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思い出の絵本

 大陸殿下会2日目の目玉行事は「視察」だ。

 我が国の1番自慢したいところにご案内するのだが、この場所の選定には苦慮した。

「文教の国」とも言われる我が国は、製紙業や製本業が発達している。

 しかしその技術は見せたいようで見せたくないので、陛下にもご意向を確認した上で、国立図書館と大陸では珍しい10歳からの子どもの教育を行なっている王立学園初等部に視察先が決まった。

 一行は長い行列を成して、まずは城下の王立図書館を目指す。

 王立図書館は、古代の神殿を彷彿とさせる格調高い石造りの外観で、内部空間は本を守るために日光が優しく入るように半円の扇窓となっている。

 蔵書数は5万冊と大陸一の数を誇っている。

 な、すごいだろ。見てみたいだろう?

 しかし、殿下達がまずは建物の外観では少しも驚かないことには思わず苦笑してしまった。

 我が国では、この王立図書館は荘厳で一際目を惹く立派な建物で国民の自慢のひとつでもあるし、俺もそう思っていたのだが、よくよく考えると殿下達のお住まいは「城」であり、多くの方は古くて巨大で格調高い建築物に住んでおられるのだから、日常の延長線上でしかないこの建物に驚かないのは当然だ。

 でも、半円の均整の取れた扇窓には皆、興味津々だ。

 話しは少し外れるが、そう「窓」というのはその国の気候と密接な関係にあることが多い。

 強い日差しの国では窓は小さめだし、日照時間が少ない国では、自然光を取り込もうと窓が大きめだったりする。

 そして、窓にガラスが嵌め込まれているのは平和の象徴でもある。

 この大陸殿下会が結成される遥か昔は、城は要塞だったために、窓は板戸で覆われていたし、市井の人々の家の窓は羊皮紙であったと聞いている。

 敵からの侵入を考える必要がなくなり、ガラス窓が普及したらしい。

 

 俺がこの王立図書館ではなぜ扇窓を採用しているのかを説明したり、建物の内部の構造を話した後、蔵書の管理等については館長が説明をする。

 その後は殿下達は自由見学となるのだが、大半の殿下達は建物を見られるよりも本を手に取って、本をめくられている。

 どんな本にご興味がおありなのかと観察するが、どの殿下も普段からよく本を読んでおられるようで、慣れた手つきが伺える。

 

「おーい、アーロン!こっちに来いよ。教えてくれ!」

 何があったのかと、ひときわ人が集まっている中心にいるウィリアム皇太子殿下の元に呼ばれて行ってみると、ひとつの本を囲んでたくさんの殿下が指を指している。

 何の本かと思えば絵本であった。

「ハトのパン屋さん」という絵本。

 我が国では昔から子どもに大人気の絵本だ。

 最後のページにはたくさんの種類のパンの絵が描かれている。

 おさかなパン、てんとうむしパン、おなべパン…

 見開きいっぱいいっぱいに様々なパンが描かれている。

 ずっと見ていられて、とても楽しい絵本だ。

「私が幼いときはこのパンが食べたかったんですよ」

「俺はこれだったな」

 殿下同士で口々に幼いときにこの絵本を読んで食べたかったパンを言い合っては指を差し、俺も気になっていただの、意見を言い合っている。

 この絵本って、大陸共通だったんだな。

 国境を越えて殿下同士で盛り上がれる絵本、なんて素晴らしいんだ。

 その様子をひとりの年老いた側近が目を細めて見ておられた。


「うちの殿下もこの絵本が好きでしてな。この本を読んで欲しいと何度もせがまれて、よく読んだものです。最後のこのページは特にお気に入りで寝かしつけに読んでも、なかなか寝てもらえませんでした」

 一同が、うんうんと頷く。

 みんな、心当たりがあるんだな。

 俺はチラリと遠巻きにこの様子を伺っていたエーベルを見る。

 また、エーベルも俺と同じことを思い出したのだろう。

 俺達もこの最後のページのたくさんのパンの絵を一緒に見ながら、どれが食べたい?とエーベルとよくこの本で遊んだな。

 ひとりの殿下に肩を優しく叩かれる。

「アーロン殿下、貴国の製紙技術や製本技術は、この大陸になくてはならないものです。多くの子ども達の未来のためになにがあっても、この技術を守り発展させてください。子ども達の本の体験を途絶えさせないように我々も努力をします」

 一同が真剣な表情で俺を見る。

 皇太子殿下達の未来の子ども達への熱い想いを受け止める。

 立派な建物に目を奪われるのではなく、常に国民の未来を考えている殿下達。

 改めて、視察の重要性を噛み締める。

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