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013:死ぬ気で

 経験値の差と体格の差という、今から直ぐに埋める事ができない実力差が殿下と逆川港湾長にはある。

 一応10歳にしては異様な実力を逆川港湾長は体感し、今のままでも下に着くのは納得できると思っていた。

 ここで降参しても良いんだと逆川港湾長は促す。

 しかし殿下は、このまま負けを認めるなんて、そんな選択肢は絶対にあり得ない。

 だから木刀を構え直し、戦闘再開を決める。



「そう来なくっちゃ面白くないですよね! さぁ続きをやりましょう!」


「そんな楽しそうにできるのは、今だけだからな」



 さすがは殿下だと逆川港湾長は褒める。

 それくらいの感じで来てくれなければ、こっちとしては張り合いがないと楽しそうに語るのだ。

 逆川港湾長の楽しそうな態度に殿下はイラっとする。

 そんなに楽しそうにしているのなら、今から圧倒して楽しくなくしてやると意気込む。


 構え直したところから殿下は、一気に逆川港湾長に向かって飛び出す。

 真っ直ぐに斬りかかれば、そりゃあ止められるだろう。

 なのでジグザグや不規則な動きで翻弄しながら近寄る。

 この殿下の動きを追う為に、逆川港湾長の眼球は半端なく高速で動いている。

 普通なら目が回るはず。

 しかし逆川港湾長は、目が回る事なく殿下を追った。

 そして遂に斬りかかったところで、殿下の一撃を逆川港湾長は受け止めて鍔迫り合いに持ち込む。



「さすがは殿下だ、経験を積んでる人間じゃなきゃやられてたかもしれないな」


「そりゃあどうも! こうも簡単に止められると、こっちとしては自信を無くすぞ」


「落ち込む必要なんてありませんよ。殿下の領域に行く為には、戦を数戦やらなきゃダメだからな」



 逆川港湾長は顔を近づけて、このレベルになるには相当な実践が必要だと感心する。

 10歳の少年が戦争に参加するわけがない。

 そうなればタダの鍛錬で、このレベルになるのは凄まじいものだと逆川港湾長は語る。

 褒められた張本人である殿下は複雑だ。

 褒められているが、それを最も簡単に止められているとなると自信を無くすと言う。


 少しの鍔迫り合いから殿下は、逆川港湾長の足の甲を強く踏みつける。

 さすがの逆川港湾長も痛みで「う!」と痛みを感じた。

 その隙に殿下は木刀を弾く。

 そのままの流れで殿下は、木刀を逆川港湾長の腹に振るって一撃を与える。

 続けた一撃で逆川港湾長は前のめりになった。

 トドメを差すべく、殿下は逆川港湾長の頭に一撃を加えようと木刀を振り上げる。



「これで終わりだ!」


「殿下……まだですよ」



 トドメを差そうとした瞬間、逆川港湾長は上半身を起き上がらせようとする力を利用する。

 その勢いで自分の木刀を、殿下の木刀にぶつけた。

 力の差があり、殿下の木刀は弾かれる。

 殿下の懐は無防備なガラ空きになってしまった。

 そんな無防備な相手を、逆川港湾長が見逃すわけがなくフルスイングで殿下の腹を振るう。

 モロに喰らった殿下は、吹き飛んで地面に数バウンドしてから転がって止まる。



「これで終わりだな……」



 自分でも自信のある一撃を入れられたので、もう殿下は動けないだろうと思った。

 その為、逆川港湾長は終わりだろうと考える。



「殿下、これで終わりですよね? もう俺の勝ちで良いですよね?」


「ま まだ……まだだ」



 殿下自身に自分の勝ちで良いかと聞いた。

 実際、もう動けないだろうと逆川港湾長は思っている。

 だから確認のつもりで聞いたのだが、殿下は震えながら立ちあがろうとして負けを認めない。

 まだやれると強い意志を見せる。

 まさか渾身の一撃を喰らって、喋るどころか立ちあがろうとするなんて。

 逆川港湾長は驚きである。



「まさか立ちあがろうとするなんて……気を失ってもおかしくない、一撃だったんだぞ」


「国のトップに立つ人間が……このくらいで倒れていられるか! 俺に降参させたきゃ殺すしかないぞ!」



 殿下は生まれた子鹿のように、足腰を震わせながら立ち上がって木刀を構える。

 この姿に逆川港湾長は冷や汗を流し恐怖する。

 殺し合いをしているわけじゃないのに、目の前にいる殿下からは戦場での殺気を感じた。

 その殺気に押され、逆川港湾長は後退りをする。



「ま 参りました……」



 経験や体格といった差はあっても、殿下は死ぬまで降参はしないだろう。

 そう逆川港湾長は悟る。

 それならこんなにも尽くすに値する人間を、自分の手で殺すわけにはいかないと逆川港湾長は思ったのだ。

 だから逆川港湾長は降参した。

 殿下は逆川港湾長の降参を聞いて、ニコッと笑って「俺の勝ちだ……」と言った。

 そしてそのままバタンッと地面に倒れる。

 戸谷郡長と丈二は「殿下!?」と駆け寄った。



「戸谷さん、殿下は! 殿下は、大丈夫ですか!?」


「あぁただ気を失ってるだけだ……さすがに殿下でも、あの一撃をモロに喰らったら立っていられないんだ」


「でも立ち上がるのは凄いですね……」


「あぁ尋常じゃない」



 殿下が気を失っているだけであると確認して、2人は安心するのである。

 戸谷郡長は、殿下を丈二に渡す。

 そして立ち上がった戸谷郡長は、クルッと逆川港湾長の方を向く。



「逆川、お前は殿下の臣下になる事を認めたんだな?」


「えぇもちろんです……尋常じゃないですよ、殿下は本当に10歳なんですか? とてもじゃないが、そうには見えないんですけどね………」


「正真正銘の10歳だ」


「アレは化け物ですよ……よく春雷のバカは、あの人のことを裏切るような決断をしましたね。俺だったら、絶対に敵に回したくない」



 臣下になると言質を取る。

 殿下の実力を認めたので、臣下になるのは嫌ではない。

 しかしそれにしたって殿下は、本当に10歳なのかと身震いするのである。

 あの人は地獄の果てまで追いかけて来そうだ。

 だから今のうちに味方になっておく方が吉。

 対面して分かったが、よく春雷は殿下を裏切る道を選んだなと、その考えが信じられない。



「船はどうしますか? 殿下が目を覚ましてからの方が良いですよね?」


「いや、今直ぐにでも出してくれ。一刻も早く殿下を、少しでも安全なところにお連れしたいんだ」


「分かりました、直ぐに船の手配します。食料とかも積み込まなきゃいけないので、半日……いや数刻のうちに全て終わらせて出発させて見せます」


「さすがは逆川だ、お前を頼って良かった」



 目を覚まして休憩してからの方が良いんじゃ無いかと、逆川港湾長は言う。

 しかし時間が無い。

 とにかく時間が無いのだ。

 だから少しでも早く本州を離れ、戸谷郡長たちが治めている釧路県に移動したい。

 その為なら少しでも無理をして貰う。

 戸谷郡長の本気さを受け、逆川港湾長は色々と準備をしなきゃいけなく、時間にしたら半日はかかるところを数刻のうちに終わらせてみせると豪語した。

 きっと本当にやってのけると、戸谷郡長は逆川港湾長を頼って良かったと肩を叩く。



「準備しますんで! さぁ忙しくなるぞぉ!」


『おぉおおお!!!!』



 逆川港湾長は港湾員の人間たちに、さっさと仕事を始めるとケツを蹴って作業を開始する。

 戸谷郡長や殿下の頼みだ。

 ここにいる人間たちは、とてつもない使命感でやる気満々なのである。

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