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011:先鋒

011:先鋒

 為臣殿下が提案した模擬戦の3番勝負を行なう為に、逆川港湾長は広い場所に3人を案内する。

 さすがに表で模擬戦なんてやるわけにはいかない。

 そんな事をしたら自分から目立ちたいと言っているのも良いところだからだ。

 港湾事務所には港湾員たちが運動する為の中庭がある。

 そこだったら暴れても問題ないだろうと、逆川港湾長は考えたのである。



「殿下、戸谷さま。ここでいかがでしょうか?」


「ここなら周りの目も気にならないし、良さそうだな。殿下、どうでしょうか?」


「良いと思うぞ」



 ここでならやれると判断した。

 殿下側は丈二を先鋒に、戸谷郡長を副将とし、大将は殿下が務める形となる。

 逆川港湾長は部下の強い人間を選んだ。

 これで対戦カードが揃う。



「まずは先鋒戦だ! うちからは力自慢の業力を出す!」


「こっちは丈二だ! 頼んだぞ!」



 早速、模擬戦が始まる。

 ルールとしては木刀を使い、どちらかが降参するか戦闘不能になったら決着だ。

 まずは先鋒戦。

 殿下に期待の言葉をかけて貰った丈二は、木刀をギュッと握って「はい!」と返す。

 鼻息洗い感じだ。

 丈二の口からは腕っぷしに自信があると聞いたが、実際のところは分からない。

 ここで初めての披露である。


 丈二と逆川港湾長が選んだ業力という男は向かい合う。

 業力は丈二より2回りも大きい巨漢だ。

 こんなのに勝てるのかと周りで見ている人間は思うほどに、その体格差は激しい。

 さすがの丈二も緊張している。

 額から一滴の汗が流れる。

 そして審判役の港湾員が「よーい」と手を挙げてから、スッと下げて「初め!」と叫ぶ。

 掛け声と同時に2人は飛び出した。



「丈二、どれだけの力を持ってるんだろうな?」


「正直なところ実力は未知数ですからね。しかも相手が、アレだけの猛者となると……正直、難しいでしょうね」



 2人は丈二の実力について考察する。

 まだ実力を知らないという未知数さと、相手の雰囲気からして難しいだろうと考えていた。

 どこまで良い勝負をするかが、ここの話の論点だ。

 しかし殿下たちは、その考えが間違いだと分かる。


 これだけの体格差があるというのに、鍔迫り合いになっても弾き飛ばされずにギギギッと互角になっている。

 いや、何なら丈二の方が推しているみたいだ。

 外で見ている人間たちも驚いているが、1番驚いているのは丈二の相手をしている業力である。

 隠したと思っていた人間に、ここまで互角以上に持ち込まれるとは想定外だ。


 数秒の鍔迫り合いから丈二は、遂に業力を押し切った。

 弾かれた業力は、この体格差があるので懐がガラ空きになってしまう。

 そこに狙いをつけ丈二は木刀を振るう。

 業力の腹にクリーンヒットした。

 普通ならば、ここで決着がついても良いところだったが業力の体格が何とか致命傷を防いだ。



「おぉマジか……」


「こんなもんじゃ倒れん!」



 驚いている丈二に、業力は大振りで木刀を振るう。

 この攻撃を受けた丈二は、数メートル吹き飛んで地面をゴロゴロッと転がる。

 誰もが終わったと思った。

 しかし殿下は「いや、まだだな」と呟く。

 何を言っているのかと戸谷郡長は、殿下を見てから丈二の方に視線を向ける。

 すると丈二はダメージ無さそうに立ち上がった。



「ど どうしてだ!? クリーンヒットしたはずじゃ……」


「ギリギリだ」


「ギリギリ? どういう事ですか?」


「見えなかったか? 攻撃を受けるギリギリで、木刀を使って受け流していた……凄まじい反射神経だ」


「マジですか……」



 攻撃が体に当たる瞬間、丈二は自分の木刀を使って業力の木刀を受け流した。

 その行為にも戸谷郡長は驚いたが、そんな事よりも驚く事がある。

 それは殿下が、丈二の受け流しを見れていた事だ。

 まさか自分ですらも気づかなかった行動を、10歳である殿下が見えるなんて驚く。

 とにかく今は丈二の試合を見届けようと視線を移す。


 立ち上がった丈二は右手に木刀を構え、左手を地面に着けて体勢を低くしている。

 ジリジリと左回りで円を描くように動き始めた。

 その雰囲気の違いに、業力は不用意に近寄らない。

 丈二同様に業力も木刀を構えながら左回りで、回って動きを警戒しながら見る。

 2人の緊張感は外で見ている人間たちにも伝わる。

 見ている港湾員が、ゴクンッと唾を詠んだ瞬間、丈二は低い姿勢のまま業力に突っ込む。



「バカが! 正面から突っ込んで来るとはな!」


「どっちがバカだ」



 向かってくる丈二に対し業力は、木刀を振り上げ来るのをジッと待っている。

 正面から突っ込んで来るなんて、どんだけバカなのかと業力は笑った。

 しかし逆にバカなのは業力であると丈二は呟く。

 業力は丈二が自分の間合いに入って、木刀を振ろうとしたタイミングで、こっちの木刀を振り下ろしてやると頭の中で作戦を立てるのである。

 だが予想していた領域に丈二が入っても振り上げない。

 どういう事かと混乱して、遂にもう無理だと思った業力は木刀を振り下ろそうとした。

 この業力の木刀を振り下ろそうとした瞬間、丈二はさらにスピードを加速させる。

 そのまま業力にタックルをかました。



「な なんだ!? ど どうなって!?」


「よそ見してんなよ!」



 後ろに弾かれた業力は、視線を切ってしまう。

 次に丈二を視界にとらえた時には、既に木刀を振り上げていて万事休すだった。

 しかし全身の筋肉を無理やり動かす。

 致命傷になるだろう頭のところに木刀を横にして、ガードの構えをするのである。

 力はあっても耐えられるだろうと考えている。


 だが丈二の考えは、このさらに上を行っていた。

 腕を下にではなく後ろに引く事で、防がれるはずの木刀が業力の木刀を避ける。

 そして一気に木刀を前に突き出す。

 これにより丈二の木刀は、業力のガラ空きになっている喉元を突く事に成功した。

 そのまま業力は吹き飛んで転ぶと同時に、猛烈な痛みに襲われて転がりまわる。

 転がる業力を見てから審判役は丈二を見た。

 スーッと息を吸ってから「勝者、丈二!」と宣言した。



「よっしゃあああああ!!!!!」



 勝利した喜びで丈二は雄叫びを上げた。

 その丈二に殿下と戸谷郡長は、驚きもあったが良いものが見れたという思いで拍手を送る。

 これに逆川港湾長は、まさか業力が負けるとは思っておらず、驚きで目を見開き口は開きっぱなしになっている。



「殿下、どうでしたか! お期待に応えられる結果でしたか?」


「あぁ素晴らしい戦いだったよ、俺の目に狂いは無かったと証明されたよ。なぁ戸谷」


「えぇ! まだ荒いところはありますが、これから鍛えればものになりそうです!」



 褒めて欲しそうにする感じが、どうにもゴールデンレトリバー感が否めない。

 しかしそれはそれとしてポテンシャルは大きかった。

 まだ荒々しく春雷のような強者と戦ったら、それこそ手も足も出ないだろう。

 それでも可能性は秘めているので、これからに期待する事ができると殿下たちは思っている。



「次は副将戦です! こっちからは田淵を出します!」



 逆川港湾長は田淵という男を出す。

 業力ほどの体格はしていないが、手足が長くてやりづらそうな男だ。

 そして殿下は戸谷郡長の背中をバンッと叩き送り出す。

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