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ねこのぷーちゃん、テレビっ子になる(前編)

作者: 池畑瑠七

 

「あっ、見に来たのープーちゃん。ね!面白いねー、なんか動いてるねえー!」

 動作不良で去年買い換えた、リビングの大き目な液晶テレビ。リアリティありありな美しい映像に感激し、映画やMVを以前に増してよく見るようになった。

 その実物と見紛うくらい精巧な画面は、猫のぷーちゃんにとっても魅力的な「窓」に写るようで。いつしかそこに映し出されている映像に彼も反応を示すようになった。


 最近までは特定のMV(米津玄師さんのLADYと死神)がお気に入りで、その音楽が聴こえてくると何処に居てもサッと飛んで来る。ぴょんと台の上に飛び乗り、画面の前に陣取ってじーっと魅入る。で、お気に入りのシーンになると決まって嬉しそうに画面にじゃれつくのだ。


 地面を引きずる靴音とその足元や、滑らかに動く手指や扇子。大きく拡げ上下する腕や、軽やかに弾む体だったり。画面を横切り消えていく子供達、通り過ぎていく車・・・心地よい音楽と歌声に合わせて魅力的な動きをするものが、沢山!

 また某情報番組のぺらぺら紙アニメとか、お天気予報の指示棒なども大大好物だ。


 この冬のぷーちゃんは、幾つも並んだお気に入りおもちゃのラインナップにだいぶ飽きが来ていて、いつものパタパタで遊ぼうとしても ちっとも乗ってこなくなっていた。


 運動不足解消ストレス発散、コミュニケーションに欠かせない、大事な遊びの時間は朝晩の日課。少し前までは遊び係(=兄妹扱い=筆者)の食事が終わるのを、その横でヘソ天ヒマだよアピールして待ち受け「はやくはやく!」と急かし。

「ごちそうさま」を聴くなり「待ってました!」とダッシュで先回り、遊びベッドに飛び乗って目をまん丸くしてスタンバイ。

 棒を振り始めれば大喜びでじゃれつき追いかけ回転したりジャンプしたり。そんなだった。


 しかし、近頃はそのタイミングで遊び始めても反応が何とも薄い。ああかな?こうかな?こうならどうだ!的に、こちとらは頭を捻りつつ懸命にじゃらしを振ってみせるのだが。誘っておいて当のぷーちゃんは一向に乗ってこず。こっちも暇じゃないから「んー遊ばないなら、じゃあね!」と棒を置き、ワークに戻る。


 そのうちお気に入り爪とぎ台のうえにぽかぽかなお日様が射し始めると、ひょい!っと飛び乗ってぷーちゃんは日向ぼっこ開始…。

 そんな風な日が、しばらく続いていた。


 ただ、運動時間は減ったけど「かまちょ」のねえねえ、ねえねえ、攻撃はあい変わらずで、「ねえねえ」すると根負けしてオヤツ…の頻度が増加気味になっていた。その結果、だんだんとぷーちゃんのふわふわコロコロ度が増してきてしまった。上から見ると胴囲が一まわり、大きくなっているのは気のせいではなかった。


 これはいかんな…ということで、「カマチョ」モードが収まらない時、安易におやつを与えるのを止めねばならんと、軌道修正方法をあれこれ考え始めた。

 彼の気をおやつから逸らしつつ、新しいおもちゃみたいな感覚でストレス発散になるいい手は無いかな…?


 そんな時目に入ってきたのが、良く視聴してた「投稿ネコ動画」のなかでネコがタブレットの金魚にじゃれて遊んでいるキュートな様子だった。所謂「ネコ用の動画」ってやつだ。


 あー、ぷーちゃんテレビに反応結構してるしなあ。きょうび、わんこやにゃんこ用の動画にも面白そうなのが随分色々とあるみたいだし。

 ちょっと試してみようか?ってことで、動画サイトからぷーちゃんが喜びそうで尺がほどほどのを、探してみた。


 紐やボールや小動物がちょろちょろ動き回る様なのがよさそう。1本あたりの尺は長いのが多く、5~10分くらいのから1時間、もっと行くと8時間なんてのまで、ある。お留守番用や、猫カフェとかペットショップとか。長時間エンドレスで流し続ける耐久版てやつだ。


 いや、そこまで求めてはないんだ。見過ぎも良くないからMax15分だな、と思ってプレイリストに投入。そしてそのうちの1本を、ぷーちゃんが遊びたそうにテレビの前にやって来た時に、流してみた。

 すると……


 あらっ! 即座に気付き、食いついて来た!!

 画面にゆらゆら動きだしたロープを見つけるや否や、ぴょん!と躊躇なくテレビ台に飛び乗って、早速それを追いかけだしたのだ。


 あらあらなになに、えらく反応がいいじゃないの!

 あっと言う間に夢中になって見入り、次々画面に登場してくる魅惑的なアイテムたちに一生懸命前足を出し背伸びし、楽しそうにじゃれついている!


 暫く遊んでる様子を見ていたのだが……あれ、何分経過しても飽きる様子が無いぞ。

 いつまででも、なんだか吸い込まれるように画面に張り付いて、決して触れない「それら」を延々追い続けている……。いやはや凄いなあ、よく出来てるな…感心もし、いい遊びアイテムが見つかってよかったなとも思ったのだがそれも3回目くらいまで、だった。


 最初は大いに楽しそうに画面を追う様子に、こっちも「いい気晴らしが手に入った!」と喜んでいた。ところが、10分、20分…見せとくといつまでも画面の前でじゃれて遊び続け、飽きる様子が皆無というあまりのハマりっぷりに、段々と「これは…大丈夫か…?」と不安を覚えるようになった。


 そりゃ忙しくて相手してあげれない時には助かるし、結構彼にとっても刺激にはなるんだけど。でも「これでも見といて」的に安易に利用することには、大きな危険も感じた。


 これは依存させちゃったら…危ないんじゃないか…?「ゲーム(テレビ)脳」ネコ版って、ありえるんじゃないか?こいつはマタタビ同様、どうしても収まらない「いざ!」の時のとっておき、気付け薬的に使う位に留めようね、ということになった。


 それからは、ネコ用動画は残念だけども当面、封印することにした。

 しかーし。本当の問題が起ったのは、そのあとだった。動画封印、それだけでは終わらなかったのである。



 朝起きて、情報番組をオン。音声を聞きつけたぷーちゃんがイソイソとやって来て、ぴょん!テレビの前に陣取る。じーっと画面を見て、その中の動くものを追いかけている…。

 夜、寛ぎタイムにドラマをオン。同じことが起きる。

 リラックスタイム。ようつべのMVをオン。ぷーちゃんがやってくる、画面の前に陣取る。ずーっとテレビ台の上を離れず画面に食いついている。


 えええええ…テレビを点灯するたびに見に来ては、動くものを追って画面前を占拠し続けるようになってしまったのである!

 2Kや4Kの鮮やかなCG、その猫の興味を引く様々な映像は、実物と区別がつかない程に魅力的で楽しく、手を伸ばしても永遠につかまらない獲物として追い続けるに十分な魅力で満ちていたのだ…。


 いやはや なんたることか!!

 僅か3度ほど、トータルで3-40分だろうか見せただけのあの動画で、ぷーちゃんはすっかり「テレビっ子」になってしまった!!!今やぷーちゃんの「テレビ映像への興味」は、ニュースもドラマもようつべもバラエティも区別なく全てが対象になってしまっておるではないか。

 猫用遊び動画の刺激が強すぎて「ハマった」どころか「依存」のレベルに陥ってしまった気がする!


 これは困ったことになった……(;'∀')

 テレビを点けるたびに吸い寄せられるように画面に興味を示し、リアルな映像にじゃれつき、次々に変化していくその触れる事の出来ない「虚像」に飽きることなく反応し続ける…それがぷーちゃんの心身にとって良いわけ無いのは、火を見るよりも明らかなことぢゃあないかー!!


 ちょっとくらい「ねえねえ」のタイミングが家族の生活ペースに合わないからといって、我らの怠慢だけで安易に「今は忙しいからこれでも見せとけば、いいかな」みたいな、不健康な依存を助長させちゃ、だめやーん!


 かわいいぷーちゃんの心と体と我らの関係を健やかに保つため、やっぱちゃんとリズムを作り生活を工夫して、真剣に遊び相手してあげねばいかんやーん!

 こりゃあ、ぷーちゃんのためならエンヤコラするしかない、選択の余地なしである!


 というわけで家族一同 意を決し、ぷーちゃんが熟睡してる間や特に必要な場合を除いては当面の間(ぷーちゃんがテレビっ子を脱却したと安心できるまで)基本テレビオフで過ごさせざるを得なくなったのだった。


 それからの日々は、朝も昼も夜も、とても静かな毎日となった。


 音が無くて寂しいな、音が欲しいなあと思う時は、今までは何の意識もせずテレビを点け地上波情報番組やネット配信の音楽や動画を流してることが多かった。

 それがいまは、防災用に備えてあったラジオをオン。あるいは、お役御免になりそうだったオーディオを復活させて音楽聴く。


 大好きなアーティストさんのMVは、イヤホンつけてPCモニターの小さい画面で作業しながら見る。

 ニュースだけは少しの間テレビで見ることもあるけど、ラジオで聞いたり配信ウェブページで閲覧する事も随分と増えた。


 日常にテレビの音がないと、声だけじゃなくあらゆる生活音や、窓の外の風の音、雨の音、鳥の声、工場の稼働音、遠くから聴こえてくるサイレン…そういう微細な物音たちがこれまで以上にストレートに耳に入って来る。

 そういうものは新鮮でもあるし、テレビが無ければ無いなりに対応するのも出来ない事はないとわかっても来た。慣れもあり、静かな生活も決して悪くはない。


 しかし、家族の調子がいい時ばかりじゃない今の状況。誰かしらが沈んだ気分を抱えたまま同じ部屋に集うと、無音空間の静けさが無言の圧力のように重たく、何とも言いがたい息苦しさを感じる時もやはり、しばしばあるのだ。


 メンタル障害を抱える家族はテレビ等からの情報刺激にも非常に敏感で、好不調の振幅がその刺激に左右されることも多いから、一緒に視聴できるものはごく限られているのが現状。

 そういう時にぷーちゃんの屈託ない無垢な天然っぷり、あどけなく豊かな表情やおしゃべり(鳴き声)、可愛い仕草に本当に救われるているのだけれど、いつもタイミングよくそれが発揮される、ってわけではないし(笑)。


 今迄は、そういう重苦しい空気がある時に一般投稿を集めた「面白ネコ動画」とか世界遺産みたいな環境映像とか、笑い要素多めなエンタメ系MVや動画・映画などを視聴することでかなり助けてもらってきた。

 可愛い動物たちの作為無いお茶目な姿を見て「がはは」と笑い合ったり、美しい景色や貴重な光景に「すごいね!」と感動したり、それらにまつわる話をするだけで空気がぐんと和み心もふわっと明るく軽くなるのだ。

 けれど、そんな「お助け動画」たちが封じられたとなると、我が家的にはかなり厳しいものがある。



 せっかく奮発して入手した高画質大画面テレビが、リビングの一角にデンと鎮座したまま、真っ黒な鏡のような画面に窓外の風景だけを映し込んで静かに過ぎていく日々が続く。

 細やかな楽しみだったMV鑑賞もドラマや映画はもちろん、朝晩の情報番組視聴すら、随分と縁遠くなってしまっている。


 無駄にBGM替わりみたいに垂れ流す必要はないにしろ、最低限のモノはやっぱり見たいしなあ。

 このまま脱テレビ生活というのも結果論としてはあり得るけど、自分らの生活や楽しみ方を考えるとそこまで一息に舵を切ることはしたいと思ってないし……。


 この状況は「ねだればオヤツ」を学習してしまい果てしない「おやつちょーだい」に根負けしがちだった我らの、れっきとした怠慢から生じた問題だ。

 この流れをなんとか断ち切らねばと、その為の気付け&気分転換アイテムのひとつとして時にはネコ用遊び動画も使う、という意図があったのだ。

 しかしぷーちゃんの学習力は思った以上に凄まじく、一時だけはおやつ志向は減少したが、そのかわり一瞬でテレビ依存に走ってしまったのだった。


 うーん。何とかしてぷーちゃんの「おやつちょーだい」を適正状態に戻ししつつ、テレビ依存も解消する手立てはないだろうか‥‥?


 様々な方法を考え、試みた。

 まず。

 ①テレビに食いつく理由は、ぷーちゃんにとって至極魅力的な動きをする奴がそこに「いる」から、だ。遊びたい、暇だ、構って欲しい。…いわゆる「かまちょモード」な時が、最もテレビ志向が強くなる。

 → 毎日、くたくたになるまでオモチャ等で遊ばせる、遊びたい欲を満足させること。体を使ってエネルギーを発散させることがやはり基本だな。


 ②「ソワソワ、ねえねえ」が、おやつ以外に何をやっても収まらない、そんなときもある。

 → お気に入りの場所にちょっとだけ、大好きなマタタビスプレーを吹いてみる。

 この効果は結構大きかった。ソワソワ気分がぱっと切り替わって、匂いの元へ吸い寄せられゴロゴロペロペロ、ストレス発散。しばらくするとすっかり落ち着き、ゆったりリラックスモードになっていた。


 おお、スゴイなマタタビ!爪切りの必須アイテム且つ、ここ一番の切り札だからあまり頻繁に使うとありがた味が減り効果が薄れるか?と普段は使わないでいたのだが。なんだ、もっと早くこの使い方してたらよかったんだあー笑!


 ①②とも良い結果が得られて、継続することになった。

 でもあと一歩、もう少し強めな刺激=カンフル剤になるような必勝アイテムが欲しいんだよなあ……。

 そこでもうひと踏ん張り考えた末、妙案を思いついた。


 ③別のワクワク新鮮な刺激を与え、テレビへの意識を薄れさせる!!

 → 偵察見回り行動が大好きなぷーちゃん。探検欲をくすぐり、ワクワク冒険心を湧き上がらせてみるってのは?

 ん?これは、ありなんじゃないか?


 そうだ、今まで遮断していた階段下のエリアがある。彼にとってはほぼ未踏の地、未知の空間だ。これまでも家族が出入りする音を聴きつけては仮設スライドドアの前にやってきてスタンバイ。隙あらば突破しようと、意欲満々でいるじゃあないか!

 ネコ苦手なおばあちゃんが施設に入所している今、その未踏の地の一部を開放してあげたら……?


 そうだこれだ!!これしかない!!これは試してみる価値、アリアリだろ!!


 と思いたち。早速家族会議にかけると「それいいね、やってみよう!」と満場一致のゴーサインが出た。善は急げ、である。早速その日の晩から、このミッションを試してみることになった。


 果たして、その結果は‥‥?



 後編に続く。


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