017:釧路城
殿下を乗せた馬車は釧路県庁に向かう。
その馬車の中には殿下以外に、戸谷郡長・鶴見知事の2名が同乗している。
休んで貰おうと鶴見知事は考えていたが、殿下はこれからについて話しておきたいと思ったのだ。
「ほぉカムイリアンを頼るというわけですか。さすがは戸谷といったところですね」
カムイリアンの話を聞いた鶴見知事は、さすがは戸谷郡長であると凄さを再認識する。
確かにカムイリアンの力を借りられたら、周辺の県との戦いで有利になるのは確かだと賛同した。
「それで俺が最初にやるべき事は、なんだと思う? いきなりカムイリアンのところに行ったとしても追い返されるか、最悪は殺されかねないだろ?」
「はい、私もそう思います。まず殿下にやって貰いたい事は、釧路県の郡長たちの謁見を受けて貰いたいです」
「謁見は構わないが、釧路県の郡長たちは皇族の味方だと言えるのか? 向こうのスパイが入られてたら、それが命取りになりかねなくないか?」
カムイリアンとの交渉に向けて、殿下は鶴見知事に何をすれば良いのかと意見を聞く。
まず釧路県の郡長たちが謁見を望んでいる事を伝える。
謁見をするのは別に構わないが、殿下が懸念しているのは郡長の中にスパイは居ないのかという事だ。
春雷側の人間がいたら、命取りになりかねない。
この問いに鶴見知事は「私の見る限り、二心ある者はおりません」と答える。
元々は鶴見知事の直属の部下であり、皇族との信頼関係が深い人間たちが郡長に選ばれていた。
その為、この中で裏切る確率は少ないと思われる。
「俺は1度、信用していた男に裏切られている」
「はい、その話は伺っております……」
「もう2度と、そんな事を起こすわけにはいかない。だから俺は裏切りに関しては、非道なまでに裁いていきたいと思っている! その事について知事の意見を聞きたい」
春雷の裏切りを受けてから10歳という若さで、周りの裏切りを恐れている。
そこで裏切り者が出た場合。
自分は非道なまでに、裏切った人間を裁こうと思っていると殿下は宣言をした。
その上で鶴見知事に意見を聞く。
殿下の話を聞いた鶴見知事は、腕を組んで「うんうん」と大きく何度も頷いている。
皇族に心酔している鶴見知事に聞いたら、返ってくる答えは大体の予想ができた。
「それでよろしいのです! 神の末裔であられる殿下や皇族の皆様を裏切るような人間たちは、神すらも裏切った人間たちです! そんな人間たちは粛清するべきです!」
「おいおい、俺以上に熱くなるなよ。とにかく裏切りに関しては、知事と戸谷で目を光らせておいてくれ」
「は! 承知いたしました!」
この鶴見という男は、神=皇族という考えを強く持っている人間である。
その為、神を裏切る人間は万死に値する。
そう考えている少しヤバい奴だ。
とにかく裏切りに関しては、2人にも目を光らせておいて欲しいと背もたれに寄りかかって殿下は落ち着く。
さすがの殿下も長旅に難しい話と、肩が凝る事ばかりを連日行なっているのだ。
これで少しは落ち着ける。
はずだったが殿下は、もう1つ話しておかなければいけない事を思い出し、バッと姿勢を前に持っていく。
「そうだ! もう1つ聞いておかなければいけない事があった!」
「なんでしょうか?」
「俺はどのような役職で、釧路県に入れば良い? さすがに滅亡したとされる皇族の人間として、釧路圏に入るわけにもいかんだろ? ならば役職が必要だ」
皇族と名乗って入るのも正統な後継が、自分以外いない殿下からしたら何ともいえない。
そもそも国は乗っ取られているのだ。
皇族を名乗れない。
ならば役職が必要だろうと殿下は思っていた。
しかし皇族を神のように思っている鶴見知事からしたら皇族と名乗っても良いんじゃないかと考えている。
だがそれでは殿下が納得しない。
それは鶴見知事も数十分の付き合いだが分かっている。
殿下が納得するような役職などを提案しなければ、県庁に入城してくれないだろう。
「でしたら、国を建国するのは如何でしょうか!」
「国を建国するだと?」
「はい! つまりは挙兵するというわけですが、その前段階として殿下が新しい国を釧路圏に創ったと周辺地域に宣言するのです! そうすれば殿下は、晴れて国のトップに立って県庁に入城できます!」
鶴見知事が提案したのは原告だった。
殿下が皇帝を務める国を創れば、殿下は晴れて皇帝として県庁に入城する事ができる。
その上でカムイリアンと交渉をし、周辺諸国に領地を開け渡すように指示を出す。
それでも歯向かうようなら戦争を起こす。
この繰り返しで大和帝国を取り返そうと鶴見知事は、殿下に上奏するのである。
殿下はグッとガッツポーズをして、その案は素晴らしいと知事を褒めた。
皇族に褒めれた鶴見知事は「おぉ!」と喜ぶ。
「喜びはしたが、本当に良いのか?」
「何がでしょうか?」
「この釧路県は知事のモノだろ? それを俺が横取りするような事をして……」
「何をおっしゃいますか! 元々この大和の地は、殿下を筆頭に皇族の皆様のモノです! 自分のモノなどと思った事はございません!」
殿下が鶴見知事の案を容認する上で唯一気になっていたのは、ここの部分である。
自分で統治していた場所を、いきなり来た10歳の少年に奪われるような事は許せるのか。
しかし答えは決まっていた。
この土地は皇族から預かっていただけで、返す日がやって来たと思うだけである。
そう鶴見知事は返した。
「それにですよ? こんな事にならなければ知事の地位を戸谷に譲ろうと思っていたんです」
「譲った後はどうするんだ?」
「もちろん隠居しますよ! それも殿下や皇族の皆様を題材とした手記を出版しようと考えておりました!」
「それはお前らしいな。しかしまだ隠居させるわけにはいかない、これからも俺の脳となって戸谷と共に尽力して貰えないだろうか?」
「は! この鶴見、命が尽きるまで殿下のお側でお仕えさせて頂きます!」
改めて殿下は力を貸して欲しいと、鶴見知事・戸谷郡長の両名に力添えを頼むのである。
殿下の言葉に2人は馬車の中だが、膝を地面に着けて深々と頭を下げた。
まさしく忠義を尽くす侍のあるべき姿だ。
「あっ! 殿下、釧路県庁である釧路城に到着致しましたぞ!」
「おぉこれが釧路城か」
殿下の目の前に広がったのは、深い墨黒に濃い木肌色をした天守が目立つ釧路城である。
釧路県は寒さが激しいので防寒や潮風での劣化を防ぐ為に無骨な立ち姿をしている。
ここが釧路城かと殿下は目を輝かせる。
西暦2118年7月28日。
後の大和帝国皇帝《豊徳 秋蘭 為臣》殿下は、数人の臣下と共に釧路城へと入城した。
少なくとも、この時期に殿下の臣下は5人以下であると大和帝国列伝には記されている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
殿下が釧路城に入城した頃、関東地方の情勢が大きく動き始めていた。
それは《佐竹 寿重》陸軍大臣を総大将し、長野県奪取に向けた侵攻である。
寿重陸軍大臣が指揮する春雷軍陸軍は、長野県諏訪郡にて反春雷同盟軍とぶつかった。
そして約5年に渡って続く《信州の戦い》が開戦した。




