19:ジェーンのあれこれ【幕間】
(昔の自分に言い聞かせても欠片も理解してくれないだろうが……。私の幼少期は、地獄そのものだった。)
エンラード王国。
大陸から海峡を隔てて浮かぶ島で成立した国家で、この諸島に存在する4つの国家の中で一番国土が大きな所。数百年前に一番の小国であったウェルディア王国の王位を奪い半ば統合している強国ではあるが、それはこの諸島内だけの格付け。大陸から見れば単なる小国の一つであり、2代前の国王が引き起こした失策から王権が低下。貴族の台頭を許すように成ってしまった国家でもある。
島の中では最強、けれどそれもいつ崩れてもおかしくはない。そんな国の西部に居を置く伯爵家に、私は生れ落ちた。
自身の主人とは違い、この身はただの凡人だ。赤子でしかない幼い時代の記憶など残っているはずもなく、当時の状況を詳しく知る手段は存在しないのだが……。人づてに聞いた話は、何処にでもある様な話。そして私にとっては随分と酷い状況だったことが伺えた。
(母体の仕事すら果たせない女。)
それが私に、下された評価。
何か障害を持って生れ落ちたわけではない。五体満足で母は自身のことを産み落としてくれ、その母も産後体を崩すことは無かった。一般的な家庭であれば何でもないこと。むしろ出産が死へと繋がる可能性がある時代を考えれば、喜ばしいことのはずだった。
けれど……。
先天的な才能によって決まる、魔力量。
私はそれが極端に少なかった。
両親から遺伝するはずのソレであるが、時たま父母の才能を大きく超える存在が生まれる様に、大きく下回る存在が生まれ出ることがある。それが、この私だった。魔力を生み出すと言われる心の臓に異常を持って生まれてしまい、魔力を持たずそのまま“人ではない”として処理されるよりは各段にマシな状況であったが……。当時の私は、ずいぶんと酷い状況に置かれていたらしい。
(魔力量が遺伝するのであれば、私の子の魔力量も少なくなる。努力で増やすことも出来るが、それも少量。つまり私に嫁の貰い手はおらず、貴族の女としての責務は果たせない。別の仕事を探そうにも、そもそも魔力が無ければどうにもならないものばかり。そして私は……、四女。上に多くのスペアがいた。)
もしこれが次女辺りであれば、血を絶やさないために残してもらうことが出来たかもしれない。もし上の兄姉たちが病などで死んでいれば、私を残す必要性があったかもしれない。けれど我が家は兄たちの数も多く、残しておく必要もなかった。
父は私に興味すら抱かず、母は優秀な兄姉たちを産んでいたがゆえに愛どころか母乳すらくれなかったと聞く。この身を哀れに思った乳母が糧を分けてくれたおかげで死ぬことは無かったが……。まぁどこにでもある様な話だ。特に両親に思うことはない。
(そして“いないもの”扱いされた私だが、父は良い“使い道”を考えていたらしい。)
母乳離れが出来るころ。確か1つか2つぐらいの時、私は売られることになった。
自身の今の所属である『王家の闇』に、だ。
表向きの窓口は王宮で働くメイドの募集で合ったそうだが、年齢を問わず赤子からも受け入れるという話を聞き、父は即決したそうだ。家に置いていてもコストがかかるだけであり、将来家に利益を生み出すとモ思えない。そんな穀潰しが王家に売れるのだ。合ってない様なものだが恩が売れるし、多少の金も手に入る。あの人は喜んでこの身を差し出したのだろう。
(その日から私は元の名前を失い、“ジェーン”になった。……まぁ元の名前なんか欠片も憶えてないからいいのだけれど。)
そこから先はずっと地獄のような時間だった。
私からすればその地獄が世界そのものだったがゆえに耐える以外の選択肢は無かったが、主人に外に連れ出された今は酷く異常なものに思えてしまう。まぁそれも仕方ないと言えばそうなのだが。
『王家の闇』はこの国の暗部、どんな手段を使っても情報を国へと持ち替える。自身がどんな末路を辿ろうとも国の為に死ぬ。王家の人間に危機が迫った際、相手がどんな存在であろうと、刺し違えようともそれを排除し安全を確保する。求められる事象は配属によって様々だが、主な業務はそれだ。
教育係の奴らからすれば、このどれか。もしくは全てを為せる人間を作らなければならない。私に課されたモノは、まぁ酷いものだった。自身が思い出せる最初の記憶が、教育係による拷問。情報を吐き出さないために課される訓練だったのを聞けば、その程度は理解してもらえるだろう。
(あの時の私は、色々と終わっていた。)
死ぬほどつらいが、私からすればそれしか知らない。魔力はないが食らいつけるだけの根性が評価されてしまったのだろう。日に日にその強度は強まって行ったが、それすら私からすれば当たり前。同じような常識を叩き込まれた同期にすら狂人扱いされ始めたころ……
(あの人が、現れた。)
そう。自身の主人である、アデライード様。
まだ小さかったあの人が……。
何故か訓練場の壁を突き破って、私達の目の前に現れたのだ。
そもそも私達の存在自体が公にはされていないものだ。その詳細も現国王しか知らず、構成員ですら制限されている情報も多い。無論自分たちの訓練施設も隠されていたのだが……。なんかあの人は壁を突き破って侵入してきた。まるで日課の散歩をするような面持ちで、石と鉄板で固められた壁を吹き飛ばして入り込んできたのである。
『お! なんか面白いことしてますわね! ワタクシも混ぜてくださいまし~!!!』
そしてあの人は、そう叫びながら私達に向かって殴りかかってきた。
『王家の闇』の最重要事項の一つに、王家の人間を守るというものがある。今の女王陛下が御兄弟全てを粛清されたおかげか、今の王族の数はかなり少ない。あの当時ですらも女王陛下と、その王配。そしてアデライード様とその弟君の四人だけだった。無論まだ訓練課程である私達も全員の顔は把握していたのだが……。
なんか護衛対象が急に現れて、ぶん殴って来たのである。
恐怖でしかない。
そしてあの人は。まだ体が成熟していない幼少期から……
『あ、アデライード様!?』
『よいしょぉ!!!』
『お、おがぁぁぁ!?!?!?!?!?!?』
滅茶苦茶強かった。
同期どころか先輩たち。訓練所にいた生徒全員が束になっても勝てない“教官”が、一撃で吹き飛ばされた。何が起きているのか理解できずに彼女は石壁に叩きつけられ、沈黙。何とか一命をとりとめたそうだが……。壁に大きく刻まれた真っ赤な文様と、周囲に撒き散らされた血。私たちは『死』という概念を思い知らされたのだった。
そこから先は、もう滅茶苦茶だった。
守るべき王族に手を出すわけにはいかないため、攻撃は不可能。けれど一番強いはずの教官が真っ先に殺されており(死んでない)、『次行きますわよ~!』と訓練を積んだはずの暗部ですら視認できない速度で移動しぶん殴って来る我らの主人。もう単なる恐怖でしかなかった。
忠義の為に死を受け入れるもの、何が起きているか状況を把握しようとするもの、迫りくる死にただ逃げ惑うもの。様々なものがいたのだが……。
『ッ!!!』
『お! 少しは骨のある奴がいるんですのね! そういうのは“好”ですわ!』
唯一私だけが、彼女に刃を向けた。
本来ならばその場で殺されてもおかしくない事項。仕える存在に歯向かうという愚考。今でも何故それを選択したのかはっきりと解っていないが……。私はただ目の前にいる“死”に歯向かおうとしてしまった。
まぁ無論あの邪知暴虐の化身にして世界に破滅を齎す覇王そのものに勝てるわけがなく、一瞬にして私も地面のシミになったのだが……。
その次に目を覚ました私は、何故かメイド服を着せされていた。
『……な、なんで。』
『アデライード様がお前を気に入った、とのことだ。女王陛下からも許可を得ている。まだ訓練課程は残っていたが、優秀なお前ならば側付きの業務を熟しながらでも出来るだろう。……同期どころかあの“場所”で一番の出世頭だぞ? せいぜい励め。』
真っ先に死んだと思った教官から教えられた、その後の事実。
何でもアデライード様は、日課の散歩という名目で王宮どころか王都からもよく飛び出しており、適当な魔物を肉塊にして帰って来ることが多いのだという。あの時もその延長線上で飛び出したそうなのだが……、偶々私達の訓練場を発見。見るからに怪しい場所で怪しい存在が一杯いると感じられた王女は、とりあえず全員気絶させて衛兵に付き出そうとしたそうな。
けれどそんな構成員の卵たちが衛兵に突き出されそうになった時、何とか暗部所属の護衛が到着。残された痕跡などから『これウチの組織じゃねぇかッ!』と気が付き、王女相手には『私が処理しておきますんで王宮に戻ってください。というか勝手に外出しないで……!』と懇願なされたとのこと。
まぁ後半の懇願は普通に無視されたそうだが、訓練所の件は内々に処理が完了。女王陛下直々にアデライード様に拳骨を落し、女王の指が粉砕骨折することで幕を閉じたそうな。
『まぁその際に“骨のある奴”の話をなさったそうでな。陛下も「暴れ馬を超えた化け桃を相手するにはそれぐらいガッツないと無理でしょ。あと手痛い。何アイツの頭。石頭超えて鉄か?」と仰ったそうだ。』
『……あの方ほんとに王女ですか?』
『不敬だぞ? 激しく同意するが。』
とまぁそんなわけで、私はあの方の側付きに成ることが出来たわけだ。
最初はまぁメイドとして、暗部で叩き込まれた通りの模範的なものを演じていたわけだが……。まぁあの人がそれに満足するはずもなく、すぐに素を出すことになってしまった。より正確に言えば付いて行くだけで命の危険性があり過ぎてもう素を出す以外にストレスの吐き出し方が無かった、という感じだが……。
『あ、あのすみません殿下。なんで私、首根っこつかまれてるんですか?』
『そりゃ今からドラゴンの巣に突っ込むからですわ!』
『……軍で相手しても負けるかもしれない相手に、ですか? こ、ここから5匹ぐらい見えますよ!?』
『民の生活を脅かす魔物ですからねぇ? 環境保護の観点から見れば保護すべきでしょうが、時代は弱肉強食! 成体も幼体も卵も全部ワタクシがぶっ壊してご機嫌な晩御飯に変えてやりますわ! というわけで突撃ィィィィ!!!!!』
『いやッ! いやッ! たしゅけてッ! タシュケテ! ウワーンッッ!!!!!』
7歳の誕生日にドラゴンの巣に突っ込んだ件はまだ恨んでますからね? いやあの卵は美味しかったですけど……。
◇◆◇◆◇
「いつも苦労を掛けるな、ジェーン。」
「い、いえ陛下! そんな! そんな、そんな……。」
「うん、遠慮しなくていいからな。本当に。」
確か私達が国から脱出する1年ほど前。
自身と主人であるアデライード様はこの国の頂点。ブランシュ女王陛下から茶会の誘いを受けていた。王家が所有する直轄領、その一つにある避暑地で開催されたソレは、公務で忙しい母娘が久しぶりに一緒の時間を過ごす大切なもの。流石にウチの主人も大人しく茶をしばくのだと思っていたが……。
早々に抜け出し、近くの庭園で土いじりを始めている。なんか視線を向ければ元気そうに大きく手を振って来るのは良いんですが、何してるんですかあの人?
「ジェーン。」
「いいのだ、ベス。事実だからな。……なんであんな子に成っちゃったんだろ?」
私を詰める様に口を開くベスさん。女王陛下の側付きにしてメイド長、更に『王家の闇』の上長でもある彼女に叱られ咄嗟に謝罪の言葉を口にしようとするが、陛下に止められてしまう。そしてその後に続く、女王ではなく母親の言葉。正直すごく同意したいのだが、仕える者としてそれは不可能。けれど私もベスさんも、良い感じの慰めの言葉が出てこない。
確かに私の主、アデライード様は王女であり、それに相応しい素質を持つ人ではあるのだが……。性格がもっとこう、ぶっ飛び過ぎている。あと暴力性が頭おかしい。
「なんかこう、こう、ね? 私も立場あるからさ、そう口に出来ないんだけどさ。……ジェーンちゃん、ウチの子がマジごめんね……。」
「い、いえそんな! た、確かに迷惑はすごく掛けられてますけど、色々救ってもらったのは確か……。あッ!!!」
「ジェーン……?」
「アデちゃん。貴女今度は何しでかしたの……。」
私のことを視線だけで殺しそうなレベルで睨んでくるベスさんに、頭を抱え始めた女王陛下。
アデ様の側付きになれて初めて知れたことだが、陛下も結構愉快な方というか、素は一般の方とそう変わらない様な性格をしていらっしゃる。問題児でしかない長女に頭を悩ませていること以外は、何処にでもいる母親だ。……ま、女王モードになった時との落差も激し過ぎてびっくりするんだけど。
……じゃないッ! 何かフォローの言葉ッ!!!
「い、いや! ほんとに救ってもらってるんで感謝してるんです! 勝手に絶望して勝手に諦めてた人間を引っ張り上げてくれましたし、何度か命も救ってもっらってます。……まぁあの人に為に肉壁になろうとしたら敵の後ろにアデ様がワープして、敵が爆散してるからなんですけどね。お陰様で人間ってすごく脆かったんだなぁって実感……。はッ!!!」
「ジェーンッ!!!」
「ウチの子がほんとごめん……!」
す、すいませんつい本音がッ!
そう謝るが、既に女王陛下は茶会用のテーブルに突っ伏しながら頭を抱えていらっしゃる。ついでにベスさんの目が『お前これ終わったら折檻な?』という感じに。ひ、ひぃぃん! す、救いは無いんですかッ! まぁ私の失言が悪いんですけどッ!!!
こ、これも全部アデライードってやつの仕業なんだ……! お願いだからもうちょっと大人しくしてッ!
「ま、まぁね? うん、悪い子じゃないから、ほんと。それはジェーンちゃんにも理解して貰えてると思うんだけど……。も、貰えてるよね?」
「は、はい! 勿論です!」
「ほんと?」
「……はい、私の大事な主人ですから。」
色々と恩があるのは確かだし、それが仕える理由にもなっている。けれどやはり……、どこか馬が合うというのも理由の一つだろう。正直あの人がいない生活なんて考えられないし、自身の大半はあの人に関わることで出来ている。今更主人を変えろともし陛下に言われても拒むだろうし、それが認められなければ自分の首くらいすぐにかっ切ってしまうぐらいだ。
何せ陛下がそう判断されたということは、あの方の側付きとして認められなかったということに他ならない。つまりあの人の真なる“お荷物”に成り下がってしまったということだ。よく言われじゃれ合いの一環としてお荷物と言う冗談を言われそれに反発しているが、真にそうなってしまった私に価値などない。この世に存在することすら申し訳ないと思うだろう。
まぁこの決意が色々物騒なのは理解しているので、良い感じに誤魔化すが。
「幸せ者ね、あの子も。勿体ないくらい。……支えてあげてね?」
「勿論です、陛下。」
「…………王としては申し分ない子なのだろうけど、ね。」
少し言いよどみながらも、言葉を紡いでいく陛下。それが王としての言葉なのか、母としての言葉なのかは私には理解できなかったが……。自身の長女、そして他の子供たちへの想いが感じられたのは確かだった。
現国王であられるブランシュ女王陛下は、『鮮血』の名で知られる方だ。白を連想させる名を冠しながらも血を異名を持つ理由はただ一つ、彼女が自身以外の王族全てを粛清しきったからだ。私も一応知識として知っているが、先代の陛下の統治。その後期はあまり良いものではなかったという。
「私の父も昔は悪い王ではなかった。貴族の対処に苦悩されていたけれど、決して愚かな人ではなかった。けれど末の子が生まれた時から……。相当可愛く映ったのでしょうね。」
先代陛下は当時指名されていた王子の継承権を取り上げ、末の息子に与えたのだという。まだ幼く将来が定まっていなかったが故の親心だったのだろうか。彼の心情を察することは出来ないが……、王宮は大いに荒れに荒れたという。
そもそも兄弟仲が悪かったらしく、家族の集まりすらなかった当時の王族。けれど長男である王子が次の王になることは誰もが理解していたし、その心に何を飼っていたとしても呑み込むことが出来ていた。けれどそれがひっくり返った瞬間、全ては無に帰してしまったのだ。
「そこから先は内戦。全員の王族が王位を目指した殺し合い。……ほんと、あの感触は消えそうにないわ。」
震える手を抑え込むように握り締めながら、そう零す陛下。
王家の恥になるとしてその多くは闇に葬られたそうだが、当時の王族が彼女一人。ブランシュ女王陛下だけになったことを考えると、結果は見えているだろう。彼女は一つのけじめとしてまだ幼かった末の弟を含むすべての親族を切り殺し、王座に座ることになった。その過程で幾らか貴族を消すことが出来たそうだが……、代わりに残ったのは勝ち馬に乗れる“賢しい”貴族だけ。
彼女は日々、その対処に追われているという。
「私と同じようにはなって欲しくない。だからこそあの子、アデライードが生まれた時は心底嬉しかった。あの子以上の存在が生まれるわけがない。私達ランカステルの最高傑作。この子に王位を継がせることが出来れば、少なくとも私の子の世代は身内で殺し合う必要性は無くなる。」
生まれながらに理解できる、異様なほどに多い魔力。
そして育つごとに示していく多彩な才。まるで“既に一度人生を過ごしている”かに思われる振る舞いに女王自身不安に思ったこともあったそうだが、その暴力性や奔放性を除けば善性を持つ彼女。これ以上の存在は生まれるわけがないと陛下は安心し、その後に生まれた弟妹達も『いやどう足掻いても無理だろ』と納得することができたという。
「……ブランシュ様と旦那様の教育のおかげかと。皆様アデライード様を頂点とした王家に何の疑問を抱いておりません。貴女様が求めていた王家の強い結束。それが今ここに在るのです。そう思い悩むことなど無いでしょうに。」
「ありがとう、ベス。……でもまぁ、私があの子達の未来。そしてアデちゃんの未来を決めてしまったようなものでしょう? 本人は乗り気みたいなのはまだ救いだけど、そもそも争わないでほしいってのもある意味私のエゴだし……。」
殆ど口を開かないベスさんがそう言い、陛下も言葉を返す。
私とアデ様同様、この二人も幼少期からずっと一緒にいる間柄だと聞く。私には踏み込めない話になって来たが……。その関係性に少し憧れる自分がいる。今後のことは誰も解らないというか、当時の私では急に現れたサキュバスたちにクーデターされるなんて微塵も考えていなかったので、ただのんびりと『こう成れれば良いなぁ』と考えていたのだが……。まぁ関係のない話だ。
「……ま、あの子達一緒にご飯食べれるくらい仲いいみたいだし、私の心配しすぎかもね。」
「そ、そうですよ陛下! 私もアデ様が楽しそうにフィリップ様、第一王子様の肩叩いてるのよく見ますよ!」
「あ、そうなの? なら大丈夫……。いやフィリップが大丈夫じゃないわね。あの子の肩、跡形もなく消し飛んでない? というか昨日体引きずってたのソレ? ちょ、ちょっとアデちゃんッ! こっち来なさいッ!」
「え? 何ですか母上。フィリップが何か言ってましたか?」
そう陛下が叫ぶと、すぐにこっちに飛んでくるアデ様。
多少声が聞こえていたようですぐに会話に入って来ますが……、今瞬間移動してませんでした? してましたよね? だから何なんですかその異様な身体能力はッ!
「貴女、あの子のこと虐めてないでしょうねッ! 体引きずってたわよ昨日!」
「あいつを? あはー! ナイナイ! あとぶっ叩いたとしてもすぐに治してるから問題ないですわ! 実質ノーダメージ! あと多分ソレ、アレですわよ? ほら昨日婚約者のセレスちゃん来てたでしょ。あの子達結構進んでるから……、まぁアイツも若いですからね! 男のサガですわ!!!」
「フィリップッ!!!!!」
再度頭を抱えられる女王陛下。
あ、あの。お疲れ様です、はい……。
「というか継承周りの話ですの? だったらマジで心配無用ですわ!」
アデ様が言うには、既に姉弟たちで話が付いているそうで……。
長男にして継承権2位のフィリップ殿下は婚約者のセレス様と仲良しできればそれでいいらしく、何処か小さな屋敷で一緒に暮らせればそれでいいという。まぁその内政能力はアデ様も認めるところであるそうで、彼の要求を確約する代わりに其方方面の仕事を任せることで決まっているそうな。
次の王女、次女マルグリット様は酷く穏やかな性格なため『わ、私がお姉様と戦って王位狙うかって!? む、無理です! それならいっそここで殺してください……!』と泣きながら懇願したそうで不参加。自身の母親が苦労していることからも王座に興味を抱いてないようで、その性格を生かした調整役で話が付いているそう。
更に三女のヘレン様はアデ様から偶に飛び出す『未来知識』なるモノの実現にしか興味が無い研究畑の人間であるため、争うどころか王位について情報を吐き出してもらわないと困るらしい。そして四女のカトリーヌ様は若干暴力性が垣間見えるが、アデ様がその万倍強いので姉妹なのに舎弟化してるので問題なし。
末の弟、次男のヘンリ―様とはまだ話が付いていないそうだが……。まだ彼は幼い上に、『お姉ちゃんだいすき! ずっと一緒!』状態なので現状なにか警戒することはないという。
「まぁワタクシのパワーの前では逆らう気すら起きない、ってやつですわね! みんな仲良しですわ~!!!」
「あ、うん。そうだね。……お前いつからやってたの?」
「フィリップ、弟生まれてからですわね。姉の責任として“逆らうな”を叩き込みました。」
「可哀想。……もっとアイツに優しくしてやろうか。まぁそれはそれとして婚前交渉はキレるが。」
「残当ですわね!」
〇アデ様の家族
・母:ブランシュ
みんなのママ。アデ様の母親らしく暴力性を持つが、家族思いの優しい人。貴族の横やりを喰らわないため、国をこれ以上荒らさないために親族全員を切り殺したことをずっと後悔しており、子供たちがそうならないように気を配っていたが……。アデ様もそれを把握していたので勝手に動いていた。多分アデ様のヤラカシに一番胃を痛めてる人。
サキュバスのクーに死ぬほどブチギレているが、国外脱出したアデが帰還して全員ぶち殺すんだろうなと確信しているので表向きは大人しくしている。クーデター制圧後はその功績を持って王位を譲る予定。
・長男:フィリップ
継承権2位。幼いころの教育係から『次の王座狙えるかも』みたいなことを吹き込まれたが、アデ様を見て無理だと本能で理解した。王への意欲は欠片もない。姉怖い。内政向きの性格と能力をしているためその辺りをアデ様に買われているのだが、本人は嫁さんと一緒に過ごせればいいだけの愛の人になっている。なお姉に鍛えられたので女性の扱いは上手い方。最近の悩みは婚約者のセレスと姉のアデライードが無駄に仲良くなり始めていること。姉怖い。
サキュバスのクーに『面倒ごと引き起こすなボケ!』とキレている。
・次女:マルグリット
継承権3位。ヤバい姉と打って変わってすごく大人しい妹。ランカステルの良心とされている。慈悲の人間。物腰も酷く柔らかくどんな相手の懐にも入り込める能力があるため外交向きではあるが、本人の気質が政治に向いていないため長姉から『偶に調停役やってくれればいいわよ~!』と言われている。自身の表情などを操ることも得意なため、それでよく姉と遊んでいた。次の王になることなど考えたこともないし、姉に勝てるわけないので、『それならいっそ今のうちに優しく殺してほしいです……!』とよく姉に言って『殺さないわよ!?』と返されている。姉妹間のよくあるやりとりで、お遊びの一つ。
サキュバスのクーに『まぁお姉様周りのこと気にしない人だから仕方ないのかも』と思いながらも静かにキレている。
・三女:ヘレン
継承権4位。ある意味こっちもヤバい奴。研究方面の才能と其方への興味しか持っていない妹。自身の姉であるアデライードを『叩けば新しい知識が出てくる本』のようにしか思っていない。王位など欠片も興味がなく、姉が即位すれば自身の研究に必要なものを用意してくれるのを理解しているので支持している感じ。家族の中で一番ドライかもしれない。
サキュバスのクーには欠片も興味がないが、自身の研究費が回ってこなくなるとキレて殺しに行く可能性が高い。
・四女:カトリーヌ
継承権5位。暴力性と上昇志向、自分が上に立たないと気が済まないタイプで一番王座争いに積極的なタイプになるかと思われたのだが……。アデ様が化け物過ぎたのでそんなことには成らなかった。生まれながらに暴力の化身であるアデ様がいたため、自分が王になるなど彼女も考えたことが無い。何をしてもアデ様が死ぬと思ってないし、火口に放り込んでも逆にパワーアップして帰って来ると思っている。その強さに憧れているので若干舎弟っぽくなっているのだが、実はアデ様は『もっと普通の姉妹らしくしましょうよ……』と思われている。
サキュバスのクーに勿論キレており、全員切り殺しに行こうとしたが長男のフィリップに止められ一応落ち着いた。『いや姉上絶対ヤバいもの引き連れて帰って来るからサンドバック残しておいた方がいいって! それにここで“動かない”方が国荒れないし……!』『確かに! 姉貴の為に残しておきます!』
・次男:ヘンリー
継承権6位。母親であるブランシュが過去のトラウマからあまり構ってもらえていない子。母の年齢的にこの子が最後になることからも、若干避けられてしまっている。まだ幼いため色々よく解っていないが、母親が仕事で忙しいことは理解しているし、姉兄たちが母の境遇を察して時間があれば遊んであげているため家族大好きっこ。その中でアデ様が一番荒っぽくて刺激的な遊び(高度異常たかいたかい、人間ジェットコースターなど)をしてくれるので、大好き。
サキュバスのクーのことはよく解らないが、長姉が早く帰ってきてほしいと思っている。
・父:ジョン
空気。良い父親だが、アデ様に『名前が不吉!』と言われ半年くらい落ち込んだ。おのれジョン失地王ッ!
サキュバスのクーに一番キレている。全然強くないのだが、放っておくとクーデターの参加者どころか様子見を決めている貴族すらも全員暗殺しに行きそうだったので家族全員に止められた。現在軟禁中。




