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無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第二章:石に眠る宿怨の具現者
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46話:図書館司書の仕事





ティオに眼が出来たのを司祭に報告した後、エレアスはティオと一緒に拠点へと戻った。


エレアスの後ろをぴょんぴょんと跳ねて追う姿はこれまで通りではあったが、やはり眼が有るのと無いのでは違うらしく、道中ティオの視線がキョロキョロと忙しなく動きまわっていた。

道行く人に空を飛ぶ鳥、地面を跳ねる小さな虫などを見て回るティオは、初めて外へと出た幼子のようで、まるで初めて見る世界を楽しむよう。微笑ましいその様子に、エレアスがティオを呼ぶと、その視線をエレアスへと向けて一目散に近付いてくる。


「今までは見えてなかったの?」

「......?」


エレアスの問いにキョトンとした顔をするティオ。

顔らしいパーツが一つ付いただけで、その感情はとても分かりやすいものとなった。


これまでは目も口もなかったため、ティオがどこを向いているのかも分からなかった。しかし、エレアスがティオを呼べば今のように向かってくるし、[魔物]や[魔晶石]、敵の攻撃だって認識していたはずだ。今までだって多少なりとも見えていなければ説明がつかない動きであったが、眼がついたティオはまるで初めて景色というものを見たかのように、キラキラとしたその瞳で世界を見ている。

その美しいまでの瞳は、あの禍々しい[悪魔]によってもたらされたものだとは到底思えない。

この澄んだ青の瞳は、あの[悪魔]のものとは似ても似つかない。きっとティオ自身が力を蓄えて得た、全くの別物なのだろう。


「ねぇ、ティオ。目を細めることはできる?」

「?」

「こうやって、ね、真似してみて?」


エレアスの突然の指示に、ティオは再び目を丸くする。

エレアスはティオをその手で持ち上げて、自身の顔が見やすいようにティオを顔の前へと持ってくる。

そうして笑顔を作って見せ、それをティオに真似してみせるように言う。


少しだけティオの感情が分かりやすくなった今、目での表情の作り方を教えれば、ティオの感情がより分かりやすくなるだろうと思ったのだ。

そこでまずは喜怒哀楽の喜の表情から教えてみることにした。


目を細めて、口角を持ち上げる。ティオには口がないから、目を細めるだけになってしまうが、目も口も無い時よりもずっと分かりやすいことに違いは無い。


エレアスの顔と雰囲気を察してか、ティオは目をぱちくりと動かした。そうして少しずつ瞼のような部分を動かして、エレアスの真似をし始める。

しかし、一発でそう簡単にうまくできるはずもなく。


「あはは!それだと怒ってるみたい。もっとこう、力を抜いて...ふふふ、」


使ったことも有るのかも分からない表情筋を、無理やりに動かしたティオの目は、笑って目を細めているというより、怒って(しか)めっ面をしている時に近くなってしまった。

思わず吹き出してしまったエレアス。

ティオが頑張って表情を動かしている様子に、さらに笑いが込み上げてしまう。それを見たティオはしばらくの間固まっていたのだが、だんだんとエレアスの破顔につられたのか、その目元が少しだけ柔らかくなった。


「あ、そうそう、その調子!」


その変化に、エレアスが声をかけるが、ティオには表情の変化の自覚がないようで、再び顰めっ面に戻ってしまった。


「ふふ、これは...時間がかかりそうだなぁ...。」


顔がなかった生き物が、出来たての顔を動かすなど、かなり難しいことだ。一朝一夕でできるものでもない。

エレアスは微笑みながら、瞼をぐぎぎと動かしてみせるティオを眺めて呟いた。






********






「おや、キュオン君。あの依頼はもう終わったんですか?」


ノフィアス教会マクリアグロス支部にある図書館。

ここは教会関係者以外にも、信者や併設されている施設の利用者なども立ち入りを許可されている。つまり、市民が自由に使える図書館という訳だ。


そこで図書館司書を勤めるのは教会助祭でもあるファルコだった。そんな彼が声をかけたのは、教会エクソシストのキュオンだった。立場は違うものの、負傷したキュオンを時折治療しているため、関わることはそれなりに多い。それに歳が近いのもあってか、お互い気軽に話しかけ合うことができる人物でもあった。人当たりのいいファルコとは対照的に、キュオンの方はそもそもその性格と態度から、気軽に話しかけてくるような知り合いは少ないのだけれど。


「ああ。昨日の内にな。」


ファルコの声掛けに、あっさりとした回答をするキュオン。わざわざどの依頼かを聞かなくとも、此度の依頼人の話は一緒に聞いていたので、話題は一つしかない。


「流石ですね。やはり例の曰く付きの宝石とやらに、[魔のもの]が潜んでいた、という訳ですか?」


しかし、ファルコが聞いた依頼内容から察する結末を聞こうとすれば、キュオンは少し面倒臭そうな表情を浮かべて黙ってしまった。


「...ここ、今お前1人か?」

「...!そうですが、...何かありましたか?」


他の人間には聞かれては困るような事態があったのだろう。

幸いにも、すでに図書館は閉館時間を過ぎている。そもそもファルコは司書として、閉館後に教会関係者以外で残っている者がいないかを確認しに来たのだ。そこでキュオンが残っているのを見つけて声をかけたという訳だ。

キュオンが図書館に来るのは珍しい。大抵のことは、知識というより勘と経験則で解決してしまうタイプだからだ。

それに。

今回の件は、古い物に[魔のもの]が宿るという、一件よくあるような依頼であり、調査に向かったその日中に終わらせてきたというのであれば、それ程複雑な事件でもないと思っていたが。


キュオンが少し悩んだ後、静かに口を開いた。


「あの宝石だが...、[魔物]が[悪魔]へと至る力が封印されていた。」

「...[魔物]が[悪魔]に...?」


すぐには頭の理解が追い付かず、キュオンの言った言葉をオウム返しにしてしまったファルコ。

[魔物]が[悪魔]に変化するという事態だけでも恐ろしい話だが、それを現実にしてしまうような外部からの力があるというのか。


「さすがに、初めて聞く事例ですね...。」

「...この目で見た。」


その[悪魔]を間近で見て討伐してきたキュオンが言うのであれば、間違いはないのだろう。

ファルコはごくりと息を飲んだ。


「で、封印の印として魔術式らしいものがあったんだが...、どうも見たことねぇ形式でな。」

「...なるほど。それで図書館(ここ)に?」

「そういうこった。」


経験上見たことがない魔術式ということであれば、情報収集にはこのような図書館が適しているだろう。それにここは、魔術師であるファルコが司書を勤める図書館だ。魔術について書かれている本はかなり多い。


「術式の解析は出来たんですか?」

「見たことねぇ形式だ。解析もクソもねぇよ。」

「...それもそうですね。」


力の封印という魔術は存在する。しかしそれは相手の筋力であったりマナであったりを、術者のマナを用いて上から押さえつけ、発動させないように縛ってしまうという魔術だ。人間や動物相手に使うのが通常であり、決して[魔のもの]の能力を吸い取って保管するようなことが出来る魔術ではない。


それに、そのようなありふれた術式であれば、キュオンが残された魔術の形跡から、どんな魔術が使われたのかを解析できているはずだ。

しかし相手は見たこともない術式。もはやキュオンやファルコが知っている魔術と同じ仕組みなのかも分からない。


「本当かどうかは知らねぇが、伝承通りなら700年に作られたものだ。」


キュオンが眉間に皺を寄せながら言う。


ああいう骨董品や遺物、古物は伝承こそあれどそれが本物であるのか、はたまた歴史的に正確性のあるものなのかは、分からない。それこそ当時の人間がいれば証明できるかもしれないが、"神"や"悪魔"でもない限り、数百年前の出来事を目の当たりにした者はいないのだ。


だからこそ、古い時代のものを知る際には人間は文献や書物、史料に頼る他ない。正確性には欠けるかもしれないが、それが手がかりになることはある。


しかし、年代を聞いたファルコも、キュオンと同じように眉を顰めた。


「古い魔術ですか...。うぅーん...、500年前の[悪魔]の反乱よりも前となると...文献は少ないですね...。」


500年前のリモストロ王国での悲劇。

多数の[悪魔]によって人間が数多く虐殺され、王国が存続の危機を迎えたあの事件。各地で火災が発生し、王都は機能を失い、王国全体が大混乱へと陥った。

その際に失われた物は数しれず。歴史ある建物はおろか、多くの美術品に書物、歴史的な遺物などが焼失、あるいは行方不明になってしまったのだ。


今回の依頼品となった宝石も例に漏れず。その際に紛失、30年前に再発見されるまで行方不明だったのだ。

つまり、その宝石に関わる手がかりも、時を同じくして紛失している可能性が高い。


「奥に保管している史料も見てみましょう。少ないですが、当時の記録が残っているものもあるはずです。」


一般には非公開の貴重な史料等はこの図書館ではなく、奥の保管庫に置いてある。そこは教会関係者の中でも限られた者にしか立ち入りを許可されない場所だ。

しかし、[魔物]を[悪魔]へと至らしめる力、という前代未聞の恐ろしいの正体と、それを封印したのであろう魔術式を調べるためには、そこにある史料を調べるのが一番良い。

キュオンは、そのために図書館司書であるファルコへと相談したのだろう。


「それから...、他の教会支部にある図書館にも、500年前より古い史料がないか掛け合ってみましょう。」

「...助かる。」

「いえいえ、私に出来ることなら、なんでも協力しますよ。」


キュオンとは長い付き合いにはなるが、珍しく素直に礼を言ったキュオンに驚きつつも、ファルコはすぐににこりと笑ってみせた。


エクソシストではないファルコは、[魔のもの]の討伐という、教会が掲げる一番の目的には直接関わることができない。しかし、助祭として、司書として、魔術師として、自分が出来ることで人々と教会の力になれるのなら。きっとそれが[神]が自分に与えた役割なのだろうから。




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