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忘却の剣、彼方へ  作者: Zero3
第二章

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23/33

プロローグ

変更点

登場人物 ラクルス→ラクールに名前を変更

乾いた風が、テラノヴァの草原を吹き抜ける。

その風の中に立つ一人の騎士は、顔をしかめたまま動かない。


――なぜ、あの男が指揮を執っている?


ラクール・グレイアムは、草の揺れも気にせず睨むように遠くを見つめていた。

そこには、黒衣の剣士――ノクス・ラディアの姿がある。魔門の足元に立ち、全体を指揮しているその男は、まるで覇気のない一般人のような雰囲気を纏っていた。


「……納得がいかない」


誰に聞かせるでもなく呟いた言葉は、草原に吸い込まれていく。

肩を覆う銀装のマント、魔導金属の装飾が施された美しい甲冑。それらはすべて帝国本軍が誇る最新鋭の装備であり、彼の家門の資金力と地位を如実に表していた。


ラクールは、帝国内でも屈指の名門とされるグレイアム家の嫡男だった。

幼少から徹底的な教育と訓練を受け、剣・魔術・軍略において常に頭角を現してきた。

今年、晴れて上級騎士に昇格したことで、次なる栄誉――帝国直属の部隊を率いて任務へと赴く夢に手が届いたと確信していた。


――だというのに。


「なぜ私でなくやつが……?」


ノクス・ラディア。

その名を知る者はいても、実像を語れる者はいない。

表舞台に立った記録も乏しく、部隊を率いた記録すらない。

ただ、帝国の上層部――特に皇帝直属の機関にだけ異様に評価されているようだった。


「功績も実績もなく、黙っていれば影のように存在を薄める男が、私の上に立つだと?」


理不尽だ、とラクールは思う。

剣士長などという称号、形式上の飾りにすぎない――そう断じていた。

確かに、以前一度だけノクスが戦う場面を目にしたことがある。

だが、それは一瞬だった。剣を抜いたその直後、敵が血を噴いて崩れ落ちた。

力強さも速度も見えなかった。ただ、結果だけがそこにあった。


「……あんなもの、何か仕込みがあるに違いない」


ラクールは、心のどこかでノクスの力を認めかけている自分を否定するように、必死でそう考えていた。

あくまで自分こそが、正当に帝国を担うにふさわしい存在であり、実力と名誉、全てを兼ね備えているのだと。


そんな折だった。ノクスから、密命が下されたのは。


「冒険者達の調査隊にいた少女を、調査対象として監視してください。身分を隠し、冒険者として接触すれば問題なく近づけるでしょう。後で人相書きをお送りしますね」


丁寧な口調だった。説明も、命令口調ですらない。その話し方もラクールの癪に障る。


ラクールはそのとき、別の意味で息を呑んだ。


「……監視? ただの見張り役を私に?」


愚弄にも程がある。

そんな下働きが、貴族の名を持つ自分にふさわしいとでも思っているのか?


ラクールは心の内でノクスに牙を向けながらも、命令に従うふりをした。

だが、彼はすでに決めていた。


(これはチャンスでもあるか……)


――少女を見張るのではない。確保し、連れ帰る。それも、ノクスを出し抜いて。


自分が見つけ、連れ帰れば、すべての功績は自分のものとなる。

ノクスが注視していた少女が実は“何か”であったなら、それを見抜き、捕らえた者こそが真の功労者だ。


「フン……利用させてもらうぞ、“剣士長”殿」


ラクールは馬の手綱を引き、草原の奥へと向かう。

調査隊からは一時離れ、冒険者としての装いに身を変える準備を進めるためだ。


その瞳は、獲物を狙う狩人のそれだった。


ノクス・ラディアは、遠ざかっていく銀装の背中を静かに見送っていた。

無言のまま、草の揺れる音だけが耳に届く。風がやがて止むと、世界が急に静まり返ったように感じられた。


「……グレイアム家の坊ちゃんは、わかりやすくて助かります」


わずかに口元を歪めて呟く。誰に聞かせるでもないその声音は、淡々としていて冷ややかだった。


ノクスの視線はすぐに魔門――何時からの物かも分からない封印を破り、今なお仄かに魔素を放ち続ける異形の門へと移る。

その裂け目のような構造物の前に、半ば崩れたまま転がる黒い残骸があった。


魔道装甲と、硬質な金属の外殻。焼け焦げたその姿には、爆発と斬撃の痕跡が重なっていた。

構造から判断して、これは戦闘用に設計された自動兵器――過去の魔導文明が遺した、いわゆる防衛装置の一種だろう。


「……破壊されたのは、最近。少なくとも、この門が開かれてからそう時間は経っていない」


地に膝をつき、残骸の一部に触れる。指先に伝わる金属の硬質さと、砕けた魔導回路の痕跡が、その推測を裏付ける。

そして――その周囲に落ちていた、焦げ跡の中に見つけた一片の金属板。それには紋章が刻まれていた。


「やはり……」


ノクスは懐から、メモを取り出して並べた。

かつて魔門の内側で発見された遺構の柱に刻まれていた紋章と、形が一致している。

そして数刻前、密偵が報告してきた内容。テラノヴァ側の調査隊に保護された少女が、同じ紋章を刻んだ剣を所持していたという。


「記憶違いではありませんでしたね。なら、中から出てきた……かもしれない、か」


確証はない。ただ状況をつなぎ合わせれば、その可能性は高い。

魔門の奥に潜んでいた何者か――それも、知性ある存在。

この兵器を破壊できる力を持ち、紋章を有する武具を携え、外の世界へと歩み出した。


「……だとすれば、随分と面白くなってきました」


風が再び吹いた。

ノクスは立ち上がり、焦げ跡を見下ろしたまま、まぶたを細める。


テラノヴァ側に保護されたという少女の詳細は、未だ知れない。名前も、素性も、行動も。

だが、密偵の報告によれば、確かに“紋章を持つ剣を携えた少女”が、あの調査隊の中にいる。


「調査に来たのが私で良かったですね。少女の紋章に気が付かなればこの繋がりは見えなかった」


つぶやきながら、ノクスは足元の焦げ跡を一瞥し、再び魔門へと向き直った。

その少女が何者であるかも含め、すべてはまだ仮定にすぎない。


けれど、ノクスの中には確かな勘があった。


「何かが……起きそうですね」


その時までに、自らの役割を果たしておく必要がある。

そのためならば――


「皆さん。一度調査は切り上げます。各地に潜み、何が起こるか傍観するとしましょう」


声は静かだったが、底知れぬ冷たさと狂気を孕んでいた。


ノクス・ラディアは、ゆっくりとその場を後にする。

その足取りは、まるで世界の深淵を覗くように、何の迷いもなかった。

2章開幕です

1週間程度の不定期更新です

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