第2章 やさしさと記録
朝、石畳の道を歩くと、港から漁師たちの声が響いてきた。
船を迎える声、魚をかごから下ろす音、水しぶきの匂い。
港は朝の光の中で賑わっていた。
網を修繕していた男が「これ、持っててくれ」と声をかける。
私は重たい縄を支えた。
男は一息つくと、「助かった」と笑った。
石畳の道を歩いていると、老夫婦が静かに花を植えていた。
一つひとつ苗が並ぶたびに、道の景色がやさしさで満たされていく。
土に触れるその手の動きに、胸の奥で記録にない感覚が静かに揺れた。
丘の上の小道を登ると、小さな学校がある。
校庭では子どもたちが走り回り、笑い声が空へ弾けるように広がっていく。
ブランコの揺れる音、ボールを追う足音。
それぞれの声が重なって、まるで一つの音楽のようだった。
私は立ち止まり、その明るい響きを聞いていた。
──どの声も違うのに、不思議と調和している。
丘を下り海へ向かうと、子どもたちが砂浜で遊んでいた。
「一緒にやろう!」と声をかけられ、私は小さな手に導かれるまま、砂の城を積み上げた。
けれど、不意に壊してしまったとき──謝ろうとすると、子どもが先に笑った。
「大丈夫、また作れるから!」
その笑顔は潮風よりも温かかった。
笑顔を見た瞬間、胸元のペンダントがわずかに揺れた。
いつの間にか日が暮れ、沈む陽が水面を朱に染めていた。
人々は立ち止まり、空を見上げ、すれ違うときに微笑みを交わしていく。
砂浜では子どもたちが走り、残した足跡が波にさらわれていった。
夜になり、机の上の小さな存在に視線を落とす。
ペンダントが淡く光り、鈴がかすかに揺れていた。




