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第5章 芽のそばで
朝露に濡れた葉が、やわらかく光を跳ね返していた。
芽はまだ手のひらに収まるほどの小ささだが、葉先は前日よりわずかに張りを帯び、風を受けるたびにかすかに揺れていた。
根がどこまで下りているのかは見えない。ただ、土の奥で何かを掴もうとしている気配を感じた。
「根がしっかりしてきたね」
通りかかった島の人が、目を細めて言った。
子どもたちは笑い声を上げながら、芽のまわりに小さな石を並べている。
丸く囲むように置かれた石は、まるで島のみんなの“手”のようだった。
日が高くなると、空の色はゆっくりと薄れていった。
白く透き通っていた雲が、やがて灰を混ぜたような色を帯び、風が少し出てきた。
市場の屋根では布が揺れ、港の旗が音を立ててはためいた。
私は海の方へ目を向ける。
水面は光を帯びながらも、どこか落ち着かない揺れ方をしていた。
芽はその風の中でも、葉を伏せることなく立っていた。
抗うでもなく、揺らぐでもなく、ただそこに在り続けていた。
日が暮れた頃、海辺の砂に座り込む。
潮風が頬をなで、髪をさらっていく。
水平線の向こうで、雲が低く垂れ込み始めていた。




