編集中
Side=サヤ∥Beginning∥『Reload』
背筋が凍る。俺の前に現れた男は、不敵な笑みを浮かべて俺を見る。
その目は、どす黒く見られるだけで気を失いそうだ。
けれども、目が離せない。俺とその男は目を離す事も無く、会話を始める。
「お前が俺の主って奴か?」
男―――アンラ・ユンマが俺に尋ねる。
俺の額から汗が流れ落ちる。
落ち着け!落ち着け!
言い聞かせる。そして、大きく息を吸い込み、俺は答える。
「ああ、そうだ。俺が主だ」
今までは流れに任せて主だの何だの言っていたが、コイツには駄目だ。ハッキリ言わないと、コイツは直ぐに俺を裏切る。
「―――・・・神に対して言うねぇ~」
そう言って笑う。けれども、目の奥は笑っていない。
震え出す。俺は握り拳を作り、太股を叩く。
「お前が・・・悪神、アンラ・ユンマか?」
尋ねる。
男は笑いながら答える。
「あぁ~そうだ。だが、長いからアンラで良いぞ?」
そう言われ、俺は安堵の息を漏らす。
良かった。何とか―――その時。
「気を緩めるな!!」
クー爺が叫ぶ。
その瞬間―――。
「甘いぞ?小僧」
アンラが俺の前に居た。そして、不敵な笑みを浮かべる。
「なっ!?」
状況が解らない。どうなっている?どうして・・・そうか、コイツは俺が気を緩めるのを待っていたのか。クソッ!油断した!!!
「醜悪に溺れろ―――」
そう呟き、アンラは俺の目の前に手を出した。
視界が閉じていく。気が・・・
「・・・・起きたら・・・従わして・・・や・・・る」
俺はアンラを指さしながら、気を失った。
Side=サヤ∥Out
Side=アンラ・ユンマ∥Beginning∥『Reload』
「・・・・起きたら・・・従わして・・・や・・・る」
そう俺を指さし、餓鬼は気を失った。
愉快だな。従わしてやる?笑わせる。
「アフリマン。貴様!!」
フナブ・クーが俺に向け、殺気を放つ。
流石の俺でもコイツには勝てない。俺は不死だが・・・それはコイツも同じだろう。
「試すだけさ」
フナブ・クーは俺を睨みながら尋ねる。
「試す?」
「あぁ。コイツが俺の主に相応しい・・・か」
ククク・・嘘だがな。起きる事は一生無い。コイツは永遠に人の醜悪を見続けるんだよ。
「ホントか?」
フナブ・クーがしつこく尋ねる。
俺は、黙って頷く。
直ぐにどっかに行こうと思ったが、コイツが居るんじゃヘタに動けないな。
まぁ、隙を見てどっかに行くさ。この世界には溢れる程の悪が有るからな。退屈はしないだろうさ。
クククク・・・・。
Side=アンラ・ユンマ∥Out
Side=サヤ∥Beginning∥『The ugly world』
いつの間にか、目を瞑っていた様だ。
俺は目を開ける。
「此所は?」
目を開けたら、辺りは真っ暗だった。
夜になったのか?じゃー俺は寝ていたのか?
―――いや、違う。
俺はアイツに何かをされたんだ。その瞬間、気が遠くなって。
じゃぁ、此所はどこだ?
辺りを見渡す、駄目だ。暗くて何も見えない。
何だ此所は?自分の体も見えない。
暗闇。風も吹かない。何も聴こえない。
これだけで気が狂いそうだ。
いや、『地球』の頃の俺ならとっくに狂っているだろう。少しは精神も強くなっている様だ。
それでも、完全に平気と言う訳ではない。結構やせ我慢も良いところだ。
けれども、これだけか?この暗闇に閉じ込めるだけか?俺が狂うまで。
その瞬間、風が吹く。
「グッ!」
俺は腕で顔を隠す。突風。
「何なんだ!?」
すると、いきなり風が止む。
腕をゆっくりと下ろす。
「なっ!?」
前を見た。すると、暗闇ではなく村があった。けれども、俺は見た事が無い。村だ。つまりは『リロード』のどっかの村って事なのだろうか?
人が居る。
俺は駆け寄って話しかける。
「あ、あの!」
俺が話しかけた男は、そのまま無視して、歩き続ける。
シカト?
「あ、あの!」
もう一度話しかけるが、再度シカト。
?
俺は試しにその男に触ろうとした。
―――スカッ
俺の手は男の肩をすり抜ける。
「なっ!?」
これは・・・俺は視ているだけなのか?
神のお陰でご立派になった俺の脳は結構簡単に理解する。
つまりは、俺はどっかの村に来たまでは良いが、それは現実ではない。いや、現実かもしれないが俺は干渉出来無い。つまりは視ている。
どうしろって事だ?触れない。話せない。つまりはどうしろと?
すると、村の中心が騒がしく人が群がる。
「何だ?」
俺は小走りに近寄る。
すると、村の人達は叫んでいる。
「この餓鬼が!」
「盗みなんてしやがって!!」
盗み?野次馬とかで見えない。俺はその群れに入った。
スウゥ―――
そうか、触れないんだから別に関係無いか。
俺は人の群れの中を平然と歩く。
すると、人達の中心には小さな男の子が頭を抱えながら倒れていた。
その男の側には、林檎が落ちている。
盗みって林檎一個でここまでなるのか?
「この餓鬼!?さては・・・お前悪魔だな?」
はぁ?
何言っているんだこの男?悪魔の訳―――
俺は気付く、男が笑っている事に。
周りを見渡す。他の人達も笑っている。
なんだこれは?
―――まさか!!
すると、一人の男が男の子の横っ腹蹴った。
「なっ!止めろ!!」
俺は止めようとするが、手が男の肩をすり抜ける。
クソッ!!
すると、他の人達も一斉に男の子に殴りかかる。
「止めろ!悪魔の訳ないだろ!!止めろ!」
俺は必死に叫ぶだが、俺の声は届かない。
そこで俺は思い出す。アイツが言った言葉「醜悪に溺れろ」。
まさか・・・コレを見せると言う事か?
「やめっ!痛いっ!やめ―――」
男の子の声が聞こえなくなった。
すると、その男の子を囲んでいた人達が一斉に帰って行く。
男の子は、傷だらけで倒れていた。
「何だよ・・・これ?」
俺は男の子に駆け寄る。
けれども、触れられる筈もなく手はすり抜ける。
「あぁ・・・・ああああ・・・」
俺の体は震え出した。
これが・・・人の死?
死んでいるかどうか確かめる事は出来ないが、このままではきっと男の子は死ぬだろう。
俺は辺りを見渡す。
村の人々は何も無かった様に生活している。
何だよ・・・何だよこれ・・・。
すると、男の子は呟いた。
「・・・ど・・・うし・・・て」
そのまま、男の子はガクッと倒れた。いや、死んだ。
「あ・・・あ・・・あああああああああああああああ!!!!!!!!!」
叫んだ。涙が、零れ出す。
すると、景色が流れる様に変わる。
俺は今暗闇の中に居る。
最初に視た光景から、5回光景は変わった。
2つ目は、女性が男に捕まり犯され、最後に殺された。
3つ目は、最初の男の子同様、悪魔と言われた男性が剣で串刺しになり殺された。
4つ目は、小さな女の子が自分の母親に虐待され、女の子が自分の母親を刺して殺した。
5つ目は、孤児院を営む男が子供を売っていた。売られて行く子供は泣き叫んでいた。
6つ目は、逃げる女性を複数の男達が笑いながら銃で撃って殺した。
全て人間による死。きっと、5つ目に視た子供も奴隷となって死ぬのだろう。
醜い。これが・・・人?神が守って欲しいと言った人?
『地球』でも同じ事は起きていたのだろう。けれども、こうやって直に視たら、吐き気がする。
こんなのが・・・日常茶飯事に起きているのか?
簡単に人が死ぬ。
俺は・・・こんな世界を救うのか?
醜いこんな世界を?
嫌だ。こんな世界・・・救ってどうなる?一層の事、滅びれば良い。無くってしまえば。きっと楽だろう。
・・・それで良いのか?
この世界にも、優しい人達は居る。
その人達も見逃すのか?
俺は・・・何の為に力を手に入れた?
俺は・・・・。
神様・・・アンタの願い通り救ってやるよ。
だが、俺は偽善者じゃない。全部救うなんて、悪人善人関係無く救うなんて言わない。
俺は自分の目に映った、善人を救う。善人なんて居ないかもしれない。だけれど、罪の無い人が理不尽に殺されるのは、我慢出来ない。
これ自体も偽善と言うなら、言えば良い。
けれども、それだと俺がこの世界での存在理由が無くなる。
俺は―――俺の為に戦うと誓った。
守るのは、俺の勝手だ。俺は、俺の正義って奴を貫く。
それが例え悪だと言われても、それで上等だ。
悪にも、悪なりのモンがあんだよ!!!
全部ぶっ壊してでも・・・
「貫いてやるよッ!!!!!!!!」
その瞬間、暗闇がガラスの様に砕けて行く。
そして俺は、また気を失った。
Side=サヤ∥Out
Side=アンラ・ユンマ∥Beginning∥『Reload』
さて、そろそろ5時間だ。この餓鬼はもう終わりだろう。
一生目覚めないまま、そして終わりだ。獣にでも食われて死ぬだろうよ。
それよりも問題はこの爺だ。
この餓鬼は事実上まだ死んでいない。だからこの爺も俺同様魔力の供給がストップしていない。
この爺相手だと、俺が完全な自由を手に入れる前に魔力が尽きる。
どうする。考えろ。
ザワッ―――なんだ?
何かがザワつく。何だ?一体?何が?
すると、
「この野郎がぁあああああああああ!!!!」
殴られる。
「ガハッ!!!!!!」
何!?何に殴られた?爺か?いや・・・まさか!?
俺は殴られ、そして数メートル飛ばされる。
地面に転がる。
「クッ!・・・餓鬼・・・どうやって戻って来た?」
俺は口から流れる血を拭う。
はっ!神である俺の口から血か。
餓鬼は、息を切らしながら叫んだ。
「テメェーの悪趣味は本当に醜悪だったぞ!!!だが、俺には効かねぇー!!!!!!!」
この餓鬼は精神のどっかを壊しているのか?
いや、違う。この餓鬼はもう決意しているんだ。
それでか・・・中々の精神力だな。
「ふふ・・・お前は何か決意しているようだな。まさか・・・偽善者の様な事を言うなよ?」
俺は立ち上がりながら尋ねる。
どうせ、全てを救うとかだろ?こう言う餓鬼は正義に酔う。
十分な力を手に入れたなら尚更だ。
さぁ、どう答える?
「俺の決意・・・覚悟は!!目に映る善人を救う事だ!他は知らねぇー。逆らう奴は倒す。悪人は殺す。俺は俺の思った通りに生きる。世界の全てなんて・・もう手遅れで救えねぇーよ」
・・・面白いな。この答えでも、言う奴は言うだろうな、偽善者と。
俺も思うさ。あれだけの人の醜さを見せたのに、こんな事を言うんだ。
だけれど、きっとコイツは本物の大馬鹿野郎か・・・本物の男なんだろうな。
「ククク・・・面白い答えだったぞ?そうか・・・俺はお前が気に入ったぞ?お前なら俺の主に相応しい」
すると、餓鬼は唾を吐きながら言う。
「テメェーは嫌いだ。もう一生召喚しねぇー」
ククク・・・神に向かって啖呵を切るか。
ますます面白い。
「良いさ。お前が好まぬ、好もうと、俺は勝手にお前の前に現れ、お前完全な悪に導いてやるよ。それまで・・・強くなっている事だな!!!」
俺の体が闇に包まれていく。
ククク・・・面白い玩具が出来た。コレで・・・暫く退屈しないで済みそうだ。
Side=アンラ・ユンマ∥Out
Side=サヤ∥Beginning∥『Reload』
アイツが消えた。
消える時も光じゃなくて闇かよ・・・本当に悪趣味な野郎だ。
「大丈夫か?」
クー爺が俺に駆け寄り、尋ねる。
「あぁ。最悪の気分だけど、完全に覚悟は決めた」
そう言って、俺はクー爺を見る。
「あやつ・・・試すとか言っていたが、やはり嘘か。一体何を視た?」
あの野郎、試すとか言ってクー爺を騙したのか。
「人の醜いモンを視たよ。狂いそうだった。いや、途中狂った」
俺は喋りながら地べたに座る。
「・・・お主の決意は、先程アンラに言った通りか?」
クー爺が尋ねる。
俺は空を見上げながら答える。
「俺の決意を悪と言うなら・・・俺はきっと悪なんだろうよ。もし、クー爺が悪人でも殺すなと言うなら、俺は多分、アイツ同様にクー爺も召喚しない。俺の決意・覚悟は曲げない」
クー爺は黙る。きっと、神様だからな。俺の言った事なんて否定するだろうよ。他の神はどうかな?賛同してくれるか。いや、きっと否定するだろうな。神だし。
「・・・お主の決意・覚悟!しかと確かめさせてもらった!!!儂等神々は、お主に生涯一生付いて行こう。落ちる時も、朽ちる時も共に居よう!!!」
「へっ!?」
俺はクー爺を見上げる。
今、何て言った?賛同してくれたのか?悪人一歩手前の俺を?
「他の神もか?」
俺は尋ねた。すると、クー爺は笑顔で頷き言った。
「先程、他の神々と話し合った。皆即答でお前に付いて行くと言った」
はは・・・皆本当に神ですか?
でも、嬉しいかな。
すると、いきなりクー爺がしゃがみ膝を付き、頭を下げた。
「なっ!何やってるのクー爺!?」
俺は慌てて立ち上がり、クー爺の頭を上げさせようとする。すると、クー爺が言う。
「我が主―――神々を代表し、我は誓う―――我々の力・知識・命―――全て主の為に―――そして、主を支えて行く所存です―――全ては主の為に」
俺は、アタフタしていたがクー爺の言葉を聞いて、引き締める。
そうだ。俺はこれからなのだ。
「皆、これから生涯一生よろしく頼む」
俺は深々と頭を下げる。
すると、クー爺が笑顔で俺を見た。
Side=サヤ∥Out