編集中
Side=マド=ホーク∥Beginning∥『Reload』
私達はサヤ達と別れて、そこから数㎞離れた所で休んでいる。
リノも体が大分楽になった様だ。
ジンは相変わらず気絶している。
それにしても、異常だ。
一瞬サヤだと思うが、魔力が大量に放出されたみたいだ。
けれども、それは一瞬で消えた。
何があったの?
『ローデン』の4万もの軍勢を蹴散らしたサヤ達だ。死ぬ事は無いだろう。
それに、まだ聞きたい事が山ほど有る。これを消化するまで死んでもらっては困る。
カロとフォーリも大丈夫だろうか?
2人の魔力は感じられない。
感知は結構得意なんだが、戦闘が終わったのか?
合流できるか?いや、捜し回るよりも『グラパス』に行った方が手っ取り早い。
きっとサヤ達も向かうだろう。
「マド・・・皆大丈夫かな?」
リノが俯き、膝を抱えている。
「大丈夫よ?強いから」
会って全然時間は経っていないが、それでも強さを知るには十分な時間。
あの強さはそう簡単に死ぬ様なモノではない。
だが、リノは浮かない顔をしている。
「でも・・・でも・・・もしもの事がある・・・」
その表情は暗く、まるで世界の終わりを迎えようとしている様な、そんな表情。
だが、無理もない。
現に私だって胸に何かが突き刺さる。
昔に何度も感じた。
誰かを失う様な、そんな感覚が襲う。
親友が目の前から消えたあの日。
全てを奪い取られたあの日。
今でも思う。この世界は何故こうもバランスが取れていないのだろう、と。
不幸と幸福の割合。
負の感情は強大で、莫大で、そこら辺に充満している。
その中でも、彼等は真っ直ぐに何かを貫こうとしていた。
そんな彼等がそう簡単に死ぬ筈がない。
・・・けれど、私は「大丈夫」以外にリノに言葉を掛ける事が出来なかった。
私は、彼等とは違う。
貫く思いは血に塗れ、願う思いは蝕まれている、
そんな私が、何かを言う事は出来ない。
だから、「大丈夫」を繰り返した。
Side=マド=ホーク∥Out
Side=第三者∥Beginning∥『Reload』
「あぁ~・・・怠いな」
無精髭を生やした小汚い男はベンチに座り、足を投げ出しながら呟いた。
『中立国ガデラン』中央広場。
陽が差し、生暖かい風が吹き抜ける。
男は酒瓶を握りながら、頭を掻く。
一見すればホームレスとも取れる男は、酒瓶を逆さにして振る。
一滴も落ちない。
「空か・・・・」
男は眉間に皺を寄せる。
酒瓶を横に置き、大きな溜息を吐く。
「はぁ~・・・怠い」
ふと、周りを見る。
現在時刻は昼の1時。
人は―――居ない。
そこで気付く。
「・・・こんなオヤジに、大層な事をするな」
男がそう呟くと、目の前から黒いローブを着た者達が現れる。
「何の用だ?」
男は黒ローブの者達を睨む。
その黒ローブの内の1人が口を開く。
「メッテル=オヴェロー。我々と来てもらう」
「んぁ?何故俺がお前等に付いて行かねぇーといけねぇーんだ?」
メッテル=オヴェローと呼ばれた男は頭を掻きながら面倒臭そうに頭を掻く。
すると、黒ローブが言った一言で表情が一変する。
「・・・・彼女が『ローデン』を裏切った」
「!!?」
メッテルは動きを止める。
そして、その真意を確かめる様に黒ローブを睨む。
「我々は、嘘は言っておりませんよ?」
黒ローブの1人が、まるで微笑むかの様に言う。
「そんなもんで信用が得られると思っているのかぁ?御門違いも良い所だぞ」
メッテルは含み笑いながら睨む。
「信用?それこそ御門違いも良い所ですよ。我々は貴方を脅迫しているのですよ?」
「何?」
メッテルの纏う雰囲気が変わる。
だが、黒ローブは自分が有利な立場に立っているのか、悠然として喋り続ける。
「貴方が守ろうとした者。それを私達が確保していないと思っているのですか?」
その言葉で、メッテルの表情が凍る。そして、直ぐに怒りが露わになる。
「貴様等・・・」
メッテルの様子を見て、頬を吊り上げる。
「安心し過ぎなんですよ。自分の側に置いておかなければ大丈夫だと思ったのですか?甘いですね。彼女はもう、此方の掌の上ですよ。捜すのに苦労しましたが、貴方が我々に使われるのなら安いものです」
「護衛は付けていたと思ったが?」
その問いに、黒ローブは笑みを深く浮かべる。
「ふふ、だから言ったでしょ?安いんですよ。手下の10人死んだ所で、貴方を使えれば、ね?」
その言葉に、メッテルは拳を握る。
「そんなに睨まないで下さいよ。さて、お話はもうこの辺で良いですかね?それでは、メッテル=オヴェローさん。・・・いや、『瞬殺の魔法使い』。我々と来てもらいますよ?」
その問いには、脅し。
付いて来なければ、どうなるか?
人質。
交渉するにおいて、確実な手だ。
メッテルは歯を食いしばる。
そして、睨みながらその答えの決まっている答えを口にする。
「・・・解った」
今、静かに動き出す。巻き込み。動き出す。
全てが交わる時が―――。
Side=第三者∥Out
Side=マド=ホーク∥Beginning∥『Reload』
さて、此所からどうするか、だね。
『グラパス』に行くと言っても、中々難しい。
現に、グラパスの支配下の国は『グラパス』に取り入ろうと必死に戦争を行っている。
そんな中、子供2人連れては中々に難易度が高い。
さて、どうする。
「マド?」
リノが私の顔を覗きながら首を傾げている。
「ん?どうしたの?」
「・・・心配事?」
どうやらリノは私が考え込んでいたので心配してくれていた様だ。
優しくリノの頭を撫でる。
リノは気持ちよさそうに目を細くする。
・・・矢張り、似ている。
そっくりと言っても良い。どことなく違う者の面影ある様な気はするが、似ている。
・・・まさか、セルナの娘か?
そう考えるのが妥当か。
セルナに年の離れた姉妹が居るなど聞いた事は無い。
それならば、必然的に娘と言う考えに辿り着く。
けれども、何故サヤ達と一緒に居る?
もし娘なら夫は誰だ?
・・・まさか、あの悪魔か?
可能性はある。
現に、セルナはあの悪魔と消えたのだ。
だが、もしそうだとしても娘を他人に託すか?
それは考えにくい。ならば、一体何があったのだ?
セルナが自分の娘を手放す事態があったと言うのか?
それは一体?
「あらら?思わぬ所で思わぬ収穫じゃない♪」
「!?」
後ろを振り返る。
そこには、前髪を真っ直ぐに揃え、きわどいスカートを靡かす女が立っていた。
こんなに接近されるまで気付かなかった!?
この女は・・・?
「ん~記憶には居るみたいね♪そこの銀髪の女の子に聞いた方が良いかしら?」
女はリノを指しながら首を傾げる。
「・・・何を言っているの?」
睨みながら尋ねる。
すると、女は戯けた様に微笑む。
「あれ?もしかして、ボサボサ髪のアナタは知らないの?・・・いや、アナタと女の子を合わせれば、全て納得出来るわね♪」
女は訳の分からない事を言っている。
「だから!何を言っているの!?」
「ふふ・・・セルナ♪」
「!?・・・何でその名を知っている?」
睨む。
だが、女は戯けた笑みを浮かべたまま答える。
「何故?それは簡単な事よ♪何故なら、アナタの頭の中を読んだだけだからね♪」
頭の中を・・・読んだ?
魔法?だが、透視魔法だったとしても読まれる前に気付く。
ならば・・・悪魔!?
「アンタ、悪魔?」
「あら♪ご名答よ♪」
チッ!まさか、こんな所でソロモン72柱の悪魔と出会うなんて。
運が悪い。
「運は良い方よ?」
「!?」
「何をそんなに吃驚しているの?さっきも言ったでしょ?私はアナタの頭の中を読んでいるのよ?簡単にアナタの考えている事は解るの♪」
女は笑みを浮かべたまま、リノを指さす。
「けれどね、私はそっちの女の子の方に用が出来ちゃったんだよねぇ♪」
私はリノをチラッと見て、直ぐに悪魔に視線を戻す。
意味は解らない。
けれども、あの女がリノの頭の中を読んだと言うならば、意味は解る。
リノの中に在る、悪魔にとって重要な情報は・・・サヤ!
「ご名答よ♪けれども・・・もっと面白い事が解ったの♪」
そう言って、人差し指を顎に当てながら悪魔は不敵な笑みを浮かべる。
「面白い事?」
私が尋ねると、一層に笑みを深くする。
「そうよ♪。それよりも、知っている?赤ん坊の頃の記憶はね、消えてないのよ?ただ、思い出せないだけ♪そう、思い出せないだけで覚えている。例えば・・・女の子の父親と母親の事とかね♪」
なっ・・・リノの親?
「あら、アナタも気になるの?」
「・・・頭の中を読んでいるのなら、質問の意味は無いだろ?」
「質問しないと、会話が成り立たないでしょ?それはつまらないもの♪」
悪魔は笑みを崩さずに、私達を見据える。
「さてさて♪此所で問題です!・・・女の子の父親は誰でしょうか?」
悪魔は右手を挙げて、ふざける。
「正解は♪―――不死鳥フェニックス」
その名を言った瞬間に悪魔から笑みが消える。
だが、これは差ほど驚きはしない。予想は出来ていた。頭にはくるが・・・。
「あれれ?面白くない反応だね♪でもでも、これならどうかな?」
笑みをまた作る。
「・・・その父フェニックスと、母セルナを殺したのは誰でしょう?」
「!!?」
殺した?死んだ?
「これは驚いてくれたようだね♪さてさて、答えは―――」
そこで悪魔は言葉を切る。
そして、
「―――悪魔だよ」
一瞬で笑みが消え、そして姿も消える。
「なっ!?」
セルナの死と言う予想もしなかった事を知り、困惑していたせいか動きがまったく見えなかった。
「くっ!?どこだ!?」
辺りを見渡しながら、黒い色が入った小瓶のコルクを開ける。
「死因を知りたい!?それはね―――」
声だけが響く。
「何処だ!?」
立ち上がり、叫ぶ。
「―――焼死と魔力切れ。簡単な死に方。最後は夫と一緒に・・・死んだんだとよ!!!!」
「マド!!!!」
リノの叫び声が響く。
だが、
ブシュゥゥウウウウゥゥゥゥウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!
背中を思いっきり斬られる。
「ぐはッッッ!!!!!!!!」
蹌踉けながら後ろを振り向き、小瓶を投げつける。
「『見えぬ闇に集うのは誰か?翳すなら光。戦うのならば闇を!!『常闇の爆轟』』」
小瓶が破裂し、闇が音速を超えて悪魔を吞む込む筈だった―――
「キャハッハハ!!!!アンタの頭の中読んでんだからそんなの簡単に当たる訳ねぇーでしょ!?キャハッハハ!!!!!」
悪魔は壊れた様に高笑いしている。
「チッ!!」
背中が生暖かい。血が流れ、背筋を流れる。
傷は浅い。だが、放って置けば出血多量で死ぬ。
だが、思考すらも読む相手に短期決戦は不可能に近い。
奇襲も全て読まれる。
だが、逆に長期決戦になっても此方が不利。
最悪ね・・・。
すると、悪魔はリノを見る。
「・・・最悪よね。あの人が人間風情と交じり合うなんて・・・反吐が出る。殺したいわ。あの人の汚点が残らない様に・・・。女の生きた証を消す為に・・・・」
悪魔はブツブツ言いながらフラフラと歩く。
ヤバイ!!!
私は急いでリノの前に立つ。
「邪魔するんじゃないわよ・・・その餓鬼は殺すの・・・そう・・・母親と同様に燃やして殺してやるわよ!!!!!!!!!!」
女の目はもう瞳孔が開き、虚ろだった。
完全に壊れている。
ヤバイ!!
小瓶をポケットから取り出そうとするが、
「解っていると言っているだおうがァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
女が持つ剣が私の腹を貫く。
「ぐはッッッ!!!!!」
私はそのまま倒れ込む。
「マドォォォォォ!!!!!!」
リノは涙を流しながら叫ぶ。
くっ・・守らないと。あの子は・・・守らないと・・・。
私は必死にリノへ手を伸ばす。
だが、
私の手の甲に足がのし掛かる。
「ぐああああああ!!!!!」
踵でぐりぐりと押しつけ、悪魔は高笑う。
「ギャハハハハハハハ!!!!!守れやしねぇーんだよ!!奪う手で何を守るってんだ!?笑わせんなよォ!!!ギャハッハハハ!!!!!」
奪う手。・・・確かにそうだ。けれども、セルナの子は・・リノは守らなければ!!
「無駄無駄無駄ァァァァァ!!!!お前も、そこの餓鬼も直ぐさま死ぬんだよ!!!直ぐに!!直ぐに!!!!直ぐによォォォォォォォォォ!!!!!!」
叫び、そして―――
ブシュッッッッ!!!!
「かはッッッ!!!!」
私の背中に剣が突き刺さった。
「マドォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」
Side=マド=ホーク∥Out