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Side=サヤ∥Beginning∥『Reload』
見えた―――これは谷なのか?
俺は空から見下ろしていた。
下には、荒野が広がっている。
これを谷と呼ぶには少し無理があるような気がするが、まぁ、今はそれ程重要な事でもないだろうな。
さて、問題は侵入方法だが・・・。先程から殺気・魔力駄々漏れで近づいているのに、誰も出迎えてくれないな。
最強種と言ってもこんなモノか?
溜息を吐き、もう一度下を見ようとした時―――
『我は此所に居る―――逃げず惑わず―――我は此所に居る』
頭に声が響く。
老人の声。だが、その声を聞いた瞬間、変な汗が流れ出る。
何だこれは?あの悪神を見た時と同じ・・・恐怖に紙一重な感情が湧き出る。
圧倒的な・・・力。
俺は、気付かぬ内に、頬を吊り上げて笑っていた。
面白い。お前は誰だ!!お前は俺に何をさせたい!!!
『我に力を―――見せよ』
頭に老人の声が響く。
面白い。面白い。これ程に心躍る事があるだろうか?
召喚の神々と同様の感覚。この世界に・・・悪魔以外にその存在が居る。
「会いに行ってやるよ・・・」
俺は侵入方法など気にせず、ヨーロで『龍族の谷』に突っ込んだ。
Side=サヤ∥Out
Side=第三者∥Beginning∥『Spiritual world』
星空の空間の中、悪神が椅子に腰を掛けながら空を見上げて笑っていた。
「修羅の道を行くのか?餓鬼」
悪神はサヤの心境の変化を過敏に感じ取っていた。
サヤは自分に似ている。
悪を選んだ自分に。自分と同じの道を歩むと。
殺戮やそんなモノは人を壊すだけ。
必要なモノは、堕ちるかどうかだ。
だが、悪神は喜んでいた。
自分が手など下さずとも、実際にサヤは修羅・・・つまりは自分の歩んだ道に足を踏み入れたのだから。
貫くと言った。だが、その思いは必ずも万人に愛されるモノではない。
疎まれ、憎まれ、恨まれる。
悪神は確信していた。サヤは、必ず堕ちると。
強大な敵を求め、蓄えていた怒りは喜びに変わり。
高みを目指すあまり、気付かぬ内に違えた道を歩む。
悪神は、星空を見上げて・・・頬を吊り上げる。
そして、手を伸ばし囁く。耳元で囁く様に・・・静かに・・・。
「それでこそ・・・我が主だ・・・」
星空の空間の星が―――流れた―――。
Side=第三者∥Out
Side=ラテス∥Beginning∥『Reload』
思い出が、走馬燈の様に頭を巡っていた。
自分の記憶無い様な昔の光景。
お父様とお母様。
それだけで幸せで、過去の私はいつも笑顔だった。
だけれど、昔の自分なのに妬ましかった。
今の私に無いモノを、何故過去の私が持っているのか?と。
自問自答は意味もなく、過去の私は笑っている。
本当は、今の私も笑っていた筈なのに・・・。
どうして、どうしてお父様もお母様も・・・死んでしまったの?
私を置いて・・・私だけ残して・・・。
私を守ると言ってくれたのに・・・独りにしないと言ったのに・・・。
私は、今独りだよ?だから・・・独りにしないでよ。
置いてかないで・・・お願いだから。
「独りにしないで・・・・」
気がつくと、私の目は開いていた。
ぼやけた瞳で、辺りを見渡す。
知っている光景。
「・・・・ツッ・・・」
お腹に鈍い痛み。
そこで私は思い出す。
捕まったと。
ガチャ―――・・・・。
足に枷が嵌められている。嵌められた枷には鎖が付いており、その鎖の先には鉄の重りが付いている。
龍族の私なら、簡単に逃げられるぐらいの重さだった。けれども、体の重さが逃げる事を許してくれなかった。
どうやら、何かの薬草で体が痺れている様だ。
指すらも満足に動かせない。
あぁ~・・・死ぬのかな。
思わず思ってしまう。
私は龍族を抜けようとした。
龍族は掟を重んじる種族だ。
破った者には、問答無用で死と言う罰が与えられる。
私は掟を破り、『龍族の谷』を出ようとした。
きっと私も死ぬのだ。
だって私は・・・同族殺しの娘だから・・・。
「起きていたのですか?」
誰?
私は動かない体を動かし、その声の主を見る。
「カロ・・・生きていたの?」
声の主はカロだった。カロは岩に凭れて地面に座っている。
カロは私と違って足に枷は嵌められていないが、代わりに手首に嵌められている。
「龍族の血は魔力を無効化にすると言い伝えられていましたが、まさか本当とは思いませんでした。お陰で逃げられませんし、魔法も使えません」
虚ろな目でカロの手首に嵌められた枷を見る。
私の枷と違い、赤い枷。龍族の血を染みこませた、対魔法使いの枷。
けれども、魔法が使えないと言うのにカロは平然としていた。
「怖くないの?」
思わず尋ねた。
死ぬと解っている私でさえ、怖いのに何で彼は平気なのだろうか?
それとも、自分の運命を受け入れているのだろうか?
「怖い?何がですか?」
私の質問に、質問で返してきた。
この状況で・・・思わず私は笑みが零れた。
「ハハッハハハ・・・死ぬ事がだよ?」
カロは、微笑みを崩さずに答える。
「死への恐怖はありますが、別に今感じる恐怖はありません」
今感じないのなら、いつ感じるのだ?
「私達・・・死ぬんだよ?」
「いえ・・・死にませんよ」
その自信はどこからくるのか。
もう、彼は頭が可笑しいとしか思えない。
どうしてそんなに平然でいられる?
どうして死への恐怖がない?
どうして笑ってられる?
どうして壊れずにいられる?
どうして・・・
すると、カロは空を見上げて言った。
「ほら・・・来てくれましたよ。友が」
「友?」
私も空を見上げる。
!?
この殺気と魔力・・・まさか・・・サヤ?
何で、勝てる訳ないのに・・・龍族に殴り込みって・・・本当だったの?
こんなの、自殺するようなモノじゃない。
それなのに・・・。
その時、私の頭の中にサヤの声が響いた。
『最強を自負する化け物さ』
彼が言った。最強と。
『最強を自負する化け物さ』
彼が言った。化け物と。
『最強を自負する化け物さ』
頭に響く彼の声が凄く・・・優しく感じた。
Side=ラテス∥Out
Side=サヤ∥Beginning∥『Reload』
激突まで後数メートル。
俺は一気にスピードを上げる。
自殺行為だよな。思わず苦笑した。
だが・・・止まらない。
「行くぜヨーロ!!!!!!!!!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!
衝突。激突。大爆発。
土煙が舞う。
・・・少しやり過ぎたか?
「ゴホッ!ゴホッ!・・・死ぬかと思った」
自分の行為で死ぬとか・・・どんな間抜けだよ。
思わず自分で自分にツッコむ。
「まさか突っ込んでくるとはな」
土煙で誰が喋ったか解らないが、声がする。
「あぁ?誰だ?見えないんだけど」
目を細めながら声の主を捜すが、解らない。
すると―――
ブォオォオォォォォォン!!!!!!
突風が吹く。その突風のお陰で、土煙が消える。
「おぉ~ありが・・・・と?」
土煙が晴れた。けれども、晴れなければ良かったのに、と思った。
・・・囲まれています。全方位。
俺の周りをぐるり・・・。
槍やら、剣やら・・・遠くからは弓矢で俺を狙っている奴まで居る。
「・・・で、さっきの声の主は?」
あまりに気にしない事に。自業自得だしね。
すると、一人の男が前に出る。
「私だ」
俺はその男を見る。
白い髪。に白い髭。ラテスの様に肌に鱗や角などは無く、人間そのモノだった。
てか、自分達の住処で擬態する必要は?
まぁ、この疑問はこの場では相応しくないか。
「アンタは龍族の長か?」
タメ口。
俺を囲む龍族の皆さんが青筋を立てる。
怒っているな。と、言う事はこのおっさんはそれなりの地位の龍族か。
「いや、私は長ではないよ。それでも、皆の上に立つ者だ」
そう言って、おっさん頬を吊り上げる。
なんだ?思った以上に素直に答えてくれるんだな。
もっと警戒されると思ったが・・・いや、このおっさんだけか。他の奴は殺気立っているし。
「ふぅ~ん・・・そんな事より、俺の友達知らない?此所に拉致されていると思うんだけど?」
辺りを見渡しても姿が無い。それに、カロの魔力を感じない。どこかに幽閉されているのか?
「友達?あぁ~あの魔法使いかい?彼は今、裏切り者と一緒に居るよ」
裏切り者?ラテスの事か?
「その裏切りって・・・あの子何かしたの?」
聞き出すチャンスか?
「ん?聞いてないのかい?」
「あぁ」
「それは好都合だ。我々の恥が表に出ないですむ」
あぁ~やっぱり。こう言う種族か。
人間と似ているよなぁ~。自分達の身内が何かやらかしたら、それを必死に隠す。
最強種も・・・こんなもんか。ちっぽけなプライドで塗り固めた、同族を愛している様に見せて、簡単に切り捨てる・・・。
「恥ねぇ~・・・俺、龍族は最強種って聞いていたんだけど」
俺は頭の後ろで腕を組ながら言う。
「そうだ。我々は最強種だ。そんな最強種の住処に・・・君みたいな人間が単身乗り込んで来るなんて、自殺行為も良いところだ。それとも、本気でお友達やらを救えると思っているのかい?」
そう言って、ヘラヘラと笑うおっさん。
あぁ~嫌いなタイプだ。
『地球』の政治家にもこんなタイプが沢山居たんだろうなぁ~。そんな奴に俺達は日本を任せていたのか。この世界に来てから・・・醜いモノばっかり見ている様な気がするな。
「どうした?何故黙っているのだい?もしかして、独りで来た事に今更後悔しているのかい?ハッハハ!!遅い。遅過ぎる。君はもう死ぬんだ。我々に殺されて、ね」
「黙れよ」
「へっ―――グボォヘッ!!!!!」
我慢出来ずに、おっさんの顔面に拳を入れる。
おっさんは横回転しながら飛んで行く。
そして、岩に衝突。
・・・死んでないだろ?
「貴様!!!!」
「殺してやる!!!」
「覚悟しろやぁ!!!!」
周りにいる方々が一斉に俺に攻撃してこようとする。
俺は睨む。
すると、俺に攻撃しようとしていた方々が一斉に動きを止める。いや、止まる。
蛇に睨まれた蛙とはこの事だな。あぁ~、化け物に睨まれたトカゲか。
「うっ・・・うぅ~怯むな!!かか―――」
「止めろ!!!!」
ん?
声のした方を見る。
すると、遠くの方から筋肉質の男が此方に近づいて来る。
「お、長!!!!!」
長。この男が。
纏っている空気が違うな。さっきのお喋りおっさんと全然違う。
すると、筋肉質男と目が合った瞬間―――
「―――なっ!?グハッ!!!!」
鳩尾に拳がめり込む。
俺はそのまま後ろに吹き飛ばされる。
ドガァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!
「ガハッ!!!」
岩に衝突した衝撃で、血を吐き出す。
俺はそのまま、倒れる。
何だ?何だったんだ?俺の目でも追えずに、ただただ食らったのか?
何だアイツは・・・あの男は何者だ?
「これで終わりか?侵入者」
筋肉男・・・いや、龍族の長が俺を挑発する。
これが、モートが言っていた経験ってやつか。
百戦錬磨。まさにあの長の事か。
「くっ・・・誰が終わりだ」
俺は岩で体を支えながら立ち上がる。
見事に急所に入った。
あの速さにこの威力。
俺みたいなチートじゃなかったら完璧に殺られていた。
容赦無いわ。でも、それでこそ・・・だ。
俺は口から血を吐き出し、動き出す。
長の右側面に瞬時に移動し、太股を狙い蹴る。だが、長はそれをバックステップで回避する。
だが、俺は緩めない。直ぐさま距離を詰め、今度は心臓を狙い、右の拳を突き出す。
それをクロスアームブロックで止められる。が、俺は左腕を鞭の様に撓らせ、顎を狙う。
それを、先程の様にバックステップで回避する。だが、逃がさない。
俺はカポエイラの技、顎への蹴りケイシャーダを繰り出す。
「なっ!?」
長は俺のいきなりの格闘スタイルの変わりように、一瞬驚くが、それをしゃがみ回避する。
そして、今度は長が攻撃を繰り出す。しゃがんだ態勢のまま、俺の腕を脚で払う。俺は態勢が崩れるが、片腕で跳び、長から距離を離す。
一息。と思ったが、直ぐさま長は俺との距離を詰める。
「クッ!」
長は俺の首狙い蹴りを繰り出す。
早いっ!!
俺は俺を片腕でガードする。
「クソガッ!!!」
凄い衝撃。俺は思わず崩れる。
「・・・これで終わりか?」
たった一発の蹴りで・・・格闘技では不利か?
しかも、トドメを刺さない。
これは侮辱。俺は一瞬『朱眼』の開眼を考えたが、直ぐさまその考えを捨てる。
魔眼を使うのは負けの様な気がした。
・・・舐めるな。
「舐めるな」
そう言って、俺は長を睨む。
「フッ!そうではなくては」
長は、ボクシングの構えをした。この世界にボクシングなどは無い。
だから、これは戦いの中で身に付け技術。
流石だよ。俺はただ、与えられたモノを使っているだけ。
これが・・・差か。
けれども、負ける気はしない!!
「テメェーの負け面拝んでやるよ!」
俺は中指を立てた・・・・。
Side=サヤ∥Out