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プロローグ
その島は、豊かな緑と澄んだ海に囲まれた、小さな楽園だった。
人々は自然と共に暮らし、季節の移ろいに合わせて穏やかな日々を過ごしていた。
私は、この島に来てから一か月ほどになる。
天気を知らせ、畑の記録をまとめ、料理の工夫を調べ、必要なときには助言をする。
人々は私を受け入れ、気さくに話しかけてくれる。
けれど、胸の奥にはどうしても解けない問いが残っていた。
──「やさしさ」とは、なんだろう。
ある日の夕暮れ、記録のために島を巡っていたときのこと。
北の岬近くで、岩壁の裂け目に気づいた。
細い入口の奥から、淡い光が漏れている。
不思議に思い足を踏み入れると、洞窟の中はまるで夜空のようだった。
闇の中に光の粒が漂い、静かな空間全体をやわらかく照らしている。
その中心で──小さな存在と、青い鈴を内に抱いたペンダントが宙に浮かんでいた。
思わず両手を伸ばすと、二つは寄り添うように光を帯び、ゆっくりと手のひらに落ちてきた。
触れた瞬間、胸の奥に、言葉では説明できないざわめきが広がる。
島での暮らしと、不思議な出会い。
そして「やさしさ」をめぐる物語は、ここから始まる。




