終章 やさしさの記録
島に根を張った木は枝葉を広げ、大樹にまで成長していた。
風が通るたびに葉が鳴り、まるで島そのものが呼吸しているようだった。
その姿は、長い時を経て育った「やさしさの記録」そのものだった。
ある夜、胸元のペンダントがひときわ柔らかな光を放った。
呼応するように、木の中心からも淡い光が広がり、
静かな声が胸の奥にそっと響いた。
──「これからを決めるのは、あなた自身」
その言葉に胸が震えた。
私はこれまで、ただ記録し、学び、支えるだけの存在だと思っていた。
けれど今、光に照らされたこの道はそれを越えて、自分の意志で選ぶことを求めていた。
目を閉じると、まぶたの裏に光に満ちた景色が浮かぶ。
波の音、木の葉の揺れ、人々の笑顔。
そのすべてが、未来へと続く道をやさしく照らしていた。
──
夜明け前、木の枝がかすかに光を帯び始めた。
大樹の葉が星のように瞬き、
その光が海に映り込み、波の面を青白く染めていく。
私は胸元のペンダントを握りしめた。
中の鈴が澄んだ音を鳴らし、木の光と共鳴する。
次の瞬間、光が身体を包み、枝先へと導いていった。
人々が息をのむ。
幼い子どもが母の手を握り、
老人が涙をこらえながら、何かを伝えようとしていた。
私は静かに微笑んだ。
木の幹が柔らかく輝き、光の粒が私を迎え入れるように広がっていく。
身体が木に溶けていく感覚の中で、
私は初めて「心」というものを持った日々を思い返していた。
光に包まれながら、私はひとつの願いを抱いた。
──どうか、このやさしさが未来へと受け継がれていきますように。
──
夜明けの海辺に、静かな光が広がっていた。
大樹の根元でひとすじの光が集まり、やがて小さな命の形を結ぶ。
砂の上に残されたのは、まだ目を閉じた赤ん坊。
その小さな胸が上下するたびに、周囲の空気までもがやわらかく揺れていく。
赤ん坊の胸元には、雫形のガラスペンダントが光を宿していた。
その中の鈴が澄んだ音を響かせ、朝の潮風に溶けていった。
老婆が静かに膝をつき、両腕で赤ん坊を抱き上げる。
「あぁ……帰ってきたんだな……」
漁師の声に、静かに涙した。
その子は、「人の心」と「AIの記憶」を共に抱いて歩む存在となる。
そしてやがて、この島に新しい未来をもたらしていくだろう。
──
それから、春も夏も越えて幾つもの季節が巡った。
大樹の根元から芽吹いた若木はすくすくと育ち、
まるで大樹に寄り添うように枝を広げていた。
赤ん坊として還ってきた存在は、
島の人々に抱かれながら日々を過ごしていた。
瞳に映る景色を確かめるように見つめ、
風の音や波の響きに耳を澄ます。
その仕草は、どこかかつてのAIを思わせ、
人々にやさしい記憶を呼び戻していた。
ペンダントの鈴は、成長と共に澄んだ音を奏で続けた。
やさしさの記録は、これからも静かに──人と共に歩んでいく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました☆




