004:脱出ルート
004:脱出ルート
為臣殿下は自分の部屋の前にいた戸谷郡長に、どうして助けになんて来たのかと聞く。
質問を受けた戸谷郡長は、キョトン顔をする。
そして口を大きく開いて「はははは!」と笑った。
どうして自分は笑われているのかと、為臣殿下は不思議そうに戸谷郡長を見つめる。
あまりにも異常な空間だ。
我に帰った戸谷郡長は、まだ少し笑っているが「す すみません」と言いながら息を整えようとする。
「それは現存している皇族の中で、殿下が皇位継承権が最も高いからにございます」
「やはり兄上たちは、お討死したのか?」
「はい、お三方とも皇族らしく素晴らしい最後でした」
「そうか……ならば残っているのは俺と陛下だけか」
助けに来た理由として戸谷郡長は、この大和帝国において為臣殿下が最も皇位継承権が高いからだという。
その理由に為臣殿下は「え?」と言ってから、直ぐに理解して兄たちが死んだ事を悟る。
3人は死んだが、3人とも素晴らしい最後だった。
そう戸谷郡長は為臣殿下に伝える。
3人が亡くなったとなると、残っているのは自分と皇帝陛下である父親だけかと悟った。
しかし戸谷郡長は「いえ」と首を横に振る。
「皇帝陛下は先ほど、王の間でご自害なされました」
「ち 父上まで!? そ そんな……もう俺しか生き残っていないのか?」
「正統な後継者は殿下しかおりません。なので私は殿下を、お救するためにやって参ったのです!」
皇帝陛下は少し前に王の間で、配下の中で信頼していた宰相や大臣たちと大勢で自害。
これで名実ともに正統な後継者は殿下だけ。
だから助けに来たと言うのだ。
「父上は、ご自身で自害なさったのだろ? 父上や兄上たちは、勇敢な死を遂げたというのに俺だけが、のうのうと来げるわけにはいかない! 最後の最後まで戦う!」
「確かに皆様は命懸けで戦って、お討死なさいました。その死は確かに無駄では無かったと思います……しかし! 今から殿下がやろうとしているのは、明らかなる無駄死に」
「お 俺の死は無駄死にだと!? 無礼な!」
父や兄たちが勇敢な死を遂げたのに、自分だけが生き残るわけにはいかないと主張する。
しかし戸谷郡長は、その考えを否定した。
これなら殿下がしようとしているのは、明らかなる無駄死にであると諭す。
この言い方に殿下は無礼であると叱責した。
叱責を受けた戸谷郡長は頭を下げて謝罪する。
「私の首を刎ねるのならば、お好きになさって下さい。しかしこれだけは皇族に関わる人間として言わせて頂きますが……殿下がなされようとしている勇敢なる死は、国民の意思を無視した独善的な我欲です!」
「独善的な我欲……」
「はい! 皇族である為臣殿下は、これから次期皇帝として大和帝国をあるべき姿に導く責任があります! それを放棄して死のうとするのならば、それを独善的な我欲以外に形容し難いと思います!」
為臣殿下の勇敢なる死を遂げたいというのは、国民たちの意思を無視した独善的な我欲である。
そう戸谷郡長は主張した。
このまま皇族の人間がいなくなれば、また大和帝国は戦乱の世になるかもしれない。
そうなれば最も困るのは国民だ。
導かなければいけない皇族が、勝手に死ぬ事は許されないと為臣殿下を必死に説得する。
「確かに戸谷郡長の言う通りだ、俺は勝手に死ぬ事が責任だと思っていた……しかし俺は帝国をあるべき方向に向かわせる事ができるだろうか」
「もちろん最初からは難しいでしょう。ですが我々が、側に立ち力不足かもしれませんがお手伝いさせて頂きます。いずれは、お一人で政をやって頂きますが」
「分かった! 俺を安全なところに避難させよ!」
「は! どうぞ、こちらに!」
戸谷郡長の言う通りであると為臣殿下は考えを改めた。
しかし自分なんかに国をまとめ上げる事はできるだろうかと自信は無かった。
もちろん最初から政をするのは難しいだろう。
慣れるまでは最初は横に立って、手取り足取り教えて差し上げると言うのである。
それなら安心だと為臣殿下は、10歳相応の笑みを浮かべて、戸谷郡長をも笑顔にした。
納得して貰ったところで、戸谷郡長が先導し脱出を試みる。
「それにしても、どうして地方郡長の戸谷が王宮内の脱出ルートを知っているんだ?」
「それは知事から聞かされていたんですよ、何かあったら陛下や殿下をお連れするようにと。こう見えて物覚えが良いんですよ!」
「その物覚えに助けられたんだから長所だろう!」
為臣殿下は地方郡長である戸谷郡長が、どうして王宮内の脱出ルートを知っているのか聞く。
どうやら何かあった時の為に、釧路県知事が戸谷郡長に覚えさせていたらしい。
コイツが悪い奴だったら困るが、それだけ信頼されていたという証だろう。
もうこうなったら戸谷郡長を信じるしかない。
色々とクネクネした道を走っている。
皇族である為臣殿下すらも知らない道を通っていて、本当に全てを覚えているのだと為臣殿下は思った。
ただ信じてついて行くだけだ。
逃げられるかもしれないという希望と、皇居内から聞こえてくる怒声という絶望。
それらが入り混じって為臣殿下の心情は複雑だ。
10歳が味わうには、あまりにもキツい。
「殿下、もう少しです! 頑張って下さい!」
「あぁ問題ない! このまま先導してくれ!」
為臣殿下を励ましながら進んでいき、遂に皇居の外に出る扉の前にやって来た。
「この扉の外に出れば、皇居から離れた場所に出れます。そこに馬を用意してありますので、それに乗って我が領地に隠れましょう!」
この扉を出れば馬を用意してあるので、それに乗って北上し戸谷郡長の領地に身を隠す。
外に出た後の流れを確認してから扉を開ける。
するとそこは皇居の近くにある神田神社の境内だった。
まさかこんなところに繋がっているとは、全くもって予想していなかった。
確かに馬が2頭用意してある。
「これに乗って、とりあえず郡山に向かいます! そこからさらに馬を乗り換えて一関を経由して、八戸から釧路県に向かう船に乗ります!」
「全て戸谷に任せる、頼むぞ!」
「は! お任せあれ!」
釧路県への経路を戸谷郡長は説明した。
経路に関しては、よく分かっていないので為臣殿下は全てを戸谷郡長に任せる。
次期皇帝である為臣殿下に任せると言われた戸谷郡長は、やり切ると意気込んでいる。
ここまで来たら、あとは逃げ切るだけだ。
その為に急いで為臣殿下を馬に乗せる。
日頃から馬に乗る訓練は皇族としてやっていたので、そこまで心配は無い。
陛下を馬に乗せた戸谷郡長は自分も馬に騎乗する。
そして郡山に向かって馬を走らせる。
「ここまで追っ手が迫ってなくて良かったですね!」
「さすがの春雷も、こんなところまで皇居と繋がってるって分からないだろ。脱出ルートがバレるまでは、俺たちの足取りはバレないはずだ」
「あの脱出ルートを知ってるのは、ごく僅かなので春雷殿は知らないかと。このまま急いで釧路県に行けば、捕まる前に姿を隠す事はできると思います!」
周りを見渡しながら、ここまで反乱軍の兵士たちがやって来なくて良かったと戸谷郡長は安堵した。
さすがに複雑な脱出ルートを把握してなければ、ここまで追っ手が来るのは難しいだろう。
このルートは陛下に忠誠を誓う人間しか知り得ない。
その為、春雷は知らないのだ。
慢心せず、どうにか郡山まで向かおうと為臣殿下はギュッと馬の手綱を掴むのである。
「殿下ぁ! ここに居られましたか、必死に探した甲斐があったというもの!」
そう聞き馴染みの声が聞こえて来た。
全身がゾッとしながら為臣殿下は、後ろを恐る恐る振り返ってみる。
そこには満面の笑みで刀を握る春雷中将の姿があった。
為臣殿下は思わず「うわぁああ!!!」と叫ぶ。




