勇者召喚ピックアップガチャ
ガチャ皇国
召喚大聖堂の中、第53代皇帝、ツギコソ・アタリ・デマスヨーニによる勇者召喚の儀式が行われていた。
「たのむ。10連まで貯めたんだ、次こそきてくれ!」
デスマヨーニ皇帝は祈るようにして魔法陣を見つめる
シュイン
音とともに魔法陣が白く光る。
「まあここで確定演出は無しと…」
ズバーン
続いて魔法陣の上に白い稲妻が落ちてくる。
「うわ…、いや、まだある!たのむ…」
シャーン
魔法陣の上に黒いシルエットが浮かぶ。
「あ~はずれかぁ…」
黒いシルエットがはっきりとした色を持ち、魔法陣の上の男は口上を垂れる。
「ベン・マッケンジー推参!俺様についてきな!敵が何人いようとこの槍で突き抜ける!」
「君はいいよノーマルだし、その辺に空き家があるから使ってくれ」
皇帝は召喚されたベンと名乗る男を軽くあしらう。
「なんだと!俺様があの青い雷槍だと知っての態度か?」
「アンコモンでしょ?二つ名はかっこいいけど性能低いし、今の魔王討伐イベには連れてけないしな」
「貴様!」
青い雷槍が額に青筋を浮かべ、手に持っていた槍を構える。
「衛兵!とっとと放り出せ」
皇帝がそう命令すると金の鎧を身にまとった初老の騎士が出てくる。
「かしこまりました」
金鎧の騎士はそう言ってベンの前に立ちふさがる。
「ハッ、面白れぇ。そんなド派手な鎧なんかしやがって、戦場じゃいい的だろうよ」
ベンの煽りなど微塵も気にしていないのだろう金鎧は淡々と名乗る。
「私の名はアルフレッド・マイティムーン。いざ、尋常に」
「フッ…鎧だけじゃなく、名前も大層なもんだな、俺の稲妻のごとき高速の突きの前に沈めぇ!」
青く光りバチバチとスパークしている槍を構えて、ベンが低い姿勢をとる。
次の瞬間、青い稲光が一直線にアルフレッドへと迫る。
ドゴオォーン!
遅れてやってきた音の後に
「なにぃ!?」
片手で槍を掴まれたベンが、驚愕の声を上げていた。
「すまないが私はSSRなのだよ」
ドスッ
アルフレッドはそう呟き、ベンの腹に拳を叩き込む。
「お騒がせしました。すぐに連れていきます」
アルフレッドはそう言って、気絶したベンを抱えて大聖堂から出ていった。
古くから魔王と敵対してきたガチャ皇国では、十年毎に来る魔王軍の襲来を防ぐために、異世界から勇者を召喚するという魔法を確立していた。
勇者召喚と呼ばれるその魔法ができた当初は十年に一度、勇者を召喚することが出来た。
そして、召喚した勇者によってなんとか魔王軍の侵攻を耐え抜いてきた。
魔王襲来の度に、皇国の地図が書き換わる。時には滅亡寸前まで追い込まれたり、逆に魔王討伐一歩手前まで迫ったりと、皇国と魔王は何百年にも渡り一進一退の攻防を繰り広げていた。
そんな中、皇国の唯一の対抗手段である勇者召喚は次第に進化していき、十年に一度だった召喚回数が一年に一度となり、次いで、魔法陣の色で召喚される勇者の強さまで分かるようになった。
さらにここ最近では異世界にいる勇者に成り得る対象の情報が事前に分かるようにまでなっていた。
これらの事情により、召喚される勇者はランク付けされ、ノーマル、アンコモン、レア、スーパーレア、スーパースペシャルレアと大きく分けて五段階に分けられるようになっていった。
そして勇者召喚の研究が進むにつれて、強い勇者が出やすい年があることも分かるようになっていた。
その年は”勇者ピックアップ”と称され、そこに向けて、召喚するための魔力を貯めることが皇国でのセオリーとなっていた。
一方、魔王側も、次第に強くなっていく皇国に比例するように力をつけていった。
魔王軍と皇国の争いは、通例では痛み分けで終わるのだが、たまに魔王が討伐されかけることもある。
そういう時は決まって100年に一度の”限定SSR勇者”が召喚された時である。
SSRに分類される中でも段違いの強さを誇る勇者が”100年に一度の限定”とされ、他のSSR勇者よりも召喚された例が極端に少ない。
もし限定SSRが二人同時に存在することがあれば間違いなく魔王は討伐されるであろう。
しかし、限定SSR勇者が二人同時に対象となることはない。
よって未だに魔王は討伐されてはいない。
しかし、今年は例年とは違い、排出対象の中に限定SSRが二人存在していた。
もし二人がそろうこととなれば、魔王はついに討伐されるかもしれない。
しかし、その確率は0.04%。
キュイキュイキュイーン!
甲高い音とともに召喚魔法陣が虹色に光りだす。
「演出キター!勇者ピックアップ対象SSR確定!」
「あとは、限定であることを祈るのみ!」
ズバーン
魔法陣と同じく虹色の稲妻が落ちる。
「こ、これは!」
テレッテ~♪テレレ~♪テレレテ~♪
唐突に音楽が鳴り始める。
シャララーン!
魔法陣に黒いシルエットが浮かぶ。
「古の誓い、星々の導きに従い、この剣にルーンの力を宿さん!悪しき影よ、我が光で打ち払わん!我こそは、ルーンの加護を受けし騎士の姫。ルーンナイトプリンセス。セレスティア・ヴィルハート!」
「限定勇者キター!」
なんと召喚されたのは限定SSRであった。
「ここはいったいどこだ?」
皇帝はそれまでの態度を一変させ、威厳のある口調で話し出す。
「我はガチャ皇国第53代皇帝、ツギコソ・アタリ・デマスヨーニである。貴殿は私がこの地に召喚した。魔王討伐に力添えをして欲しい」
「ほう?貴様が私をこの地に呼び寄せたのか」
「さようである」
そこへ先程の衛兵、アルフレッドが戻ってきた。
「姫様!?」
「アルフレッド!?なぜ貴殿がここにいる!?」
何とアルフレッドとセレスティアは顔馴染みであったのだ。
「姫様こそ…カイル殿に加えて姫様までここに来てしまうとは…」
「どういうことだ?カイル?カイルもいるのか!?」
「カイル殿は…」
「ゴホンッ!」
自らをよそに会話をしている二人を見かねたのかデマスヨーニはわざとらしい咳ばらいをして話に割って入る。
「ヴィルハート殿とアルフレッドはどのような関係で?」
その問いに対してセレスティア・ヴィルハートはさらに質問で返す。
「貴様!カイル・オーウェンという名は知っているか?」
「なに?カイルだと?」
「知っているのだな?」
皇帝に対してあまりに無礼な物言いだが、限定SSRの圧に押されたのか、デマスヨーニは素直に返答する。
「知っているとも、彼は10年前の魔王襲来の際に戦死した」
「なに!?10年前にはまだ10代にも満たない少年だったはずだ!戦場に出したのか?」
「あの時の魔王襲来はSSRのカイル以外は全てノーマルだったのだ!仕方がないことであろう」
さも当然のような口調で語るデマスヨーニの態度を見て、セレスティアの纏う空気が変わる。
「貴様!なにを…」
「カイルのことは残念であった、まだ生きておれば…。今回は貴殿に加えて限定ではないがSSRのアルフレッド・マイティムーンもいる。ますますカイルの死が惜しい、彼もいれば魔王討伐も確実であったろうに!」
たまらずセレスティアはアルフレッドにあたる。
「アルフレッド!貴殿がいながらなぜカイルを戦場に出したのだ!」
「申し訳ございません姫様。私がこの地に来た時には、すでにカイル殿は戦死なされておりました…この地に来て、祖国で行方不明となっていたカイル殿の痕跡を発見いたしましたので、相次ぐ行方不明事件に関係があるかと密かに調査をしていたのですが…まさか、姫様まで来てしまうとは…」
またも除け者にされたデマスヨーニはいらだった様子で口を開く。
「貴殿らは何を話しているのだ!我が前での無礼、限定だとも許さんぞ!」
その言葉など無視するようにセレスティアは言う。
「なるほど、そういうことか…」
「な、なにがだ?」
「全ての元凶は貴様か!”悪しき影”は貴様だな!デマスヨーニ!」
「あ、悪しき影?我はそのような者ではない!無礼であるぞ!討つべきは魔王である!」
「ほざくな!祖国の人々をいたずらに攫い、あまつさえ幼馴染であったカイルまでも…。貴様がしたことが分かっているのか?貴様のせいで優秀な人材が減り、大魔王の侵攻を食い止めきれずに我が祖国は滅びの危機に陥っているのだぞ!」
「な、なにを…」
「これ以上は好きにはさせん!我はルーンナイト。悪しき影を討つ運命にある者なり」
「ちょ…」
「天上に煌めく星々よ、影を払う光の導きを授け賜え…」
「ま、待て…」
「ルーンの加護を受けし我が身に応えよ!アストラルブライト!」
ズガーン
光の柱がデマスヨーニに降り注ぎ一瞬にして光の中に飲み込まれる。
「せっかく限定SSR引けたのにぃぃぃ!」
奇妙な断末魔を残してデマスヨーニは消えた。
「カイル…」
その様子を見ていたアルフレッドがセレスティアに声をかける。
「姫様。これからどうなさいますか?」
「デマスヨーニは魔王とか言っていたな、あれは本当か?」
「はい、確かにあと数日の内にはこの地に攻め入ってくると思われます」
「我らが祖国へ帰ることは可能か?」
「現状ではなんとも、しかしあの魔法を使えれば可能性はあるかと…」
「わかった。まずは魔王を討つ!魔王がいるがために私たちはここに呼び出されたのであろう?」
「その通りかと」
「魔王を討ち、これ以上の犠牲はなくす。そして魔王を討った功績で祖国への帰還を果たすための助力を得る。私はこれが一番だと考えるが?」
「私も姫様の意見に賛成です」
そうしてガチャ皇国と魔王との何百年にも渡る争いは、限定SSRのセレスティア率いる勇者の軍勢によりあっさりと終結する。
魔王を討ったセレスティア達は英雄と称えられ、一方、デマスヨーニは悪しき影であったと噂されるようになる。
~魔王討伐から数日後~
「姫さんよう、俺も連れてってくんねぇか?」
「いいのか?貴殿にも帰る場所があるだろう?」
勇者召喚の魔法陣の上に立つセレスティアとアルフレッドのもとに青い雷槍ベン・マッケンジーが近寄って話しかける。
「いや、俺にはすでに帰る場所なんてねえよ。それにこいつらだって俺と同じように帰る場所のねえ奴らばかりだ」
ベンに続くように続々と魔王討伐を果たした勇者の面々が集いだす。
その中の一人が言う。
「そうです。我らの祖国はとうに滅んでいるでしょう…みな決定的な戦闘のさなか飛ばされてきた者ばかりです、主戦力が失踪したとなれば我らの祖国はもう…」
違う一人が続けて言う。
「それならば自分たちの祖国を救えなかった我らに、姫様の祖国を救う機会を与えていただきたい!」
その声に賛同するような声が次々と挙がる。
「そうか…貴殿らの想いは伝わった!これから我らは祖国へと舞い戻り、救国の勇者となる!貴殿らの伝説を、散っていった祖国の者達の元まで届けよ!皆の者続け!」
魔法陣が虹色の輝きを放つとそこにいた10人足らずの勇者たちの姿は消えていた。
ーーーーー
キュイキュイキュイーン!
甲高い音とともに召喚魔法陣が虹色に光りだす。
「大魔王様!あちらに謎の光が!」
大魔王と呼ばれた男は言われた場所に目をやる。
「な、なんだあれは!王国の切り札か?往生際の悪い。すでに滅亡は免れんだろうに」
テレッテ~♪テレレ~♪テレレテ~♪
「誰だ!曲を流しておるのは!」
シュイーン、シュイーン、シュイーン…
シャララーン!
「古の誓い、星々の導きに従い、この剣にルーンの力を宿さん!悪しき影よ、我らが光で打ち払わん!我こそは、伝説になりし勇者を束ねる星の導き手。ハーヴィングスターライト…」
「セレスティア・ヴィルハート帰参!祖国よ!わたしは帰ってきた!」
「なにぃ!?貴様はルーンナイトプリンセス!」
「わたしはもはやルーンナイトプリンセスではない!URハーヴィングスターライトだ!」
「姫様に続けー!!!」
「うおぉぉぉ!!!」
「大魔王!覚悟!」
こうして二つの世界の脅威が消え去ったのであった。
思い付きと勢いの産物です…
他にもいくつか短編を投稿してますのでついでにもうひと作品いかがですか?
連載中の長編もあるのでそちらもぜひ!