008:新たな臣下
008:新たな臣下
戸谷郡長が「ハイブリッドです!」と叫ぶ。
皇居から、あまり出た事が無い為臣殿下からしたら、聞き馴染みのない単語。
意味が分からず「ハイブリッド?」と首を傾げた。
まだ歳も若いし、国を回った事が無い殿下は知らないかと戸谷郡長は「説明します!」と言う。
「ハイブリッドとは文字通り、混ざり合った血種という意味です。第三次世界大戦時に海外から難民として入って来た者たちと、日本国の人間との間に生まれた子供や子孫の事を指す言葉です」
いわゆるところのハーフという言葉が無くなり、ハイブリッドという言葉に変わった。
しかしこの言葉は差別的な意味で使われる。
日本国民は日本という国は、第三次世界大戦が起きて難民がたくさん入って来た事で、国家体制が崩れたんじゃないかと考える人間がいた。
今でも差別する言葉として残っている。
殿下としては初めて聞く言葉と、合う人種なので少しの好奇心を抱きながら助けた少年の顔を見に行く。
「これがハイブリッド……確かに知ってる大和民族の顔立ちとは、少し異なってるように見えるな」
生まれて初めて見る外国の血が入った人間に、殿下は物珍しさに少し興味を惹かれる。
見せ物にされていると感じた少年は「ありがとうございます」と言って、この場から立ち去ろうとした。
しかし殿下は「ちょっと待て!」と腕を掴む。
いきなり腕を掴まれて呼び止められたので「な なんですか?」と怪訝そうな顔をして振り返る。
「いつもアイツらにやられてるのか?」
「はい……」
「どうしてやり返さない? このままやられっぱなしで、悔しくは無いのか?」
殿下には分からない。
どうしてやられたまま黙っているのか。
表情からして悔しいというのは分かっているので、ならばどうしてやり返さないのか。
それが殿下には分からない。
遥かに自分よりも恵まれている人間に、そんな事を言われた少年は「アンタに何が分かるんだ!」と叫ぶ。
「俺には母国なんて無いんだ……それに俺の祖先は、この国に対して取り返しのつかない事をした。そんな人間の子孫が、自由な生活なんてして良いわけが無いんだ………」
「そんな事は聞いてない、どうしてやりかえないんだと俺は聞いてるんだ」
「だ だから俺には、やり返す資格なんて……」
「じゃあこのままやられっぱなしの人生で文句は無いって事なんだな?」
少年の言い分を最後まで聞いてから、今度はこっちから捲し立てるように質問を続ける。
殿下の質問は、少年からしたら何を聞かれているのかが良く分からずにいた。
だって最初に答えた事に全てが詰まってると少年は思っていたからだ。
しかし殿下は、そんな風に思っていない。
それだけツラツラと述べた中に、なに1つとして少年の気持ちというのが入っていないのだ。
結論としてやり返す資格が無いと語った少年に対し、それならやられっぱなしの人生でも文句は言わないという事で合っているかと確認する。
だがそんなわけが無い。
少年は「そんなわけ無いだろ!」と答えた。
「どうしてだ? お前はやり返す資格が無いんだろ? 自分でそうやって言っていたろ」
「本心で思ってるわけ無いだろ!」
「じゃあ本心は、どう思ってるんだよ? 言ってみろよ」
「やり返してやりたいさ! やられた分以上の事を、アイツらにやってやりたいんだよ!」
ようやく少年の本心が聞けた。
殿下は少年の口から、やり返したいという言葉を聞きたかったのである。
それを聞いた殿下は、ニッと笑って頷いた。
「それだ! それが聞きたかったんだ!」
「え? ど どういう……」
「俺と一緒に、この国にやり返さないか?」
唐突な言葉に少年は黙ってしまう。
後ろで見ている戸谷郡長も少し眉を動かして、驚いているみたいだが「ゴホンッ!」と咳払いをして表情を戻す。
この人は何を言っているのだろうか。
少年の頭の中には、この言葉がリピートで流れる。
「お前は、ひとりぼっちなのか? 家族は?」
「居ません……少し前に亡くなりました」
「俺も同じだ! お前と同じように家族を失い、人を憎んでいる……同じ境遇なんだよ!」
「さっきから何を言って……」
この少年も殿下と同じように、少し前に家族を失って天涯孤独の身となっている。
その事と人を恨んでいるが合致していた。
殿下は少年と運命のようなものを感じ、自分のところにやって来ないかと誘っているのだ。
やはりそれでも少年は、頭が混乱して理解できない。
「だから! お前も俺と一緒に、人生をやり直さないかって言ってるんだ!」
「人生をやり直す……」
「ここからは行くのか行かないのか、それしか聞かないからな! さぁ俺の一緒に来るか?」
「あ あぁ……」
少年もどうしてかは分からない。
しかし目の前にいる自分よりも歳が下であろう少年に、とてつもなく惹かれている。
幼いにも関わらず、その全身からは覇気を感じさせる。
その目からは確固たる決意を感じた。
マイナスな事を考えようと思っても、この人の下で働けば自分は幸せになる……。
その確信を感じざるを得ない。
すると少年は地面に膝を着いて頭を下げる。
「どこのどなたかは存じ上げませんが、俺を下僕にして下さい! よろしくお願いします!」
「下僕? 下僕か……俺は、お前を下僕にしない!」
「え!? あ そうですよね……」
「お前、名前はなんて言うんだ?」
「え? 三須本 丈二です」
「そうか! なら丈二、俺の家臣になれ!」
殿下は下僕を拒否し、自分の家臣になるように言った。
断られた上で、さらに上の条件を出して貰った丈二は困惑しながら「え? え?」と言いながら頭を下げる。
言葉が見つからないが、とにかく嬉しい。
そんな丈二に殿下は近寄ると膝を曲げて肩に手を置く。
仏のような笑みを浮かべながら殿下は「これからよろしく頼むぞ」と優しく微笑んだ。
この言葉が嬉しくて丈二は「はは!」と答える。
「さぁもう行きましょう、ここに居ても追っ手が向かってくるだけですからね」
「あぁそうだな! 丈二、行くぞ!」
「はい! お供します!」
何とか丸く収まったと戸谷郡長は感じ、荷物を持つと殿下たちに先に進もうと優しく声をかける。
それもそうだと殿下は立ち上がった。
そして膝を着いている丈二に手を差し伸ばし、手を取って立たせるのである。
2人に新たな仲間を迎え、港に向けて出発した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
皇族が居なくなった皇居。
その玉座に正装へと着替えた春雷が、ゆっくりと歩きながら向かう。
そして「ふぅ……」と深呼吸をしてから腰を下ろす。
この時を待ち侘びていたかのように、しみじみした感じで浸っているのである。
そこに春雷の部下がやって来た。
「陛下っ! 健臣親王殿下からの使者です」
「そうか、通せ」
京都で謀反を起こしたはずの元皇帝陛下の弟・健臣親王殿下が使者を送って来た。
使者は玉座にやってくると、春雷に頭を深々と下げる。
「皇居の奪取、おめでとうございます! 殿下からの使者で参りました」
「わざわざ感謝する、それで殿下は何と?」
「余の為に、皇居を奪取してくれて感謝する。死者が戻り次第、余は上京する。それまで都の帝都の統治は、貴殿に任せる……との事です!」
どうやら健臣親王殿下と春雷は繋がっていたらしい。
自分では皇居を攻め落とすのは不可能だと思って、健臣親王殿下は春雷を使ったのだ。
上手く皇居を奪取したので、これから上京するという事を伝える為の伝令である。
それを聞いた春雷は、ニカッと笑う。
そして近くにいる兵士に「その者の首を刎ねよ」と指示を出したのである。
伝令兵は「え?」と困惑する。
その隙に伝令兵の首が刎ねられた。
玉座から立ち上がった春雷は、ゆっくりと転がっている首に向かって歩いていく。
そしてその首の髪の毛を鷲掴みにして持ち上げた。
「この首を健臣のところに送り返してやれ。ここからは俺たちの時代だ」
協力関係にあった春雷と健臣親王殿下は、ここに来て対立関係になった。




