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Side=サヤ∥Beginning∥『Reload』
このチート体になって初めてフルボッコにされた気がする。
精神的にも肉体的にもピークを迎えている。
皆知っているかい?ピークを迎えるとお花畑が見えるんだよ?
とまぁ、冗談はこれで終わりにして・・・。
現在俺達は村の人達の墓を作っている。
村の住民の数は詳しく解らないが、見つけた人と思われる者を片っ端から運び、埋めて墓を作っている。
現在、墓の数は72。これが多いのか少ないのか、残念ながら死に慣れてきた俺には解らない。
それはカロもフォーリも同じ様だった。
人の墓を作るなど、予想もしていなかった。
それ程に、この惨事は頭にこびり付き、胸が締め付けられている。
慣れないといけない。
そう思ってしまう自分が凄く嫌だ。
実際、このまま行けば慣れてしまうだろ。
目の前で誰が死のうが、後ろから助けを呼ぶ叫び声が聞こえようとも、慣れなければいけない。
そうだとしても、今の俺には見捨ててこの村から出る事は出来なかった。
中途半端な優しさ。
それとも、守れなかった償いか。
それでも、自己満足の為に墓を掘っていく。
「こっちは大体終わったぞ?」
フォーリが此方に近づきながら言う。
「お疲れ」
俺はシャベルを地面に刺しながら言う。
因みに、このシャベルは村にあった物だ。
まぁ、無理な力を入れれば簡単に折れてしまいそうな物だが。
「カロの奴は?」
フォーリが辺りを見渡しながら尋ねる。
「ん?確かフェニックスご夫妻の家だと思うが?」
俺はそう言いながら、ご夫妻の家を見る。
「カロの奴、瓦礫を退かして何やってる?」
フォーリが目を細くしながら俺に尋ねる。
「知らね。行ってみるか?」
「そうだな」
俺とフォーリはカロを凝視しながら近づく。
カロは子供抱きながら器用に片手だけで瓦礫を退かしている。
背負えば良くね?
「おぉ~い!!何やってる?」
フォーリがカロに尋ねる。
カロは動きを止め、此方を見ながら答える。
「少し探し物を!」
「「探し物?」」
俺とフォーリは瓦礫を見ながら尋ねる。
「探し物って何だ?」
フォーリが尋ねる。
すると、カロが脇に抱えていた一本の銀色の短剣を見せる。
それを見て、フォーリが驚く。
「なっ!!それは」
「その短剣がどうした?」
俺はイマイチその短剣の凄さが解らず、尋ねる。
すると、フォーリが興奮しながら俺に説明する。
「アレは『古の魔女』と言われた魔法使いの持ち物だ!此所にあると言う事は・・・まさか不死の悪魔の嫁はあの『古の魔女』か!?」
良く解らないな。
「その『古の魔女』って何だ?そんな有名な魔法使いなのか?」
俺が尋ねると、カロが答える。
「『古の魔女』と言うのは『ローデン王国』の誇る魔法使いの二つ名ですよ。戦場に赴けば、未知な魔法で敵兵を殺し、味方をも恐怖させた魔法使い。この銀の短剣はその『古の魔女』が持っていた魔法具です。それと、もう一つ銀の杖もあった筈なのですが」
「んじゃ、今その銀の杖を探しているのか?」
俺は尋ねる。
「はい。そうなんですが、中々見つからなくて」
そう言いながらも、片手で瓦礫を退かすカロ。
「まさかあの『古の魔女』だったとはな。それにしても、何故あの『古の魔女』がこんな村に?『ローデン王国』の奴等がそう簡単に手放すのか?」
「『ローデン王国』って世界派の国だよな?」
俺はこの状況をあまり良く理解していなが、兎に角気になった事を尋ねる。
「あぁ。そうだぜ」
「んじゃ、お前が『古の魔女』の事を知っているのは敵の魔法使いだからか?」
「それもあるが、俺は元々強者を求めて転々としてたからな。その途中で人間派の『グラパス皇国』に雇われただけだ。それに、銀の短剣と銀の杖=『古の魔女』って事は結構知られている」
成る程。それにしても、強者を求めて旅をしてたって・・・どれだけ戦闘狂なんだよ。
「それじゃ、「『ローデン王国』の奴等がそう簡単に手放すのか?」って言うあれどう言う意味だ?」
その質問には、カロが答える。
「『ローデン王国』別名『囚人が集う国』とも言われる国です。何故『囚人が集う国』と言われているかと言うと、支配下の小国から魔法使いを囚人として連れて来ているからです。表上は「危険分子を野放しに出来ない」ですが、裏の意味合いとしては「魔法使いの補強です」。魔法使いは最近の戦争などで数が減っていますから、多少なりとも力が欲しいのですよ」
「何で態々囚人として連れて来る?支配下の小国なら簡単に連れて来られる?それに、態々囚人を連れてってくれるんだ、有り難い話しでもあるだろ?」
「小国がそう簡単に貴重である魔法使いを手放すと思いますか?只でさえ、減ってきている魔法使いを。例え囚人であろうと、罪を無くしてやるとか言って、使う事が出来ます。そんな貴重な戦力をみすみす渡すと思いますか?」
俺は暫く考え、そして気付く。
「まさか・・・・誘拐か!?」
「はい。その通りです。『ローデン王国』は魔法使いを「囚人を引き取る」と言う名目で誘拐しているのですよ」
「だが、別にそこまでしなくとも無限傭兵があるんだから意味はそれ程無いだろ?」
「『ローデン王国』は無限傭兵を使わないのですよ」
「何で?」
自国から兵を出さない為の無限傭兵だろ?それ程デメリットがあると思えないが。
「それ程意味は無いと思いますが、無理矢理理由を付けるのなら「使い勝手が悪い」と言った所でしょうかね」
「使い勝手が悪い?」
「えぇ。支配下の小国と言ってもその国が裏切らないとも言えない。無限傭兵とは自国の兵ではない兵を戦争に投入する事ですが、それはメリットがある様に聞こえますが、どちらかと言えばデメリットの方が大きい。何故ならみすみす自分達の国の情報を与えているのと同じですから」
成る程。無限傭兵とは支配下の小国の兵を自国の兵の代わりに使う制度の様なモノだ。
それは自国の兵を使わずに戦争をすると言う事で、見た限りではそれ程デメリットは無い。
けれども、実際は自国の兵では無い兵を使う訳で、簡単に自国の情報を流していると言う事になる。
もし、無限傭兵で兵を出している小国が裏切った場合、敵に自国の兵の状態、兵の戦力、国内部の情報を知られてしまう。
「だから使わないのか・・」
「はい。その為の「囚人を引き取る」と言う名目で「魔法使いの誘拐」なのです」
それで『囚人が集う国』・・・。
胸くそ悪いな。結局は自国から兵を出さないのと変わらない。
「それで、何で手放さないんだ?」
「簡単な話ですよ。無限傭兵とは違って誘拐はそう簡単には出来ない。その為、優秀な魔法使いを簡単には手放さない。例え腕を失おうと、目が見えなくとも、歩けなくとも、詠唱して魔法を使えればどんな状態でも戦場に駆り出す。それが『ローデン王国』です。しかも、『古の魔女』はそこそこ良いポストに就いていた筈です。そんな人間が国を抜ければ、自国の情報を流す危険性がある。だからこそ、簡単に手放す筈が無い。と、言う事ですよ」
成る程な。
「俺はどうやらその『ローデン王国』と気が合いそうにないな」
俺は瓦礫を蹴りながら呟く。
その呟きが聞こえたのか、カロが言う。
「私もですよ。無限傭兵も胸くそ悪いですが、このやり方も胸くそ悪い」
「『戦争は戦争のために戦われるのでありまして、平和のための戦争などとはかつて一度もあったことはありません』・・・か」
俺が呟く。
「その言葉は?」
「ん?いや、『地球』の偉人の言葉だ。『アース』も『地球』と同じらしいから『アース』の偉人の言葉でも良いかもしれないけどな。なぁ~に、この言葉は今の『リロード』にはぴったりだろ?世界派、人間派とかに別れても、結局は自国の為にだ。他の人間がどうなろうとどうでも良い。平和と言う二文字を掲げれば、戦争が正当化されると勘違いしている。そして、その平和の為の戦争の為に平然と罪を犯し、その罪に気付かない野郎共。胸くそ悪くて胸焼けしそうだ」
前、龍族では腐った果実と言った言葉を使ったが。
こうなってしまえば腐っているのは果実ではなく、その果実を実らせる木自体が腐っているとしか言えない。それ程までに、この世界は危うい。
いや、『地球』も同じ様なモノだったか。
「あったぞ!!!!!!!!!」
フォーリが叫ぶ。
俺とカロがフォーリを見ると、フォーリは銀色の杖を掲げていた。
てか、俺とカロが話していた最中ずっと探してたの?熱心だな。
フォーリが此方に駆け寄りながら、カロに尋ねる。
「それにしても、探してどうするつもりだったんだ?」
その質問に、カロは抱いた子供を見ながら答える。
「この子に・・・親がいたと言う事実を教える為ですよ」
その答えに、俺とフォーリは笑みを浮かべる。
「お前は甘いなぁ~・・・そして優しいよ」
俺が茶化す。
「立派なパパだな!!クックク・・・」
フォーリも笑いを堪えながら茶化す。
「あまりからかわないで下さいよ」
カロはバツが悪そうに言う。
「んで、その子の名前は?」
俺はカロの抱く子供を見ながら尋ねる。
子供と言ってはいるが、赤ん坊と言った方が伝わりやすいと思う。
まだ1歳になったばかりぐらいの子供だ。
これ程叫んだりしているのに、起きる気配はない。
けれども、気持ちよさそうに寝息をたてている。
「確かリノ・・・だった気がしますね」
「リノかぁ~女の子なのか?」
俺が尋ねる。
「確かね。不死鳥も娘って言っていましたし。確かめてみますか?」
「お前何言ってるの?」
俺はカロを睨みながら言う。
「冗談ですよ」
ニコニコ笑いながらカロは言う。
「んじゃ、墓も作り終えたし、どうする?この後」
フォーリが背筋を伸ばしながら尋ねる。
「そうだな・・・取りあえず村を出るか?」
俺はカロを見ながら尋ねる。
「そうですね。中立国へはそれ程距離はありませんし」
「んじゃ」
俺は後ろを振り返る。
そこには、計84の墓がある。
花や墓標などは無い。
ただ、地面の下に何かが埋まっていると言った事を知らせるだけだ。
その墓を見ながら、俺は静かに目を瞑る。
「・・・安らかに」
こんな事を言えた義理ではないが、誰にも言って貰えないのも悲しいだろう。
暫く目を瞑り、そして開き歩き出す。
「取りあえずは中立国を目指しますか」
「そうですね」
「ハッハハ!!面白い事を望むぜ!!」
「あっ!歩きながらお前説明しろよ?」
そう俺が言うと、カロはバツが悪そうな顔をする。
「・・・そうでしたね」
その様子を見ながら、俺とフォーリは笑った。
名も無き村。無差別な攻撃により84もの命が奪われた。
生き残った者は1人。
それは良かった事なのか?
それを明確に、納得出来るように説明出来る者はこの先誰もいないだろう。
奪われた命と共に―――我々はこの1人を守る事を誓う―――。
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