【プロローグ】無実の罪火
禁術
プロローグ
――失敗した。
なにが失敗だったのか、どこで道を誤ったのか、そんなこと、今さら考えても無駄だ。
ただ1つ確かなのは、そんな既にどうにもならない失敗のツケを今は左腕の火傷で支払う羽目になっている。
「いきなり火球で挨拶なんて、センスがないにもほどがあるだろ………」
数分前から続く衛兵との鬼ごっこ。
左腕に火傷を負った状態で始まった上に、せいぜい蝋燭一本に火を灯す程度の魔法と、そよ風を起こす程度の魔法しか使えないこの体で、よくここまで逃げ延びているものだ。
深い森の中。月明かりが木々の隙間を縫い、冷たい銀の光を地面に落とす。
枯れ葉を踏む音、荒い息、遠くで鳴く動物の声――そんな中、男――アスティアは逃げ続けている。
「森に入れば撃たないと思ったのに。甘かったか。」
容赦なく飛来する火球が、巨木を爆ぜさせ、焦げた
樹脂の臭いを運んでくる。
本当に、何もかもが裏目に出る。
せっかくこの国に迫りくる災厄から守るため動いたはずなのに、その恩賞がこれか?
俺たちはもう、国家の反逆者――そして民を殺めた殺人犯という、どうしようもない汚名を着させられている。
「――ようやく、追い詰めたぞ。」
衛兵の冷たい声が響くと同時に、眼前が赤く染まる。
火球が炸裂し、立ち並ぶ木々が根本から折れ、熱風が頬を焼く。
「話せばわかる。なんて言ったら、話す時間くらいはくれるのか?」
「お前たちが『禁術』について研究し、無垢な民を殺した罪は、もう知れている。」
――そう、これが俺の追われることになった真相。
この世界で存在すら禁忌とされてる九つの秘術。
『禁術』――触れたものすら死罪に値する、絶対の禁忌、それに関与したからだ。
「それについて、説明させてくれないか?」
火球を連続して打てていない様子から、再詠唱に時間が必要な技みたいだ。
次の一撃が来るまでの、僅かな猶予をどう使うか。
「女2人はどこへ逃した?」
会話する気など、最初からなかったらしい。
「せめて耳を貸すくらいは――」
「黙れ。死体から吐かせるまでだ」
「――グロリデ」
先ほどと同じ火球の魔法が詠唱される。
魔法をまとった剣――魔法もろくに扱えない俺が、こんな反則技に抗えるはずもない。
剣先が赤く光る。
さっきの、理不尽にすべてを薙ぎ払う一撃が来る。
こんな運もなく失敗ばかりの後悔しかない人生でも、死に方くらいはかっこよくありたかった。それ故に先ほども自分と歳の差もない2人を逃したのだから。
この状況を打開する手札をいまの俺は持ち合わせていなかった。
目を瞑る。
瞼越しに、光が閃くのと灼熱が迫るのは同時だった。
――その瞬間。




