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Side=第三者∥Beginning∥『Reload』
教会の様な空間。
大きなパイプオルガンが置いて有る。それだけで、この空間を優雅に醸し出している。
横に長い椅子が、沢山に置いてありその椅子にドカッと腰を下ろして足を組んでいる男が居る。
男は自分の前髪を弄りながら、煙草の煙を吐く。
「ホルスト=デイド・・・この場は禁煙だぞ?」
ホルスト=デイドと呼ばれた男の後ろから、黒で身を包んだ格好をした男が眉を細めながら歩いて来る。
「いやぁ~これを吸わないと私壊れちゃうんですよぉ~」
ケラケラと笑いながら、ホルストが言う。
「それでも、場を弁えろと言っている」
黒で身を包む男は少し声を張り上げる。
「それは、それは。申し訳なかったですね」
馬鹿にした様な口調で、態とらしく頭を下げるホルスト。
この男に何を言っても無駄だと解ったのか、黒で身を包む男は大きな溜息を吐き、話を変える。
「負けたらしいな?」
「いやぁ~まぁ~負けは負けなんですけどね。ですが、例え私の分身だと言っても、私の半分の力も使えないようじゃたかが知れていまよ?」
そう言いながら煙を吐く。
自分の失態を弁護しているのか、それともただ事実を述べているだけなのか。
まったく掴めないホルストに、黒で身を包む男は少し苛立ったが、その感情も直ぐさま消す。
「何の為に『終星団』の協力を仰ぎ、お前を今回の作戦に参加させたと思っている?」
ホルストを睨みながら言う。
だが、当の本人は気にせずに煙草の煙を吐いている。
「そりゃ~大変だったでしょうが、『始星団』には『力で示す怒り』が居るでしょ?彼が居れば十分だと思いますがね」
「当初はそう思っていた。だが、もしもの事を考えてお前を作戦に参加させた。言っている意味が解るか?」
黒で身を包む男は尋ねる。
「・・・失敗しのですか?」
ホルストの表情から笑みが消える。
「報告ではそうだ。『始星団』で生き残ったのは作戦に投入した74人中15名。半数以上が死亡だ」
「『黒い討伐隊』にはそこまで出来る人間は居ないと思いましたが?」
ホルストはあの森での戦闘を思い出しながら言う。
『黒い討伐隊』の本隊だったとしても、そこまでに『始星団』と戦力的差は無かった。
ならば何故?
此所で、ホルストに一つの可能性が浮かぶ。
「・・・第三者の乱入ですか?」
その言葉に、黒で身を包む男は頷く。
「『始星団』隊長であるログレオ=ワストからの報告だと、その乱入者交戦し敗北したそうだ」
その報告内容に、ホルストは完全に笑みを消す。
「・・・『力で示す怒り』が負けた・・・?」
「あぁ。しかも生かされて、だ。例え『世界の恵』が制限されている状況であっても、あの男は最強だ。それだが、負けた。トドメを刺さずにその男はこう言ったそうだ」
黒で身を包む男はそこで言葉を切る。
ホルストは黙って続きの言葉を待つ。
「・・・「アンタは生き証人だ。存分に自分の国で俺の事を言いふらせ。アンタはそれだけの為に生かされる」・・・だそうだ」
その言葉を聞きながら、ホルストは尋ねる。
「その乱入者の名前は?」
「サヤ・・・・と、言うらしい。それとログレオはこうも言っていた。「もし、私が本気を出していたとしても、私は勝てなかった。それ程の差だった」と」
その言葉を聞いて、ホルストは咥えていた煙草を握り潰した。
そして、無言で立ち上がり、教会の様な空間の出入り口に向かう。
黒で身を包む男は何も言わず、その背中を見つめる。
殺意を―――滲み出す背中を・・・。
Side=第三者∥Out
Side=サヤ∥Beginning∥『Reload』
焚き火をしながら、夕食です。
襲ってきた獣(俺だけ)を焼いて食している。
「肉ばっかりだと偏るな・・・」
俺は肉を見ながら呟く。
「『中立国』に行けば食事は何とかなりますから、ここは我慢ですね」
カロが言う。
「まぁ~俺は食えれば何でも良いけどな」
フォーリが肉にがっつきながら言う。
「まぁ~あと少しの辛抱か」
文句を言っても仕方が無いので、肉を食べる。
「まぁ~食べながらで良いのでもうそろそろ説明してくれませんか?」
カロが俺に言う。
「ん?・・・あぁ~『要塞崩し』の件か?」
「そうだぜ!何で止まった?」
フォーリが思い出した様に尋ねる。
「簡単な事だ。あれは『要塞崩し』じゃなかったって事だよ」
そう俺が言うと、カロが言う。
「ですが、私とフォーリが見てもアレは『要塞崩し』でした。何処が違ったのですか?」
「まずは何で俺が『要塞崩し』じゃないって解った所から説明するよ」
そう言って、俺は説明する。
「まず第一に、『要塞崩し』ってのは莫大な魔力を使用して発動する遠距離型巨大魔方陣だ。あれだけで国を破壊出来る。だよな?」
「はい。あの空に上がった巨大な光を魔方陣に場所を設定し、攻撃する魔法です」
カロが答える。
「んじゃ、何でそんな凄い威力の魔方陣を他の国は多用しない?」
俺はフォークでカロを指しながら言う。
「使用する魔力量の多さ。そして条件が必要だからです。その為多用されません。・・・それでサヤはアレが『要塞崩し』じゃないって気付いたのですか?」
俺は首を横に振る。
「いや、それもあるんだが、それだけじゃ証拠不十分。もしかしたら『始星団』の連中がそれをクリアしていたと言う場合もある。だから決定的な確信は別にある」
「別?何だそりゃぁ。俺とカロが見ても怪しい感じなんてしなかったぞ?」
フォーリが言う。
「先入観って奴だろ?カロとフォーリは『要塞崩し』って奴がどんな物か知っている。その先入観が怪しいって考えを消したんだ」
「どう言う意味ですか?」
「お前等光が上がったのを見て、『要塞崩し』を直ぐに連想しただろ?」
俺は肉を食いながら尋ねる。
「はい」
「そうだな」
「その時点でアレが『要塞崩し』だって疑わなかった。頭の中でそう片付けてしまったんだ。だが、それこそが『始星団』の仕組んだフェイク。アレは『要塞崩し』に似せて作られた『要塞崩しもどき』だ」
「『要塞崩しもどき』?」
カロが首を傾げる。
「だってあそこで『要塞崩し』を発動するメリットが少な過ぎるだろ?何を消すにしろ、あんな凄まじい魔方陣を直ぐさま発動出来るとも思えない。それに、態々『黒い討伐隊』が居る中で発動する意味も無い。と、なるとアレは時間を要する『要塞崩し』では無いと言う結論になった訳。んで、適当に仮説を立てたのよ。あれは『要塞崩し』に似せたただの攻撃魔法じゃないかって。それなら大量の魔力も要らないし、時間も早く発動出来る」
「成る程ですね。少々無理矢理と奇跡的な閃きがありますが、それで納得するしかありませんね」
何か酷い事言われているよね・・・少し傷付く。
「んじゃ、お前が気付いたのは『要塞崩し』を知らなかったって事か?」
フォーリが水を飲みながら尋ねる。
「まぁ~そうだな。大抵の魔法使いならあの光を見て先入観で『要塞崩し』だと思うだろうが、残念ながら俺はあの魔法を知らない。だから気付いた」
「それで、何故『始星団』はあそこで『要塞崩しもどき』を発動しようとしたのですか?」
カロが俺に尋ねる。
「ん~どうやら『中立国』に恩を売るみたいだったな」
「恩を売る?それはどう言う意味だ?」
フォーリが眉を細めながら尋ねる。
「どうやら『ローデン王国』の兵隊が『中立国』に集まっている様なんだよ」
「それは本当ですか?」
カロが驚いた顔で言う。
「あぁ。『始星団』の奴に聞いた。多分確かだ。それで、『始星団』の奴等はあの魔法で『ローデン王国』の兵隊を駆逐するつもりだったらしい」
「・・・成る程。ですが、何故あのタイミングで発動したのでしょうか?」
カロが腕を組みながら考える。
「さぁ~ね。何か理由はあると思うんだが、そこまでは知らない」
俺は寝転がりながら言う。
「まぁ、一応は止めれた訳だ。その変わり『ローデン』の兵隊ってのが無事だがな」
フォーリが言う。
「そうですね。理由はどうあれ、『中立国』への脅威を無くそうとした『始星団』の計画を潰した訳ですからね」
「ん~・・・・そこで相談なんだが」
俺は寝転がりながら言う。
「何ですか?」
「何だ?」
俺は起き上がりながら、二人を見る。
「俺は戦争介入するつもりは無い。だけど、『中立国』は戦ったら駄目だと思うんだよな。『ローデン』の兵隊と戦うのにしたって、防衛の為だろうけども今の状況で攻撃って意味は防衛としては取られない。『中立国』が『中立』を捨てる事になっちまう。それはどうしても避けたい」
二人は黙って聞いている。
「糞な人間派VS世界派の戦争に参戦するのは御免だが、『中立国』に住む人間は無関係だろ?だから俺は『中立国』に向かっている『ローデン』の兵隊を潰そうと思う」
そのまま続ける。
「だが、別に『中立国』の味方をするつもりは毛頭無い。俺は国に属すつもりは無いからな。その為、俺は俺と言う存在を各国に知らせようと思う」
俺はあの『始星団』の男との会話を思い出す。
覇道なんて大層な物は知らない。
目立とうとも思ってはいなかったが、今のこの世界で誰かが何かにならなければ駄目だ。
「俺はこの戦争に介入するつもりは無い。だから・・・俺が戦争の中心になろうと思う。俺と言う存在を蔑ろに出来ない程に、俺と言う存在を脅威に思う程に。俺はこの戦争を根本からひっくり返す。世界派VS人間派なんてのは知らない。俺VS世界って構造にしてやるよ。この戦争をな」
これは意志。世界を救う何て知らない。
だからこそ、俺は守る何て言わない。
自分を戦争の標的にして、世界をひっくり返す。
悪魔との戦争もそうだ。片手間で相手できる相手じゃない。
だからこそ、この人間同士の争いは俺を標的にして纏める。
救いだなんて大層なモンじゃない。
俺は俺で戦争を始める。
自分の為の戦争を。
「だが、俺はお前等に強要するつもりはない。俺は俺一人でもやるつもりだ。俺は貫く為に行動する。お前等はどうする?」
俺はカロとフォーリの意見を尋ねる。
二人とも黙って考えている様だった。
当然だ。二人の目の前にいる男は、今から戦争の渦の中に入ると言っているのだ。
介入しないとは言っているが、介入と言っても間違いではない。
ただ、何処に付く、付かないだけの問題。
それは、味方が居ないと言う事。後ろ盾も無しに、戦争の渦に入ると言っているのだ。
無謀。その一言がぴったりだ。
けれども、俺はもう決めた。
糞な戦争を、悪人である俺が糞に収める。そう決めた。
先に口を開いたのはフォーリだった。
「俺は自分の目的を果たすぜ?」
「目的?」
フォーリは少し黙り、話す。
「俺は10歳以前の記憶がねぇーんだ。俺はそれを取り戻す為に行動する」
記憶が無いって事には驚きだが、
「それはどう言う意味での行動だ?」
俺は尋ねる。
すると、フォーリはニヤリと笑って、
「お前と行けば、俺の記憶への手がかりが掴める様な気がすんだよ。だから、俺はお前に付いて行くぞ?戦争の渦?それ程面白いモンがあるか?クソったれな戦争はどうでも良いが、お前の言っている事は根本が違う。自分の為であって違う。それが最高に良いじゃねぇーか!!」
おいおい・・・・言った俺がこんな事思うのはどうかと思うが、そんな簡単に決めて良いのかよ?
すると、次はカロが口を開く。
「私は、守る為に行動しますよ。私と同じ過ちを犯しそうな人や、犯してしまった人を守る為に・・・・それにはサヤと共に居る方が果たせそうな気がします」
微笑みながらカロが言う。
「おいおい・・・お前等良いのか本当に?俺は今から戦争しに行くって言ってるんだぞ?どんな理由があろうとも、結局はクソだぜ?」
すると、
「クソだろうが、俺は俺の為に行動するって言ったろ?関係ねぇーよ」
「私も同感です。例え世界を敵に回そうとも、貫く必要のあるモノなんですよ」
成る程な。全く違う目的。だが、通過点は一緒か。最後が違うかどうかの問題。
「・・・感謝はしないぞ?」
俺はニヤリと笑いながら言う。
「感謝何ていらねぇーよ!!俺は俺の為にお前に付いて行くんだ」
フォーリが言う。
「私もですよ。本当に危ないと思ったら逃げますので」
微笑みながらカロが言う。
「馬鹿野郎だなホント・・・」
全く違う目的で、全く違う目的地。
俺は自分を貫く為に戦争を始める。
カロは自分と同じ過ちを他の誰かが味わらない様に。
フォーリは自分の記憶を取り戻す為に。
各々が違う目的の為に戦争を起こす。
世界派と人間派に喧嘩を売る為に。
糞な人間の争いを、壊す為に。
矛盾を孕む行動。
誰も認めないかもしれない。
けれども、このまま行けば本当に世界は終わる。
不毛な争いで、終わる。
それなら、革命とも言える行動を誰かが起こさないといけない。
例えそれが邪道でも。
「正しいと思う事を正しい方法で行うのは困難。けれども正しいと思う事を最低な方法で行うのは簡単だ」
そう。ただただ戦争に介入して全て壊すのは簡単だ。
だが、それだと何も変わらない。
捨ててはならない。
自分の目的を。
忘れてはならない。
誰かが苦しんでいる事を。
消してはならない。
無関係な命を。
正当な理由を並べるのでは駄目だ。
行動しなければ。
例え悪人でも、糞な悪にはならない。
「俺等は今から進む・・・誰も進む事の無い、俺達だけの道を。何も無い・・・無の道を。例え俺等の行いを否定されようとも、俺等が憎まれようとも。俺等には貫く為の理由がある」
正しさなどは要らない。
そんなモノは並べるだけ無駄だ。
「正義なんて語らない。俺等には俺等の目的がある。俺等はこれから・・・戦争に本格的に介入する」
「あぁ。異論は無いぜ」
「私もです」
「・・・これから俺等は『無道』と名乗る。無の・・何も無い道を切り開く為、各々の目的の為、俺等は自己中心的に戦争を始める」
これは冷酷な考えかもしれない。
戦争と言う二文字がここに来て重く感じる。
けれども、今の世界が正しいなんて思えない。
自分達の利益だけしか考えない国々に・・・この世界の行く末を任せられるか。
だからこそ、俺等は行動する。
「自分達の為に」
矛盾だらけの理由で・・・世界を巻き込む。
貫く為に―――・・・・。
Side=サヤ∥Out