003:謀反
003:謀反
為臣殿下は、いつものように「ふっ! ふっ!」と声を出しながら木刀を振っている。
この前の兵士との模擬戦から、さらに武士道への探究心に火が着いたようだ。
その目はキラキラと光を発している。
まさしく武道を極める為に生まれて来たような存在。
周囲も長男や次男・三男を差し置いて、為臣殿下が次期皇帝になる事を求め始めていた。
そんな最中、馬に乗った伝令兵が「急報! 急報!」と血相を変えながら皇居内に入って来た。
伝令兵の声が素振りをしている為臣殿下の耳にも入る。
どうしたのかと思った殿下は、気になったので木刀を置いてタオルを持ち体を拭きながら王の間に向かう。
すると騒がしさを聞きつけた文官や兵士たちも王の間の近くまでやって来ていた。
殿下の身長では部屋の中が見えない。
そこで近くにいる文官に「どうしたんだ?」と声をかけて聞くのである。
それに文官は「これはこれは」と頭を下げてから話す。
「どうやら鎮圧軍からの伝令兵らしく、血相を変えて来たので緊急事態が起きたのでは無いかとの事です」
「それは心配だな。だが総大将は、あの春蘭帝威大将軍なんだから心配ないだろう」
「確かに殿下のおっしゃる通りです」
京都府で挙兵した陛下の実弟であられる実清親王を、討伐する為に向かった軍の伝令兵。
かなり血相を変えていた事から周りの人間たちは、戦場で何かが起きたのでは無いかとザワザワしている。
しかし殿下からしたら、総大将は英雄と名高い春蘭帝威大将軍なんだから心配はいらないだろうと思っている。
王の間にやって来た伝令兵は、地面に片膝を着くと頭を下げて陛下に平伏する。
緊急の要件なんだろうと陛下は、急いで要件を伝えるように促す。
その間も伝令兵の額からは大量の汗が流れている。
明らかに尋常では無い。
陛下にも嫌な予感が走った。
「ご報告いたします! 春蘭帝威大将軍が率いる鎮圧軍は岡崎を抜け、熱田に入ろうとしたタイミングで、反乱軍の奇襲を受けました!」
「なに!? 奇襲を受けたじゃと?」
「はっ! 想定外の奇襲により軍は壊滅。それにより春蘭帝威大将軍並びに春洞大将軍、両名が……お討死したとの事です!」
「なっ!? 春蘭が討死したと!? そんなまさか……」
春蘭帝威大将軍の率いる軍は、途中で反乱軍の奇襲を受けて壊滅してしまった。
最後の最後まで春蘭帝威大将軍と、その息子・春洞大将軍は戦ったのだが……。
2人の死を聞いた陛下は、玉座から立ち上がる。
そして本当に死んだのかと確認を取り、それが事実であると知った陛下は、ドサッとまた玉座に座る。
座るというよりも腰が抜けたというのが正しいか。
さらに外で見ている文官や兵士たちも、そんな事があるのかと静まり返ってから、またザワザワし出す。
中には情報を、他の奴らにも共有しようと動き出した。
それを見た殿下は、走り出して動いた人間を捕まえる。
いきなり殿下に止められた人間は「ど どうして……」と困惑の表情を見せた。
「こんな事を応急内に広げればどうなる! 混乱を招くのは確実だろ! それだけじゃない、王宮外に漏れれば大和全土に混乱と不安が広がる……そうなったら、またこの大和の地で内乱が起こるぞ!」
殿下は10歳とは思えないロジックを話す。
確かに殿下の言う通りで、この事実が露見したら英雄を失った事による悲壮と混乱に飲み込まれる。
その隙に良からぬ事を考える人間だって現れるはず。
そうなれば長くに渡って行われていた内乱が、また始まる可能性が高い。
どうにか解決案を出すまで公表するべきでは無い。
納得した文官たちは、この場にいる人間たちに情報を流さないように釘を刺す。
これで良いだろうと殿下は思っていたが、ほんの少し油断した隙に新たな伝令兵がやって来る。
伝令兵は「急報! 急報!」とデジャヴかと思うくらいの感じで、王の間に入って来た。
殿下は「今度は何だ」と溜息を吐く。
スッと頭を下げてから伝令兵は「謀反です!」と結論から言って来たのである。
今度は謀反かと殿下や文官たちは驚く。
春蘭帝威大将軍の死を受け止められていない陛下は、何も言えなくなっている。
その為、伝令兵は伝えるだけ伝えるべく話し始める。
「三ツ矢 春雷陸軍中将が旧首相官邸跡地にて挙兵いたしました! その数3000です!」
謀反を起こした人物は、春蘭帝威大将軍の次男にして殿下の側近をしていた春雷陸軍中将だった。
しかも集めた兵士の数は3000人。
これは皇居の常時守備についている兵士は750人、緊急で集めたとしても1700人と倍近くの数がいる。
あまりにの戦力差に殿下すらも尻餅を着いて絶望する。
敵兵が向かって来る事への絶望ではなく、心配していた側近に裏切られたという絶望だ。
目の前が真っ暗になる。
しかし皇族が絶望して動けなくなったところで、全てが終わるわけでは無い。
代わりに陸軍の人間たちが軍を編成する。
向かって来る謀反軍を迎え撃つ準備をした。
それでも集まったのは1800人程度。
皇居での防衛戦になる。
まだ10歳と若い殿下は、自室で待機するように陛下の側近たちから言われた。
部屋の隅で体育座りをして縮こまっている。
外では守備軍と反乱軍の戦いの音が聞こえて来る。
まだ皇帝陛下は抜け殻のようになってしまっていて、使い物にならないので長男である《清臣》殿下が大将として総指揮を取る。
次男《貴臣》殿下と三男《泰臣》殿下も、武芸は苦手だが戦場に出て鼓舞しながら指揮を取る。
いわゆる総力戦だ。
これだけしても勝てる保証は無いが、これだけしなければ確実に敗北してしまう。
もちろん皇族軍は全力で戦う。
しかし戦いが始まって40分が経ったところで、泰臣殿下が反乱軍に討ち取られてしまった。
「こちらに兵を回せ! 全てが崩壊するぞ!」
「ダメだ! こっちの兵士も足りない!」
泰臣殿下率いる部隊が敗れてから戦線は崩壊。
次に討ち取られたのは、次男の貴臣殿下である。
鉄砲を右胸に貰いながらも、我慢して必死に指揮を取ったが、この頑張りも虚しく雑兵に討ち取られた。
ここまで来てしまったら、逃げ出す兵士すらも現れる。
戦いが始まって3時間半で、清臣殿下が討ち取られた。
これによって皇居の外での戦いの勝敗が決し、反乱軍の兵士たちが皇居に流れ込んで来る。
その時も為臣殿下は部屋の隅で丸くなっている。
別に見ていたわけでは無いが、きっと自分の兄たちは討ち死にしているだろうと心のどっかで思った。
そして自分も、きっとこのまま捕まって民衆の目の前で打首にされるのだと震えて来る。
自分たちは安泰だと日々を送っていたのだ。
まさかこんな日が来るとは……。
殿下は自分の10年という日々は、一体どんなものだったかと思い返す。
するとカッと為臣殿下は立ち上がった。
「こんなところでまざまざと死ねるか! 俺が目指していたのは、立派な武士だ! 武士がこんなところでメソメソしてるわけにはいかない!」
武士道を重んじていた殿下は、こんなところで捕まって殺されるのを待つのはおかしいと考える。
それなら勇敢な死を遂げた方が良いと決意を固めた。
部屋の中に置いてあった真剣を手に取ると、自分も戦って死ぬと覚悟を決めて扉の方に向かって歩き出す。
そして扉を開けると、そこには満面の笑みの男が立っていて、殿下は鞘から刀を抜いて「何者だ!」と叫んだ。
すると目の前に立っていた男は、両手を目の前に出して敵意がない事をアピールして来た。
どうなっているのかと思って、殿下は男の顔を確認してみると「あっ!」と言って思い出す。
立っていたのは殿下の舞の稽古をつけていた《戸谷 晴久》郡長だ。
「ど どうしてこんなところにおる!」
「殿下をお助けに参りました」
「俺を助けに!?」
どうしてこんなところにいるのかと、殿下が問うと戸谷郡長は助けに来たのだと答えた。




