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忘却の剣、彼方へ  作者: Zero3
第一章

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エピローグ

「……起きろ。おーい、ゼーナ。もうすぐだぞ」


誰かの声が、遠くで響いていた。

ゆっくりと瞼が持ち上がる。微かな振動が全身に伝わり、硬い揺れが意識を揺さぶる。


目を覚ましたゼーナの視界には、木の天井とゆっくりと揺れる布の幌があった。馬車の中。夜の出発から、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


「……ん、カイル……?」


「ああ。ずっと寝てたな。寝言まで言ってたぞ。何か見てたのか?」


カイルが笑い混じりにそう言いながら、手で幌の隙間をめくるようにして外を見せた。


「ほら、見てみろ。着くぞ」


ゼーナは上体を起こし、カイルの示した方に目をやる。


朝靄の中、視界の先に巨大な影が現れ始めていた。

森とは違う、人の造った直線と円の交わる構造。

高く聳える城壁。その内側に広がる無数の屋根と塔。石造りの建物が密集し、そこから立ち上る煙が空に溶けていく。


初めて見る“都市”の姿だった。


「……大きい」


思わず漏れた声に、カイルがにやりと笑う。


「だろ?あれが自由領の中でも最大規模の都市、“セルヴァン”だ。冒険者ギルドの本部もある」


ゼーナは馬車の縁に手をかけ、揺れに合わせて身体を支えながら、ただその光景を見つめた。


木々に覆われ、霧に包まれていたあの森や、廃墟とかしたアストリアとはまるで違う。

石と鉄と、人の手が積み重ねてきた文明の匂い。


――ついに、外の世界に来たのだと。

ゼーナは胸の奥で、静かにその実感を噛み締めていた。


やがて、馬車は城門に向かって列を作る他の馬車と合流し、都市の息吹がすぐそこまで近づいてくる。


彼女の旅は、今、ひとつの境を越えようとしていた。




時間は遡り、ゼーナが森で目を覚ました頃。

魔領地――世界地図に描かれることすら稀な、中央に口を開けた暗黒の地。

この地の中心には、星すら届かぬ濃霧と瘴気に覆われた広大な谷がある。


そこに集っていたのは、数えるほどの者たち。

かつて神に産み出された存在と呼ばれ、今では人々の記憶から忘れ去られた“魔人”たちであった。


その異形たちは膝を折り、唸りを上げ、ある者は嘲笑い、ある者は涙を流す。

目の前にある黒き繭――その中に、彼らが信じて疑わぬ“神”がいる。


「……ようやく、お戻りになった」


羊のような巻角を持つ女魔人が、かすれるような声で呟く。

その言葉に呼応するように、周囲の魔人たちが頭を垂れた。


「世界は……貴女を忘れた。我らの血も、記憶も、歴史も全て踏みつけて……今なお、平和と呼ばれる欺瞞に酔っている」


「だが、今こそ……終わりの始まり」


男の魔人が唸るように言い、片膝を突いたまま拳を地に叩きつけた。

振動と共に黒い霧が揺れ、繭の中から微かに、何かの気配が放たれる。


「完全な復活には、力が必要だ。我らだけでは足りぬ……人間の“魂”と“力”を、神へ……」


「奪い、集め、捧げるのだ。我らが、神を――完全たらしめるために」


声は次第に熱を帯び、狂信の色を濃くしていく。


「そのために、この大地を越えよう。再び我々へ、名誉と栄光を――」


「かつて我らの神を滅した者はもういない。今ならば侵すは容易い」


「報いの時だ……我らが仲間を、家族を、神を踏みにじった、すべての者ども神へ捧げろ……!」


誰ともなく叫ぶ。


「その名を!」


「その御名を!!」


魔人たちの声が一つに重なり、地の底から鳴り響くような咆哮となる。


「我らが神!!()()()()()()()()()()へ!!!!」


その叫びに呼応するように、黒き繭の中で、()()の指が僅かに動いた。

第1章[完]

次回からは第2章「自由領テラノヴァ編」になります。

第2章の執筆にあたり、少し間が空くかもしれませんが引き続きゼーナの冒険を見守ってくれるとありがたいです。

もしここまで読んでくれた方で、面白いと思ってくれたら他の人にもおすすめしてくれると嬉しいです!

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