EX ゼーナのお料理編1
アストリア王国跡地、ミリエール地下道。
地下道での探索中、倉庫の奥でゼーナは小さな木箱を見つけた。
中を確認すると、白くて細かい粉がぎっしりと詰まっていた。
彼女はひとつまみ指ですくって、恐る恐る舐める。
「……ん。しょっぱい……?」
舌がピリッと痺れる感覚に顔をしかめた瞬間、頭の中に声が響いた。
『おぉ……塩だな、それ!』
リヴェリアの声は、いつになく満足げだった。
「しお?」
『調味料だ。食い物にかければ味が変わる。いや、まともな味になる。さすがに焼いただけの肉はもうこりごりだと思ってたんだ』
「そんなに……まずかったの?というか、味感じるの?」
『お前と感覚は共有されてんだから味も感じるさ。
まぁそのおかげで吐きかけたことが三度あるがな』
ゼーナは肩を落とした。ひどい言われようだ。
だが、味が変わるのなら――試してみたいと思った。
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古びた調理場で鍋と鉄板を見つけたゼーナは、昨日仕留めた小動物を解体し、準備を始める。
火を起こし、鍋を置いて――
「……どうするの、これ?」
『まずは肉を焼く。鍋に入れれば焚き火臭くなることも無いだろ』
「なるほど……」
今までゼーナは肉を焼く際、焚き火に肉をそのまま放り込んでいた。鍋がなかったと言うのもあるが、ゼーナの性格が大雑把なのが大きい。自信の内側にいるリヴェリアから感じる大雑把さに影響されたのだ。
ゼーナは鍋に肉を放り込んだ。
だが火が強すぎて煙が上がり、鍋が赤くなっていく。
「やばい、なんか燃えてる!」
『火が強すぎる!火力を落とせ!というか、鍋が炭になりそうだ。水をかけろ!』
「水!?それっ!」
『あ、おい!』
ゼーナは肉を入れたまま鍋に水をぶちまけた。
ジュッと音を立て、白煙が立ち込める。
「ごほっ、ごほっ……ぜんぜんうまくいかない……!」
『まぁそんなもんだろ……』
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再挑戦の末、火加減を調整しながら肉を鍋に乗せる。じゅうじゅうと音を立て、油が弾けた。
「返すタイミングっていつ?」
『焼けたら返すんだろ』
「焼けたって、どこ見てわかるの?」
『色が変わるとかか?』
「焼けてる面は見えないよ」
『……勘で返せ』
ゼーナがひっくり返すと、片面は茶色になっていた。
だが、同時に鍋にくっついてバラバラになってしまう。
「……これ、食べられるの……?」
『どうだろうな……』
そのまま焼いているとさらに崩れ、粉々の肉片になった。
仕方なく皿に盛り、塩をふって口に運ぶ。
「……しょっぱい。でも、前より美味しい……かも?」
『まぁ……半生と焦げの塊よりはマシか。少しはお前の味覚も人間に寄ったか』
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そのあとも、ゼーナは煮ようとして水を入れすぎて薄味にしたり、塩を忘れて無味にしたり、逆に入れすぎて塩の塊を噛んだりと、失敗を繰り返した。
それでも彼女は火を起こし、肉を焼き続けた。
焦がし、塩辛くし、水っぽくし――それでも、諦めず繰り返した。
最後の一切れを焼き終えたとき、塩はもう残っていなかった。
「……結局味はあんまり変わらなかったな」
挑戦はここでひとまず終わった。
「でもリヴェリア、ちょっとだけわかってきたかも」
『うん?』
「火が強すぎるとダメだし、塩はちょっとだけがちょうどいい。あと……肉は放っておくとすぐ焦げる」
『……つまり、消し炭になった肉や、グズグズになった肉も無駄じゃなかったってわけだ』
「……うん」
『ま、気づいただけマシだ。次は、“まともな飯”を作って私の舌を満足させてみろ』
「……外に出たらまたやってみる」
ゼーナは少しだけ笑った。
手はすすで汚れ、鍋は真っ黒になり、胃は少し不快感が残る。
それでも――彼女は“料理”のなにかを掴めた気がしていた。




