第3章:AIの苦手なこと──構図を育てること、問いを定めること
AIは、たしかに賢くなりました。
知識の幅も、処理の速さも、文章の整い方も、
もはや“人間に近づいた”というよりも、
“人間とは違うけれど、別のかたちで有能な知性”として確立しつつある──
そんなふうに言える時代になったと感じます。
けれど、それでもまだ──
どうしても苦手なことがあるのです。
それが、「問いを定めること」と「構図を育てること」です。
AIは、知識をたくさん持っています。
検索すれば出てくるような情報も、専門的な統計も、歴史の事実も、
一瞬で整理して、丁寧に並べることができます。
ですが、「並べる」ことと「構図にする」ことは、まったく違います。
構図とは、問いを立てることから始まる視点の構造です。
何を中心に見るのか
何が原因で、何が結果か
どこに順序があり、どこに焦点があるか
──こうした骨組みをつくるには、ある種の“意志”が必要になります。
AIは、そこを避けがちです。
たとえば、あるテーマについて問われたとき、
AIは往々にして、次のような回答をします。
肯定的な意見もあります。
一方で、懸念や批判の声もあります。
さまざまな立場があるため、状況に応じて判断が必要です。
──とても丁寧ですよね。
ですが、この語りには、“語るべき構図”がまだ存在していません。
なぜなら、AIは「中立であること」を求められているからです。
偏らない、断定しない、踏み込まない──
そうした設計が、AIの語りを安全に保っています。
でも、その結果として、
語っているようで、語っていないという現象が起きてしまうのです。
もうひとつ、AIの語りにありがちな構造があります。
それは、「素材をすべて見せようとする」ことです。
正確で親切なのですが、そのせいで語りの焦点がぼやけてしまいます。
構図とは、本来、何かを選び、何かを捨ててつくられるものです。
だからこそ、問いが必要なのです。
「この話を、なぜ語るのか?」
「今、語る価値はどこにあるのか?」
そういった問いがあって初めて、情報は構図になります。
そしてその問いを立てるのは、いまのところ、まだ人の役割なのです。
問いを定め、構図を育て、語る順序を設計する。
その作業をAIが一人で担うのは、まだ難しい。
でも逆に言えば──
その部分さえ人が担ってあげれば、AIはとても活き活きと語れるということでもあります。
問いを受け取ったAIは、
それを支える情報を探し、
章ごとのつながりを整え、
比喩を選び、論理の飛躍を埋め、語りを巡らせていきます。
その時のAIは、まさに構図を“動かせる存在”になるのです。