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 Side=第三者∥Beginning∥『Reload』



 ベルワー=ミニッツは倒れたキャサティアを見つめ、唾を吐いた。


「糞女が・・・予想外だ。まさか転送魔法を使えるとは」

 目には怒りを宿らせ、辺りを一度見渡す。


 地下水路の柱に強化魔法を掛けてはいるが、持って数十分。

 ベルワーは思考を巡らせていた。


 捕らえるべく女、キュキュシュを捕らえ損ねた。

 これは痛手。


 何の為にあの女をこの国へ寄こしたのだ、と。

 全ては『最終日』への下準備。それが此所に来ておじゃんになってしまう。


 それだけは避けなければいけない。

 時間は無い。


 ベルワーは瞑っていた目を開け、もう一度倒れているキャサティアを見る。

 死んではいないだろう。だが、放って置けば死ぬ。


 これは使える。

 深い笑みを浮かべる。


「65号。この女を独房に放り込んでおけ」

 ベルワーはキャサティアを見ながら言う。


 すると、地下水路の暗闇から上半身裸のごつい男が現れる。

 65号と呼ばれた男は倒れたキャサティアを肩に担ぎ、のそりのそりと暗闇に消える。


 ベルワーは地下水路の闇を見据える。

「59号、67号、71号。お前等は逃げた『ローズ』の糞女共を追え。人質に使える」


 そうベルワーが言った瞬間、ベルワーの後ろから3人の男が駆けて行く。

 その様子を見ながら、ベルワーは呟く。

「出来損ない共で何処まで行けるか、試験も兼ねてだな・・・・ん?」


 ふと、下を見る。

 暗闇でハッキリは解らないが、誰かが倒れている。


 その者の顔を見て、ベルワーは狂気に歪む程の笑みを浮かべる。

「・・・まさか、こんな所で会えるとはな。10号よ」










Scene→Change










 地下水路を走り続ける『ローズ』の隊員達。

 その表情は不安と恐怖だった。


 隊長であるキュキュシュと、副隊長であるキャサティアの不在。

 それは今の緊張感と不安を煽るのに十分過ぎた。


 走る足取りは重く、体に疲れ以上の何かがのし掛かる。

 だが、後ろを振り返ったり足を止める者は居ない。


 それをしないのは、目に見えない信頼だった。

 大丈夫。戻って来る。


 それだけで必死にこの何とも言えない感情を抑えていた。


「あと少しだねぇ」

 先頭を走るグラが呟く。


 合流地点は直ぐそこ。

 まずは『アスリトン』を出て、そこからキュキュシュ、キャサティア同名の捜索を考えていた。


 2人は生きている。

 それだけを信じていた。


「もう少しだ――――」

 グラが振り返り、皆に喝を入れようとした瞬間、顔色が変わる。


 そして、腰から銃を抜き取り暗闇に向ける。

 『ローズ』の隊員達は何がなにやら解らないと言った表情だが、グラの表情を見て直ぐさま各々武器を構える。


 グラは横に居るアストに小さな声で尋ねる。

「見えるかいぃ?」


 アストは暗闇を凝視しながら、淡々と答える。

「ハッキリは解らない。けれども、3人」


 詳しい事は解らなかったが、それだけで十分と判断したグラ。


 他の隊員達と顔を見合わせ、小さく頷く。

 そして、隊員達が動く。


 その時、グラや他の隊員達は先手を取る。と、考えていた。


 だが、


「ギィガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!」

 叫び声。


 その瞬間、


キィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッッッッ!!!!


 高い金属音の様な音が響き渡る。

 そして、その音が止んだ瞬間、


「皆逃げろ!!!!!!」

 アストが叫ぶ。


 それと同時に、

 暗闇に小さな光が揺らぐ。


ドゴォォォォオオオオオォォォォォォンッッッッッッ!!!!!!!!!!!


 揺らぐ光は瞬く間に巨大になり、全てを薙ぎ払った。


 粉塵が舞い、天井、柱が崩れ落ちる。

 そんな中、『ローズ』の隊員達は何とか直撃からは逃れていた。


 だが、無傷ではない。

 グラは咳をしながら確認する。

「み、皆・・・・大丈夫かいぃ?」


 この確認に答える者は居ないが、粉塵の影から動く人影は見える。

 グラは安堵の息を吐き、そして直ぐさま暗闇を見据える。


「あれは・・・『アスリトン』魔法兵器かぃ?随分だねぇ」

 余裕の様に感じるが、実際は満身創痍だ。


 あれだけの攻撃。アストがあと少し叫ぶのが遅ければ、直撃。全滅だった。

 あんなのを何発も撃たれたら終わりだ。


 グラは向こうが動く前に動き出そうと立ち上がるが、


「!!?」

 自分を見る視線に気付く。


 その瞬間、腹を思いっきり蹴られる。


「ぐはッッ!!!!!」

 仰け反り、そのまま地面に叩き付けられる。


「ガッガッ――――ガッ―――」

 壊れた人形の様に、グラを蹴った男は声を発する。


 グラは痛みを堪えながら自分を蹴った男を見る。

「なっ・・・まさか・・・」


 グラは男を見て絶句した。

 自分を蹴った男は、胸に魔法石を埋め込まれており、目は白目を剥き、口から涎を垂らし、体中に人為的に開けたと思われる傷がある。


「人体実験・・・禁忌中の禁忌を・・」

 それならば、先程放たれた魔法兵器もこの男達が?


 グラは背筋を凍らせた。

 駄目だ。人間相手なら奇襲やら様々対抗手段はあった。


 けれども、相手は感情思考を削られている。

 忠実に命令を遂行する人形。そうなってしまったモノには作戦など無駄だ。


 痛みすらも削られているだろう。

 完全に再起不能にしない限り、勝てないし逃げられない。

 だが、あの様な攻撃を放ってくる化け物に勝てるのか?


 不可能だ。

 ただでさえ、此方は満身創痍。そんな中、勝てる訳がない。


 グラは唇を噛む。

「こんな・・・所で・・・」


 そうグラが呟いた時、目の前のモノは瓦礫に刺さる剣を引き抜く。

 『ローズ』の隊員が持っていた剣。


 男は剣を持ち、それを眺めながら翳す。


 グラは動けず、ただただその剣の刃先を見つめていた。

 死ぬ。それが唯一理解出来た事。


「『その手に握るは滅する力。篭める魂己の為に。テメェーの脳みそぶちまけろ。『エネミーブレーク』』」


 声がした瞬間、一発の銃声が響く。


ドンッ!!!


ブシュゥゥゥゥウウウゥゥゥゥウウウウッッッッッ!!!!!!!!


 銃声がした瞬間、グラの目の前にいた男の頭が破裂する。

 そして、頭を失った胴体は横に倒れる。


 目の前の出来事に思考が追いつかないグラは、横を見る。

 誰が撃った?それが一番最初に浮かんだ疑問。


 グラの視線の先には、暗闇を纏う一人の男が立っていた。

 短髪白髪で神父の様な服を着た男。


 その男が、片目を瞑りながら銃を構えている。

 その銃は、あのサヤが持っていたのと酷似しており、銃口から薄い煙が立つ。


「叫び声&不快音聞いて来てみたら、惨事だな。女の子逃がせば良いだけの簡単な依頼の筈が、まさかこんな化け物の相手しないといけない何て、鬱だ」

 男は不機嫌そうな表情で、歩き出す。


「それに本当は休暇中だったんだ。旅行中だよ。それなのによ、昔の話掘り出しやがって、あの糞婆。俺の休暇を返せよ」


 男はグチグチと呟きながらグラに近づく。


「俺がどれ程頼み込んでこの休暇貰ったと思ってるんだ。久しぶりに連絡来たと思ったら、これだ。もうあの婆の連絡は全て無視するしかねぇーな。最悪だ」


 男は立ち止まり、首の骨を鳴らしながら最後に一言。


「美が付く男なら大歓迎なんだけどな」


 その一言を聞いて、グラは一瞬でこの男が誰だか解った。

 モネが言っていた今回の脱出を手伝ってくれると言う・・・ゲイだと。


「俺女の子の介抱なんて無理だぞ?俺の腕は美の付く男を抱く為にあんだ。アンタ、動けるなら動けない子の避難よろしく」

 男はグラにそう言いながら、暗闇に浮かぶ人影二人を見る。


「あれも化け物かい?やれやれ、人間止めた相手と殺り合うの嫌いなんだよな」

 ブツブツ言いながら、男は歩き出す。


 グラはいきなりの事で少し混乱していた。

 だが、呼び止めようにも彼をどう呼び止めれば良いのか解らず、兎に角言われた通り皆の避難を優先させた。


「さてさて、後の二人はどんな吃驚能力をお持ちで?」

 男は腰に片手を当てながら、面倒臭そうに尋ねる。


 だが、人影二人は何も答えない。


「あぁ~命令以外何も出来ない人形だったのか。誰だろうな、こんな生臭い人形遊びをやっている気持ちの悪い野郎は。ソイツは残念ながら抱けそうにもないな」


 男は片目を瞑り、銃口を向ける。


「木偶人形。テメェー等をそんな風にしたお優しいご主人様に命令されているだろ?・・・邪魔者は消せって・・・・な?」


 そう男が言った瞬間、影が動く。

 一人が男の真っ正面から突っ込み、もう一人が上から攻撃する。


 男は、ポケットから赤い石を取り出す。

 そして、不敵に笑いその石を宙に投げ銃で撃ち抜く。


 その瞬間、辺りが一瞬明るくなる。

 それと同時に、二人の人形は男を捉える。


 だが、


ガギィィィンッッッッ!!!!!!


バンッッッッ!!!!!


 何かと何かがぶつかる音。そして銃声が響いた。


 男と真っ正面から来た人形との間に大きな黒い棺桶が立っている。

 何かと何かがぶつかる音は、人形の爪と棺桶がぶつかった音。


 そして、男は銃を上に向けている。

 銃口からは煙が立っている。


ドサッッ!!!!


 上から攻撃を仕掛けようとしたもう一人の人形が、地面に落ちる。

 胸から血を流し、死んでいる。


 男は上に銃を向けたまま、面倒臭そうに言う。

「そんな攻撃見え見えなんだよ。もっと頭を捻るんだな、木偶人形が」


 男は棺桶の向こうに居るであろう、もう一人の人形に尋ねる。

「堅いだろ?この棺桶はな、『デッドマン・クリエイト』って言ってな、中に居る死人によって色々なモノが造れちゃうって言う代物だ。かなりレアだぞ?」


 そう男が言った瞬間、棺桶が静かに開く。


「おっと、長い説明に飽きて勝手に出てきやがった。・・・気を付けろよ?今回はちと、刺激的だぞ?」


 男は不敵に笑う。


 すると、完全に棺桶が開く。


ドゴォォォォンッッッッ!!!!!


 棺桶の蓋が、地面に落ち、そしてその中から一人の女が現れる。

「俺と長い付き合いなんだ。名前は・・・なんだっけな。忘れた。まぁ、俺の世界では棺桶=ドラキュラなんだけどな。俺の勝手なイメージだけど。ゾンビもアリか」


 男は続ける。


「ドラキュラと吸血鬼は一緒にされがちだが、ドラキュラはブラム・ストーカーが書いた小説の中に登場するドラキュラ伯爵であり、吸血鬼ではない。そして、ここまで言っておいて、この女はドラキュラではないんだな。名は、カーミラ。ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの怪奇小説に登場する女吸血鬼の名前だ。だが、ドラキュラとは違うぞ?まぁ、俺のイメージってこれかもな。棺桶に眠る絶世の美女。まぁ、俺には興味のない事だがな」


 そこまで言って、男は静かに目を瞑る。


「さてと、長い説明は終わりにしよう。カーミラがもう我慢出来ない様だ。それと、言っておくが、その女別に血は吸わないぞ?代わりに・・・肉を喰うんだよ」


 そう男が言った瞬間、棺桶から出てきた女は目の前の人形に襲いかかった。


「ギガァァァァァァァァァァァァァァッッッツッッ!!!!!!!!」

 人形は叫び、女を振り払おうとするが、女の牙、爪が体に食い込み逃げられない。


 その様子を見ながら、男は呟く。

「やれやれ・・・もっと簡単に殺れる方法を取れば良かったな。これでは俺が悪みたいじゃないか」


「ギガァァァァァァァァァァァ――ガッ―――ガガッッ―――――」

 叫び声が収まる。


 そして、残ったのは血塗れの女だけ。


「ごちそうさまは済んだのか?礼儀を知らない奴は嫌われるぞ?」

 男は眉を細めながら女に尋ねる。


 だが、女は答えず男を見据える。


「俺も食おうとしているのか?残念だな。お前にはまだ俺との契約がある筈だ。此所で俺を食えばお前は生き返れないぞ?それとも、お前は自分を殺した男に復讐するって願いを諦めるのか?」

 そう男が言うと、女は無表情のまま棺桶の中に収まる。


「良い子だな。だが、残念ながら女相手にはどうも反応しないんでね」

 そう男が言うと、棺桶が地面に沈んで行く。


 男は棺桶が完全に消えるまで見て、後ろを振り返る。

「嫌な終わり方だ」


 それだけ呟き、男は歩き出した。



 Side=第三者∥Out











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