009:日立港
009:日立港
為臣殿下は戸谷郡長と丈二を引き連れ、本州を出港する為に港に向かっている。
移動中に為臣殿下は丈二に話しかける。
その最中に殿下が皇族である事を伝えると、大きな声を出して驚きそうになっていた。
しかしそれを察知していた戸谷郡長が口を押さえる。
それにより周りに目立たずに済む。
「こ 皇族のお方だと知らずに、こんな無礼な……」
「知らなかったんだから仕方ないだろ? 俺は気にしていないから、気にする必要は無い」
「あ ありがとうございます!」
皇族の人だと知っていれば、丈二は土下座以上の事をしていたのかもしれない。
それなら言わなくても良かったかも。
とりあえず殿下は気にしていないみたいだから、これ以上の謝罪は殿下の機嫌を損ねかねない。
だから深掘りしないように気をつける。
「それで丈二は、何か得意な事は無いのか?」
「得意な事ですか? 得意なこと……あっ! 腕っぷしなら自信はありますよ!」
殿下は話を変える。
臣下するとはいえども、得意な事や優れているところを知らなければ起用のしようがない。
なので得意な事を聞いた殿下に、丈二は腕っぷしなら自信があると答えた。
しかし殿下は「本当かぁ?」と疑いの視線を向ける。
その視線に気がついた丈二は「ほ 本当ですよ!」と必死になってアピールする。
さっきのやり返せていない事が尾を引いていた。
「いや、別に疑ってるわけじゃないんだけどな。体格やオーラからして、それなりに強いっていうのは感じる……だけどな、さっきのやり返せないってのを見たら、大事な時に動けるのかって思ったんだ」
「確かに殿下が、そう思われるのは確かです。これに関しては根拠も何もありません……しかし! 私は殿下の為ならば、この命を盾にしてお守りします!」
「命を盾にする必要は無い。俺や皇族の人間は、お前のような存在がいなければ生きていけないか弱き生物……だからこそ、お前には生きたまま仕えて貰いたい」
「は……はは! 誠にありがたきお言葉っ! こんなにも感動したのは生まれて初めてでございます! この生を全うしながらも殿下をお守りいたします!」
死んでも守るという言葉に、殿下は違和感を持つ。
自分たち皇族は、丈二のような存在がいなければ生きてはいけないようなか弱き生き物。
守ってくれる存在が居てこそ生きていける。
ならば生きていて貰いたい。
そして守って貰う代わりに、1番上に立つ者として国民の平穏を守りたいと思うのだ。
その言葉に丈二は強く胸を打たれる。
前を歩いている戸谷郡長も優しい笑みを浮かべていた。
そんな話で盛り上がっていると、戸谷郡長は「もう少しで到着しますよ」と報告する。
後ろを歩いている2人は、パッと前を見てみた。
するとそこには綺麗な港が佇んで居たのである。
殿下は「おぉ!」と声を出して、初めて見る海に感動を覚えた。
衝撃のあまり足を止めてしまう。
丈二は殿下に「どうかしましたか?」と声をかける。
「いや、初めて海を見たんでな……ちょっと胸がギュッと締め付けられたようなんだ」
「それは本当に感動しているという事なのですね。そんな現場に立ち会えたのは嬉しい事です!」
「何をそんな大袈裟な。さぁ行こうか!」
そう言った殿下は、先を歩いている戸谷郡長に向かって駆け寄るのである。
丈二も優しく微笑んで殿下の少し後ろを歩く。
「なぁ戸谷、ここを仕切ってるのが海賊だって言ってたよな?」
「はい、表向きは普通の港主ですけど」
「その海賊っていうのは、どんな奴らなんだ?」
別に海賊に対して強い嫌悪感があるわけじゃない。
だが雇っているとはいえども、ソイツらが裏切る可能性は無いのかと疑問を持っていた。
だから殿下は戸谷郡長に、海賊がどんな人間なのかを聞くのである。
質問を受けた戸谷郡長は「う〜ん……」と考えた。
そしてポンッと手を叩いて、何かを閃いたらしい。
「義理堅いって感じですかね?」
「義理堅いか」
「はい、元々はヤクザだったっていうのが大きいと思いますね。金だけで繋がっているわけじゃないんで、裏切る可能性も低いと思います。もしもの時があっても、自分が殿下をお守りしますので安心して下さい」
「あぁお前の事は信頼してるから任せたぞ」
金だけで繋がっていれば、確かに大金を払われた場合は裏切る可能性が高い。
しかし過去に恩を売った事で、義理という鎖で戸谷郡長も繋がっているのだ。
その為、裏切る可能性は、かなり低い。
だがもしもというのがあるので、その際は自分が海賊たちを制圧すると宣言した。
日立港は殿下が思っていたよりも栄えていた。
別に重要拠点というわけでは無いが、ここまで栄えているのは、かなり珍しい事だろう。
どうしてここは、こんなに栄えているのかと困惑する。
だが殿下は直ぐに理解する。
これはここを収めている人間の力が、強大だからであると考えたのである。
殿下は「さすがは戸谷……」と、この場を納めている人間を下につけているなんて感動すら覚えていた。
「殿下、ここが港湾事務所です。どうぞ、お入り下さい」
戸谷郡長は殿下を、日立港の港湾事務所に案内した。
戸谷郡長は頭を下げながら扉を開けて、殿下を港湾事務所の中に招き入れる。
すると事務所内の港湾員が「誰だ、テメェ!」や「ここはガキの来るところじゃねぇぞ!」と叫ぶ。
普通の子供ならビビるところだろう。
しかし殿下はビビる事なく、叫んで来た港湾員たちを睨み返して「無礼な」と一言呟く。
これに港湾員たちは「ふざけやがって!」と殿下に近寄ろうとする。
そのタイミングで戸谷郡長が立ちはだかった。
「おい! お前、誰に向かって無礼を働いていると思ってるんだ?」
「と 戸谷さま!? ど どうしてここに!?」
「良いから聞いてるんだよ! 誰に向かって、そんな態度を取ってるんだよ」
戸谷郡長は無礼な態度を取り、殿下を脅そうとしている港湾員たちを半端ない殺気で静止させた。
どうしてここに戸谷郡長がいるのかと困惑する。
それでも戸谷郡長は、さっさと頭を下げて無礼を詫びるように全身を使って言うのだ。
このまま逆らったら殺される。
そう港湾員たちは思った。
急いで地面に伏せると、頭を地面に擦り付けて全身全霊で「申し訳ありませんでした!」と謝罪する。
謝罪の姿に満足した戸谷郡長は「殿下、これくらいでよろしいでしょうか?」と聞く。
別に殿下がやらせたわけじゃない。
わけじゃないが、とりあえず殿下は「あぁ」と答える。
「港湾長は居るのか?」
「はい! 2階におります!」
戸谷郡長にビクビクしている港湾員は、スッと階段の方を指さして港湾長は2階にいると伝えた。
これに戸谷郡長は「そうか、ご苦労」と言ってから殿下を2階に案内するのである。
戸谷郡長が見えなくなるまで港湾員たちは頭を下げる。
そして見えなくなったところで「ふぅ」と言って、顔を上げて立ちあがろうとした。
その瞬間、ヌッと階段の方から戸谷郡長の顔が出る。
半端なく港湾員たちは驚く。
「次に殿下への不敬を見つけたら、お前たちの首と胴体はバイバイする事になるからな?」
「は はぃいいい!!!!!」
怖い顔とかではなく満面の笑みで警告する。
その顔は殺気を放っているよりも恐ろしい顔だ。
港湾員たちに釘を刺したところで、殿下を港湾員の部屋の前まで案内し、戸谷郡長は扉をノックする。
部屋の中から「あーい」と声が聞こえて来た。
そしてガチャッと扉を開けたらそこには、無精髭を生やしているが、妖艶な雰囲気を出しているイケメンがいた。
この人物こそが港湾長である。




