劣”な作戦も幾つか……。
ま! そういうお勉強はしっかりしてましたわ!
……お! 弓矢使いのゴブリンまで出てきましたわね! んじゃ矢をキャッチしてそのまま投擲! ストライク! あとは近寄ってきた奴に鞄叩きつけて、中央抉り抜き! ん~! クーされたストレスが晴れていきますわァ! やっぱり暴力って素敵ですわね!
「ど、道理で……。そ、それでアデ様。魔力の方は大丈夫なのですか? 先ほどから身体強化をずっとしているようですが。」
「うん? してませんわよ?」
「え? ……ご、ゴブリン50匹ぐらい叩き潰してません?」
「よいしょッ! これで57ですわね。」
「あ、あの。ゴブリンって少なくとも人間と同じくらいの膂力と耐久力……。あ、いや。何でもないです。はい。」
〇この世界における強さ
魔法という理外の力は存在するが、大きく人の理を超えることは難しい。手から火や水を発することはできるが、他作品のように1発で数百人を吹き飛ばすといったことは不可能。熟達した魔法使いであっても十数人程度が限界。
そのせいか“火薬”の有用性はそこまで変化しておらず、大砲やその先にある銃という存在が現れれば猛威を振るう可能性が残っている。
無論、火薬と鉄。そしてその先の世界を知るアデ様も強く注目しており、国にいたころは独自で様々な兵器を開発していた。既に火薬の生産施設と大砲を運用する部隊。そして弩弓、開発に成功すれば小銃部隊となる兵士の育成を完了済。その他の兵科たち含め、指揮権を自分に集中させ一本化させていたため有事となれば即座に敵を蹂躙するはずだったのだが……。
なお兵士に裏切られないよう自分が率先して訓練に参加していたため、アデ様の能力はかなり高い。撲殺最高ですわ~!!!
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