016:着港
混合民族なんて聞いた事がない。
それは一体なんなんだろう。
殿下たちの表情を見た戸谷郡長は、殿下が知らない事を自分が教えるのは嬉しいとニタニタしている。
その表情に逆川港湾長は「さすがにキモいっす」と辛辣なセリフを吐かれてしまう。
キモいなんて思っておらず、ハッとした戸谷郡長は「何がキモいだ!」と半笑いで突っ込む。
そしてゴホンッと咳払いをしてから話し始める。
「カムイリアンとはですね! 北海道の先住民族であるアイヌ民族の子孫と、第三次世界大戦時に難民として入って来た外国の民族が合わさった集団の事です!」
「つまり丈二のようにハイブリッドって言われてる難民2世や3世の末裔って事か?」
「はい! そういう事ですね、アイヌ民族の子孫もハイブリッドの人たちも酷い迫害を受けたわけです。そこで日本や大和帝国からは確立された集団になったんです」
第三次世界大戦が起こった2038年に、大勢の難民が諸外国から流れるようにやってきた。
その難民たちが日本の治安を乱した。
元々住んでいる日本人たちが、そんな事を許すわけにはいかず、激しい迫害を受けたのだ。
その結果、難民たちは北海道へと流れ着く。
北海道という地で元々アイヌ民族の子孫として生きていた日本国民たちも、外国人と同じであるという風潮で迫害を受け始める。
迫害を受けた両民族は惹かれ合うように合体した。
そしてカムイリアンという新しい集団となった。
「その者たちが力を貸してくれるのか? 話を聞く限りじゃあ、恨んでいる人間たちのトップである皇族の俺を憎んでいるような気がするんだけどな」
「そこなんですよ、唯一の不安要素が……しかし! 我々に残された手立ては、そのカムイリアンしかおりません。仲間にする事ができれば、カムイリアンは日本や大和帝国と激しい戦いをしていたので武闘派なんです!」
「つまり仲間にするのは至難の業だが、できた暁には尋常じゃない戦力を得られるというわけか?」
殿下の言う通り、カムイリアンは日本や大和帝国の人間に激しい嫌悪感を露わにしている。
その為、嫌っている人間たちのトップだった皇族の殿下の下に着くとは思えない。
戸谷郡長の唯一心配しているのが、そこなのだ。
しかし仲間にできた場合の利益は、リスクを取るくらいに容易に帰ってくるほどである。
日本や大和帝国との戦いで武闘化している。
まだ10歳である殿下は、腕を組んで自分の分かる範囲でリスクと利益を計算する。
「確かに戸谷の言う通りだな。俺たちにはカムイリアンの手を借りる他、春雷に抵抗する手立ては無い」
「しかし殿下、ハイブリッドたちの恨みは強いと聞きますよ? 俺たちみたいな関東地域に残れる人間は、そこまで恨みを持っていません。しかし北海道の地まで追いやられた人間の子孫となると、その恨みは……」
丈二の言う事も確かだ。
迫害を受けても関東の地に残れているという事は、命を奪われるまでの危険は無かったという事。
それに対し北海道まで追いやられている人間の恨みは、同じハイブリッドの丈二ですらも計り知れない。
本当に引き受けてくれるのだろうかという疑問がある。
丈二の意見に反省するように、逆川港湾長も自分の考えを殿下に伝える。
「断られるだけなら良いと思いますけど、殿下が殺される可能性は無いんですか? そこが1番でしょ?」
「確かに逆川の言う通りだ、そのリスクを考えるのは当然なんだろう。だけど今の俺に、死ぬかもしれないからやらないなんて選択肢はないんだよ」
「ですけど死んだら意味ないでしょ! 春雷を止められるのは、この国で殿下だけでしょ?」
殿下が死ぬのを恐れている逆川港湾長は、死ぬかもしれないというリスクがあるならやらない方が良いという保守的な考えである。
しかし殿下は今の自分なら、殺されるかもしれないからやらないという選択肢を取る余裕がない。
それでも生きなきゃ意味がないと逆川港湾長は、殿下に全身で主張する。
そんな逆川港湾長に戸谷郡長は「落ち着け」と取り乱しているのを認識させた。
「殿下だって、お前の気持ちは十分に分かってくれてる。ここで揉めたって仕方ないだろ?」
「す すみません、少し熱くなりました……でも殿下には本当の意味で理解して欲しいんです。俺や戸谷さまは、殿下がいなければ生きてはいけないんですから」
戸谷郡長に諭された逆川港湾長は、落ち着きを取り戻して殿下に謝罪する。
その上で自分たちが仕えるべき主人は、殿下の他にいないのだから生きて欲しいという意思を伝えた。
もちろん殿下も理解している。
安心して欲しいと前置きをしてから「俺も死ぬつもりなんて最初からない」と宣言した。
このセリフに逆川港湾長たちは安堵する。
「とにかく俺たちができるだけの準備をして、カムイリアンとの交渉の席に立とう」
『はいっ!!!!』
カムイリアンとの交渉を上手く進める為、航海中に殿下たちは話し合いをした。
そのまま殿下たちを乗せた船は3日もの航海する。
そして4日目の早朝、殿下が眠っている時に戸谷郡長がポンポンッと体を優しく叩きながら「見えて来ましたよ」と起こすのである。
「もう着くのか?」
「はい! 釧路港が見えて来たので、下船の準備をよろしくお願いいたします」
「あぁ分かった、直ぐに準備するよ」
目を覚ました殿下は、スッと立ち上がって下船する為の準備を行なうのである。
釧路県が待ち遠しかったので、準備を終えると荷物を側使えの丈二に渡す。
殿下は船首に行って釧路港を遠くから見る。
たくさんの漁船が港に着いていた。
アレが釧路港かと口を大きく開けて、楽しそうに港を見つめる。
そして船は釧路港に着港した。
「殿下、足元にお気をつけ下さい」
「あぁ悪いな」
殿下は戸谷郡長の手を借りて下船した。
釧路港は多くの魚が獲れるので、その生魚の匂いと潮の香りが混ざり合ったクセのある匂いが立ち込める。
これが港なのかと鼻に空気を、たくさん吸い込む。
そんな感じで殿下は、初めての港を楽しんでいると小太りの男がやって来る。
そして殿下の前で膝を地面に着けて頭を下げた。
後ろにいるのは側近の人間なんだろう。
「殿下、お待ちしておりました!」
「ん? 誰だ?」
「はっ! 自己紹介が遅れました。この釧路県で県知事を拝命させて頂いております《鶴見 宣親》と申します!」
「おぉ貴殿が、戸谷の主人か!」
「もう私は主人ではありませぬ! そこの戸谷の主人は、殿下であります! もちろんこの私も!」
この小太りなのが釧路県の知事であり戸谷郡長の主人。
戸谷郡長にはお世話になったから、主人である鶴見に挨拶をしようとした。
しかし戸谷郡長の今の主人は、殿下であると言う。
そうなのかと殿下は、戸谷郡長の方を見た。
すると半端ない満面の笑みで殿下の方を向いて、優しく1回頷くのである。
「それでは殿下、休む為にも県庁へ移動しましょう。色々と詳しい話もしたいですし」
「そうだな、休む前にこれからについて話をしなきゃいけないからな」
「はい! 県庁までの場所を用意してありますので。どうぞ、こちらに!」
詳しい話をする為にも休む為にも県庁へと案内する。




