1:国外脱出ですわ!
「いやぁ、潮風キツイですわね。マジで。」
「愚痴言ってないで漕いでくださいッ!」
あ、なんか見られてますわね。では作法として自己紹介をば……。
お初にお目にかかりますわ庶民ども! ワタクシの名前はアデライード!
アデライード・マティルド・ランカステルですわ!
気が付いたらなんか死んでて、異世界の王族として生を受けた者。所謂転生者ってやつですわよ! 何処の誰が何の意図でこちらを観測しているのかは知りませんが、見るなら事前に許可を取ってくださいまし! じゃないと縛り首ですわ~!
ほらジェーン! 貴女も何か言ってやりなさいっ!
「何をですか!? というか前! 前! 波来てる!」
「あらやだ。」
流石に2人乗りの小舟で海峡を渡るのは無謀でしたかね? 異世界版ドーバー海峡と言えど今は春ですし、この船でもいけると思ったのですが。しかしこれ以外の船はありませんでしたし……。
とと、自己紹介の続きでした。
先程述べたように、ワタクシは現在王族。めっちゃ偉い血筋です。前世はクソを煮詰めたような最悪の環境でしたが、今世はなんとランカステル王家の王女! しかも王位継承権1位の大当たりです! なんかどこからどう見てもイギリスっぽい島の生まれですが、異世界の王様に成れる権利を生まれながらに持ってたんですの!
まぁ女王である母上の様子見てると『王ってクソじゃね?』と常に思ってしまいますが、幼少期から滅茶苦茶いい生活を送らせて頂いておりました。
(何せ幼児の死亡率エグイですからねぇ。文明もまだまだですし。)
この世界は、剣と魔法のよくある異世界。魔物やダンジョンもある奴です。ですが文明の方が前世と比べお粗末でして……、最近ようやく火薬がこちらにやってきたぐらい。前世基準で考えると14世紀ぐらいのレベルです。そうなるとまぁ色々死にやすいよね、って言う。
けれどワタクシは王家の人間。衛生管理がクソ! な庶民の皆様に比べかなり整ってますし、食事も栄養価が高いものを頂いておりました。暗殺の危険は普通にありましたけど、魔物などの外敵に怯える必要はなし。だ~いぶいい暮らしをさせてもらってたんですよねぇ。
(でもワタクシ、根っこはお庶民なんですの。)
いい思いをさせて頂いていたのは事実なのですが、前世の記憶を継承しているワタクシからすればちょっと居心地が悪かったのも事実。なにせ赤ん坊のころからちやほやされまくるのです。転生者ということで幼き頃から色々と知識を持っていたのも理由の一つだったのでしょう。それはもう『神童』ともてはやされました。
何でもないただの人間ならばそこで天狗になっていたのでしょうが……。正直に言って滅茶苦茶居心地が悪かったです、はい。いやだってズルしてるようなものでしょう? 転生って。
(でもそこで終わるワタクシじゃないんですのよ!)
期待されてるのならそれに応える。ズルしてるなら最大限活用する。折角王族として高い金支払いながら育ててもらってるのです。恩は返すのが道理ですわ!
そう考えたワタクシは滅茶苦茶頑張りました。
魔法という存在があるせいか、男女による差があまりないのがこの世界です。女ながらに継承権1位ということもあって色々と自由に動けた私は、転生ものでお約束なよくある“なろう”をさせて頂いた、って感じですわね。
(まぁ素人の思いつきです。そこまで上手くは行きませんでしたが、一定の成果を得ることは出来ました。)
火薬を他諸国と比べ早めに取り入れたり、海軍の増強をしてみたり、周辺国を史実同様吸収できるように動いてみたり、貧弱な農地を改良するために頑張ったり。まぁ色々やってみました。その中でもワタクシ1押しの政策としましては……
王家の中央集権化。これに付きます。
我らが王国は比較的安定していましたが、貴族の権利が強めの国でした。まぁ周辺国も同じようなものなので別にいいんじゃないかと考えがちですが、『今後我が国が生き残る』ことを考えると、早めに直しておきたい点です。確かに女王の役は面倒そうですが、ワタクシ長女でしたし、貰えるものは大体貰っておく主義です。なら未来の為に投資しておくべきでしょう?
となれば、敵は先に排除すべき。
何か起こった際に貴族どもが『すいません今ウチ忙しいんで……』って拒否しやがる可能性があるわけですからね。しかもアイツらご先祖様に対して『俺ら税金払わないんで!』とか抜かしやがってそのままなのです。軍事的にも財政的にも早急に対処すべきものでした。
(母上こと女王陛下が後押ししてくださったこともあり、相続権の法案と併せて徐々に集権化。ワタクシが女王に即位する頃には完全な中央集権が完了するはずだったのですが……。)
うん、普通にクーデターされました。
クーですわよクー!
「しかも一番信用してた王派貴族と軍の離反ですものねぇ。」
「波! 波来てますッ! アデ様ッ!!!」
「ワタクシ個人に対するクーでしたから母上や弟妹に危害が加わることはないでしょうが……。確実に“お飾り”にされるでしょうね。となるとま~たクソ貴族の権利が増えやがりますことよ。マジおクソですわ!」
「沈むッ! 沈むって! あの波直撃したら死ぬッ!!!」
しかもクーの宣言場所が不味かったのです。
ワタクシの王国ね? 乙女ゲーみたいな“貴族学園”もやってましたの。というかワタクシの発案なんですけども。
早い話、江戸幕府の参勤交代制度を一部お借りした感じの奴です。貴族のお子様方を王都で教育させてもらう代わりに、人質にしちゃう感じのアレ。当時かなり反対されたのですが、王派閥の貴族と母上にヘルプしてもらってゴリ押し。何とか制定することが出来ました。
んでそこでは『王家に従うってマジかっこいいよね! 反抗するとかクソださ!』みたいな洗脳に近い教育を施し、『え、結婚相手決まってないの? んじゃ王家がいいの紹介してあげるよ! あぁもちろん、“解ってる”よね?』みたいなことをして地方の弱小貴族の囲い込みみたいのをしてたのです。
(んでまぁワタクシも学園に通える年齢になっちゃいましたから、『自分で建てたんだし行った方がいいだろ』ってことで入学。そのまま3年間通学し、昨日あった卒業式のパーティで……。)
なんか婚約者の野郎が全く知らん女にネトラレてたんですよね。はい。
いや寝てませんけども。
ついでに王派の有力諸侯の男子たちもネトラレてたんですよね。はい。
こちらで縁談整えたお嬢様方が絶句しておりましたし。
(ワタクシが顔を知らないということは、数が多すぎて把握できてない子爵か男爵家のご令嬢。そんな子がいつの間にか我が国の貴族+軍関係者の子を寝取ってるとか想定出来るわけありませんわ。しかもワタクシが作った学園で、クーされるとか。王家の面目が消し飛んでますわよ。)
……あの黒髪の娘。サキュバスだったりする?
いや王都自体に魔物避けの結界がありますし、入れないはず……。となると素? そっちの方が怖いですわね。
まぁそんなわけでクーデターことよくある『追放』を喰らいまして、ワタクシを確保するためか普通に兵士たちが流れ込んできたものですから即逃走。傍付きメイドのジェーンと一緒に王都を走り周り、港に到着。近くにいた漁師のおじ様に王家の紋章入りハンカチを投げ渡しながら徴収。このまま国に居続けてもいずれバレて捕まると悟った私は国外脱出をきめたのです。
ここは異世界なので名前は違うのですが……。『イギリスを出てドーバー海峡を横断しフランスに逃げますわよ!』ってやつです!
クーされてしまいましたが、ワタクシは栄えあるランカステル家の娘なのです! こんなところでは終われるワケがありません! 国外で力を溜めてあのクソ女を断頭台に送って差し上げますわ! それに、折角の機会なのです! 本当は即位した後に“フランス”を攻める予定でしたが、計画変更! こっちをワタクシの国にした後、勝利の凱旋として舞い戻ってやりますわ~~~!!!
「だからアデ様! 波来てますぅぅぅううううう!!!!!」
◇◆◇◆◇
「意外となんとかなりましたわね!」
「ゴほ! ゴほッ! し、死ぬ!」
まだ死んでませんわよ~。
というわけで海を越えて到着しました隣国! “フランス”の海岸線に初上陸ですわ!
前世史実ではここも“イギリス”の土地だったんですけども、異世界で何か変なことが起きたのか我が国の仮想敵国が治めている地域! まぁ魔法とか魔物とかいるし違いがあるのは仕方ないですわね、ということで即位後に攻め滅ぼしてやろうと思っていたのですが……。こんな形でやって来るなんて! 思いもよりませんでしたわ!
にしても、全然整備されてませんわねここ! 未開発なせいで不法侵入し放題ですわァ! ま、そのおかげで無事到着できたんですけども! おーほっほっ!
「ぶ、無事じゃないれす……!」
「まぁ3回くらい転覆しましたものね。」
普通にひっくり返って笑いそうになりましたわ!
ですが五体満足で到着できたのは事実! 無駄に頑丈な小舟に感謝ですわ! ……というかジェーン? いつまで水吐いてますの? 偉大な女王となるワタクシのメイドならばすぐ立ち直りなさいな! ほら背中さすってあげますから海水全部出しちゃいなさい!
「す、すみません……。そ、それでアデ様。何故海路を? 逃げるのなら国内でも良かったのでは……?」
「あれ、説明してませんでした?」
ジェーンのいう通り、逃げ延びる先として国内という考えも一応ありました。王都以外にも王家直轄領というのはありますし、何かあった際の避難場所というのもあります。しかし……
今回のクーは、王派貴族と軍によるクーです。『貴族学園の卒業式』という卒業生以外の大人、親である各有力諸侯が集まるパーティでの『追放宣言』です。何の権利があって次期女王であるワタクシを追放してるんだと小一時間問い詰めたいところではありますが、あの場に兵士。王家が抱える兵士たちが流れ込んできたこと自体が問題です。
(クーデターの賛同者があのサキュバスに下半身乗っ取られたポンどもと、軍の一部だったとしても。『王派貴族と軍が王に楯突いた』という事実は変わりません。)
諸侯の息子だとしても、その行動は 『貴族家全体の総意』と取られます。何せ末端の子息ではなく、直系で後継者筆頭達がクーしてますからね。“本意はどうであろうとも”やっちまったことは変わりません。たとえそれが人かサキュバスか怪しい意味わからん娘に操られていたとしても、です。
そしてコトが起きたのならば……、『現状』を上手く使おうとする者が出てくるでしょう。今頃国は真っ二つ、いやそれ以上に酷いことになっているかもしれません。
そんな中、このワタクシの身を何処かに預けるというのはリスクの高い選択です。
「直轄領に逃げても役人があの下半身どもの賛同者の可能性がありますし、その場で捕らえられる可能性があります。ワタクシの集権化計画は結構広く知れ渡ってましたし、どこで火種が燻ってるかマジで解りません。あとあのサキュバスが唐突過ぎて何処に手が伸びてるか解らん。」
「ほ、他の諸侯様はどうなのです、か?」
「もっと駄目ですわね。安全の引き換えとして権利奪ってきますわ。」
これは王派閥のみならず全ての貴族に言えることなのですが……。
ワタクシが掲げていた『中央集権化』、賛同している貴族もいるにはいましたが、諸手を挙げて喜んでいるのは王だけです。
だって貴族からすれば利権奪われるんですもの。嬉しいわけがありません。もしどこかの貴族の手を借りてクーデターを鎮圧し集権化が出来たとしても、手を貸した貴族だけは確実に『お礼、まだもらってないですよねぇ?』と言いながら要求してくるはずです。
周辺諸侯に自由に領土拡張戦争を仕掛けて良い権利とか、王への税を納めなくていい権利とか、今回のクーで首謀者になってる私の婚約者の後釜に入る権利とか、色々と。
本来ならばそういうクソ貴族どもをワタクシが即位した後に焚きつけて大規模反乱を引き起こさせ、纏まったところを一網打尽にするつもりだったんですけど……。その時に味方になる王派貴族とか、軍関係者がサキュバスにやられてる時点で結構終わってるんですのよね、現状。
だったらもう別の国で新勢力を打ち立てて、ぶん殴りに行った方が早いでしょう?
「ま、ワタクシがこの世に存在する限り、失敗などありえませんわ! ……でもちょっと寒いですわね。ジェーン、燃えるもの!」
「ありませんよそんなの……。」
そう声を上げてますが、ちょっと身震い。
何せ今の服装は舞踏会用のドレスで、海水塗れです。春先ではありますがこのままじゃ普通に風邪を引いてしまうでしょう。というわけで火種を要求してみたのですが、拒否られちゃいました。
……貴女に持たせた書類鞄の中に紙とか入ってませんでした?
「全部水没してますよぉ! というかこれ、何なんですか! 死んでも抱えてろって言われてたので何とか持ってきましたけど……。」
「今年の税金の資料とかそういうのですわね。」
若干涙目になりながら蓋を開ける彼女。色々と入用ですので、特注させた書類鞄ですが……、見事に水没しちゃってますね、これ。中身全部にじんで読めないじゃないですか。
……税の資料以外にも、私の所領の証明書とかも入ってたんですけど、多分言わない方がいいですわね。最悪ソレだけで城が買える奴ですし。
「書き直せばいいのでまぁ濡れてもいいですが……、これじゃぁ火種にも成りませんわね。とりあえず邪魔ですし海に捨てておきましょうか。」
「私命がけで運んでたんですけどッ!?」
「ワタクシ次期女王ですわよ? 反論は許しませんわ~!」
ということでジェーン? そこら辺の小枝とか集めなさいな。濡れてないの。着火自体は魔法でやってあげますから、それぐらい仕事しなさい。
……え? クーデターされたからもうワタクシは王女じゃない? ほ、ほーん。そ、そんなこと言うんですのねぇ? じゃあもう拳で力関係解らせてやるしか……。あ、仕事する? ソレは結構。ま、ワタクシについてくる限りいい汁吸わせてやりますから、今は我慢することですのよ~!
〇アデライード・マティルド・ランカステル
通称アデ様。前世日本からの転生者であり、先日追放された元王女。次期女王ではあった。
どこからどう見ても14世紀イングランドのような国で産まれたが、大陸側に領土を持っていないし王家も何か違う。何より魔法とか魔物とかいるので『地球によく似た異世界』判定をしている。そのため『異世界なら史実ぶっ壊す心配ないし暴れよ』とアクセル全開であり、幼少期から色々やりまくっている。そのせいか貴族からの好感度は低め。
マグナ・カルナに似た法案を破壊し中央集権化しようとしたところ、謎のサキュバスこと乙女ゲー逆ハーレム主人公みたいなやつが現れ、NTR(寝てない)。『追放宣言』され身柄を確保されそうになったので、逃げ出した。
領土欲はかなりあるようで『前世のこの時期のイギリスって大陸に領土持ってたはずなのに、この世界じゃ全くないんだな……。せや! ちょっと早めに大英帝国かしてやろ!』と前々から考えていた様子。適当な国を乗っ取って反乱首謀者を成敗しに出かける予定。
サキュバスとその取り巻き断頭台に送ってやりますわ~!!!
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