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忘却の剣、彼方へ  作者: Zero3
第二章

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冒険者達③

翌日。

リオンは渋々、ゼーナとカイルの依頼に同行していた。

昨日あれほど打ちのめされ、気を失ったというのに、朝になればゼーナは傷だらけの顔で「依頼を受けたから着いてきて」と言い放ったのだ。

平然としたその様子に、リオンは思わず心の中で驚いた。常人なら1日は寝込むはずだが、普通に活動しているようだった。


依頼に同行しようと合流したカイルもゼーナの傷が気になったようだ。


「……ちょっと待って、ゼーナ」


ゼーナの顔に目をやった瞬間、その表情が固まった。袖口の隙間から覗いた肌や顔に、火傷のような赤黒い痕がいくつも走っていたのだ。


「これ、どうしたんだい?」


問われたゼーナは、少し言いにくそうにしながらも正直に答えた。


「……リオンと、模擬戦をしてた」


「は?」


カイルの眉間に皺が寄る。その視線が即座にリオンへと突き刺さった。


「おいリオン、こんな年下相手にどういうつもりだ!」


「チッ……うるせぇな。模擬戦だろうが、こいつが望んでやったんだよ」


「望んだ?だからって加減ってもんがあるだろ!」


「加減したに決まってんだろ!見ろ、まだ生きてんじゃねぇか!」


二人の言い合いの声が背後で続く。

ゼーナは振り返らず、気にもしない様子でそのまま足を進めた。


――その後、三人は依頼の現場へと足を運んだ。

今回は平原で採れる花の根の採取。危険もなく、淡々と作業をこなすだけの退屈な仕事だった。


(……くだらねぇ)


リオンは心底ウンザリしていた。戦いを求めて冒険者になったというのに、こんな雑用同然の依頼ばかりでは苛立ちも募る一方だった。


依頼を終え、帰路につく頃。

ゼーナが口を開いた。


「リオン。また、魔刻術での模擬戦をやりたい」


「はぁ?俺になんのメリットがあるってんだ。雑魚の相手はもうウンザリだ」


リオンは即座に切り捨てる。だがゼーナは引かない。


「どうしても……だめ?」


ゼーナの言葉に、カイルが苦い顔をして口を挟む。


「ゼーナ……その傷じゃ流石に危ないよ。せめて傷が治ってからがいい」


けれどゼーナは視線を逸らさず、真剣な眼差しをリオンに向け続ける。


「……勉強した。魔刻術はとても強い力だって。それに……試したいこともあるから」


リオンは鼻で笑い、言った。


「知るかよ。てめぇがどうしたいとか、俺には関係ねぇ。面白くないからやらねぇって言ってんだ」


その断固とした言葉に、ゼーナの眉がわずかに寄る。

それでも視線を逸らさず、きゅっと拳を握りしめ――


「付き合ってくれないなら……リオンがまともに依頼を手伝ってくれないって、ギルド長に言う」


「……てめぇ、脅してんのか?」


「……」


ゼーナは言葉を返さず、ただ強く視線を返した。

リオンのこめかみがぴくりと動き、舌打ちが響く。


「クソッ……!わかった!付き合ってやるよ!」


吐き捨てるように言い放ちながらも、リオンの胸の内には別の思惑が渦巻いていた。

本来なら、こんな子供の相手を二度もする気など毛頭ない。

だが、もしここで断り続ければ、ゼーナが本当にギルド長へ訴えかねない。

ただでさえ「お守り役」なんて不愉快な立場を押しつけられているというのに、そのうえでペナルティを課されるなど、冗談ではなかった。


(……チッ、これ以上、余計な面倒はごめんだ)


不満は確かに溜まっていた。

ゼーナを嬲ることで発散できる苛立ちなど、たかが知れている。むしろ、この退屈な日々の積み重ねで溜まる鬱憤の方が大きい。


脳裏をかすめるのは、昨日路地裏で交わした「帝国の男」との会話だった。

あの男が囁いたあの計画。

あれが動き出せば、この鬱屈とした状況もひっくり返せるかもしれない。


(……それまでは我慢だ)


リオンは心中で決意を固めた。

その後、幾度となくゼーナに模擬戦を挑まれた。

一度や二度ならともかく、気を失うほど痛めつけても、一日、二日と経てばまた目を輝かせて挑んでくる。

鬱陶しさと苛立ちが募り、気づけば手加減は薄れていた。

最初は“子供相手”という意識がどこかにあったはずだ。だが何度も叩き伏せ、雷で焼き、槍で吹き飛ばすうちに、その枷は外れていく。


それでもゼーナが諦めることはなかった。

模擬戦のたびに体は傷だらけになり、気を失う。それでも一日から二日後にはまた、傷の大体を癒し、模擬戦を挑んでくる。


(……本当にガキかよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ギルドの治療師でもここまで早くねぇ)


リオンは心の中で呟く。苛立ちに混じり、得体の知れない感覚が胸にわずかに残った。



そして――変化が訪れたのは、五度目の模擬戦だった。


リオンは開始と同時に、魔刻術(エンブレア)――雷装(イクザール)を発動した。

青白い雷が身体を駆け巡り、槍の穂先から火花が散る。稲妻と共に地を蹴り、一瞬でゼーナとの距離を詰める。

そして、唸るように突きが放たれる。

だが――


「っ!」


ゼーナの剣が、寸分の狂いもなくその軌道に合わせられた。

火花が散り、衝撃が闘技場に響く。


「……な!?」


「……うっ!やった……」


リオンの瞳に驚愕が宿る。

今まで散々叩き伏せてきたはずの子供が――完璧に、雷速の一撃を受け止めた。

雷撃の痛みに耐えながらもゼーナは嬉しそう笑みを浮かべる。


「……偶然だろッ!」


苛立ちを隠すように、リオンはさらに力を強める。

再び加速、雷鳴と共に槍が薙ぎ払われる。

直撃する――そう思った瞬間。


「――バーストッ!!」


ゼーナの叫びが轟く。

魔力を帯びた剣が、リオンの攻撃を再度受け止めた。

同時に剣に帯びた魔力が雷を模し、雷撃を相殺する。


稲妻と稲妻がぶつかり合い、閃光が闘技場を照らした。

視界が揺らぎ、風が渦巻く中――ゼーナは立っていた。


「ッ……!」


リオンの声が震える。

雷装――絶対の自信だったはずの高速攻撃も、雷撃も。

一撃とは言え、ゼーナは正面から防ぎきったのだ。


その後の展開は正しく泥仕合だった。

剣と槍がぶつかり合う音が、ひたすらに闘技場へ木霊する。

雷光と雷光が散り、砂埃が舞い上がる。


だが、決め手は――来ない。


リオンは攻め続け、ゼーナはその場から動かず守り続け、それでも崩れない。

やがて雷撃は弱まり、ゼーナの剣も光を失っていく。


そして。


「……はぁ……はぁ……」


「……チッ……クソ……」


両者の魔力はほぼ同時に尽き、二人は肩で息をしながらも向かい合っていた。

その瞳には、なおも消えぬ闘志だけが残っている。


(雷撃が魔法か何かで打ち消すのは真っ当な対処法だ。このガキにそれができるのは予想外だったが……)


リオンが舌打ち混じりに言い放った。


「……てめぇ……どうやって見切ってやがる……。お前程度じゃ、追いつけねぇ速さだろうが……!」


ゼーナは息を整えながら、静かに答える。


「……魔力を注意して見たの……。リオンの身体を流れる雷の魔力を感知して、動きを追った」


ゼーナは目で追うのではなく、魔力操作の基本のひとつ、魔力感知によってリオンの動きを追っていた。


「目で見るより……魔力の流れを頼りにした方が、防ぎやすかった」


リオンの目がわずかに見開かれる。

ゼーナはさらに言葉を重ねた。


「リオンの雷装(イクザール)は……雷の魔力で身体を強化する魔刻術、なんでしょ?加速する時は足に……攻撃の時は、腕から槍に魔力が流れる。そこから予想した」


その流れは魔力操作に置ける、“身体強化”の魔力の流れにそっくりだった。その流れから動きを予想し、防御を合わせていた。

雷撃を打ち消したのはバーストによる雷撃だ。バーストは元々魔力を火に変える“変質操作”の失敗によって産まれたものだ。雷を実際に受け続けることで、イメージを固め、今朝ついに雷撃のバーストを習得した。

リヴェリアが転生するために創られた身体。創られた身体に宿る戦闘センスがそれを応用し、雷装を打ち破ったのだった。

ゼーナは浅く息を吐き、わずかに笑った。


「ありがとう……リオン」


リオンは突然の感謝に、思わず言葉を失った。

「ありがとう」――その一言は、何よりも癇に障った。


苛立ちが胸の内を灼く。

それは、ただの怒りではなかった。

ここ最近、己の実力を根底から揺さぶられるような出来事が続いていたからだ。


一度目は、魔門の前。

ノクスとヴァルトが対峙したあの時。リオンはただ立ち尽くすしかなかった。介入できる隙など、どこにもなく、圧倒的な実力差を目の当たりにした。


二度目は、ヴァルトとの模擬戦。

実力の差を受け入れられず、自分の力を誇示するために戦った。結果は一瞬で叩き伏せられる惨敗だった。


そして三度目は――今。

冒険者になったばかりの、ガキに。

自分の魔刻術、雷装(イクザール)を正面から打ち破られた。


奥歯を噛み締める。

だが同時に、胸の奥で別の熱がじわりと広がる。


リオンもまた――武の才を持つ者だった。

自らに宿った魔刻術が発現してから、彼はそれ自体を鍛えたことはなかった。

理由は単純だ。

「雷装」は強い。雷を纏い、身体能力を飛躍的に向上させる。そう理解していた。だからこそ元の肉体の力を磨くことに重きを置いてきた。


だが今、ゼーナの言葉が脳裏をかすめる。


――「加速する時は足に、攻撃の時は腕から槍に、魔力が流れる」


リオンは無意識のうちに雷の魔力を身体に流し、動きを強化していたようだ。

もしそれを「意識して」より効率的に操れたなら、雷の流れを自在に制御し、強弱をつけて使い分けられたなら。


(……俺の“雷装”は、もっと上に行ける)


リオンは確信した。

苛立ちの奥に芽生えたのは、次なる戦いへの渇望だった。

リオンは肩で荒く息を吐きながら、ゼーナを鋭く睨みつけた。


「……二日後だ」


「えっ?」


「……二日後にもう一度だ。次はこう上手くいくと思うなよ……」


それだけ言い捨てると、ゆっくりと立ち上がり、背を向けて闘技場を後にする。

あまりに一方的な言葉に、ゼーナはただ口を開けたまま呆然と立ち尽くすしかなかった。





――そして二日後。


昼下がりのギルド。

カイルは訓練場に姿を現し、軽く準備運動を始めていた。

剣を磨き、呼吸を整える――そんな穏やかな時間を、突如として轟音が切り裂いた。


「……っ!?」


爆ぜるような音と共に、眩い閃光が闘技場の方からほとばしる。

訓練場にいた冒険者たちが一斉にざわめき、騒ぎが広がる。


カイルは驚きながらも駆け出し、音のした闘技場へと走った。


重たい扉を押し開けた瞬間――

視界に飛び込んできた光景に、思わず息を呑む。


広い闘技場の両端。

ゼーナとリオンが、それぞれ逆の壁に叩きつけられたような跡を作り、そこへ座り込んで荒い呼吸を繰り返していた。

衣服は焦げ、周囲の床には雷による大きな焦げ跡と爆発の痕跡が刻まれている。


「……クソガキ……てめぇ、やってくれたな……」


リオンが口元を吊り上げ、笑った。

その顔には怒りと同時に、妙な充足感が滲んでいた。


ゼーナもまた、痛みに耐えながら、それでも微かに笑みを浮かべる。


「……リオンもすごいね……その技……」


互いに限界を迎えながらも、笑みを交わす二人。


カイルはその光景に言葉を失い、ただ困惑するしかなかった。

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