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忘却の剣、彼方へ  作者: Zero3
第一章
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プロローグ

プロローグ

爆ぜる音が、空気を裂いた。


少女は疾駆する。魔力を脚に集中させ、爆風による瞬間の加速――。

背後を押す爆風に乗って、彼女は巨大な鎧の懐へ一気に踏み込む。


右手の剣を横に薙ぐ。

だが、巨大な鎧――外の世界への門番であるガーディアンは即座に反応した。腕が盾のように変形し、その一撃を受け止める。


構わない。


再び魔力が爆ぜる。少女は逆方向から切りかかる。

だがそれも、しなる鞭へと変化した金属の腕に弾かれた。


それでも止まらない。何度も、何度も、少女は剣を振るい続けた。

魔力は急速に減り、身体は軋み、痛みに満ちていく。

けれど、やめるつもりなどなかった。


やがて斬撃は敵の装甲を裂き、硬い表面に傷を刻んでいく。

わずかに、ガーディアンの動きが鈍った。


少女は跳んだ。

跳躍と落下の勢いを乗せ、両の剣を振り下ろす。

とどめの一撃――


だが、その瞬間だった。


「……っ!」


大地が揺れた。


ガーディアンの両腕が地面を叩く。

直後、足元から衝撃波が広がり、空間を歪ませる。


(衝撃波……!?)


痛みはそれほどない。けれど、重力が狂ったように感じた。

空中で体勢が崩れ――少女は無防備なまま宙にさらされる。


(まずい……!)


次の瞬間、“それ”が迫ってきた。


ガーディアンの右腕が、螺旋状の槍へと変形していた。

空気を唸らせる一撃。濃縮された魔力が渦巻き、ただの物理攻撃ではないことが一目でわかる。


(……間に合わない!)


少女は咄嗟に魔力を集中させ、加速と同じ要領の爆風でわずかに軌道を逸らす。

だが――


「うあっ!」


直撃は避けた。けれど、圧縮された風と魔力の余波が全身を襲う。


少女の身体は弾かれ、空を舞う。

視界がぐるぐると回転する。空、地面、廃墟。

それらすべてがぐしゃりと混ざり合った世界の中――


背中から、廃墟の壁に叩きつけられた。


「ぐ、ぅ……っ!」


軋む音。砕ける壁。瓦礫の下に転がる身体。


重い。手も、脚も、自分のものじゃないみたい。

けれど、少女は歯を食いしばって、顔を上げた。


ガーディアンは、確かに傷ついていた。

連撃で装甲にヒビが入り、欠けている箇所もある。


だが――それでもまだ、動いている。


螺旋の槍だった腕を、ゆっくりと元の形に戻しながら、無言のまま彼女を見据えていた。


その視線に、恐怖がなかったと言えば嘘になる。

けれど、少女の奥底にあるのは、それ以上の――決意。


(怖い。でも、逃げたくない。あの門の向こうに、私は行くって決めたんだから……!)


ここで倒れたら、これまで歩いてきたすべてが無駄になる。


『おい、“ゼーナ”まだ動けるか』


頭の奥から声が響き、少女――ゼーナに呼びかける。


「まだ……やれる……!」


歯を食いしばり、ゼーナは崩れた瓦礫の中からゆっくりと立ち上がろうとする。


その瞳にはまだ、光が宿っていた。


身体は痛みで軋んでいた。けれど、心は静かに、あの日を思い出していた。

目覚めたときのことを。名も記憶もなく、ただ生きたいと願った、始まりの日を。


――そして、物語は遡る。


ゼーナが目覚めた、あの森から。

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