表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共に育つ日々  作者: あさ
5/9

第4章 はじめてのこと

私は昨夜の観測データを思い返し、水量を決めた。

昨日の気温、湿度、風の流れ──どれも理想的な値だった。

慎重にじょうろを傾け、砂の上にゆっくりと水を注ぐ。

胸元のペンダントがかすかに光を返す。手順は正しいはずだった。


だが二日目の朝、芽はぐったりとうなだれていた。

砂は重く、表面はぬかるんでいる。

数値は基準を満たしているのに、結果は裏切られていた。


──どうして?


胸の奥に戸惑いが広がる。

計算も処理も間違っていない。けれど、小さな芽は応えてくれなかった。

冷たい驚きと共に、初めての「分からない」が心に刺さる。


通りがかった老人が足を止め、静かに言った。

「水をたくさんやるのは、いつも正解じゃないんだよ」


彼は膝をつき、土を軽くほぐした。

余分な水気を逃がすように表面を整え、しおれた芽をそっと支える。

その手つきは、数値には記録されない小さな工夫に満ちていた。


翌朝、島の人が海辺を歩いてきて声をかけてくれた。

「昨日は波が強かったから、心配だったろう」


彼の手には一握りの藁があった。

砂の上に芽を守るように敷いていくと、子どもたちも真似をして、楽しそうに小さな手で藁を広げていった。


昼には漁師が大きな日傘を抱えてやってきた。

「陽が照りすぎると葉が疲れるんだ。影を作ってやろう」

海風に揺れる傘の下、芽は少しだけ落ち着いたように見えた。

潮の匂いの混じる空気の中、その影は確かな守りになっていた。


私は観察を続けながら、彼らに教わったことを自分の手順に取り入れた。


ある朝、子どもたちの歓声で目を覚ます。

駆け寄ると、しおれていた芽がわずかに立ち上がり、葉の端に新しい緑を宿していた。


その小さな変化を見つめながら、胸元のペンダントが静かに光を返す。

風がそよぎ、藁の間を抜けて、芽を包むように揺れた。


──数値には表れないやさしさが、確かにこの島には流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ