17:風呂ですわ!
「ふぅ、良い湯ですわね。やはり偶には入らないと心が休まりませんわ~」
「いや何やってんですかアンタ。」
あらジェーン。一緒に入る? あ、入らない。そりゃ残念。
まぁそんなこんなで戦闘の翌日。有言実行ということで現在ワタクシはお風呂を決めております。
いやマジでさっぱりしたかったんですの。久しぶりの全力戦闘でしたからかなり汗をかいてしまいましたし、敵を文字通り消し飛ばしていたので返り血で全身べとべとです。しかも最後の方に自分丸ごとキャンプファイヤーしちゃったので、そういうのが焼き付いてこべりついちゃったんです。
回復魔法で体は治せますが、そういう外部的な何かを落せるほど万能ではありません。定期的に水と布で洗ってはいましたが、国から逃げ出して既に2月近く経過しています。前世日本人だったせいで清潔感もそのままですから、マジでスッキリしたかったんですの。
「そういう話じゃないんですけど……。というかアデ様負傷中でしたよね? そういうの入っちゃだめだと思うんですけど。」
「治しましたよ? 問題ナッシング!」
「いや炭化してたのをどうや……。まっさらじゃん。」
煩いジェーンに見せてみれば、以前通りの白磁を思わせるワタクシの玉体。うんうん、気合入れて手入れしただけあって、最上を保っておりますわね! ぐっとッ!!!
……まぁ彼女の言う通り、ジャンを名乗るあの英雄級の相手をしたことでワタクシもかなりのダメージを受けてしまいました。半分以上というか、大体自傷ダメージのような気もしますが、色々と燃やし過ぎてお手手がまっくろくろすけに成っていたのは事実です。
ですがご存じの通り、ワタクシは火炎の使い手であると同時に回復魔法の使い手でもございます。戦闘後ずっと魔力を全身に巡らせ、身体強化に使っていたリソースも回復に回せばあら不思議。炭化しかけていた腕もベイビー並みのもちもちお肌に大復活! 保湿も完璧ですことよ~!!!
「欠損、というか切り落とされて消し飛ばされない限りは再生余裕ですわ!」
「……化け物通り越したナニカですね。まぁそんなヤバい奴の全力喰らって生き残ってる“ジャン”とかいうのもいるそうですけど。……後々障害になるのでは?」
「その時はその時でしょう。」
ジェーンもワタクシの野望は知るところ。現在の目標は国に帰り反乱キめやがったサキュバスとその下僕である下半身どもを断頭台に送る事ですが、元々の目標はこの世界における“ブリテン諸島”を統一し、大陸へと進出。確固たる大帝国を築くことです。現在分裂状態にある大陸、もとい“フランス”がまとまって殴りかかってきたら困るがゆえの先制攻撃的な意味合いもありますが、実態はそう変わりません。
まぁ早い話、現在この“フランス”に置いて一大勢力であるセヌリア王国。その国家に属する最強の個と呼べるかの存在を潰しておかなくてよかったのか、という事でしょう。
「ワタクシへの恨みで一杯って感じでしたし、もしかしたらもっと強く成って戻って来るかもしれません。まぁその時はお相手して差し上げますが……。アレもワタクシも単なる“人”でしかありません。潰す手段には事欠きませんわ。」
「…………人?????」
「そこで詰まられると困るんですけど。」
な、納得してないみたいですけど一応続けますわよ?
人である限り、睡眠と食事、この二つが無ければいずれ死にます。そのほかの物事は削っても耐えられるかもしれませんが、これだけは必要です。つまりかの国の田畑すべてに火を放ち、昼夜問わず延々と遠距離から大砲でハラスメントし続ければいずれ勝手に死んでくれるのが人なのです。確かにたった一人で戦場を変える力はあるのでしょうが、それは戦術的な話。もっと大きな枠組みである戦略で飼殺してやれば、どんな人間だろうと死ぬのですよ。
無いとは思いますが、ワタクシよりも強くなるのであれば別の手段を取るだけのこと。相手がマジでなんか急に出てきたサキュバスみたいなイレギュラーでない限り、後れを取ることはありません。『一度相対して理解した』相手であれば、出し抜かれることはないでしょう。
「そも、個々人の力に依存する国など遠からず滅びますわ。故にワタクシは国で“農民でも騎士を殺せる”火薬に重きを置いたわけですし。」
「……まぁ確かに、アデ様でも四方八方から大砲撃ち込まれれば死にますもんね。」
「頑張ればギリ耐えれますわよ?」
「そこは死んどけよ人としてッ!」
彼がワタクシが初めて見るレベルで頑丈な超優秀な玩具、であることは一切否定しませんし、それが生かす理由の大半であることも否定しませんが……。やろうと思えば排除できる手合い。ワタクシの趣味嗜好と、今後国が負担する費用。それを天秤にかけて前者の方に傾いたからこそ、生かしたって感じですわね~。
ま、これが慢心だったとしても、サキュバス同様正面からぶち殺すだけですわ! まだアイツは殺してませんけどね!
「……はぁ。まぁあの場に付いていけなかった私に意見できるわけないですし、アデ様がそれでいいなら構いません。出過ぎた真似をして申し訳ございませんでした。」
「いいのよ、諫言するのが直臣でしょう?」
最後の方の謝罪が死ぬほど投げ槍で一切謝意を感じさせないものでしたが、一応礼を言っておきます。……いつも思うけどこの子、口がヤバすぎますわよね。普通の王族だったら不敬罪が積み重なり過ぎてオーバーフロー引き起こしてますわよ。上限値飛び越えて逆に超礼儀正しい存在になる奴ですわ。
……ジェーンが礼儀正しい? 今世紀最大のジョークですわね! おほー!
「今めっちゃ罵倒された気が。……まぁとりあえずその辺りは良いです。んで話戻すんですけど、何で風呂入ってるんです? というかその風呂桶どこから?」
「なんか頼んだらくれました。」
「は???」
いや、ほら。昨日戦場から帰ったら大変だったでしょう?
ワタクシが大怪我してたせいで今世紀最大級に慌ててたジェーンが涙目で……「忘れろ」あ、はい。
まぁそんな感じで迎えてくれたのは良いですけど、皆さんすごく喜んでいたでしょう? 何せお味方が誰一人死なないどころか負傷すらせず、20000の大軍を追い返したのですから。更に8000もの損害を与え、なんか一番ヤバそうな英雄っぽい奴すらも打ち倒したのです。んもうお祭り騒ぎでした。
ジェーンやベルカちゃんを始めとしたウチの兵たちが“サクラ”してくれたおかげで、圧倒的強者にして化け物なワタクシへの恐怖は極限まで下がっており、この身へのイメージは『自分たちを守ってくれた英雄』という形に。そのおかげか大歓迎で迎えられ、そのまま飲めや歌えやの大騒ぎ。
まぁワタクシはまだ未成年なので飲んではいなかったのですが……
「その時にこの町で染物やってる方と仲良くなりましてね? お酌してあげるお礼にこのクソデカ桶を貰ったんですの。あとは自分で水運んで魔法で温めてドボーンって感じですわね。魔法があるので常に適応で最高ですわぁ~。」
「……王女が平民に手酌してるのってどうなんですか?」
「あら、ワタクシ気にしませんわよ? 酒の席ですし、無礼講ですわ!」
「後それぐらいメイドに指示してください。最近そういう仕事が一切なくて色々辛いんです。」
「そうなの? じゃぁ髪の手入れとか手伝ってくれる?」
そう言うと面倒くさそうな返事を返しながらも、ほんの少しだけ嬉しそうに口角を上げる彼女。ワタクシの髪を弄るため後ろに回ったので隠したつもりでしょうが、普通にお風呂の水面に写ってますわよ? ……まぁ素直じゃないところはおいておくとして、実際面倒ではあるんですのよね、この髪。
一本一本すべてに気を配り、長さを維持したワタクシの象徴とも呼べるもの。女の命みたいな所ですので、あの戦闘中も魔力を流し自爆の炎で燃えないようにしていたレベルで大事な存在ではあるのですが、やっぱり日々の手入れは面倒です。
以前『切った方が正体隠しやすいですよ?』と彼女に言われても拒否したことは一切後悔してませんが……。やっぱり手間。前世はそういうのを気にする暇すらなかったので短くそろえていたのですが、伸ばしてみるとやはりそれ相応の不便さが……。
「あ、そうだ。アデ様、この後はどうするんですか? 敵倒して功績上げたわけですけど、追撃とかしたり?」
「いえ? 後は待つだけですわ。それにこれ以上は調子に乗らせてしまいますもの。」
ワタクシが暴れに暴れたことにより、先の戦闘では勝利を得ることが出来ましたが……。これにより起きる問題が一つ二つ三つ……。
そもそもの話、戦争というものは“外政”の一手段でしかありません。そして政治が関わってくる以上、一発殴ってボコボコにしたから終わり、というわけにもいかないのです。こちらの中間目標が『国を乗っ取る』ことからも、より注意して動向を見極め対応していかなくて成りません。
確かにワタクシが参加したドンエーニュ王国は勝利したのは事実です。そしてこの地に集結していたのが王家メインの兵であり、ワタクシが王家に雇われていたことからその発言力。失いつつあった王の影響力を取り戻しつつあるのも同様です。
「けれど王の力が強く成り過ぎれば乗っ取る際の面倒が増えます。『今の王様アカンからアデライード様に王様やってもらおうぜ!』というのが最善ですからね。強すぎては駄目ですし、奪い取った後に他の貴族を抑えられないほどに弱くてもダメなのです。」
「……今がちょうどいい、と?」
「えぇ、そしてアチラ。今回の敵国であるセヌリア王国にとっても“これ以上”は威厳に関わるでしょう。」
かのジョンがいた軍。セヌリア王国が今回受けた被害は甚大です。20000のうち8000の兵を失い、統率していたであろう本陣すらワタクシに吹き飛ばされています。軍の脳にして骨格の指揮官を失い、肉である兵も4割失った。かなり不味い状況です。
けれど現状であれば……、ギリ許容できるレベル。
いえ正確に言うならば“利用できる”レベル、でしょうか。
「あの国家も王家の力が強いとはいえ、完全な中央集権にまでは手が届いていません。つまり余計で口うるさい貴族が大量にいるということ。流石に紋章までは把握出来ていませんので誰が王派貴族なのか、反対貴族なのかは解りませんでしたが……」
「すべての責任を押し付ける、と?」
「そゆこと。」
ワタクシの“グングニル”は、正直にいってこの世界でもかなり異質な技です。ワタクシ並みの魔力と、この時代では到達不可能なレベルの血液循環の知識、そしてそれに基づく魔力操作技術を持ってようやく到達できる技です。つまり誰から見ても未知の存在であり、予想外な被害だったわけです。
ここに目を付けることが出来れば、擦り付けるなどどうにでも出来てしまいます。つまり詳細が解らないのであればでっちあげてしまえばいいのです。
「王に反対する貴族が下手を打ったとか、王家に属する将軍の指示に従わず壊滅したとか。色々です。どこまで殺せたかは解りませんが、本陣が吹き飛んでいるのもプラスに働くでしょう。何せ“死人に口なし”ですから。」
「はぇ~。」
「ま、これ以上兵を殺されると流石に王の威信に傷がつきますのでマジでギリギリって感じですわね。あちらにとっては手痛い出費でしょうが、払うだけの甲斐性はあるでしょ。たぶん。」
「たぶんって……」
というわけでこれ以上自身が動くとマイナスになるわけです。
昨日の宴の最中にこの国の上層部。王家や各有力貴族に向けての早馬が多数出発していたのは確認していますし、いずれあちらから『此度の戦功に対する報酬』の話がやって来るでしょう。後はそれを受けて王都にお呼ばれし、爵位貰って『サキュバスぶっ殺して国取り戻し計画・第一段階』の終了、ってわけですわね!
「え、ということはドレスとか新調しないといけない奴ですよね? 国から逃げる時に着てたのはランカステル王家の紋章入ってますから着れませんし。」
「まぁそうなりますわね。挙げた戦功を考えると王本人が出てこないと不味い奴ですし、謁見とかはあると思いますわ。」
「……すいませんアデ様! ちょっと仕立て屋探して用意させて来るんで時間貰いますッ! ではッ!!!!!」
あ、ちょ、ま。まだ髪の手入れしてもらって! ……うわほんとに行っちゃったよ。え、どうしよ。コレ1人でやるの? えぇ、面倒。どうしよ……。し、しんどいし明日でもいいかな、うん。今日はお風呂に入ったからヨシ! で。
〇ドレス
未だ細かなところは決まっていないが、敗北必然の戦をひっくり返し敵に大打撃を与えているので爵位を手に入れるのは確実。ジェーンもそこは疑ってない。そして幾ら冒険者や傭兵に身を落したとしても、彼女からすれば自身の主人は王族。他の貴族との兼ね合いで派手過ぎると要らぬ諍いが起きる可能性があるため、見た目の格を落す必要は合っても……、決して周囲に嘗められるわけにはいかない。何せ元王族なわけだし。あと自分の主人がみすぼらしい恰好してるの嫌(ジェーン談)。
つまり中古のドレスを誰かから買って仕立て直すのは論外。今の流行に合わせながらも派手過ぎず主人に合う衣装を仕立てる必要がある。けれどこういうのは死ぬほど時間がかかるモノ。現代のウェディングドレスの話にはなるが、フルオーダーの場合半年近くの時間がかかるという。まだ中世レベルの技術しかないこの世界で、効率化された現代と同じレベルの速度が出せるわけもなく……。
『お針子さん搔き集めてッ! 早く! あとデザイン出来るのと今の流行解る人! と、とにかく人海戦術で何とかしないと! この国の王都まで大体往復20日ぐらい! そ、それまでに何とか仕立て上げないと恥! し、死ぬ気で! 死ぬ気でやらないとッ!!!』
『あ、あの。そんなにヤバいのならワタクシも手伝いましょうか? 針仕事できますし。』
『テメェは座ってろ! あと自分で髪の手入れしなさい! サボるな!!!』
『あ、うん。ごめん……』
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