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Side=第三者∥Beginning∥『Reload』
暗闇に満たされた空間。
水滴が落ちて、石で出来た床の上に出来た水たまりに落ちる。
その度、この空間に音が響く。
湿気なのか。それは解らないがジメジメした感じが居心地の悪さを醸し出す。
明かりは蝋燭が数本。
たったそれだけでは、部屋全体の暗さを明るさに変えられる事は出来ない。
その為、蝋燭から離れた場所は、暗い。
その、暗闇に紛れて一人の女性が佇んで居た。
服装は、全身灰色のつなぎみたいな服。
両手に枷を嵌められている。
ここまで言って解るだろうが、此所は牢屋だ。
鉄格子付きの部屋と言えるかどうか解らないが、そんな物が幾つもある。
その一つの鉄格子の中に、その女性は居る。
だが、女性は下を向いたまま動かない。
絶望しているのか?
だが、そんな考えも直ぐに吹き飛ぶ。
「ララ~ラララ~・・・・ララ~ララララ~♪」
女性は静かに歌う。
ラを永遠と繰り返し、リズムに乗せて発する。
お世辞にも上手いとは言えない。
それなのに、周りの囚人は怒鳴ったりしない。
それは、この歌が怒鳴っても止まない事を知っているからだ。
女性は顔を上げた。
表情は、一言で言えば笑みだ。
けれども、それを綺麗な笑みでは無い。
血生臭い、何かに歪んだ笑み。
女性の顔立ちは、汚れているせいかはっきりとは解らないがきっと正装でもすればお嬢様と言われても違和感の無いものだろう。
淡い茶色の髪は、耳に掛かる程度のショート。だが、それもボサボサだ。
顔の汚れと、歪んだ笑みのせいで全てを台無しにしていると言っても過言では無い。
「ララ~ラララ~・・・・ララララ~ララ~♪」
女性は歌う。
この歌の意味など解らない。無いのかもしれないし、有るのかもしれない。
ギィィィィィ―――――・・・・・。
扉が開く音。
扉が古過ぎて、金具と金具が擦り合って響く不快音。
コツ――コツ――コツ――
革靴で歩いている様な足音が響く。
「ラララ~ララララ~・・・・ララ~ララ~♪」
女性は気にせずに歌い続ける。
すると、足音が止む。
「囚人番号200045・・・・いや、『最後の魔女』」
看守の様な男が、女性の居る鉄格子の前で止まり女性に向かって言う。
「・・・・ご飯?」
女性は尋ねる。だが、視線は向けない。
「何を言っている」
看守は苛々した様子で言う。
すると、女性は笑って言う。
「ハハッ!ごめんね。ご飯はもう三日前に食べたわよね。最近忘れやすいのよ」
そう言って、笑う女性。
その笑い声に看守は青筋を立てる。
すると、いきなり笑うのを止め尋ねる。
「それで?久しぶりに来て、いきなり私の二つ名を言うのはどういう事なの?」
女性の声から戯けが消える。纏う雰囲気は異質の一言。
何かを狙う狩人・・・いや、その狩人すらも狩ってしまう獣。
「出所許可が下りた」
看守が答える。
「出所?私が?それはまたどうして?」
そう言って、女性は自分の手首に嵌められた枷を床に擦り付ける。
ガリ・・・ガリ・・・と言った音が響く。
「俺が知るか。上からの命令だ」
その音に苛々しながら、看守が答える。
「へぇー、上かぁ~・・・・期待して良いのかしら?」
看守のその答えで理解したのか。ここで始めて女性は看守を見る。
表情には笑み。瞳は青。頬を吊り上げ、枷を擦る。
「俺に聞くな」
そう言いながら、看守は鉄格子を開ける。
「貴方一人?私が逃げる可能性は考えてないのかしら?」
女性は立ち上がりながら尋ねる。
「そんな素振りを見せた場合、こう言えと言われている」
看守は手で鍵を弄りながら言う。
「―――『望みが来た。後はお前次第』と」
その言葉に、女性は一度驚いた顔をして、直ぐさま歪んだ、とびっきりの笑みを浮かべる。
「そう・・・来たの・・・それで・・・そう・・・」
ブツブツと呟く女性。
その姿に看守はゾッとしながらも、苛立った口調で言う。
「早くしろ!」
「はいはい・・・急かさないでよ。私は逃げないわよ?」
そう言って、女性は鉄格子の外に出る。
「行くぞ」
そう言って、看守は女性に先に歩くように促す。
女性は素直に従って、看守の前を歩く。
「ラララ~ラララ~・・・ララ~ララララ~♪」
下手な歌を歌って―――・・・・。
Scene→Change
西洋の黒い鎧を着た集団が、ぞろぞろと荒野を歩いていた。
黒い鎧達が持っているのは、黒い槍・黒い剣・黒い盾。全てが黒だった。
その黒い鎧の集団の一人が持っている旗。
黒で塗りつぶされた布の真ん中に、白で書かれた槍・剣・盾のエンブレム。
集団は無言で歩き続ける。
すると、一人の黒い鎧が止まる。
その黒い鎧は最後尾を歩いていた為、誰も気付かない。
黒い鎧は夕方になりかけた、茜色した空を見上げる。
薄く星が見え、月も見えている。
立ち止まった黒い鎧は直ぐさま歩き出す。
すると、黒い鎧は持っていた剣を落とす。
その黒い剣には白い文字でこう刻まれていた。
『Horse of the dark』と。
意味は、『暗闇の馬』。
黒い鎧は特別慌てる訳も無く、黒い剣を拾い歩き出す。
何かを目指し―――。
Scene→Change
少年はある武器屋に居た。
武器屋の扉には張り紙がしてある。
『ここでしか買えないよ!!』
随分シンプルで、ストレートな宣伝。
何が此所でしか買えないとも書いていない。
この武器屋の店内で、少年は剣を見ていた。
何度も何度も同じ剣を見て、手に取っては戻しを繰り返している。
その姿に痺れを切らしたのか、店員が話しかける。
「何かお探しで?」
その問いに、少年は直ぐには答えず、遅れて答える。
「えっ!?あぁ、あぁ~・・・・実は僕の新しい剣を探していまして」
少年は見た目に似合わない口調で説明する。
直ぐ解る。少年は無理な口調で話していると。
店員は少し怪しんだが、満面の笑みで言う。
「そうでしたか!!それでしたら・・・・これなんてどうですか?」
そう言って、店員は適当に取ったかの様に、乱雑に置かれた剣の中から一本取り出し、少年に見せる。
少年は顎に手を当てながら、その剣を凝視する。
「これは中々の物だと思いますよ?」
本当にそう思っているかは解らないが、店員は勧める。
「ん~・・・・これはちょっと」
気に入らなかったらしく、次の剣を出せと催促する。
「それでは・・・これなんてどうですか?」
またも、乱雑に置かれた剣の中から取りだして見せる。
「それも・・・」
そう言って、少年は首を振る。
「それでしたら!」
「それは・・・」
「これは?」
「それはちょっと・・・」
「これなら!!」
「それは論外」
「これならどうだ!」
「いや~・・・」
「これしか無いだろ!!」
「ん~・・・無いな~」
店員は計七本の剣を勧めてみたが、全て少年に却下された。
店員は疲れた様子で、尋ねる。
「それなら、どんな剣を探しているか言ってくれません?」
「切れ味が良い物を」
少年の捜している剣は実にシンプルだった。
切れ味が良い物。
剣を探すのなら、それは当たり前の事だ。
だが、この少年にそこまで切れ味の良い剣を持つ必要があるのか?
店員は少し怪しんだ目で少年を見る。
黒い髪に黒い瞳。東洋人の様な肌の色。
服装もどこかの貴族や、兵士と言った感じの無い軽装。
店員は怪しいと思いながらも剣を一本取り出して見せる。
「これなんてどうですか?」
少年はその剣を見ながら、店員に尋ねる。
「持ってみても?」
やっと興味を持ってくれた事に少し嬉しくなり、店員は頷く。
「はい、どうぞ!」
少年が手を伸ばし、剣を取る。
少年はそれを片手で持ち、両手に持ち変える。
「振ってみても?」
少年は剣を見ながら尋ねる。
「はいどうぞ。その為に店内は広く作られていますから」
そう言って、店員は数歩下がる。
少年はしっかりと握り、剣を振る。すると―――
ブォンッ!!!!!!
振った瞬間、剣から風が生まれ、
バリンッ!!ガチャンッ!!!!バゴンッ!!!!
様々な物が割れたり、砕けたり、落ちたりする。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「何だあああああああ!!!!!!!」
「うおうおうおうおうおうお!!!!」
店内が悲惨な事になった。
剣を振り下ろした体勢のまま、少年は固まる。
店員は少年を見ながら固まる。
少年の顔からダラダラと汗が流れる。
店員の顔はみるみる赤くなっていく。
「お邪魔しました!!!!!!!!!」
少年は剣を捨て、直ぐさまダッシュして店を出る。
「待てや!!!糞餓鬼がぁ!!!!!!!!!!」
店員は怒鳴って少年を追いかける。
だが、店を出た時には少年の姿は無かった。
「糞餓鬼がぁ!!!!!!!!!!!!」
街に、店員の咆哮が響いた――――。
Scene→Change
古びた家の一室。酒瓶がごろごろ転がっている。
足の踏み場も無いとはこの事を言うのだろう。空き巣にでも入られた様な惨状だ。
その酒瓶に埋もれて、一人の男が寝ていた。
無精髭を汚らしく生やし、ボサボサの金が混じった茶髪。
男は涎を垂らしながら寝息を漏らしている。
「糞餓鬼がぁ!!!!!!!!!!!!」
「なっ!!!!!」
響いた叫び声に、汚らしい男は驚き起きる。
「何だ?一体何だ?」
男はキョロキョロと寝ぼけた目で辺りを見渡す。
「・・・夢か?」
寝ぼけた事を言っている。
男は、酒瓶を枕にもう一度眠りにつく。
すると、男の足下に一つの杖が落ちている。
酒瓶の中にあるのは、奇妙な赤い杖。
男は寝ぼけながらその杖へ踵落としをする。
「・・・痛ぇー・・・・」
男は顔を歪めながら呟き。直ぐさま眠る。
杖は、無傷で酒瓶に埋もれていた―――。
Scene→Change
光り輝く巨大な一室に、女性は椅子に座って老人に向かって居た。
辺りには、肖像や高そうな壺や何かの銅像が置いて有る。
上にはシャンデリア。下には高級な絨毯。
椅子には、金や銀を使われておりテーブルも同様。
そのテーブルには、こんなに要るか?と言う程多量の花が花瓶に入って置いて有る。
「いやいや、此所までご足労を有難うございます」
そう言って、女性の向かいに座っている老人が言う。
だが、有難うと言っている割には頭を下げる様子は無い。
「いえ、この様な凄い所に入れただけでも私は凄く嬉しいです」
女性は優しい声で言う。けれども、表情は若干硬い。
そんな事にも気付かず、老人は笑う。
「そうでしょう!そうでしょう!」
その笑い声を聞いて、女性の顔が少し歪む。
すると、老人は持っていたワイングラスを出す。横に待機してたメイドが、そのワイングラスにワインを注ぐ。
その様子を見て、更に女性の顔が歪むと言うか引き攣る。
「いやいや、そんなに緊張しなくとも良いですぞ?」
笑いながら老人が言う。
「い、いえ・・・・この様な所は初めてなので」
そう言って、軽く笑う女性。だが、表情は引き攣っている。
「そうですか!そうですか!!貴女様は戦場でこそ栄える花ですからな!!!」
そう言って笑い、ワインを飲む老人。
老人の服装はあたかも王族と言った感じの眩しい位の服。
女性の服は、白をベースとしたドレス。
だが、女性は胸元が苦しいのか着心地が悪い様だ。
それもその筈だ。女性の胸は言ってしまえば巨乳だ。
それを少し小さいのか?ドレスが圧迫させている。
女性は巨乳と言った通り、スタイルが良い。
ドレスを着ているからか、余計そう見える。
女性の髪は淡い青。水色と言っても良い。
それに、碧色の瞳。肌は白く、美人であった。
老人は女性を見つめながら言う。
「いやぁ~貴女様の様なお美しい方が、『勝利を約束する女神』だとは思いませんでしたよ」
そう言って笑う老人。
「女神・・・ですか?」
苦笑しながら尋ねる女性。
「えぇー。まさに女神ですな!!」
そう言って笑う老人。
何が面白いのか、ずっと笑っている。
その大きな口を開いて笑う様が、更に老人の品格を落としている。
「貴女様が居れば、この戦争も勝ったも同然ですな!!!」
そう言って、ワインを飲む。
一応女性の前にもお酒が入ったグラスがあるのだが、女性は手を付けていない。
「そう・・・ですね」
女性は暗い顔で答える。
そんなのにも気付かず、老人は笑っていた―――。
Side=第三者∥Out